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    かけはし2014.年1月1日号

ゼネコンを肥え太らせる除染


「被ばく労働」に取り組む仲間へのインタビュー

労賃は特殊勤務手当プラス地域最賃

事態が全く伝わってこない
東電統制下の収束作業

 このインタビューは一〇月上旬、いわき自由労組、福島連帯ユニオンの仲間たちの協力で実現しました。しかしこの時期、現地では数多くの労働相談が寄せられ、朝から夜まで連日福島全県を走りまわっている最中で、インタビューの途中でも何度も相談の電話が鳴り、闘いの緊張が伝わつてきました。この緊迫が少しでも伝われば幸いです。(本紙編集部)

状況認識を
統一する闘い


 【Aさん】 
 全く個人的見解だが、被ばく労働をめぐる運動と闘いは新しい局面に入りつつあると思う。あえてこの三年間を時期的に区分すると、第一期は二〇一一年三月のフクイチ(福島第一原発)の大事故から二〇一二年の秋まで。この時期は被ばく労働とはどういうものなのか、どれ程危険極まりないものかを全国の人々、活動家も含めて反原発運動の中で共有していくことが中心だったと思う。同時に収束作業や除染作業などの被ばく労働が想像を超える重層的な請負構造の中にあり、どれ程激しいピンハネがまかり通っているのか知る、知ってもらうことに力点が合ったと思う。
 こうした運動のあり様を最も鮮明に表現していたのが二〇一二年四・二二の被ばく労働を考えるネットワーク準備会が主催した「どう取り組むか、被ばく労働問題 交流討論集会」であった。この集会では、山谷労働者福祉会館運営委員会のなすびさんの経過報告、全国労働安全センターの西野方庸さん、日雇全協の中村さんがそれぞれの立場から被災者の支援に留まらず現地で作業する労働者を危険な被ばくからどう守るのか、ピンハネなどから生活をどう守っていくのかということを共通に発言していた。
 そして現地の全港湾小名浜支部やいわき自由労組からは「労働相談を開始したこと」や被災した避難民を失業者として捉えることが共に闘う上で重要であると報告された。まさに被ばく労働に対する考え方、状況に対する認識を共通することよって全国的な運動と互いに協力して一つの体制をつくろうとしていたように思う。
 第二期は、二〇一二年一一・九の「被ばく労働を考えるネットワーク」の結成、それを前後して明らかになった「特殊勤務手当」問題に対する取り組みである。「環境省の直轄事業として行われている原発事故、それによって飛散した放射性物質の除染作業に携わる作業員に対して、一日一万円の危険手当が支給されることになっているのに支払われていない」。この課題に取り組み、労働者を組織していくことが重要であると集会は確認した。
 この「特殊勤務手当」問題を軸とする闘いを約一年間集中的に取り組んできたが、ひとサイクルが終りつつあり、新しい段階に入っている。具体的には労賃がだいたい地域最低賃金+特殊勤務手当の約一万六〇〇〇円に定着し、他方では除染作業も放射線量がより高い地区での本格除染に入りつつある。

特殊勤務手当で
労働相談の増加


【Bさん】
 昨年秋(2012年11月)に「特殊勤務手当」の問題が露わになった時、ほとんどの(除染)労働者の賃金は一万円前後だった。彼らの多くはネット求人や求人誌、ハローワークなどを通して「一万円だすから」という形で集められていた。労働者は全国から集められているが、北海道、東北の青森、秋田、山形、南は九州の宮崎、鹿児島そして沖縄など産業空洞県からが多く、昔からの出稼ぎマップとも重なる。一方半数近くは、地元の人々であり、仮設住宅や借上げ住宅に入居している避難民や、震災雇止めで仕事を失った人、汚染地で農業のできなくなった人、長期の若年層の就職難の若者たちである。ゴジップ報道で広がった「昼からパチンコ、飲酒」などというのはごく一部であり、仕事を失い、狭い仮設住宅では全員が寝ることもできず、二重、三重の生活を余儀なくされている避難民は東京電力からの生活手当だけで生活できないのが現状なのだ(生活手当が出ているのは当初の避難区域だけである)。
 労働者の層も多岐にわたる。建設関連の下請け仕事に従事してきた層は一部であり、バブル崩壊以降の就職氷河期に「フリーター」や工場派遣を転々としてきた三〜四〇代層、リーマンショック後の派遣切りで工場などを追われた層、長引く不況で高齢になって営業や事務職をリストラされた五〜六〇代層、就職難の二〇代など広範におよぶ。
 世代としても経験からも、パソコンやネットにたけた労働者も多く、これまでもネット求人から工場や営業などに求職してきたという労働者も多い。その経験が逆に「いかにも怪しげな、この除染に関わるネット求人」に乗ってくる状況でもある。何人もの労働者から「この業界の業態はどうなっているのですか」「契約や賃金のウソ」にしても「現場での指揮系統のいい加減さ」や「労働者を人とも思わない扱い」などを聞かれる。多くの労働者にとって信じがたい初めての世界だった。
 環境省が一日一人一万円の危険手当を出していることが明らかになると一挙に労働相談件数は増えた。それまで危険手当はほとんどついていないし、労働者は知らないか、二〇〇〇円とか、一〇〇円などというものもあった。これを契機にふくしま連帯ユニオン、いわき自由労働組合、小名浜地区労の現地と被ばく労働を考えるネットワークの仲間が協力し福島県労働局、ハローワーク、労働基準監督署などの行政と交渉したり、労働相談があった業者に次々と団体交渉を申入れ、押しかける闘いを始めた。
 こうした運動の結果、二〇一三年二月に福島県労働局は除染の元請業者(ゼネコン)に対してアンケート調査を行った。その中で「特殊勤務手当一万円を必ず払う、賃金は最低賃金以上にすること、宿所費、食費などを控除する場合は控除協定を結ぶ」などが明記された。
 いいにつけ悪いにつけ、福島県労働局の指導によって特殊勤務手当は契約時に明記されることになった。しかし、逆に賃金は横並びとなり、福島県の最低賃金にあわせて五五〇〇〜六〇〇〇円、そこから宿所費食費などが控除され、手取り一三〇〇〇〜一四〇〇〇円が相場として固定化されている。環境省発注の除染地域でない、市町村発注の除染工事には危険手当は付かないが、八〇〇〇〜一二〇〇〇円の賃金が相場である。危険手当がつくからといって高汚染地域の作業の賃金が最低賃金でいいのですか、という話でもあるが、労働局や監督署は最低賃金以上の契約であれば法令上問題なしとしている。労働者は放射能に対する長期的危険性についての教育を充全に施されない中で、総額がいくらか増えたことで良くなったと思ってしまっている。
 除染作業に携わるためには除染特別講習受講者でなければならない、五時間半の教育が義務付けられているが、業者内部で行われる教育はほとんどいい加減でテキストも渡されず、一〜二時間でやったことにしている場合が多い。今年七月労働局が発表した一〜六月期の除染関係の是正勧告は調査三八八業者中二六四社六八四件で違反率も六八%であり、安全教育の時間不足など安全衛生法違反が二一一件を占めている。しかし今も労働者から聞こえてくるのは、「正規な時間の教育は行われていない」という事実。
 また、この労働局の二月調査の最中、労働局の指導する内容に沿うように偽装した「契約書」への署名強要が様々な業者内で行われ、署名を拒否した労働者は解雇されたり、そうした事務処理ができない業者は業者ごと撤退させられたりした。この事態の中でも多くの労働者からの相談が寄せられ、現在もこの「偽装契約書」をめぐる闘いは続いている。
 特殊勤務手当一万円、賃金六〇〇〇円という形の契約書締結が除染業務につく前提になることによって賃金に関して枠がはめられてしまった。しかしこうなると「除染を最低賃金でやらせるのか」という問題を社会的に問う闘いが増々重要になってくる。
 こうした中で相談は賃金の問題から、作業・労働内容にかかわる問題が増えてきている。「天候等での会社都合の休みが一方的に突然入れられる」。「除染作業はチーム作業なので個人事情で休みにくい」。「行き帰りの運転を使用者がさせられる」。「支給される簡易マスクではないきちんと装着できる適法のマスク(工事現場では当たり前に使われている)を自前で用意して現場に行ったところ、元請からは『支給しているマスク以外はするな』といわれ、労働者の一部からは『そんなに放射能が怖いなら、除染など辞めたら』といわれた」。そうした一つ一つに会社は苦言する。労働者同士で話をしても労働者が現場にいづらくなり、その会社を辞め、他の会社を探すという状況がある。すぐに次の会社・仕事に就ければよいが、業者は人を集めてチームができてから現場に入れるため、待期が続いたり、業者が見つからず宿所に窮する状況もある。「まともな待遇で、きちんとした除染をおこなう業者を教えてください」という相談に厳しい現実は顕著に現われている。
 年休も有給や保険もなく、「仕事は長期に続きます」と募集しながら、全く不安定な前近代的な労務管理・労働条件にどう切り込み、仕事に対する価値意識の問題にも切り込んでいかなければならないという課題に直面している。

企業間で責任の
なすり合う構造


【Aさん】
 二〇一二年の秋から二〇一三年の春にかけた一連の行動と闘いは、何件かの争議に勝つだけではなく、一定行政を動かすことに成功した。
 前に触れたが福島労働局が除染作業を行っている三八八業者を立ち入り調査した結果、六八%にあたる二六四事業者で法令上の違反が見つかり是正勧告を受けた。また違反率も前年四月の調査時の四四%から一・五倍も増加していた。違反は賃金の未払い、協約違反、安全管理上の問題と多岐に広がっている。だがわれわれが最も注目しなければならないのは、立ち入り調査を受けた三八八業者は登記された企業であり、登記されていない「偽装請負会社」は、この五〜八倍もあり、それは当然にもすべて法令上の問題を持ち、ヤクザがらみである場合も、かなり存在する。
 被ばく労働を考えるネットワークと現地の福島連帯ユニオン、いわき自由労組が作成した楢葉町の先行除染を行った清水建設を元請けとする下部構造の図を掲載してあるが、三次下請け会社のほとんどは登記もされていない偽装請負会社である。国は積算単価をゼネコンに示し、基準賃金を一万一七〇〇円としそれにプラスして宿泊・食事・交通費などを支払っているがこれについて国もゼネコンも一切公開していないし、偽装請負会社の数も明らかにしていない。ゼネコンを頂点とする重層的利権構造、中央官庁―地方自治体―ゼネコンというその上部に位置する利権構造にどう切り込むかが今の、そして今後の大きな課題である。
 この間、楢葉町本格除染を受注した前田・鴻池・大日本土木JVの下請け企業二社と団交を続けてきたが一向にらちがあかないので、元請の前田の責任追及をする旨を通告した。 ゼネコンと一次下請けは、二次下請けが「特殊勤務手当」を払ったという形を作りたいが三次下請けはそれを承認しない。つまりゼネコンと一次、二次が考えているストーリーを三次下請けが認めないということが起こった。ゼネコンと一次・二次は発注元である環境省との関係で「特殊勤務手当」をしっかり払っているという形を取りたい、三次はもらっていないのにもらったとは言えないとつっぱっている図式だ。
 われわれは彼らの都合とは関係ないから、前田建設をターゲットにした元請責任を追及する旨の記者会見を開いた。そうすると前田・鴻池・大日本土木JVの一次下請けである五大建設は交渉に応じる旨を伝えてき、もうひとつの前田・鴻池・大日本土木JVのもとで仕事を請け負っている一次下請けのユタカ建設も内部調整するので多少時間がほしいと伝えてきた。今後の運動・闘いでは一番上のゼネコンをターゲットにして攻めることも重要な戦術だといえる。

利権の頂点に
立つゼネコン


【Bさん】
 この間、現地での争議や被ばく労働ネットワークの闘いを通じて明らかになった賃金実態を報告したい。
 二次下請けが一次下請けからもらっている額は一日一人当たり二万一〇〇〇円から一万八〇〇〇円。これは一人当たり一万一〇〇〇円〜八〇〇〇円の賃金プラス一万円の特殊勤務手当という計算になる。
 三次下請けが二次からもらうのは、一日一人当たり一万三〇〇〇円しかない。労賃を約一万円という触れ込みで集めた労働者に対し、プラス一万円の特殊手当を払ったら三次下請け業者は大赤字となる。前記した二次業者が書いた筋書を三次業者が承認しない理由はここに存在する。
 また二次業者が一次業者から二万一〇〇〇円から一万八〇〇〇円をもらって、三次業者に一万三〇〇〇円払うとして計算すると三次業者は五〇〇〇円のピンハネしたように考えられるが、二次業者は宿泊費や食費として二五〇〇円から三〇〇〇円を別個に支払っているから実質のピンハネ代は一日一人当たり二〇〇〇円位にしかならない。
 ある意味でこの利権をめぐって労働者斡旋屋や各地の業者の名義を借りて除染事業に参入するブローカーが存在し、そうした業者の中にやくざが介入していると思われる。しかし、やくざだけが悪いというわけでもない。もちろん、やくざの介入は法的にも許されない。まっとうなところはないにしても、やくざであれ、やくざと関係なくても酷い労務管理や暴力的である業者もあるし、それほどでもない業者もある。ある意味除染工事全体がやくざな構造になっていると言える。
 最も利益をあげているのはゼネコンとその子会社・系列会社(様々な形で一次下請けに参入)である。環境省からでる特殊勤務手当は一日一人当たり一万円だが、入札時にゼネコンが見積もり算定に使われる環境省の積算基準単価では労務単価は一般除染作業員で二〇一二年度一万一七〇〇円、二〇一三年度は一万五〇〇〇円に上がっている。宿所設置費用や引き払い費用も積算単価に入れていいことになっており、当然ゼネコンは積算していると考えられる。労賃から九〇〇〇円をピンハネし、宿所費は二重取りし、前述の二次以下で二〇〇〇円程度のピンハネを凌ぎ合っていることを考えると、ゼネコンと一次の段階で一万円前後のピンハネが行われていることになる。現在環境省直轄地域での労働者数一万人強、年間二七〇日ほどの労働日を単純計算すれば、二七〇億円がゼネコンと一次業者に流れている計算になる。除染は明らかにゼネコンを肥え太らせるための政策であることは明白だ。

下請け構造と
暴力的体質


【Aさん】
 次に争議が具体的にどのように進み、どのように解決したのか、しなかったのかを報告したい。
 まず最初に福島第一原発に近い田村市の本格除染作業をめぐり特殊勤務手当が労働者二五人に支払われなかった案件の争議である。この元請けは鹿島のJVで一次業者がかたばみ興業、二次が尾瀬林業、三次業者が電興警備保障であった。かたばみ興業は鹿島の系列会社、尾瀬林業は東電の子会社、そして電興警備保障は原発事故の前は建設現場の警備に携わっていた会社だ。この電興警備保障がNEBとかフォーストレーディングなどの偽装会社を使って集めた二五人の労働者に対して特殊勤務手当が未払いで争議に発展した。二五人はその過程で福島連帯ユニオンに加盟したが、尾瀬林業は最後まで団交を拒否し続けた。
 だが電興警備保障との団交の中で最悪の待遇が次々と明らかになった。夕食がひどい時にはイワシ一尾、ピーマン半分と米飯一膳。さらに一二月に作業員を乗せた車が凍結した道路で横転した時も、監督者は作業員に作業服を脱いで別々の病院に行くように指図し、労災保険に加入していないことを隠し、事故報告を避けようとした。
 こうしたあくどい対応を福島連帯ユニオンとネットワークは七カ月間にわたり一つずつ追及し、ついに団交で電興警備保障に謝罪させ、解決金一八〇〇万円と放射能管理手帳も獲得した。だが実際にこの解決金を出したのは電興警備保障ではなくゼネコン鹿島JVと一次業者のかたばみ興業であることは明白だ。
 図にあげた楢葉町の先行除染でもゼネコン清水建設が元請けで一次業者が石井組、二次業者がAiZuでその下に真成開発という登記されていない企業がある。これに対しても特殊勤務手当の未払いで告発し、AiZuと真成開発の四人の労働者がいわき自由労組に加入し、団体交渉の末に一次の石井組に未払金全額を支払わせる成果を上げた。
 また除染業者ではないが、フクイチ(福島第一原発)に出入りしている業者との争議もあった。このピラミッドは元請けが東電環境という東電の子会社で一次業者が太平電業、二次がTOP、三次が明星開発。その下にある真幸工業という一人親方の会社が、労働者が断り切れないことを利用し、車を買わせローンが行き詰まるのを見て車を取り上げるという詐欺的事件が起こった。彼もいわき自由労組に加入し、未払金を解雇予告手当相当分という形で解決金を獲得した。しかし真幸工業の社長はヤクザであったために、報復を恐れ元の借り上げ住宅に帰れず、新たに住む所を探さなければなければならなかった。その他でも福島第一原発の大成建設を頂点とするピラミッドの底辺にあるヤクザの会社で賃金未払いを受けた労働者から相談があり、いわき労働基準監督署の指導をを通して未払賃金を支払わせた。このヤクザの会社は報復のためにこの労働者の居場所を探し続けている。

【Bさん】
 原発関連にせよ、除染にせよ末端には業者と呼べない斡旋屋、ブローカーが存在しており、その一部は暴力団的な者が入り込んでいるし、にわか親方的な者も多い。労働相談の中の多くには、その裏に必ずと言っていいほど暴力的体質の社長や親方、上司のパワハラが見て取れる。また、労働者が労働基準局や環境省再生事務所に相談したり、匿名の電話を入れると、すぐに現場で「犯人探し」が始まり、誰だかわかると仕事を辞めさせられたり、「自主的撤退」という体裁を取り繕い下請け業者丸ごと干したりというのは日常茶飯事。
 ここに争議に勝っても職場には残れないという厳しい現実がある。労働者は仕事をするために稼ぎにきているのであり、こうした状況の劣悪な労務管理や理不尽な作業にも声をあげれない。辞める決意をしたり、辞めさせられたりして初めて本格的な相談ができる場合も多い。地元の労働者は地元の人間関係の中で就労している場合も多く、より声をあげれない。
 そうした中でふくしま連帯ユニオン、いわき自由労働組合、被ばく労働ネットが取り組んできた成果は、ほとんど氷山の一角のさらにその一角に過ぎない。
 しかし、原発関連の作業は、収束作業であれ除染作業であれ、東電やゼネコンを頂点とする重層的な下請け構造で成り立っており、常に末端作業員が搾取され、被曝の危機にさらされ続けているのが現実。それでもこの間の活動を通してある程度、このピラミッドの構造を理解できたことは今後の闘いに向けた一定の成果だと考えている。

帰還運動の実体
と帰れない住民


【Bさん】
 除染作業は福島県の浜通り、中通りを中心に宮城、岩手、茨城、千葉など広域に行われている。避難地域は環境省直轄で汚染度の高い地域である。川内町、田村市は除染は終了したことになっているが、楢葉町は昨年度工事もまだ終わっていない。さらに避難区域のなかでもより汚染度の高い川俣町、葛尾村、飯館村、富岡町、大熊町、南相馬市、双葉町で除染工事が始まっており、高線量地域での労働が強制されている。そこに投入されている労働者数は環境省直轄除染だけで一万人余、収束作業は三〇〇〇人余、市町村発注の労働者数は福島県だけで一万人は確実に超えていると思われる。
 これらの除染現場をみようと車を走らせてみた。楢葉町は平野部もあるのである程度状況が見える。葛尾町や川俣町など阿武隈高原の山間部は、さっと車を走らせただけでは道沿いだけはわかるが全体の除染状況はほとんどわからない。
 これまで、除染作業の推進役は環境省―ゼネコンのラインだったが、今日もう一つの推進役が登場している。それは福島第一、第二原発を取り囲んでいる各自治体で、福島県庁と避難を強制された一一の市町村が押し進めようとしている帰還運動だ。
 各自治体の首長や議員の多くは、避難が長引くと自治体が崩壊してしまうとあせっており、老人たちだけが帰っても市町村としては成立しないので除染を強調する構造になっている。その意味でこの帰還運動は避難民の将来を考えるというよりも自治体利権とでも言うべきところに力点がある。井戸川前町長の双葉町の町長選をめぐる対立もこうした側面を色濃く持っていた。単に役場をどこに置くのかという話ではない。
 前に触れた楢葉町の本格除染を受注した前田・鴻池・大日本JVの二〇一二年度工事入札額は一五一億円、二〇一三年度費は一八八億円とも言われており、この額を楢葉町の被災者に換算すると一人当たり四五〇万円にもなる。しかしほとんどの人は現在も帰ろうとは考えてはいない。それは当然だと思う。帰還した場合には少額であろうと今出ている東電からの生活手当は出なくなるし、産業も仕事もない。農作物を作っても売れる展望は立たないし、子どもが健康に生活できる線量まで低くなったとは決して言えないのだから。そして帰還しろという家の前には仮置き場の汚染フレコンの山、さらに永久ともなりかねない中間貯蔵施設を作るというのだ。
 川内村はある程度除染作業が終了したが、避難した三〇〇〇人に対して現在戻っている人はわずか五〇〇人だけ。また今年六月の調査によると飯舘村の元住民の三分の一は戻りたくないと考えており、別の場所で農業をしたいと答えている。戦後辛い生活を経て、ようやく酪農を中心に生活が豊かになり始めた矢先の避難であるから当然といえば当然である。
 電興争議になった田村市都路では、今年六月に除染工事が終わったが、十分に線量が下がっておらず、しかも山地が多く住居と道路の周りだけの除染でどうして帰れるのか。環境省が行った住民説明会で「線量は下がり切っていないが、再除染はしない、住民にガラスバッチを渡すので自己管理を」と説明し紛糾。あわてて「ホットスポットがあれば再除染する」と発表したものの、一〇月帰還目標が来年四月以降に伸びている。この事態から「一mSv/年は厳しすぎる、二〇mSv/年論」キャンペーンが規制委含めて始まった。除染とは何かが再度問われ始めている。
 除染作業の中で出る汚染した木や土などは郡山やいわきでは取りあえず青シートなどが被せられているが、避難した一一の市町村の多くの地域では野積みされたままのいわゆる「手抜き除染」が横行している。各家の除染が済んだといっても家の周囲、道路の端から二〇メートルくらいまでだ。高水洗浄したといってもアスファルトの割れ目に入ってしまった放射線量は簡単に下がらないし、側溝に溜まるだけであり、雨や風で再び線量が高くなるのを多くの住民は知っている。自治体が「除染して帰還だ」と強調しても帰ろうと思わないのは当たり前だ。避難を強制された住民は誰よりも放射線に対する不安は強い。

収束作業労働者
とは連絡とれず


【Aさん】
 これから被ばく労働に対して取り組むに際して、今までより一層「被ばく」というか「放射能」に対する啓蒙活動が重要になってくると思う。賃金と手当問題は一万六〇〇〇円で一段落しているが、これは一万円しか出ないと思っていたのが一万六〇〇〇円もらえるので安心したという側面が強い。よく考えてみれば「被ばくの危険」にさらされながら、賃金は最低賃金の五五〇〇〜六〇〇〇円しかもらっていないのであり、一日一人当たり一万〜二万円もゼネコンが搾取・収奪していることを理解してもらうことが重要だと思う。
 労働相談の際に「被ばくが恐いから現場に行けない。どうすればいいか」という相談は非常に少なかった。われわれの主体的限界で「行かない方がいいです」としか答えられなかったのは残念だが、被ばくに関する相談が少ないというのが気掛かり。これからの除染作業は、高線量の警戒区域が中心になっていくことを考えると本当に心配だ。
 三・一一直後、フクイチの現場では線量計を渡さなかったり、鉛で周りを隠して線量が上らないようにさせたり、手袋まで自前で買わせたが、その危険な体質はほとんど変わっていない。「休む場合は休憩室で、休憩室がない場合は、風上に車を止めて窓を閉めて」とか書き出されてはいるが、休憩室を一向に作ろうとしない。仕事の終了後汚染した服を着換えたり、靴を取り替えるための時間も全く保障していない。「注意書き」は完全に法令対策のアリバイでしかない。
 重層的下請け構造の一番下に犠牲を転化するという体質は事故直後から全く変わっていない。危険な仕事は常に一番下にもってくる。行政に交渉に行くと環境省の役人が「一万円から一万六〇〇〇円になったことで、皆さんよくがんばってくれています。前に比べると企業の方もちゃんとやっています」という言葉が返ってくるところに問題の深さがある。
 今、福島第一原発では収束作業のために労働者が非常に高い線量の汚染水によって、日々過重な労働を強制されている。うわさだが、長靴の上から汚染水が染みたり濡れたりするだけではなく、頭から汚染水を被ったりした者も出ているらしい。だがそうした事故を隠すために賃金を保障しながらその労働者を出勤停止にしているという。
 テレビに映し出される第一原発周辺を見ると爆発時のガレキがかなり片づけられているのが分かる。これもうわさの域を出ないが、初期の収束作業をした「福島フィフティー」と呼ばれた人たちは、数千万円の手当を支給されて隔離されているとも言われている。指揮にあたった所長だけは隠すことができなかったから、ガンの発症と死亡を明らかにした。もしかしたらあの「英雄」たちもすでに所長と同じようなことになっているんではないかと疑っている。
 われわれは、危険な福島第一原発の収束作業労働者たちと接触がとれているわけではない。フクイチで作業している労働者の半分以上は福島県の出身者だと言われている。しかし、完全に東電によって統制されており、具体的に何が起こっているかは明らかにされないばかりか、伝わってこない。
 先日の「赤旗」日曜版を読むとツイッターでつぶやいているハッピーさん、サニーさんの二人を中心とするグループと共産党の人は連絡が取れ始めていることが分かる。ハッピーさんが「僕は地震の時イチフク(福島第一原発)の原子炉建屋にいた。3号機で作業していた3月14日、経験したことのない衝撃を感じた。……『ここで死ぬのかなぁ』って……」。というように現場にいた人しか知り得ない報告も掲載されている。共産党が三・一一直後から公然と「被ばく労働相談」の看板を掲げて闘ってきた成果だと思う。われわれもようやく遅ればせながら看板を立ち上げる。
 再稼働を阻止する闘いとともに被ばく労働の問題と、原発事故被災民の問題は反原発運動の両輪である。この両輪の極めて重要な局面が二〇一四年だ。共にがんばろう。
 われわれ福島現地で闘っている者から読者の皆さんに二つの要請がある。
 第一は、脱原発に向けた課題について一つ一つ明確な結論を持つための討論を組織してほしい。例えば東電をどうするのか、エネルギーを将来的にどうするのか、東電の国有化問題をどう考えるのかなど。
 第二は、警戒区域の出入りが一定解除されたことによって、三・一一以降原発事故のためにそのまま手がつけられずに残されてきた相双地区が見られるようになった。ここには三・一一の東日本大震災と三・一四の原発事故のすごさがそのままの姿で残されている。ぜひ、見てほしい。絶対に新たな闘いの出発点になる。

 


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