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名ばかりのグリーン事業「4大河川水路化」       かけはし2010.10.11号

「再生」という驚くべき煽動

アルベルト・ライフ(ドイツ・フライブルク大教授)


 イ・ミョンバク大統領はドイツの運河を見た後、4大河川事業を構想したという。ドイツ・ライン川を水路にし、そこで生じた環境被害を研究してきたアルベルト・ライフ独フライブルク大学教授(森林環境科)が「4大河川事業が大韓民国の河川環境や生態系を破壊せざるをえないのに『再生』または『復原』という呼称を付けて、その事業がもたらす環境破壊的効果を隠している」と批判した。以下の原稿はドイツの環境専門雑誌〈クリティッシェ・ウェコロギー〉10月号の巻頭文として載る予定だ。専門翻訳家であるノシネ博士(政策学)が翻訳した。誌面の都合で一部内容を縮約するとともに、脚注も省略する。(「ハンギョレ21」編集部)
 大韓民国政府は最近、納税者の負担で巨大な高費用事業を繰り広げている。2009年6月8日、政府は韓国建設技術研究院が作成したいわゆる「4大河川再生事業マスタープラン」を発表した。政府は夏季の洪水防止、旱ばつ対策の用水確保、河川環境と生態系の保全、余暇活動の空間作りなどを目標として2012年までに178億ドル(約22兆ウォン)を支出する予定だ。だがこのように互いに性格を異にする多重的目標が、矛盾することなく一挙に実現され得るのだろうか。

 韓国政府はこのために漢江、洛東江、錦江、栄山江など4大河川の本流に16カ所の巨大堰を新設する予定だ。支流には洪水調整池2カ所と河岸貯留池3カ所が新たに作られる。既存の農業用貯水池94カ所の土手を高くし、4大河川377キロメートルの区間にわたって堤防補強事業を展開する。政府は当初、漢江と洛東江を運河で連結する計画を立てた。この大運河事業はイ・ミョンバク大統領がドイツのライン、マイン、ドナウ運河を見学した後で浮かんだアイデアだった。この計画は国民や学者たちの猛烈な反対に直面し、09年に撤回された。
 4大河川事業マスタープランを詳しく見てみよう。一部既存の堰の区間で追加的な貯留空間の確保のために浚渫をしている。総工事区間691キロメートルから砂と砂利5億7千万立方メートルを浚渫する計画だ。このほかにも主要支流243キロメートル区間で堤防を補強し、既存の農業用貯水池9カ所を拡張する連係事業が計画されている。河岸には観光産業を育成するとともにサイクリング・ロード、体育施設、公園などを作る予定だ。09年に始まった4大河川事業は10年6月30日現在、堰設置の工程率36%、事業全体の工程率20%に達した。このような超大型事業を施行しようとするならば、環境に及ぼす影響を調査するために資料の収集・分析・評価を行うのに相当な時間がかかる。そうであればこそ、わずか4カ月で終わった韓国政府の環境影響評価は皮相的なものとなるほかはない。
 「4大河川再生事業」によって完全に新たな人工の生態系が登場する見通しだ。すでに棄損された一部の区間は、この事業によって現状態より良くなることもあるだろうが、他の多くの河川区間では今もなおしっかりと残っている純自然的生態系が破壊されるだろう。韓国政府はこのように川の流れのパターンや河川環境を完全に変更することを指して「復原」あるいは「再生」と呼んでいる。国民に「グリーン・ニューディール」として宣伝されているこの事業は親環境事業という名目の下、国民の税金によって進められている。復原と再生、この2つの用語の正確な意味を探り、4大河川事業でこれらの用語がどのように使われているのかを分析した。
 復原学会<Society of Restoration>は生態「復原」に関して「退化・損傷・破壊された生態系の回復を手助けする過程だ。復原は生態系を本来の軌道へと取り戻す試みだ。したがって昔から続いてきた自然条件は復原計画の理想的な出発点だ」(2004年)と定義する。退化・損傷・破壊された生態系は復原過程を通じて本来の生態に復帰することになるのだ。
 「復原」と類似した用語である「再生」は「死んだり、死んだように見える人間や物体に新たな生命と活力を吹き込むこと」を意味する。そのような「再生」という用語が環境問題と関連して使用される時は、本来は活力があって完全だった生態系が破壊され、「生命」を失ったことを前提とする。死んだ生態系をよみがえらせるための外部的措置が取られ、それによって既存の破壊的な効果が逆転し、生態系の機能が改善される。「再生」の目標は以前よりも「機能的」で有用な景観を作ることにあるが、だからと言ってこれが必ずや以前よりも自然に近い状態を意味するという訳ではない。そういう点で、韓国の4大河川事業は「復原」よりは「再生」に近い。
 「再生」だとか「復原」などのような用語に込められた二重的メッセージに注目することは重要だ。「再生」と「復原」は生態系や景観にもたらされた変化を分析し表現する概念だけれども、同時にこれに対する肯定的な評価を内包している。「河川の再生、河川の復原は良いことだ。死んだ生命をよみがえらせることだから!」。

幾つかの「河川再生」例

 世界の到るところで「再生」という名前のついた成功した河川環境改善事業を求めることができる。いくつかのケースを紹介する。
 米国ロサンゼルス市では「ロサンゼルス川再生事業」が繰り広げられた。名称通り、ロサンゼルス川をよみがえらせるのが目的だった。ロサンゼルス川は総区間約80キロメートルのまん中あたりの相当部分が運河となりコンクリートの通路に閉じ込められた状態だった。この数十年にわたって川沿いには鉄道、倉庫、工業用施設が立ち並び、ロサンゼルス川は次第に市民や地域社会から遠ざかり、無視された。これに対し2002年ロサンゼルス市当局は思いきった市民参加の「河川再生」事業を計画した。市民らが共に交流できる休息のスペースを作った。野生動植物の棲息地保護、水質管理、就労の機会提供、地域アイデンティティの高揚などがこの事業の目的だった。
 米国マサチューセッツ州では2006年「フレンチリバーコネクション」という非営利機構がフレンチ川再生事業を始めた。42キロメートルにわたってマサチューセッツ州を通過しているフレンチ川は一時、はなはだしい汚染に苦しめられ、相当区間が狭く水路化している上に工業団地に面していた。「フレンチ川再生構想案」にしたがって河岸公園や散策路を作った。歴史的建築物が補修され、ボート利用施設が作られるとともに、ゴミの不法投棄は禁止された。
 米国ウィスコンシン州ライン市では2008年ルート川委員会とウィスコンシン河川連合会が「根本に帰ろう:都市河川再生計画」という河川再生構想案を提起し、ゴミや産業廃棄物で汚染されたルート川8キロメートル区間の状態を改善しようとした。事業目標はbライン市の生活の中心をルート川の方に誘導b住居、商業、レジャーの調和を通した河岸沿いの革新的発展と成長b自然生態系の復原と河川水質の改善b市民参加の奨励などだった。
 広く知られた、だが厳密に言って成功の事例としては挙げづらいケースもある。ソウルの清渓川復原事業だ。清渓川には1957〜61年に覆蓋工事が行われ、その上に高架道路が建設されたが、05年当時ソウル市長だったイ・ミョンバク大統領がこの小さな河川を復原し、6キロメートルの長さの人気ある休息空間を作った。総費用は約2億8100万ドル(約3350億ウォン)だった。だが清渓川は冬季を含め約半年間は川床をさらけ出すので、遠く漢江から引いてきた水や地下鉄駅から吹き上がる地下水を集めて汚染物質を浄化した後、清渓川維持用水として活用している。したがってこれは「復原した」だとか「再生した」というよりは「新たにデザインした」と考えるのが正しい。
 先に探ってみた河川再生事業の共通点は、主に大都市でコンクリート水路化がされたり一部区間が都心地下に流れている状態を改善しようとする目的で実行されたということにある。余暇活動の空間に変わり、河岸地帯の価値を高めることに寄与する。清潔で親環境的でアプローチ性の高い公園、主に外観上美的な利用しやすい施設となる。都市において純自然的生態系の復原を目標にするのは困難だからだ。都市地域では主として余暇活動の空間という、河川の社会的機能が優先視される。

自然な河川を人工水路に

 もう一度、4大河川の問題に戻ろう。四季が明瞭で雨期のある所では季節によって河川の流量・流速・土砂運送力が変わり、浸食作用が起きるとともに、土砂の運搬や堆積作用が生じる。韓国の河川氾濫源もやはり夏季の一時期に集中する降雨量のために梅雨時期の洪水や河川の躍動性の影響を受ける。
 韓国の河川氾濫源の生物種や生態系もまた、このような周期的変化に適応してきた。
 鉱物質が豊富な新しい表土が堆積され続け、繰り返し生成されてこそ柳やポプラの木などのような開拓種が定着できるし、軟木で構成された氾濫源の緑地帯も再生を繰り返す。熱帯地域を除く大部分の北半球で育っている柳やポプラ、南半球では南米のパルサナムの森が良い例だ。万が一、河川の躍動性が弱まれば氾濫源特有の動植物は絶滅種となるだろう。氾濫源に分布している相当数の動植物種は、河川の氾濫によく耐えぬき開拓種の特徴まで備えた選別摂食者(specialist)なのだ。
 韓国の漢江、洛東江、錦江、栄山江の相当区間は今日までおおむね自然的状態を維持している。特に大都市であるソウル地域を除けば4大河川の生態系と氾濫源の躍動性はよく保存されてきたほうだ。こういった点のゆえに他の国の都市地域での河川再生の事例とは本質的な違いがある。景観がすぐれ、保護すべき価値の高い韓国の河川は滅亡の危機に直面している各種の動植物に大切な棲息地を提供しつつ、今日まで独特の生態系を実現してきた。ヒンモクムルッテセ(チドリの一種)や世界的に滅種の危機にさらされているホサビオリ(オシドリの一種)を例に挙げることができる。洛東江や錦江の氾濫源や湿地はナベヅルやマナヅルなどシベリアとアジアの亜熱帯地方を行き来する渡り鳥が冬を過ごしたり休息をとる重要な渡り鳥の渡来地だ。韓国固有種のミホチョンゲ(ドジョウの一種)やムンナプチャル(不詳)などの魚類や丹陽スップジェンイ(キク科多年草)のような植物もまた滅亡の危機に直面している。
 韓国の4大河川は韓国政府が暗示しているように、そんなに一律的に「退化したり破壊されたり、あるいは生物学的に死亡」した河川として分類することはできない。すでに汚染され運河化した一部区間を除けば、4大河川はほぼ自然の状態を維持しており「再生」や「復原」という言葉は矛盾だ。そういう必要がない。
 進行真っ最中の「4大河川再生事業」は河川体系の地形の力学を完全に変えるだろう。堰を作った区間では季節の変化に伴った流量の変動が顕著に減り、周期的な流速の上昇もなくなるだろう。河川の浸食・運搬・堆積作用も完全に変わる、堆積物は、もはや川の下流に流れることはできず、堰の設置によって生じた人工湖の湖床にたまり、一定の期間をおいて定期的に浚渫をしなければならないだろう。河岸や水中の生態系および浅い川に暮らす動植物の棲息地がなくなり、ここに定着した生物種は滅び、河岸は常に水に浸されている完全に新しい環境に変わるだろう。そのような環境では特に夏期の水温増加や藻類の増殖によって河川の水の酸素含有量が減り富栄養化が発生して水質が悪化する。
 韓国のいわゆる「河川再生」事業は、既存の自然な河川の力学を人工水路や人工湖によって代替するだろう。すなわち土砂の運搬が起きない、ほとんど停滞した水棲生態系に変わるのだ。完全に新しい生態系が形成されれば湖水で主に棲息している動植物が河川に棲息している動植物を追い出すものと予想される。
 韓国政府のこのような極めて技術官僚的な措置は「河川の再生」ではない。これは現存する大切な生態系を破壊し、人工湖や人工運河に変える行為であるにすぎない。

「ウソ」で固められた事業目的

 4大河川事業は国民に「グリーン」の事業として宣伝されてきた。これは現実とは程遠い。だとすれば、これほどに巨大規模・高費用の事業を施行しているのには、どんな他の理由があるのか疑問が生じる。互いに矛盾する4大河川事業の目的を改めて聞いてみよう。
 水質改善 「再生」という別の言葉によって「望ましい状態」を作る作業だと言うことができる。水質改善もその中の一つだ。韓国において水質汚染の主要原因は、他の産業化された諸国家と同様に生活下水や産業廃水、そして雨に流されて河川に流入する肥料や農薬だ。この問題を解決しようとすれば下水および廃水処理施設を設置し、農業の集約性を低めなければならない。
 そしてヨーロッパで2000年から「水管理基本方針」に従って施行しているように、水辺に広範囲な緩衝緑地帯を用意するように国家次元で監督しなければならない。河川を運河にするからと言って水質が改善されはしない。
 流速が緩くなり水質汚染がむしろひどくなるからだ。
 洪水調節 洪水調節も河川工事の重要な目的となり得る。洪水防止をしっかりやるためには平素、水位を低く維持しつつ大規模貯水容量によって洪水に備える貯留池が必要だ。だが堰で阻まれた区間の氾濫源は流量の変動幅減少によって常に浸水状態におかれ、貯留機能が顕著に変じることになる。その上、堰区間水辺の氾濫源には泥土が積もる。流量が少ない期間にはいささか河川が揺らいでも河岸が泥土で覆われ、釣り人や観光客に敬遠されることになるだろう。
 事実、洪水の被害は河川の氾濫自体が原因である場合よりも、以前に洪水調節の機能を果たしていた氾濫源に堤防が増え続け居住地や工業施設が立ち並ぶなど、河川周辺の土地利用集約度が日々、増加したことに起因する場合がより多い。その結果、今後数年間に大洪水が人間にもたらす被害は一層大きくなるものと予想される。
 用水確保 自然河川を堰で阻み人工湖に作る工事は日照りの時に用水を確保する対策となり得る。夏の梅雨時期がある韓国では主として冬と春に用水を確保しなければならない。したがってこれも河川工事をする重要な理由となり得る。だが事業が進行中の韓国4大河川流域にある各都市は水に不足してはいない。水不足に苦しめられているのは島や河川上流の山間地域だけだ。4大河川事業で確保される用水はこれらの水不足地域には到達できないけれども、政府はこのような現実をあいまいにしている。実際に用水不足地域の多くの農夫たちは4大河川事業が自分たちの地域の用水不足の現状を改善してくるだろうと信じている。
 余暇空間の造成 休息空間の準備や観光産業の育成もまた4大河川事業の根拠として提示される。だが4大河川計画の余暇活動空間の概念は、環境教育や親環境「生態観光」の概念とまっこうから相反する。国民は自然環境に対する理解と保護を学ぶ代わりに人為的に造られた人工湖を楽しむことに飼いならされることだろう。

利益追求の「イデオロギー」

 大韓民国政府は韓国で最も重要な4大河川を今、完全に新しく作りなおしている。「4大河川マスタープラン」流域氾濫源の生態系に及ぼす影響を「復原」だと表現する。だがこれは先に明らかにした通り不適切で、国民をごまかす表現だ。4大河川建設事業は「韓国河川環境の再構成」と呼ぶほうが、より妥当だろう。
 今後、予想されるか、あるいは既に現れた実状と政府の主張との間に生じた大きな間隙から推して、政府のこのような用語の選択には必ずや別の特定の動機があるだろうとの結論に到達することになる。「4大河川再生事業」は現存する河川の環境と河川生態系を基本的に破壊せざるをえない。それにもかかわらずここに「再生」あるいは「復原」という呼称をつけ、事業がもたらす環境破壊的効果を隠して肯定的イメージを積極的に活用するのであれば、国民が政府の政策をより簡単に受けいれるようにする効果を享受できる。これは「国民の意志を操縦」する恵沢あるいは「煽動」行為と呼んで当然だ。政府がそのようなやり方で主張を貫徹し、政策を履行するのは「望ましい管理体系」にまっ向から反し、利益ばかりを追っている「イデオロギー」にすぎない。(「ハンギョレ21」第826号、10年9月6日付、アルベルト・ライフ/ドイツ・フライブルク大学教授)


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