「青年戦線」最新号より

2000年4月1日・No.154より

|●治安諸法の発動を許さず、学園・地域・職場をむすんだ闘いのうねりを!…大仲 恵
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●共青同アピール
|● 山谷越冬闘争に参加して…………………………………………………………板橋道雄
|●寿越冬闘争に参加して……………………………………………………………海田 昇
|●1.15 日雇全協総決起集会報告

|●反失業闘争と野宿労働者…………………………………………………………遠山裕樹
|●アジアにおけるゲイ・レズビアン運動と私たち
|●私自身のノートから 男性の当事者運動と男のあり方………………………鈴木和久
|●座談会 青年論を語る―2
|●学習ノート ローザ・ルクセンブルクの組織論………………………………中野新一
|●読書案内「中国香港特別区最新事情」…………………………………………早野 一 
|●連帯を求めて(29)………………………………………………………………萩原邦彦 


読書案内 「中国香港特別区最新事情」宮下正昭著 社会評論社 1800円 

「返還」前後の香港社会をわかりやすく描く

早野一


 同志との討論の中で

 九九年の夏、香港から先駆社の同志が日本を訪れた際、日本の仲間たちから次のような質問が出された。
 「当初、返還後に中国共産党が先駆社を含めた民主派を弾圧するのではないかという懸念があったが、当面は回避されている。その理由は何か」。
 先駆社の仲間は、「大陸の資本主義化の関係から香港における資本主義的統治と自由を認めている、香港資本を通じた帝国主義との関係の強化、香港資本主義を利用した官僚資本の発展、反対運動を許可して監視しやすくしている」と四つの理由を挙げて、中国共産党の弾圧が当面回避されていることを説明した。実際、返還後に行われた天安門事件追悼集会には、九八年はおよそ四万人、九九年には七万五千人が参加した。八九年の中国民主化運動の際に自主労組を結成して、その後香港に亡命した労働運動活動家も、香港で活発的に活動している。親中派、国民党派と一線を画した自主労働運動の結果として、九十年に結成された独立的ナショナルセンターの「香港職工会連盟」も、弾圧されずに存続している。日本の商業紙でも香港が話題に上ることは少なくなった。
 では、本当に香港はこれまでどおり「ブルジョア民主主義」の砦として存在し続けるのだろうか、中国共産党の干渉はないのだろうか、中国政府の言うように「一国二制度」は成功しているのだろうか。
 そんな疑問に答えてくれる本が最近出版された。「中国香港特別区最新事情」(宮下正昭著 社会評論社)だ。著者は鹿児島の地元紙「南日本新聞」の香港支局に、九六年四月から九九年三月まで派遣され、返還をはさんだ香港の移り変わりを取材した記事をもとに本書をまとめた。
 返還を前後して変わる、あるいは変わらない香港の人々と社会の様子を書いている。もともと新聞の記事として書かれたものなので、はじめての人間にもわかりやすく、一つ一つの文章が簡潔にまとめられている。なかなか肌で香港の変化を感じることができない私たちにとって、香港の友人たちがどのような社会の変化の中で活動しているのかということに想像をめぐらせるためにも一読をお勧めする。写真も随所に掲載されているので、想像力を書きたてる。これを読んでいると再び香港へと心が向かうのは私だけではないはずだ。
 著者は、前書きの中で返還後、大きく変わった香港の政治機構として、香港人の行政長官、最高裁の設置、人民解放軍の駐留、中国政府の外交部の駐在を挙げる。植民地時代、香港行政機構のトップである香港総督はイギリス政府の任命によって派遣されたイギリス人であった。返還後は親中派議員やブルジョアジーによって構成された選挙委員会が選出し、中国政府が任命した香港人が行政のトップとして就任している。返還以前はイギリス本国に置かれていた最高裁判所も、返還にともない香港に設置された。人民解放軍は返還と同時に約五千人が派遣された。外交部の設置は、人民解放軍の駐留とともに、香港の「ミニ憲法」である基本法にある外交と国防は中国政府が管轄するという定めに従って行われた。その他、さまざまな行事を通じた「大陸化」を、地元の人々へのインタビューを交えた文章で紹介している。

 子どもたちの永住権問題

 「大陸化」の中でも今後の香港のあり方を鋭く示す事件として紹介されているのが、香港人と大陸人との間に生まれた子どもたちの香港永住権に関する問題だ。
 香港基本法では、香港に永住権を持つ市民の子供は、香港以外で出生しても香港の永住権を持つと規定されている。そして多くの大陸生まれ香港人は成人して大陸で家庭をもっており子供もいる。しかし、返還以降、大量の大陸在住の大陸生まれ香港人とその家族が香港に移住することを恐れ、移住には当局の許可証が必要という新法規を設けた。これを不服とした大陸生まれ香港人は、「新しい法規は基本法に違反する」として提訴した。
 九九年一月二十九日、最高裁は新法規の施行後の効力は追認したものの、親が香港永住権取得前に生んだ子供に対しても同様に永住権を認める判決を下した。また基本法の解釈権は中国本国の全国人民代表大会(国会)にあると定められているのだが、それについても「解釈権は、香港の自治に関する限り、香港の最高裁にある。もし全人大の判断が基本法に違反した場合は、香港の法廷が解釈できる」という判断を下した。
 それに危機感を感じた中国政府は「判決は基本法に違反しており、一国二制度を揺るがす重大な挑戦」として判決の修正を求める。「一国」か「二制度」かがメディアをにぎわせていた二月五日、期限付の通交渉で香港を訪れていた大陸生まれ香港人ら二百人以上が、強制送還の危険をかえりみず香港政府本庁舎前で座り込みを決行した。座り込みは十六日間続けられた。しかし、六月に中国の全人代常務委員会が「最高裁判決は基本法に違反している」「永住権取得前に生んだ子供には資格はない」と表明した。これは独立を約束されていた香港の司法権に対する中国政府の干渉行為として非難を呼んだ。しかしそれ以上に問題なのは、このような中国政府の「干渉」を求めたのはほかならぬ香港政府自身であったことだ。政府が代表する香港ブルジョアジーは、大量の大陸民衆の香港移住によって財政支出が増加することを恐れ、一貫して反対の意思を表明してきたし、経済危機に苦しむ香港人と大陸民衆との対立をあおるデマゴギーをたれ流がした(大陸からの大量の人間の流入は香港の失業率をさらに上昇させる等)。ここまでが本書で紹介されている内容だが、最近またこれに関連する裁判の判決があったので紹介しておく。
 九九年十二月四日、オーバーステイ(!)の大陸生まれ香港人十七人が起こしていた永住権取得を求める裁判の判決があった。前日、最高裁判所前では、三百人以上の大陸生まれの香港人たちがロウソク集会を開き勝訴を訴えた。しかし、最高裁判所は六月に中国の全人大常務委員会が示した立場(大陸にいる香港人の子供は大陸の関係当局の居留許可などを取得しないと香港に来ることはできない、出生時に父あるいは母のどちらかが香港永住権を取得していないとその子供には香港永住権はない、全人大常務委員の法解釈は九七年七月一日に遡ることができる)に終始、自らが一月二十九日に出した判決を翻すかたちで、十七人の永住権を認めない判決を出した。
 判決がでた午前九時半頃には、裁判所前にはすでに千人以上が集まっていた。さらに増える参加者を規制しようとした警察との間で小競り合いが起こり、機動隊が出動した。結局夕方まで機動隊との対峙が続いた。夕方、政府の人間と抗議行動をしていたグループの代表が面会してその場は収まった。
 その後、支援団体は香港議会横の公園で十二月八日までの抗議行動をするための許可を勝ち取ったが、裁判所前での抗議行動が「公共の場における騒乱罪」にあたるとして三人を逮捕した。香港の永住権を求める闘いはこれからもしばらくは続きそうだ。この闘いは香港の「一国二制度」と「法治」のありようを鋭く示す出来事だ。

 経済状態はいかに……

 返還以降のさまざまな出来事やかつての日本軍による植民地化などのエピソードを通じて香港社会と人間を描いた本書だが、残念なのは、返還後の香港で最も大きな話題のひとつになったアジア通貨危機による経済後退に関する部分が少なかったことと、経済危機に伴う政府と資本の攻勢に対抗する労働運動の側の動きがほとんど本書には収められていないことだ。
 ご存知の通り、香港は返還後まもなくアジア通貨危機のあおりを直接受けて、戦後最大の経済危機を向かえており、それはいまだ回復の兆しを見せてはいない。グローバリゼーションの時代における「貿易・金融自由都市」がどれだけもろいかをまざまざと見せつけてくれる。だが、経済界が被った被害以上に民衆の被る被害は大きい。というのも、香港はイギリス植民地時代から団体交渉権や最低賃金、解雇への規制など、労働者の権利を守る法律がほとんど整備されていないからだ。それは中国に返還されてからも変わらなかった。いや、返還直前に議会で可決されたさまざまな労働者を保護する法律が、返還後に成立した親中派議員だけで固められた臨時立法議会で凍結され、結局植民地時代と変わるところがなかった。
 九九年十二月二十一日に発表された九月から十一月の失業率は六・一%、失業者は二十二万六千人に上る。また、労働力資源管理学会が行ったアンケート調査では、回答のあった二十九の企業のうち四五%が二〇〇〇年のベースアップはしないと回答しており、ベースアップをすると答えた五五%の企業も、一%から二%にとどまるという回答をしている。
 経済危機をのりきるために香港ブルジョア政府は「民営化」という方法をとった。手始めに四千人の首切りと低賃金化を伴う住宅管理機構の民営化が発表された。また、水道の民営化も発表され三千人の首切りと遠隔地域の水道料金の高騰化が伴う。この民営化によって利用者が利益を得ることはなく、もっぱら事業に参入する企業が甘い汁を吸うことになる(住宅管理・清掃や住宅保全の企業には住宅管理機構からの天下りが多く、百億香港ドルの市場が「創出」される。また、水道は事業を独占できるのでその利潤は十億香港ドルにも上る)。
 このような民営化攻撃に対して住宅部門の複数の労働組合からなる「住宅管理機構組合大連盟」は、幾度となく大きなデモや順法ストを打って抵抗していることは「かけはし」紙上でも紹介した(九九年七月五日号)。民営化をスムースに行うために設置された「労働者配置諮問委員会」の労働者代表は同委員会への出席を拒否している。しかし、職場には民営化に伴う混乱と暗い雰囲気が漂い始めている。十二月二日、十年の職歴を持つ四十六歳の労働者が社宅で首をくくって自殺した。その遺書からは直接の原因はわからないが、同僚によると、民営化が発表されてから、労働量の増加、労働者への圧力が増しており、精神的にまいってしまう労働者も出ている。議会では民営化に反対する政党はない。民主党は、「住宅管理機構の民営化に反対しなかった」という理由で、十二月はじめに投票が行われた区議会選挙で、これまで支持を受けてきた香港職工会連盟傘下の公務員労働組合の支持を取り付けることができなかった。きわめて困難な状況に立たされている。これ以上犠牲者を出さないためにも、労働者同士の助け合いと正しい方針での闘いが求められる。

 労働運動のグローバリゼーションのために

 本書で知ることのできない労働運動は、「青年戦線」や「かけはし」などでも逐次紹介していくつもりだ。本書から読み取ることができる香港社会全体の雰囲気を前提として、今後の私の文章を読んでいただければ、より理解が深まることだろう。
 なお、本書は最後に「マカオはいま」という章を設けている。この文書を書いているときにマカオは四百五十年近くにわたって続いたポルトガルの植民地から中国に返還された。アジアで最後の植民地が姿を消した。中国政府は「次は台湾を」と息まいているが、香港の返還といいマカオの返還といい、全く世界労働者階級の闘いの前進に寄与しない。もちろん植民地よりは何百倍も良いには違いないが、あらためて変わりつつある世界の政治・経済の枠組みと中国国家の体制を考えずにはいられない。ちなみにアムネスティ・インターナショナルは、返還されたマカオでは言論の自由、ストライキの保障が明確になされていないと批判している。マカオについて私は全く知識がないので、この章を読んで少しは理解を深めることができればと思う。
 我々の友人たちも、立ちあがりつつある香港の労働者階級の闘いに連帯する活動を精力的に続けている。その背後には民営化と資本のグローバリゼーションに飲み込まれつつある中国の労働者がいる。海峡を越えれば、新たらしいナショナルセンターの結成に向けて闘う台湾の労働者と、そこに積極的にコミットしようと活動している我々の友人たちがいる。
 資本のグローバリゼーションに日本、沖縄、アジア、世界を結んだ労働運動のグローバリゼーションを対置しよう。新しいアジア革命の時代に向けて青年同盟は駆け出さなければならない。

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