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 スタグフレーションに突入した韓国経済             かけはし2004.11.01号

外資支配、対中、対日貿易に表現される経済危機の構造



内需不況と原油価格の高騰

 「原油価格が一バーレル、五〇ドルを超えればスタグフレーションは現実化する可能性がある」(九月、韓国銀行)。原油価格は下降する気配を見せず、十月十四日現在、五四・八八ドルに達し、過去最高値を更新した。長期に渡る内需不況と、原油価格高騰の影響が出始めた八月の消費者物価指数の前年比、四・八%の上昇は、韓国経済がスタグフレーション(不況とインフレの同時進行)の危機に突入したことを示している。

産業空洞化の進行と危機

 さる九月二十九日、IMF(国際通貨基金)は、今年の韓国の経済成長率を当初の五・二%から四・六%に下方修正した(昨年は三・一%で九九年以降の最低を記録)。その最大の原因は原油価格の上昇であり、また半導体価格の下落、IT(情報通信)輸出の鈍化も大きく影響している。
 韓国経済は中国市場の急成長に依存するかたちで息つぎをしてきた。そのことは、昨年の貿易収支黒字百五十億ドルに占める対中国貿易収支黒字百三十五億ドル(前年の二倍)という数字に端的に表われた。黒字分の八〇%以上を中国から得ているということである。
 こうした経済構造の定着は、韓国内企業の中国移転、進出と一体であった。低賃金による国際競争力の上昇をねらって、大企業に限らず中小企業も対中国投資を急激に増加させている。こうした中国への投資は、韓国に限らず世界的に増加しており、一方ではその影響で、国外から韓国に直接投資される額は、昨年六十四億ドル(前年比二八・九%減)になり、通貨危機直後の四〇%にまで落ち込み、最悪のレベルを記録した。
 企業も資金も国外に流出することで、産業の空洞化が急激に進行し、失業(昨年七・七%)と就労条件の悪化が深まった。失業者の半分を若年層(15〜29歳)が占め、二十代就業者の半数以上が不安定な非正規労働者であり、いわば潜在的な失業者である。また、就労人口の一〇%にあたる四百万人がカードローン破綻などにより自己破産している。
 地方の工業団地や中小企業の稼動率も、この二年間のき並み五〇〜六〇%代に落ち込んでいる。また在来の市場でも、店舗をたたんで廃業したり、借金返済ができずに夜逃げするということも多発している。農民も例外ではない。ウルグアイラウンド(一九九三年)による農産物の市場開放以後、農村人口は三分の一(三百五十万人)に激減し、平均所得が都市労働者の七三%にまで低下し、逆に負債は四倍に拡大した。

強まる外資の支配と弊害

 こうした現在の韓国経済の実情は、九八年のIMF(通貨)危機による財閥再編を基軸にした銀行と企業の大再編の過程で、外国資本が企業株を買いあさり、外資比重が急速に高まったこととも関連している。現在、韓国株式市場で外資が占める役割は、時価総額で四二%にまで高まっている。しかも外資は優良三十社に集中しており、韓国最大の企業であるサムスン電子株の六〇%は外資保有である。また浦項製鉄、SKテレコムなどの大手企業も外資が株の五〇%以上を保有している。
 また今年二月には、世界最大の金融グループである米シティーグループ系列のシティーバンクが韓国内に二百二十五支店を展開する韓美銀行を買収することを発表した(最終買収価格三兆二千億ウォン)。これは、都市銀行が買収される初のケースで、他の銀行資本は危機感をつのらせている。
 韓国へはこれまで総額にして、四百兆ウォンが投資されている。しかしその実態は、九五%が短期回収可能な不動産や住宅および個人向けローンや、投機に向けられている。投入される外資が、雇用創出をともなった設備投資の拡充などに向けられているのは、ほんの一部にすぎないのだ。

深まる中国市場への依存

 大韓民国投資振興公社の発表によると、今年一〜七月期の貿易額は、上位から、中国が四百三十九億ドル(百二十一億ドルの黒字)、米国が四百二億ドル(七十八億ドルの黒字)、日本が三百九十三億ドル(百四十五億ドルの赤字)の順である。この数字から明らかなように、韓国にとっていまや中国は最大の貿易相手国であるのと同時に、最大の貿易黒字国でもある。一方で日本は最大の貿易赤字国であり、中国からの黒字を相殺してもまだ足りないほどである。
 ここに示された韓国の対中国、対日本貿易関係の数字が、現在の韓国貿易「構造」を如実に表現しているといえる。
 韓国は中国との国交樹立(一九九二年)以降、昨年まで十一年連続の貿易黒字を記録しており、その累計は四百九十六億ドルである。そして前述したように、昨年は前年を倍増させる百三十五億ドルの黒字を記録した。輸出品目は、一般機械と電気機器が大部分を占めている。
 また対中国直接投資額も、今年の上半期において三十五億二千万ドル(前年同期比五四・四%増)を記録して、日本(三十億ドル)、米国(二十四億ドル)を抜いた。貿易依存度が七〇%を超え、経済成長率の五五%を貿易が支えている現在の韓国資本主義が、中国市場の成長にいかに依存しているのかということが理解できる。
 しかし、そうした一方で、韓国貿易協会の報告書では「韓国の対中国貿易収支は、〇八年から均衡して、一一年には赤字になる可能性が高い」と指摘している。それは中国が、現在の「最終組み立て国」から、経済成長で得た十分な資金を元手にして、早い時期に独自の技術力を獲得してくるだろうと予測しているからにほかならない。実際に中国は、人工衛星用ロケットを打ち上げる技術的能力はすでに持ち合せているのだから、開発資金さえあれば他の分野での質的飛躍も十分に可能なはずである。
 そしてその中国が、昨年ASEANと二〇一〇年にFTA(自由貿易協定)の締結で合意したことは、韓国ばかりではなく全世界に衝撃をあたえた。五億人の経済圏を形成してきたASEANには、経済的な実力を持つ多数の華僑が存在しており、「東アジア経済統合の主導権を中国が握ろうとしている」という警戒感が一気に広まったのである。

深まる中国市場への依存


 こうした危機感の中で急浮上したのが、日韓FTA締結にむけた具体的な動きであった。
 韓国経済は、軍事独裁政権の時代から、付加価値の高い部品や素材を日本などから輸入して、高付加価値の中間部品や製品を輸出するという貿易構造から基本的に脱却できずにきた。したがって、工業生産品の輸出が延びれば、その分、対日輸入も拡大し、昨年は貿易収支の黒字分(百五十億ドル)に匹敵する百四十七億ドルの対日貿易赤字を記録した。
 韓国の輸出上位五品目(半導体、携帯電話などの通信機器、自動車、コンピューター、船舶)が、輸出総額の四四・四%を占めているが、昨年は半導体では日本からの輸入増により、十八億ドルの赤字となった。また、部品の外国依存度も、携帯電話端末で四四%、パソコンに至っては六九%であり、自動車もかなりの依存度である。こうして対中国貿易を軸に、今年の上半期の輸出総額は前年比で三八・六%増加させたが、対日貿易赤字も前年比で二三%増加させているのである。
 今年二月末に東京で開かれた日韓FTA政府間交渉の財界人会議で、韓国の全経連会長は「日本からの輸入依存度の高い機械産業と部品・素材分野の企業、とりわけ中小企業から強い懸念の声が上がっている」と発言した。こうした声は、当然上がるべくして上がったものである。
 現在の関税平均は、日本の二・七%に対して、韓国が九・二%である。日韓FTAの締結でこの関税が完全に撤廃された場合、自動車、電機、鉄鋼などをはじめ、韓国経済にあたえる打撃は大きなものになるだろう。
 それでも、中国経済の成長と技術力の飛躍に対応して、歴史的な日韓間の経済と貿易の依存関係から脱却すること。すなわち、日韓間の高付加価値部品と素材の技術的格差を克服しなければ、「弱肉強食」の新自由主義グローバリゼーションの中で生き残れない、と韓国政府と財界は判断したのである。
 しかし、現状の日韓間の経済力量を考慮した場合、韓国経済がその「自立性」をますます失い、日本経済に飲み込まれてゆく始まりになる可能性も高い。
 来年中の締結を目標にして日韓FTAの交渉が進められている一方で、韓国側が日本企業との合併や買収の動きを始め、日本側も「今後五年間で対韓投資の倍増を目標にする」(経済産業省)と、現在韓国に投資する三千四百社などへの働きかけが始まっている。また、日韓FTAの締結を待たずして、サムスン電子など世界最大の生産力と世界半分のシェアをもつ液晶ディスプレイ開発への、日本企業の投資が本格化している。
 また一方で韓国政府は、韓国・ASEANの二〇〇九年FTA締結のための交渉を、来年から開始することを発表した。

開城工団│「資本の楽園」か

 危機を深める韓国経済にとって、北朝鮮との「経済交流」は決定的な重要性を持ち始めている。金大中前政権で進められてきた「太陽政策」と、北朝鮮の経済政策の破綻の結果として昨年、南北経済交流のための大きな前進があった。それは、板門店の北西に位置する開城(ケソン)工業団地の着工(二〇一一年完成)、京義線と東海線の鉄道連絡(現在陸路も建設中)、金剛山陸路観光の実施の三本柱からなる。この中でも、開城工団のもつ位置はきわめて重要である。
 開城工団は総面積二万坪で、最終的には二百五十〜三百社・二十五万人が生産展開を予定している。そして、ここの工団事業の成果の上に、平壤や新義州などへの新たな工団建設も視野に入れられている。開城工団への電力供給などのインフラ整備のほとんどは韓国側からの拠出であり、今年七月十五企業の試験団地への入居がはじまった。
 入居申し込みを済ませているある皮革メーカーの社長は「開城工団はいろいろな面で中国より有利な条件を備えている。言葉が通じるという面でも悩む必要がない。ソウルから出勤するような感覚で行ける距離的な近さも魅力だ」と語った。
 この社長の言う「言葉」と「距離」以外の「いろいろな面」とは何か。南北政府間での合意によると「中国労働者の半分の人件費の保証。賃上げ率の上限を年五%とする。五年間の所得税免税、その後三年間は半分。現地人材への自由な雇用と解雇。行事への動員を禁止できる」という内容だ。そのほかにも「ノービザの出入国、通信の自由、身辺安全の保証」なども配慮され、さらに土地賃貸料は、京畿道での一般的工団の百分の一以下ということで、これ以上の「資本の楽園」はないほどの好条件である。
 四月現在での入居意向書提出企業は、中小企業を中心に千七百社を超え、業種は繊維や衣類、靴などの労働集約型産業が多く、機械、金属、電子などの企業の申し込みも少なくないという。
 こうした開城工団への韓国企業の流出―移転は、低賃金労働を背景とする中国資本への対抗を意識したものだ。しかし、こうした政策の展開は、韓国内の産業の空洞化にさらに拍車をかけるものであり、韓国内の雇用環境と労働条件の悪化に直結している。

首都移転を食い物にさせるな

 こうしていま、スタグフレーションの危機の中にある韓国の経済政策は、中国経済の動向を意識しながら、技術力向上を目的とした「日韓FTA」、低賃金労働力を求める「北の工団」を両輪に推進されることになった。そして、これらの経済政策から発生する一切の犠牲を、労働者階級と民衆に背負わせようとしているのである。
 失業者と連帯した就業の権利のための闘い、労働条件の悪化に反対する韓国労働者の闘いは、労働者としての最低の権利を守る当然の闘いである。
 また、ノ・ムヒョン政権は、彼の大統領選挙における公約でもあった首都移転事業を具体化しようとしている。移転先は忠清南道のヨンギ・コンジュ地区に事実上確定し、二〇一二年に移転を完了するという計画である。政府がまとめた移転費用は、四十五兆ウォンである。
 この莫大な費用をつぎ込む首都移転を、韓国労働者階級は「失業に対する闘争」として位置づけて、一大公共事業として大胆に実施することを要求すべきである。ただし事業にともなった一切の秘密主義と利権主義に反対し、計画と費用の完全な透明性の保障、土地投機や談合による利権のための介入の全面的禁止、就労条件などに関連するすべての事項での労働者代表との合意、移転により影響を受ける労働者や住民への雇用などの保障、環境への悪影響の最大限の配慮などを同時に要求していかなければならない。
 首都移転の一大公共事業を、「失業に対する闘い」「労働者管理と計画経済の学校」として位置づけて闘う必要がある。一大公共事業を資本と利権屋の食いものにさせるな!(高松竜二)


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