| 中国 ホンダのストライキに関する二つの評価(上) かけはし2010.8.9号 |
奴隷化を打破するためには民主主義のための闘争が重要
劉 宇凡(先駆社) |
勝利的解決を契機に
拡大するストライキ
【解説】中国ホンダのストライキは、日本資本や中国政府だけでなく、中国国内の新旧左翼にも影響を与えた。以下に紹介するのは、中国共産党の老党員によるストライキ支持の書簡および革命的共産主義を目指す中国青年によるストライキに関する論評に対する香港・先駆社の劉同志の分析である。中国国内ではホンダのストライキの勝利的解決をきっかけに各地でストライキを含むたたかいが続けられ、賃上げなど一定の労働条件の向上が勝ち取られている。その一方、個別の労働争議の勝利が労働運動全体の前進に直結し難い状況にあることも事実だ。国際主義に根ざした労働運動と共産主義運動の戦略を熟考しつつ、一つ一つの具体的なたたかいに連帯していこう。 (早野一)
仏山ホンダ労働者による今回の闘争は特別な意義がある。長期間(20日間)の闘争で重要な勝利を勝ち得たうえに、大胆にも労働組合の改選を要求したからである。国有企業のレイオフ労働者による民営化反対の闘争においてさえ、労働組合の改選あるいは労働者自らの組織化をあえて提起するケースはほとんどなかった。
なぜなら、かれらには依然として恐怖の意識があったからである。この恐怖はなによりもまず一九八九年の天安門事件以来の白色テロに起因するものである。〔2002年春の〕大慶油田の闘争は数少ない例外だったかもしれない(訳注1)。他方、民間企業の出稼ぎ労働者は、「農民」という制度的身分によって都市に根ざした生活ができずに、それがかれらが組織を発展させる障害になっている。
しかし中国では資本主義が復活して二十年が経つ。新世代の労働者はすでに労働者の隊列に参加している。かれらには国有企業の労働者のような天安門事件以降の恐怖心はないし、一世代前の出稼ぎ労働者のような「二十歳で出稼ぎに行き、四十歳で帰郷する」というような濃厚な郷土アイデンティティもない。逆にますます都市化しているというのが実態である。中国産業の深刻な変化に従って、その社会的身分も心理状態も刷新されてきた。これがホンダのストライキの隠された背景かもしれない。
ストライキの収束後、さまざまな論評が立て続けに登場した。まず注目に値するのは、どのように労働組合問題に対応すべきかという国内外の研究者らの議論である。多くの識者が独立労組の結成を掲げるべきではなく、中華全国総工会の枠組みと労働組合法の法的保障のもとで末端労組の改選を求めるべきだと主張している。
旧態依然の考えから脱却せよ
そのような意見は、もし戦術として提起するのであれば、現在の力関係から考えて妥当だと言えるだろう。今日の中国では結社の自由は認められておらず、労働者が完全にアトム化されている状況において、最初から独立労組の結成を提起すれば、あっという間に政府から弾圧される。
一方、総工会は官製で統制されてはいるものの、政府にしろ地方総工会にしろ、企業内労組を実質的にコントロールすることはできていない。なぜならそれはすでに資本によってコントロールされているからだ。だが、もしある企業の労働者が長期間の準備と闘争を行えば、組合選挙によって企業内労組の支配権を奪還することはが可能である、ということも意味する。もちろんそう容易ではないにしろ。総工会を根本から改良することはほとんど不可能だろう。しかし企業内の労組であれば不可能とはいえない。それゆえ、労働組合の改選というスローガンの提起は現段階において妥当な戦術なのである。
しかし、それは明らかに唯一妥当な戦術というわけではない。というのも「労働契約法」「賃金集団協約試行法」あるいは「労働争議調停仲裁法」などでは、労働者が労働者代表を選出して使用者側と交渉する権利を保障しているからだ。つまり、労働者は労働組合法の枠組みのもとでなければ初歩的な組織をつくれないというわけではない。他の枠組みのもとでも組織をつくることができる。労働者が法的に依拠できる保障があると感じ、断固とした自信を持つことができさえすれば、それは不可能ではない。
さらに、われわれが旧態依然の考えに固執しなければ、独立労組を結成することができなくても事実上独立した、あるいは半ば独立した組織をつくることは可能であるということが理解できるだろう。企業内労働組合は労働者が経済闘争を行う常態的組織だが、中国の現状において広範な労働運動の高揚が存在しないまま、民主的に結成や改選を行うことは実際には極めて難しい。「中国労働組合規約」によると、企業内の労働者は民主的に組合執行部を選出することができるが、上部組織の地方総工会は拒否権を持っている(訳注2)。あるいは煙台市のオレウルフ労組のように、組合の結成は認めるが、上部団体の地方総工会が資本の側に協力をして、企業内労組の活動を妨害するということもある(訳注3)。
現在のホンダの企業内労組の再編が良い方向にいくのかどうかは何とも言い難い。総じて、現在はさまざまな闘争戦術を実験的に開始しているということであり、組合改選もその中の妥当な戦術の一つということである。特に、労働者が団結していく準備段階においては、名はなくとも実体のある何らかの組織、あるいは他の柔軟な名称を使用する必要があるかもしれない。要するに、戦術であるがゆえに一切はその時々の状況を見る必要があり、一律に論じることはできず、個別の戦術を唯一の戦術と見なしてはならないということである。
民主主義の立場を堅持する
労組改選のスローガンは唯一の戦術ではないし、ましてや戦略や原則などではない。われわれは民主主義の原則を終始堅持するだろうし、時期が到来すれば、高らかに次のスローガンを提起するだろう。「中国労働者階級には結社の自由がある!独立労組結成の自由がある!複数政党制の実施を!」と。たとえ一時的にこれらの根本的要求が実現できないにしても、これらの権利の放棄を予め宣言してはならない。逆に、時期が到来すれば、このような民主的精神で労働者を教育しなければならない。「民主主義を!さもなくば奴隷!」と。
一部の左翼の友人たちは、労働者に同情しつつも、独立労組あるいは複数政党制と聞くだけで反発する。独立労組のスローガンに不快感を示し、一党独裁の廃止や複数政党制の実施のスローガンをブルジョア的なものと考える。これは大いなる誤解である。
ホンダのストライキの期間中、鞏献田ら何人かの中国共産党員が労働者を支援する書簡を公表した。これは貴重なことである。その声明の中でこれらの友人たちは、政府がストライキ権を尊重するよう訴えた。従来よりも明確に進歩的なことである。組合改選を要求する労働者の権利を政府と総工会が尊重することも求めている。これも良いことである。
しかしこの声明では、四つの基本原則(訳注4)を高らかに掲げて法的武器とすることを主張している。これは問題である。四つの原則全てに問題があるということではなく、すくなくともそのうちの一つ、「中国共産党の指導を堅持する」ことが大いに問題なのである。いったい、今日の共産党が共産主義の原則を堅持しているといえるのか。当然いえない。むしろ逆である。だから共産党の指導を堅持するということは、今日においては実際には官僚資本主義党による独裁を意味するのである。現在、中国の労働者階級が政権に対して民主主義の実現を強制する力はないにしても、労働者階級の傲骨(誇り高き精神)は、思想的に独裁者に投降してはならないと我々に要求している。
徹底した腐敗状況にある今日の中国で、労働者階級が幼い産声をあげ始めたいまこそ、われわれはなお一層民主主義の傲骨を堅持しなければならない。今日の中国における最大の社会的後退とは、物質的分配構造における権力者への徹底した傾斜という状況を除けば、それは人道主義における奴隷化だろう。この種の奴隷化の深さと広さは、陳冠中の最近の政治寓話小説『盛世――中国2013年』(訳注5)に見ることができる。
このような奴隷化を打破するために、労働者人民による民主主義のための闘争を堅持し、この傲骨によって、模索しはじめた中国労働者階級への教育をおこなわなければならない。もちろん我々も中国の〔思想・言論〕状況を理解している。しかし「沈黙して生き延びるくらいなら、発言して死んだほうがましだ」(訳注6)とまでは言わないにしても、沈黙することもあり得るが、一党独裁に妥協した主張はしないということが大切である。」
思想的転換についていけない友人たちがいることも理解できる。だが、少なくとも我々はそういった風潮には迎合しない。我々は、一方で労働者の直近の経済的利益を防衛するが、妥当な時期においては長期的な闘争目標の意識化のために労働者を教育し、これら二つを結合するということを学ばなければならない。(もちろん、各個人、各団体によって位置づけは異なるだろうから、一概には語ることはできない)(つづく)
訳注
(1)「中国で国有企業労働者がレイオフに大規模な抗議行動」(かけはし2002年4月1日号)参照
http://www.jrcl.net/web/frame0401h.html
(2)中国労働組合規約は中華人民共和国憲法および中国労働組合法(中国工会法)に基づいて、組合員(第一章)、組織制度(第二章)、全国組織(第三章)、地方組織(第四章)、単位組織(第五章)、組合役員(第六章)、組合経費と資産(第七章)、徽章(第八章)、附則(第九章)などを定めている。第五章の第二十六条では「単組の執行委員会の任期は三年から五年」「任期満了の際には選挙を行う」と定められており、第二十七条では「単位労働組合の執行委員会の委員は、組合員あるいは組合員代表による十分な協議を基礎とする選挙で選出される。委員長、副委員長は組合員大会あるいは組合員代表大会の直接選挙、または執行委員会における選挙で選出することができる。」「単組の執行委員会、委員長、副委員長および監査委員会の選挙結果は上部組織の許可を得なければならない。」とされている。
(3)「中国・デンマーク企業が組合結成のリーダーを解雇、組合はブログの活用して真相を訴える」(日刊ベリタ 2008年11月24日記事参照)
http://www.nikkanberita.com/print.cgi?id=200811241205081
(4)四つの基本原則:一九七九年三月に権力掌握を果たした小平が提起した中国共産党が守るべき原則。「社会主義の道」「プロレタリア独裁」「中国共産党の指導」「マルクス・レーニン主義、毛沢東思想」の四つが堅持されなければならないというもので、その後、憲法にも明記される。七八年十二月の党中央工作会議において「思想解放」「改革開放」を呼びかけた小平の権力掌握が確定。すでに第一次天安門事件(76年4月)の名誉回復が行われたこともあり民主化運動が再び高まる。危機を感じた小平ら官僚支配体制は七九年三月二十九日にブルジョア民主主義を提唱していた魏京生を逮捕し、民主化の象徴であった「民主の壁」には上記四つの原則から逸脱する大字報の掲示を禁じる。翌日の三月二十日、小平が中央理論工作会議で「四つの基本原則を堅持せよ」という演説を行い、その後「四つの基本原則」として党および国家の教義となる。
(5)『盛世――中国2013年』は、香港などで活躍し現在は北京に活動の場を移している人気作家の陳冠中が昨年九月に香港で発表した近未来政治小説。二〇一三年、経済危機からいまだ抜け出せない西側諸国を尻目に、中国では中国共産党第十八回大会で指導部が交代、『人民日報』は経済成長と社会的安定の「盛世」が到来したと宣言し、誰もがその「盛世」を謳歌しているかのようであった。しかし実は人民日報が「盛世」を宣言する一カ月前、全国で食糧危機や新型インフルの蔓延を発端とした動乱が発生、都市部に軍隊が進駐し、警察による取締りなどで安定を維持していた。事の次第を疑問に思った主人公の台湾人作家が事実を探っていくうちに「盛世」の奇怪さが明らかになる、という政治寓話小説。現状を肯定し体制を全面的に支持する知識分子も登場する。『世界』二〇一〇年七月号にこの物語について語る陳冠中のインタビューが掲載されている。
(6)原文は「寧鳴而死,不黙而生」。北宋の政治家・文人の范仲淹が宰相に諫言して左遷せられた地で述べた言葉。
先駆社のウェブサイト「労働民主網」より訳出
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