| 国家による個人情報管理、資本への開放・利用の危険な本質 |
国民総背番号
制の本格化
菅政権は、六月二十九日、「社会保障と税の共通番号制度に関する検討会」(2月8日発足)の会合を行い、消費税増税とセットで国民総背番号制度の制定にむけて始動することを明らかにした。年末までに導入方式を決め、来年の通常国会への関連法案の提出を目指す。
検討会は、税金や社会保障の個人情報を一元的に管理するための「共通番号」制度=国民総番号制度導入の根拠として、税務面で国民一人一人の所得を正確に把握し税徴収し、所得に応じた年金給付などのサービスを公平に効率よく受けるためのインフラ(基盤)整備になるというのだ。長妻厚生労働相は「年金だけではなく、社会保障番号や将来的には消費税などの税制改革の議論ともリンクする。まずは原則をきちっと提示し、国民的合意を得ていく」と号令をかけている。
菅首相も消費税増税によって低所得者ほど負担が重くなる「逆進性」の緩和と称して現金給付を行うためにも所得が正確に分かることが給付つき税額控除や最低保障年金の実現には欠かせないと強調する。
そもそも「給付つき税額控除」は、申告・申請が必要であり、自動的に諸事情によって申告できない人は対象外となってしまうのだ。「経済的弱者」の生存権否定に貫かれた究極の差別だ。不正申告を認めないために罰則強化もするというのか。警察権力は、新しい治安弾圧システムができると大喜びだ。
要するに民衆に対する税金・社会保険の取り立てを強化し、入金額によって社会保障サービスや給付の格差を拡大させていく新自由主義政策のさらなる踏み込みだ。当然、国と資本の責任、負担軽減を前提としていることは言うまでもない。
新たな治安弾圧
・監視システム
検討会は、導入案として@税務のみに使う「ドイツ型」A税務と社会保障分野に活用する「米国型」(個人の健康状況などを把握する情報サービスを含むか否かで2方式に分かれる)B税務と社会保障に加え、幅広い行政サービスにも利用するスウェーデン型の四案を検討材料として上げた。
使用する番号は@基礎年金番号の活用A住民基本台帳ネットワークシステム(住基ネット)の住民票コードの活用B新たな番号をつくる、三案が提示された。導入コストは最大六千百億円程度と試算し、利用範囲の拡大によっては最低二千億円以上膨らむとしている。導入までに三〜四年程度かかるとした。
検討会は、プライバシー保護対策にも触れ、「国家が個人情報を管理する『国民総背番号制』に対する 警戒感への対応として、プライバシー保護を任務とする『第三者機関』を政府の外に設置。不正行為を防ぐ
ためICカードを導入し、年金番号や健康保険番号など既存の行政番号を同一番号にせず、共通番号に対応させる『分散管理方式』が望ましい」とした。
検討会の「ICカード」導入の明記は、政府の「高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(IT戦略本部)」(6月22日)の電子政府構想に関する二〇二〇年までの「新たな情報通信技術戦略」の工程表の中で、二〇一三年度までに国民監視・管理のために「国民ID(登録証)カード」制の導入を明記したことと連動している。ICカードによる身分証明書機能や個人情報の統合的なデータベース化は、従来の政権がもっとも実現したかった課題であった。菅政権は、国民総監視体制構築にむけて一挙に動き出しているのだ。
経団連の意向
体現する菅政権
この総背番号制導入は、菅政権が突然言い出したのではなく、すでに民主党がマニフェスト(政権公約)に掲げ、日本経済団体連合会(2010年2月18日)が旧鳩山政権に対して消費税増税を射程にしつつ、「社会保障と税の共通番号制度について」を提言するという流れがあった。菅政権は、米倉経団連体制からの支持を取りつけ、それをバネとして財界の意向を忠実に実現するために用意周到に蓄積してきた制度導入のための取り組みを表面化したのである。
経団連は、「政府が本格的な検討を開始した『社会保障と税の共通番号制度』は、税・社会保障制度の透明性・信頼性向上、給付付税額控除などの新たな政策展開、電子行政推進、ICT社会(情報通信技術)の基盤として日本経団連としても長らく実現を求めてきたところであり、政府の取組みを高く評価する」と持ち上げつつ、「@社会保障・税の共通番号としての機能に加え、本人の了解の下で省庁自治体間のデータ連携を可能とし、国民の利便性向上や行政の抜本的な効率化に資する、電子行政全般の共通基盤として検討する。A民間での活用を前提とした発展性を持った制度とする。これにより、新たなサービスの創出などを図る。B住基ネットや住民票コードなど、既存のネットワークや番号制度を活用する。Cプライバシーや情報セキュリティーに万般の配慮を行う。運用やアクセスの状況を監視する第三者機関についても検討を進める」と具体的に実現ポイントをプッシュしていた。
とりわけ「民間での活用」まで公然と主張し、導入推進派の本音を出していたが、ここが総背番号制の核心である。
国民一人一人の個人情報は、営利主義を優先としたマーケットリサーチにとっては最も必要なデータである。すなわち個人情報を国家・資本が掌握することによって管理・統制を強化していくこともねらっているのだ。経団連は、そのことを隠そうともせず、鳩山旧政権に迫っていたのである。菅政権直轄による検討会は、前政権の頓挫の克服をかけて財界らの意向を忠実に実現するためにも消費税増税とセットで総背番号制への踏み込みを行いつつ、「民間での活用」を隠しながら様々な導入根拠をでっち上げ、立ち振る舞っているのが現在の局面である。
参院選後の議会内情勢によっては、一挙に消費税増税と総背番号制度導入に向けた攻撃が加速されてくることは必至である。消費税阻止とともに総背番号制導入阻止にむけた取り組みも同時に着手することを呼びかける。国民総背番号制は、資本による営利主義のための個人情報の掌握だけではなく、軍事目的の利用、民衆を予防
的に監視する治安弾圧のためにも大いに利用価値があるものだとして従来の政権は、その実現をねらってきたのだ。菅政権は、これまでの政権でさえできなかったことを本格的に強行しようとしている。このような民衆に敵対する暴挙を止めさせよう。
強権的管理
支配に道開く
すでに「住民基本台帳ネットワークシステム」(住基ネット、02年8月実施)は、氏名や住所、生年月日、性別などの情報を十一ケタの「住民票コード」番号が国民一人一人につけられ、「指定情報処理機関」が一元管理している。政府は、「住基ネットの導入理由として「全国どこでも住民票の写しが得られる」などと表面的な事務の効率化をコマーシャルしていた。
さらに「使用する個人情報は限定されており、情報漏えいには厳しい罰則を科している」、「不正侵入を防ぐために専用回線を使っている」、などと安全性を強調してきたが、個人のプライバシーを守る実効ある個人情報保護法の整備が不十分なままだ。つまり、プライバシー保護法制としての性格が薄いのである。なぜならば自己の個人情報をコントロールする権利の無視の放置を筆頭に個人情報の開示請求権、違法な情報利用の中止請求権の未確立、不服申し立て手続きなどが未整備状態だからだ。行政の個人情報利用は、一方通行のままなのであり、自己コントロール権とプライバシー権が否定された状態の「漏洩」がつづいているのである。このプライバシー権の徹底防衛に比重もおかないで検討会が想定する「第三者機関」を設置しても権利侵害隠蔽装置に育成されていくのはみえみえだ。
国会は住基ネット制定強行のために「個人情報の保護に万全を期するため、速やかに、所要の措置を講ずる」の条項を付帯決議したが不誠実な対応が続いている。「安易な拡大を図らない」という決議についても住基ネット開始前から、利用できる国の事務を九十三種類から二百六十四種類に増やす法案を出していたことにみられるように、行政は各種サービス充実と称して個人情報の管理・使用を拡大してきた。すなわち国家権力は、統治機構を防衛しぬくために民衆一人一人の個人情報掌握は絶対に必要であり、この姿勢が続く限り利用範囲拡大は無限大なのである。
国の情報管理と民間の利用がセットになったら被害拡大は甚大だ。民間レベルの個人情報流出事故は限りなく続出しているではないか。公務員の守秘義務があったとしても各省庁・行政の個人情報漏洩事件・秘密データ漏洩、犯罪歴・病歴の漏洩など数多く発生している。諸漏洩によって民間業者はおおいに利用し、個人情報の商品化が続いている現状についてどうするのだ。
検討会は、「分散管理方式」が望ましいと言っているが、個人情報の一元的管理の流れが強化されているではないか。住基ネットと税金や社会保障の個人情報が合体することによって無限の「漏洩」範囲が拡大してしまう。住民票コードを入力するだけで住民登録・戸籍・収入・税・健康保険・医療・福祉給付・介護保険・年金・免許・旅券・犯歴などの個人情報を掴むことができるシステムを目指しているのである。それは膨大な個人情報が国家に集中する「歳入庁」という徴収機関が構築され、IT産業、システム業者と官僚らが一体となった新たな「公共事業」として権益エリアが生まれることになるのだ。
人権と民主主義
のための闘いだ
そのエリアを獲得するために原口一博総務相(二月二十三日)はハッスルしている。住基ネットの番号活用にあたって@国民の権利を守るA自らの情報を確認・修正できるB利用範囲が明確でプライバシー保護が徹底されるC費用が最小で効率的D国と地方が協力しながら進める―という「原口5原則」を明らかにしたが、規制強化に向けたアプローチではなく一般的な従来のシステムを追認したものでしかない。とりわけ個人のプライバシーを守るための諸権利の確立を柱とした個人情報保護法改正について一言も触れていないことに人権軽視を強行しながら総背番号制導入を押し進めようという意図が明らかだ。
国民総背番号制度導入阻止闘争の方向性は、これまでの住基ネット反対闘争において日本弁護士連合会が提起した「自己情報コントロール権を情報主権として確立するための宣言」(02年10月11日)において指し示されている。宣言は、「憲法一三条が定める個人の尊厳の確保、幸福追求権の保障の中に自己情報コントロール権が含まれる」ことを確認し、具体的な実現課題として「@住民基本台帳ネットワークシステムの稼働を停止するA思想、信条、病歴などのセンシティブ情報の収集禁止や名寄せの禁止を含め、個人情報の収集・利用・提供に対する厳しい規制を設け、これを監視するための第三者機関を設置する等、実効性を伴った個人情報保護法制を確立するBコンピュータネットワーク社会において人びとが安心して暮らせるように、国及び地方自治体が収集・管理する個人情報の分散管理を意識的に進めるとともに、統一的なセキュリティ基本法を定める」ことを掲げた。この宣言は、現在においても踏襲されなければならない内実を持っており、制度導入反対運動の取り組みの中で掲げていく必要がある。菅政権と財界が一体となった個人情報を限りなくデータベース化する制度導入をはね返していこう。 (遠山裕樹)
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