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空港管理会社外資規制めぐる対立の深まり         かけはし2008.3.17号

矛盾を深める「航空ビッグバン」

環境と生存権破壊する空港乱開発



「成長戦略」派の規制反対論

 福田政権は、二月二十八日、空港整備法改正案の中の空港管理会社への外資規制をめぐって、自民党内の新自由主義的規制緩和を求める反対派と運輸族・国交省利権にしがみつく賛成派のバトルが深刻化し、収拾がつかなくなったため、とりあえず改正案から外資規制条項を削除して今国会に提出することを決めた。冬柴国交相は、「今後も外資規制に関して引き続き規制のあり方を検討し、年内をめどに結論を出す」と国交省官僚の方針を代弁せざるをえなかった。
 外資規制反対派の渡辺金融担当相は、「いきなり外資規制を導入するという乱暴なことが回避されたのは大変結構だった。わが国の資本市場が安心して投資できる環境にあることがあらためて確認された」と強調した。
 この空港整備法改正案の外資規制条項をめぐるドタバタ劇は、次のような展開を繰り広げた。国交省は、〇八年一月に空港整備法改正案を以下のようにまとめた。(1)成田空港会社(09年度中に株式上場)、関西国際空港と中部国際空港(両空港は将来的に株式上場)の管理運営会社、羽田空港ターミナルビル運営会社(日本空港ビルディング)への外資の出資比率を議決権ベースで三分の一未満に抑える(2)大阪国際(伊丹)空港の区分見直しに伴う国費負担の減額と地元負担増額などの予算(3)成田、関空、中部の三国際空港を「法人管理」、羽田、大阪国際(伊丹)、福岡など二十一空港を「国管理」、五十八空港を「地方自治体管理」にする(4)羽田、大阪両空港の正式名称である東京国際空港、大阪国際空港から「国際」を削除する││などを骨子としている。
 自民党の国土交通部会・航空対策特別委員会合同会議(一月)で改正法案の外資規制条項に関して賛成、反対両派が真っ向から対立し、怒号が飛び交う事態となった。反対派の塩崎元官房長官、竹中平蔵元総務相らは、新自由主義的構造改革の継続、外国資本の対日投資をテコによる「成長戦略」を掲げ規制反対を主張した。渡辺金融担当相、岸田規制改革担当相、大田経済財政担当相も公然と反対表明し、町村官房長官が「閣内不一致」の批判を避けるために統制しなければならなかった。
 経済財政諮問会議では冬柴国交相に対して規制緩和派が外資規制を批判し紛糾した。さらに規制改革会議の草刈議長が「対日投資拡大は政府方針。軽々に外資を規制するのは問題がある。議論も拙速だ」「株価低迷期に、外資規制の方針は海外の失望を呼ぶ」と恫喝するほどだった。
 こうした分裂状況は、財界にまで波及した。経済同友会の桜井代表幹事は真っ先に「反対」の立場を打ち出し、日本経団連の御手洗会長は「一国のインフラはわれわれのような一般企業とは違う」と規制賛成の立場を表明した。日本商工会議所の岡村正会頭も「行為規制だけで無理だということならば 当然(資本)規制ということになる」と発言した。空港外資規制問題は、今後の日本経済に対する戦略と路線に関わる問題としてあるがゆえに政・官・財まで貫かれて進行した分裂・対立状況は深刻だ。
 福田首相は、空港の外資規制問題をかろうじて先送りにしたが、二〇一〇年の成田空港B滑走路と羽田空港第四滑走路の完成を通した「航空ビッグバン」と称する航空運航過密化による事故多発時代への突入と合わせて泥沼の争いが再発することは必至だ。外資規制問題を通した反対派と賛成派の争いの表面化によって浮き彫りとなった政・官・財の内部矛盾を暴き出し、環境と生存権を破壊する航空行政の反動性を厳しく批判し、自壊を促進させていかなければならない。空の安全、環境・生存権を破壊する「航空ビッグバン」はいらない。

国交省官僚による抵抗

 国交省交通政策審議会航空分科会は、安倍政権時のアジアゲートウェイ戦略の一環である航空自由化政策に基づいて「今後の空港及び航空保安施設の整備及び運営に関する方策について」(07年6月)を答申した。答申は、国家財政の膨大な借金と破綻状況によって空港関連予算も削減せざるをえなくなり、空港民営化とセットで管理運営を強化することによって生き延びていこうとする施策を柱にした。そのうえで航空自由化(アジア・オープンスカイ)による戦略的な国際航空ネットワークの構築、二十四時間空港、成田、関空、中部空港の完全民営化の方針などを打ち出した。
 さらに、羽田空港が国内線で成田空港が国際線という「内際分離」政策の再編は先送りにし、とりあえず羽田空港の国際化については、韓国、中国へのチャーター便、早朝深夜就航など限定的に追認するしかなかった。羽田空港国際化派は、国交省官僚の抵抗に直面したままの状態であった。
 答申の具体化のために国交省の「今後の空港のあり方に関する研究会」が開催され(10月)、〇九年以降に予定されている成田国際空港会社の株式上場問題について論議していたが、その中でオーストラリアの投資ファンド「マッコーリー・グループ」が日本空港ビルディングの株式二〇%、米国のフィデリティ投信も一三・六%保有していることが報告され、外資の攻勢に対していかに規制していくのかが緊急議題となってしまった。国交省官僚は、日本空港ビルディングが外資に「乗っ取られる」という危機感から防衛策として改正法案に外資規制条項を盛り込むことに踏み切ったのである。
 こうした状況を反映して鈴木国交省航空局長は、「空港が完全民営化しても、国際拠点空港をまったく無防備に誰でも運営してくださいということにはならない」と述べ、空港ターミナルなど空港運営に不可欠な機能も含めて外国資本規制の導入が必要だと表明せざるをえなかった。なぜならば日本空港ビルディングは、すでに株式を公開しており、事後的に外資規制を導入するということは株式市場ルールからいって、かなり強引な手法だと批判されかねない。そういうリスクを前提にしながらも外資規制を導入しなければならないほど危機感を強めていた。

マッコーリー・グループとは

 国交省官僚が大慌てする外資の正体とは何か。大株主のマッコーリー・グループは海外で空港や道路、鉄道など公共インフラ投資を行い、限りなくコスト削減を求めながら高利益を得ていくことを常套手段としている。安全軽視、利用料引き上げ、サービス低下になっても高利益率につながるならばかまわないとする経営方針だ。豪州内の金融機関などをM&A(企業の合併・買収)で吸収し、運用資産は総額二十兆円だと言われる。シドニー空港の買収に始まり(02年)、英国のブリストル空港、ベルギーのブリュッセル空港などに投資していった。日本でも東急電鉄から有料道路の箱根ターンパイクを買収する実績をあげていた(04年)。〇八年に入って、突如としてローマ空港とバーミンガム空港の出資を引き揚げ、高収益を出す新たな投資先として照準を合わせたのが羽田空港ビルディングだった。
 マッコーリー・グループは、日本空港ビルディングが地代を国に支払いながらターミナルビルに免税店、飲食店、巨大な駐車場を持ち、航空会社などの賃貸収入を独占しているところにねらいをつけ、今後もテナント料を上げることによって高額な収入が可能であると判断し、買収金をかき集め株式を買い漁ってきた。マッコーリー経営陣は、「航空ビッグバン」を見据えながら「羽田は国内路線の六割を網羅し、市場で優勢な地位にある。ターミナルビル刷新や10年に完成予定の第四滑走路など、インフラ施設の質も非常に高い。商業事業も成長性を感じる」と強調し、今後も買い増しに動くことを宣言している。
 マッコーリーに限らず外資や外国ファンドは成田国際空港会社の上場(2009年度予定)を見据えて投資参入を狙っていることは間違いない。森中成田空港社長は「日本の表玄関である空港を外資にコントロールされることは国民にとっても問題。一定の規制はやむを得ない」と述べ、株式上場前に外資規制の導入を要請している。堂本千葉県知事も「共生政策」という利権構造を防衛するために危機感を隠すこともなく「いろんな意味の安全の面から、外資規制は必要」だと表明した。
 資本のグローバル化と航空自由化の流れの中で外国資本・政府系ファンドは、高利益率を生み出す空港関連市場に投資する傾向を強めている。ところが外資の攻勢に対して国交省官僚らは、自己保身的に弱々しく「公共インフラ防衛と空の安全保障」を繰り返すだけだ。本当の理由は国交省利権構造が外資によって壊されることへの必死の抵抗でしかないことが明白なために、渡辺金融担当相に「天下りポストを確保するための規制なら言語道断だ」と突き上げられてしまうほどなのだ。
 事実、羽田、成田空港会社には複数の元官僚が役員に就任してきた。成田空港会社では〇七年六月、アジアゲートウェイ戦略に消極的な黒野社長(元運輸次官)の留任を当時の安倍政権が拒否し、強引に住友商事出身の森中リクルートし社長に起用した。首相官邸は、初めての民間出身社長などと「自慢」していた。だが現在でも国交省官僚は役員十二人のうち五人もの常勤役員を独占している。
 日本空港ビルディングの副社長も元運輸審議官だ。マッコーリー・グループは、日本空港ビルディングの大株主となり、当然の権利行使として、国交省官僚出身役員への高額報酬を温存した経営体質の経営改善とリストラを強く迫ってくるだろう。国交省官僚出身の役員就任なんて論外だ。だから国交省官僚は、成田空港会社〇九年度上場も踏まえながら、先制的に空港整備改正案の中に外資規制を導入したのである。

ヒースロー空港の買収劇

 国際的には、空港運営会社への資本規制や公的管理は一般的である。ドイツでは国や州政府などが過半数を保有し、オーストラリアは四九%以下の外資規制を導入済みだ。米国は株式会社化を認めていない。外資規制を導入していない国はイギリス、イタリア、ベルギー、デンマークの四カ国でしかない。
 かつて空港買収劇で有名になったのがロンドン・ヒースロー空港だった。空港を運営する英国空港公団を株式会社化し、英国空港管理会社(BAA)を設立(1986年)。ロンドン株式市場に上場(87年7月)したが、二〇〇六年二月にスペイン建設業者などの企業連合資本によって九〇%以上買収されてしまった。結局、上場廃止になり、外資が大儲けし、サービス低下、安全軽視の空港政策が続いている。
 マッコーリー・グループも同様の経営手法を選択してきた。買収したシドニー空港では使用料の七割の値上げからカートの有料化、バスとタクシーの入場料まで徴収するようになった。デンマークの空港でも施設使用が有料になるなど高くてサービスが悪いと不評だ。
 そもそも日本の場合、空港会社に対する外資規制がなかった。これまで外国為替及び外国貿易法(外為法)で安全保障や産業政策の観点から、エネルギー、通信、放送、石油などに携わる企業の株式を外資一社で一〇%以上保有することを規制してきた。また、金融商品取引法でも二〇%以上の出資規制を導入している。規制が必要と認められた場合は、投資の変更または中止を勧告・命令できる制度だ。しかし、数社の外資によって株式が大量に取得されてしまった場合、歯止めがきかないケースも発生してしまう。日本空港ビルディングは、まさにそういう問題として突きつけられている。
 成田国際空港会社の場合も同様の問題が発生してしまう。滑走路、空港関連施設などインフラ部分と空港ターミナル部分が分離されておらず、上下一体型の空港会社だ。外資が多額の株式を保有し、参入することによって発言力が強まる事態が発生することもありえる。外国ファンド・外資が支配することも可能なのである。そういう意味で成田空港会社の〇九年株式上場にあたって外資規制問題に直面することは必至であったのであり、福田政権は政治判断をしなければならなかったのである。

安全と生命の軽視やめろ

 すでに政府は、国内総生産(GDP)の三%程度にとどまっている海外から日本への直接投資残高を二〇一〇年までに五%へと高める目標を公約として掲げている。福田首相は一月の世界経済フォーラム(ダボス会議)で「経済成長戦略の一環として、対日投資、貿易手続き、金融資本市場の改革等の市場開放努力を一層進め、日本を世界とともに成長する国としていきます」とはりきって演説していたではないか。しかし空港外資規制問題が浮上したとたん、政・官・財、千葉県などまで巻き込んだ分裂・混乱に陥ってしまった。福田政権は、後戻りできずに慌てているのが現在の姿なのだ。
 とりあえず日本空港ビルディング経営陣は、外資への事前警告型の買収防衛策によってなんとか介入を押しとどめている状態だ。だが六月末に期限切れとなる。福田政権による外資規制導入の先送りは、日本空港ビルディングの経営陣に動揺を発生させ、危機を深めていかざるをえないだろう。
 内閣府の「構造変化と日本経済」専門調査会は、外国からの投資を呼び込み経済成長につなげていくことを柱にした「平成版・前川リポート」(輸出主導型から内需主導型への構造転換を提示したのが「前川リポート」1986年)を策定する初会合を開き、七月の北海道洞爺湖サミット前までに取りまとめることを明らかにした。空港経営なども含めた外資導入を拡大させていくことを明記することは確実だ。空港外資規制賛成派と反対派によるバトルは第二ラウンドに入った。
 直近の金儲けにひた走る外資の暴走を厳しく規制することは当然である。しかし国交省官僚・運輸族・利権集団らの権益保護のための「外資規制」に組することはできない。規制賛成派の欺瞞的な実態を暴き出していこう。
 日本の空港民営化は、歴代の政権・与党の資本のグローバル化と新自由主義競争政策として推し進められてきた。株式上場すれば空港会社に多額な資金が集まり、運営事業の効率性が可能だというのだ。しかし、空港民営化は高利益優先のためにコスト削減と空港使用料値上げなどは必然であり、過密航空運航の抑制や安全重視施策が入る余地がないのが実態である。空港の民営化そのものが問題なのである。国は空港の民営化、安全と生命軽視、無政府的な超過密航空運航をただちに凍結しろ! 金儲けのことしか考えない外資の規制を強化せよ! 環境・生活・生存権を破壊する空港乱開発を止めろ! 静岡空港二〇〇九年三月供用強行、成田空港B滑走路と羽田空港第四滑走路の二〇一〇年三月供用強行のストップを実現していこう!(遠山裕樹)

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