| アメリカ帝国主義の新自由主義的政策に対抗 かけはし2007.7.23号 |
エリック・トゥーサンへのインタビュー(上)
世界銀行・国際通貨基金に代わる金融機関設立の動き
ベロニーク・キーセル |
革命的なプロジェクトが南米で立ち上がった。「南銀行(Bank of the South)」、世界銀行に取って代わろうというものだ。
五月三日、キトで南米六カ国(アルゼンチン、ベネズエラ、ボリビア、エクアドル、パラグアイ、ブラジル)の経済担当大臣が、南の銀行の設立に合意した。ベルギーのCADTM(第三世界債務廃絶委員会)代表エリック・トゥーサンは、このプロジェクトに関するエクアドルのアドバイザーの一人だ。
なぜ今、南の銀
行が必要なのか
チャベス大統領がこの構想を発表したのは二〇〇六年始めであった。彼は南のすべての国のために、世界銀行(WB)と国際通貨基金(IMF)に取って代わる金融機関を設立したかった。彼はこの構想をインドとアフリカ諸国の首脳たちと議論していた。この構想は後々、他の諸国も巻き込む可能性を残しながらも、当面は南米に焦点を合わせたプロジェクトとして再スタートした。ブラジルが一番最後に参加したが、この経済大国の参加はもちろん重要なことだ。
これら六カ国は、IMF、世銀、ならびにこの二機関同様、北の国々によってコントロールされている米州開発銀行(IADB)からも独立したいと思っている。ベネズエラは二〇〇七年四月三十日、同地域で最初にIMF、世銀との関係を打ち切った。ブラジルとアルゼンチンは、自国がこの二機関に抱える総債務を返済したいと思っているが、この間、両機関から距離を置いている。エクアドルはつい最近、世銀代表を追放した。そしてボリビアとニカラグアは、もうこれ以上、国際投資紛争裁定センター(ICSID、世銀グループ)の裁定に従わないと明言している。これらのまとまった動きの裏には、この地域を左翼的な路線のもとに経済統合したいという強力な意思の一致がある。
まず南米諸国の
結集から始める
南銀行の正式設立発表への道筋としては、六月二十二日または二十六日に関係諸国首脳のサミット会合、それに先立つ五月二十二日にはリオで閣僚会合が開かれることになっている。最終的な規約は二〇〇七年末までに準備されることになっている。ウルグアイは国境沿いのセルロース工場をめぐるアルゼンチンとの紛争のせいでこの動きにまだ参加していないが、アルゼンチンはこの問題の解決に向けて動き出しており、そうなるとウルグアイも参加できることになる。チリやペルーはその気になればいつでも参加できるだろう。
これらの国々はさらに、通貨安定のための基金の設立も視野に入れている。すでにその出発点となりうるラテンアメリカ準備基金制度がある。もし、通貨基金設立が無理なら、同地域の国々を投機筋の攻撃や他の外的ショックから守るための新しい基金が設立されるだろう。これもまた、IMF抜きでやっていくということを目的としているが、さらなる目標として、共通通貨となる通貨単位の創設も目指している。これはまさに、ユーロが導入される前のヨーロッパECU(訳注:エキュ。一九九九年前のユーロ導入前の一九七九年から一九九八年まで用いられていた欧州連合のバスケット通貨)と同じである。
南米諸国間の貿易は現在米ドル建てで行われている。しかし、年間百五十億ドル余りの取引額を誇るアルゼンチンとブラジルは、この二国間の取引をアルゼンチン・ペソとブラジル・レアルで決済することを決定している。
あらゆる側面で
民主的に運営
南の銀行(The Bank of the South)は文化的・社会的権利を含む国際的な人権規約を遵守する義務を負う。一方、世界銀行は自分たちの業務はこれらの規約とは関係ないと言う。加えて、南の銀行は、各国首脳たちが合意すれば、一国一票の原則で運営されるようになる。
目下の所、IMFや他の機関では、各国の投資額によってその国の投票権の重さが決められてしまい、民主的とはいえない。さらに、世銀理事や職員は、世銀が例外を認めない限り全面的な免責規定が適用され法的訴追から守られるが、新しい銀行の理事や職員は法廷での証言義務を負う。南銀行のスタッフは所得税を払うことになるが、世銀スタッフは払っていない。新しい銀行の過去の文書は全て公にされる。これもまた、IMFや世銀とは違うところである。
最後に、新しい銀行は金融市場からの借入に依存しない。その資本は加盟各国の出資によってのみ賄われ、各国はそれぞれの外貨準備金の一部をそれに充てる。また、同時にトービン税型の新税を導入し、そこからの収入も新銀行の資本充当に使われる予定である。
しかし、各国には大きな経済状況の違いがある。例えばブラジルとボリビアがいい例である。
ギリシャやスペイン、ポルトガルがEUに加盟した時、他の国と比肩しうる経済レベルに達するための統合基金が準備された。同様に、今までは安価な原材料とエネルギーの供給国と見られていたボリビアは、ベネズエラやブラジルと並ぶ産業発展の可能性を持つ国となるよう、支援を受ける必要がある。その目的は、様々な経済環境を持つ加盟国を同じ経済レベルに引き上げることにある。しかし、EUの場合と大きく異なるのは、この南アメリカの地域統合が、社会正義を焦点としてスタートしているということだろう。
エリック・トゥーサンに聞く
ラテンアメリカでは全く逆の二潮流がせめぎ合っている
ラテン・アメリカでは、全く逆の二つの潮流がせめぎ合っている
一方で、米国政府とEU各国は、同地域の国々に対して、自国経済に都合のいい二国間自由貿易協定締結に成功してほくそ笑んでいる。一九八〇年、九〇年代の民営化の嵐は、同地域の開発にとって重要な経済セクターの多くを産業先進国の管理下に置く結果をもたらした。同地域から、最も産業発達を遂げた国々への資本の流れはやむことがない。
債務返済、北の多国籍企業の利益送還、ラテンアメリカ資本家がくすね取った資本逃避を通じて。国内の公的債務も巨額に上っている。庶民の生活状況は相変わらず底辺をさまよい続け、被害を最小限に抑えようとする公的援助がある場合でも、もっとも搾取されている人々がさらに貧窮の状況へと転落している(ブラジル、アルゼンチン、ベネズエラ、エクアドル)。
他方で、ここ数年の数限りない大衆行動が、選挙結果にも影響している。こうやって選ばれた政府のあるものは、この三十年間の歴史の流れを巻き戻し、自国の天然資源(ベネズエラ、ボリビア、エクアドル)や他の重要な経済セクター(ベネズエラ)を公的コントロールの下に取り戻すことによって、あるいは、米国によって目論まれている戦略的プロジェクトを阻止することによって(2005年11月のFTAA締結失敗、ベネズエラ・エクアドル(注1)・ボリビアの反対によってコロンビア計画が味わった困難)上記のような流れに逆らおうとしている。
再分配政策によって社会改革に取り組む政府もある。ベネズエラ(1999年〜)、ボリビア(2006年〜)、すぐ後に続いて、エクアドルが憲法をより民主的な方法に修正することを決定した。「ボリバル主義(the
Bolivarian Alternative for Latin America and the Caribbean:ALBA)」は、ベネズエラ、ボリビア、キューバ、ハイチ、ニカラグアを結びつけ、エクアドルはそこにオブザーバーとして参加している。二〇〇七年末を目処とする南の銀行設立は、この対抗的流れの重要な一部である。
南銀行設立の
準備が始まる
二〇〇七年二月以降、アルゼンチンとベネズエラ、加えてボリビアが南銀行設立協定の準備に入った。すぐにエクアドル、パラグアイが参加した。そしてごく最近、五月三日にブラジルが正式に参加を表明した。
閣僚の討議のために提出された三月二十九日付けのもともとの企画案は、アルゼンチンとベネズエラが起草した。エクアドルはそれに対して、別の案を提出した。財務大臣リカルド・パティーニョと四人の閣僚メンバーがエクアドル案を作成し、外部からは三人のメンバー、ホルヘ・マルチニ(注2)、オスカー・ウガルテッチェ(注3)、そして私自身がこのプロセスに関わった。四月三十日、財務大臣は他の閣僚や私と共に、この提案をコレア大統領に提出した(これは27日から29日まで、15時間かけて作成したものである)。
コレア大統領はこの提案を承認し、同案はすぐに他国の代表に送られた。五月三日、エクアドル大統領を議長にキトで開催された閣僚会議は四時間から五時間続いた。私はエクアドル代表の一人として会議に招かれた。他の国からは大体において財務大臣、あるいはそれに加えて副大臣か助手が代表として参加していた。目下の所、キト宣言に従って六月末に行われる予定の首脳会議に注目すべきである。このサミットで南銀行の性格を決める文書が採択され、最終的に同銀行の設立が宣言される。
アルゼンチンと
ベネズエラの提案
アルゼンチンとベネズエラによる設立案を読んで非常に驚き、衝撃を受けた。最初の分析からして、事態のとらえ方がラテン・アメリカが現在押さえつけられている原因である新自由主義のビジョン、世銀のビジョン、支配的な経済思考、資本家階級のビジョンと全く変わらないのである。
同文書には、金融市場の成長速度が遅いことがラテンアメリカの諸問題の根本原因であるとされている。全体としての解決は、同地域の資本を使った多国籍企業の育成の必要性という点に特化されており、その企業が公共のものであるべきだという記述はない。アルゼンチンの志向を考えれば分かることだが、企業が公営であるということが特記されていない、という事実はとりもなおさず、その企業が民営か半官半民であるということだ。全体的に、終始一貫してカギは資本市場と地域金融市場の発達促進にあるとされている。
二番目のポイントは、もともとのプロジェクト案は開発銀行と通貨安定基金の機能を兼ね備えた南銀行の設立を提案している。通貨安定基金は、地域の加盟国が、例えば投機筋の攻撃にさらされた時にいつでも支援する地域組織である。その組織はこれら投機的攻撃から自らを守るために多額の外貨準備金を保有する必要がある。アルゼンチン・ベネズエラ合同提案は、南銀行という名の単一組織の設立を提案しており、同案によるとこの機関は世界銀行とIMFの機能を同時に果たす。この考え方にはびっくりするしかない。いや、むしろショッキングなのは、同提案が新組織の機能を、資本市場の育成、産業化支援、インフラ・エネルギー開発、貿易推進としていることである。
合同提案では、環境保護、文化政策ならびに教育政策は最重要とはされていない。最初の分析の項から考えると、ここで勧められているマクロ経済政策は、相変わらず、構造調整と古典派通貨政策のままであると言うことができるだろう。
より重要でショッキングなのが第三ポイントである。アルゼンチン・ベネズエラ提案は、投票権は各国の出資額によるとしている。もし、アルゼンチンがエクアドルやパラグアイの三倍出資すれば、同国は三倍の投票数を持つことになる。世銀、IMF、IABD(米州開発銀行)で行われている投票方式をここでも適用しようというのである。非民主主義的な考え方がここでも適用されることになる。そしてそれ以上に、実際面において、厳しい批判を浴びてきた二つの機関の完全なレプリカが誕生することになる。
メンバー資格として、アルゼンチンとベネズエラはアフリカとアジア諸国が、新銀行にオブザーバー資格で参加できるようにすることを提案している。これは南という意味を増す上で積極的な案だといえる。しかし、これは多国間金融機関もメンバーとして招待する(はっきりと、そう書かれているわけではないが)ための布石ではないかと考えることもできる。このことは二〇〇七年三月と四月の会議で、数人の閣僚メンバーたち、特にアルゼンチン団表が、世銀やIADBを南銀行の出資者(投票権は与えないが)とすることを主張していたことからも伺い知れる。
最悪なのは最後の部分、第8章の「免訴、適用除外、特権」で、これは世銀、IMF、IADBの規定の焼き直しである。
四十二項では記録は門外不出となっている、これはつまり、南銀行の監査はできないということである。また、世銀全関係者、理事・職員・雇用者は税金を課されない。四十五項は(これは完全に世銀とIMFの規定のコピーだ)、職務の範囲内で行ったと見なしうる行為に対しては、法的・行政上の制裁措置を完全に免れる。
この草案は専門家委員会での討論の結果できあがったもので、もしエクアドルが新しい提案を出さなければ、これが唯一のたたき台になるはずだった。アルゼンチン・ベネズエラ案は完全にアルゼンチンのキルチネル政権の方向性と一致している。つまり言い換えれば、これはベネズエラが取る立場とは全く相容れないということだ。ありそうな解釈としては、このテキストを考案したアルゼンチンとベネズエラのシェルパたちは、アングロサクソンの大学で教育を受けた専門家で、支配的なネオリベラル経済に賛成しているのではないかというものである。彼らは、ベネズエラ大統領がこの文章をよく読まないままで承認し、採択してくれることを願っているのだろう。
エクアドルの
積極的提案
エクアドルは三つの制度創設を提唱する。地域通貨基金、南銀行、そして南の共通通貨。現在、ラテンアメリカの取引は主にドル建てで行われている。それを、各国の独自通貨との交換を認めつつも、新しい南アメリカ通貨に移行させようというのがエクアドルの提案である。この新通貨制度提案は、即座にアルゼンチン、ベネズエラ、ブラジル、パラグアイ、ボリビアの賛同を得た。
エクアドルの草案は、まず、重要な一般的留意点から始まる。最初の留意点は、二つの組織、南通貨基金と南銀行(あるいは南の銀行という一つの組織になるのかも知れないが)は、人権を擁護し、経済、社会、文化的権利に関連する協定や規範や国際規約を活用しなければならない。これは人権をベースにことを進めようというものである。つまり、どのような経済的手段を導入するか決定する場合、基本的人権を保障する様な手段を導入しなければならないということである。
この点に関して、エクアドル案の中には世銀とIMFの新自由主義的政策は、大多数の人々の生活水準の低下を導き、富と収入の分配における不平等を拡大し、各国が自国の天然資源の管理権を喪失させ、移民を増大させたと(それとなくではあるが)書かれている。そこから考えると、北の多国籍企業に渡ってしまった分(かなりの部分を占めるが)も含め、各国に自国の天然資源や地域の生産組織の管理権を復活させつつ、公共の制度を強化させるような公共政策を実施に移させることが必要である。 (つづく)
2007年5月20日
bベロニーク・キーセルはベルギーのル・ソワール紙の記者。
bエリック・トゥーサンはCADTM(第三世界債務廃絶委員会)の代表
注記:
(1)ラファエル・コレア・エクアドル大統領は、2009年の契約更新時期に、これ以上のマンタの米軍基地として利用を許可しないと発表した。
(2)アルゼンチン左派経済学者グループ(EDI)、国際債務監視団(OID)のメンバー、ブエノスアイレス大学経済学部教授(UBA)
(3)メキシコ大学経済学部教授、LATINDADD(ラテンアメリカの債務と開発に関するNGOネットワーク)ならびにOIDメンバー。
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