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    かけはし2015.年6月15日号

この債務請求に正統性はない


ギリシャ 

債務監査、何が判明しつつあるか

民衆の生存権と民主的諸権利を
トロイカは承知の上で侵害した

エリック・トゥサン


 ギリシャとEU主要国との債務交渉がギリギリの局面を迎えている。ギリシャのチプラス首相は六月四日、IMFに対する六月一回目の返済期限を前に、その支払いを六月末まで引き延ばし、六月分を一括して返済すると通告した(IMF規定では認められた方策)。加えて五日には、トロイカが突き付けたさらなる年金削減などを含んだ改革案は非現実的、として拒否する意向を明らかにしている。ギリシャでは返済原資が枯渇しているとの報道も盛んに流されている。しかしここでは、少なくとも日本ではほとんど報道されないギリシャ国内で進んでいる議論が、本来もっとも決定的な要素だ。その一端を示す貴重な議論を以下に二つ紹介する。一つは、債務監査委員会の考え方、もう一つは直近のシリザ中央委員会報告。いずれも、少なくとも一時返済棚上げを求める主張だ。(「かけはし」編集部)

2010年以後も問題だらけ

 古典演劇のように、ギリシャの債務は、場(EU内部のギリシャ)、時(二〇一〇〜二〇一五年)、行為(ギリシャ民衆の生活諸条件の平和時には前例のない悪化とGDPの二五%下落に帰着した、二〇一〇年および二〇一二年のメモランダムによって強要された諸政策)それぞれの一体性によって、さらにまた、はっきりと見分けることのできる配役(トロイカの諸機関、ギリシャ政府、いくつかの私的債権者)によっても特性付けられる。
債務再編はしばしば、不法とあくどさを伴う、あるいはそのどちらかを伴う債務を、それらに合法性と正統性という外観を与えるために、マネーロンダリングする目的で利用されている。そうした場合には、監査は通常、一〇年、一五年、あるいは三〇年であってもさかのぼらなければならない。
ギリシャの情勢は困難だ。
今請求を受けている近年の債務は、それを不正常で、正統性を欠き、不法で、持続不可能な、さらにあくどいものにもする諸特徴を示している。二〇一〇年以前に累積したギリシャの債務は伝えられるところでは、すでに大きな程度で正統性を欠き不法性があった(詐欺や買収を含んだ兵器の諸契約、過大見積もりとあらゆる種類の使い込みを伴った、二〇〇四年オリンピック関連の大規模建設工事、特権的少数者に与えられた税サービス、銀行救出の財政支援、過大な利率)。しかし目立つことは、二〇一〇年後に契約された諸債務に入れられた傷のひどさだ。
メモランダム、再編、また蓄積されたギリシャの公的債務は、不正常、正統性欠如、不法、さらに多くの場合あくどさという諸特徴によって全面的に特徴づけられる。
新たな債権者たちは、次々に任に着いたギリシャ政府の犯行幇助に基づき、返済が不可能な状況までギリシャを追い込んだ。債権者(トロイカ)は二大目標をもって諸政策と諸条件を強要した。
その目標とは次の二つだ。
▼外国とギリシャの銀行を、それらがたとえ現在の危機に大きな責任を負っているとしても、財政投入によって救出すること。
▼退行的かつ抑圧的な新自由主義マクロ経済政策(私有化、解雇、所得の劇的引き下げ、その他)を強要し、こうして市民的諸権利および政治的諸権利と並んで、経済的、社会的、文化的諸権利を侵害すること(注)。

債務の返済はすでに持続不可能

 債権者たちは二〇一五年一年だけで、ギリシャに二三〇億ユーロも請求した。二〇一五年二月に署名された合意以後数回の返済期限が満たされてきた中で、ギリシャは今財政的に持続不可能な地点に近づいている。多くの観測者は、これはすでに現実となっていると考えている。
また何人かは、人道的な諸々の危機、および解決策を見つけ出すための財政的諸手段を集める切迫した必要を前提とした時、公的債務の返済は人権との関係で持続不可能だ、と付け加える。主流経済紙の何人かの「異端的」ジャーナリスト(フィナンシャル・タイムスのウォルフガング・ムンチャウ、ラ・トリビューンのロマリック・ゴディン……)は、返済棚上げ、並びにギリシャ債務の取り消しを支持して論じている。
「ギリシャ公的債務についての真実を求める委員会」(ギリシャ国会に設立された債務監査委員会:訳者)は今、情勢がいかに切迫しているかを、さらに変革を支持して投票した市民の期待を考慮して、二〇一〇〜二〇一五年期に関する分析に焦点を絞っている。明らかなことだが以前の債務も監査されるだろう。そして同委員会の何人かのメンバーはその点に関しすでに活動中だ。
委員会が分析に取りかかってきた債務の中では、われわれは不法性と持続不可能性という明らかな特性を認めている。
以下にあげるものは、委員会設立が二〇一五年三月一七日の記者会見で公表されてすぐ私が提唱した四つの定義だ。
a.正統性のない公的債務とは、公共的利益を考慮することなく政府によって契約された債務であり、特権的少数を優遇する形で契約された債務。
b.不法な債務とは、現行の法的な、あるいは憲法のシステムを侵犯して契約された債務。
c.あくどい公的債務とは、基本的人権(民衆の社会的、経済的、文化的、市民的、そして政治的諸権利)を侵害する諸条件を基に与えられた債務。
d.持続不可能な公的債務とは、人びとの生活諸条件の、特に医療や教育利用の劇的な後退、また失業の増大のような、民衆にとって悲惨な諸々の結果に基づいてのみ返済が可能となる債務。それはすなわち、基本的人権を掘り崩す債務であり、言葉を換えれば、その返済が、政府に住民の基本的人権を保障すること(良質な公的医療サービス、良質な公教育システム、良質な社会的保護システム、見苦しくない賃金と退職年金、その他)を不可能にさせる債務だ。
二〇一五年五月四日から七日に行われた第二回総会で「ギリシャ公的債務についての真実を求める委員会」は、正統性のない、不法な、あくどい、そして持続不可能な債務に対する定義を採択した。

問題への貸し手の自覚は明瞭


私は、ギリシャに現在請求されている債務のいくつかの側面を調べた結果、われわれはそれが不正常であり、不法であり、詐欺的かつ持続不可能なものであるとの証拠を見つけ出すことができる、そしてそれはわれわれをそのほとんどに合法性はまったくないとの結論に導く、と確信している。
正統性のない、あるいはまさにあくどい債務の性格に関して、何人かの報告起草者は、三つの条件、すなわち、同意の欠如、住民に対する利益の欠如、貸し手の自覚、が明らかにされなければならない、と考えている。私は、ギリシャ債務の件ではこれら三条件は明らかになっている、との観点を出している。
具体的には、
?住民もその代表者もそこに心からの同意は与えなかった。そこに民主的な支配は伴われていなかった。
?ほとんど明白なこととして、実行された政策から住民は利益を受けてこなかった。
?債権者たち、特にトロイカ諸機関は、彼らが強要した諸方策が住民の生活条件を改善することはないだろう、との事実を自覚していた。なぜならば彼らは、何万人もの労働者が解雇されること、賃金と年金が引き下げられること、社会的支出が削減されること、交渉の自由(労働組合の:訳者)が制限されること、をこれまで要求し、今なお要求しているからだ。
この三番目の側面がなぜ本質的なのか?
工業化された諸国の公的債務のほとんどは、国家が金融市場に売った債券や証券の形になっている。この買い手たち(ほとんどの場合銀行)は一般に、政府がこうして受け取ったマネーがどのように使われているかを正確には知らない、と主張している。ギリシャの件では今、こうした議論は成り立たない。マネーの貸し付けは、諸協定とメモランダムや履行報告のような付属文書の中ではっきりさせられ、一定数の条件を明記した契約に基づいて行われているからだ。
委員会の結論が何らかの国際債務法廷によって扱われる可能性はない。そのようなものがまったくないからだ。国家債務危機を解決する仕組みはいまだまったくない。現在、国連総会がこうした問題に関する作業に取りかかろうとしているにすぎない。

委員会の発見が呼び起こす効果


委員会の発見はいくつかの結果に帰結する可能性がある。
?ギリシャに請求されている債務の、正統性がなく、不法で持続不可能な、あるいはあくどい性格について、国内の、および国際的な公衆の意識を高める。
?ギリシャに請求されている債務の、正統性がなく、不法で持続不可能な、あるいはあくどい性格について、EU議会内およびEUメンバー諸国国会内の意識を高める。
?ギリシャ政府に、債務を抜本的に削減する交渉における論拠を提供する。
?持続不可能な債務の返済に関する一時棚上げを強制し、そのことで債権者たちが本気で交渉するよう強いられるようにする論拠を、ギリシャ政府に提供する。
?交渉がうまく運ばなかった場合に、一方的な主権行使の諸手段を取るための論拠をギリシャ政府に与える。
?詐欺的行為あるいは事実として金融犯罪の何らかの形態に関与している者たちに対して法的行為を取るよう、現地の司法機関をうながす。
?正統性がなく、不法かつ持続不可能な、あるいはあくどい債務の再生産を防ぐ諸々の法を採択するよう、立法権力をうながす。
?憲法制定を進める場合は、正統性がなく、不法で持続不可能なあるいはあくどい債務の再生産を防ぐ憲法条項の採択を励ます。
?モラルハザードを小さくし、基本的人権を侵害する貸し付けを行うことを妨げるために、債権者に彼らが行ったことに対する責任を取らせる。
?おそらくその他の結果も諸々加わるだろう。

債務問題で比類のない踏み出し


われわれは、ギリシャにおける現在の監査プロセスがもつ歴史的な性格を強調しなければならない。過去二世紀にわたって、数多くの国家債務危機が起きてきた。一九三〇年代にはほとんどの欧州諸国が、デフォルトの時期を数々経験してきた。一九五三年のドイツ債務に関するロンドン協定の時点では、ドイツは一九三二年以来デフォルトを続けてきていた(つまり二〇年以上にわたって)。第二次世界大戦以後では、デフォルトが一七〇件、債務再編が六〇〇件以上起きている。しかしギリシャの情勢は類がない。欧州では初めて、一国の政府が市民の参加を伴った独立した監査プロセスを起動させるにいたったのだ。このことで、ギリシャ議会議長のツォエ・コンスタントポウロウの主導性は模範となる民主的な行為となった。

注)国内的価値破壊には、賃金と退職給付の下落、また労働条件の一層の悪化が含まれる。その公式に示される目的は競争力の引き上げだ。しかし、Natixis銀行の調査チームは、その目標がたとえ成長底上げやユーロ危機解決にあるとしても、そうした政策の有効性に関して強い疑念を示した。(「インターナショナルビューポイント」二〇一五年六月号) 

ギリシャ 

シリザ中央委員会報告

デフォルト要求に支持44%

スタスィス・コウヴェラキス

  五月二三、二四日のシリザ中央委員会は、交渉打ち切りと代わりの計画を求める左翼プラットフォーム(シリザ内左翼共同グループ:訳者)の文書に四四%の支持を与えた。
 二、三時間前に終わったこの会合では、左翼プラットフォームが後掲の文書を提出したが、賛成七五票、反対九五票、白票一で不採択となった。この文書は、債務返済に関するデフォルトをもって債権者との縁切り開始を求めている。
 中央委員会多数派が採択した文書では、「容認可能な妥協」について四つの条件が挙げられている。以下がそれだ。

▼プライマリーバランス(国債の利払い・償還費を除いた歳出と、国債発行収入を除いた歳入についての財政収支:訳者)黒字の引き下げ。
▼賃金と年金のこれ以上の切り下げの否認。
▼債務再編。
▼特にインフラストラクチャーと新テクノロジーへの公的投資に対する、意味のある政策パッケージ。

 同文書はこれらに、「集団協約の不可欠な回復並びに最低賃金の七五一ユーロ(二〇〇九年水準)への漸増」を加え、「財政政策のどのような変更も、経済的に不利にされた人びとの重荷を軽くすること、そして裕福で税を逃れている者たちに最後には負担を強制すること」を明記している。
アレクシス・チプラスは冒頭報告において、断固とした調子を取り入れたが、交渉の現在の情勢、またあり得る合意の基礎が何であるのかについては、正確な言及をことごとく避け、上記の四条件にのみふれた。しかしそれは、合意できない点のほとんどをはっきりさせていない。
今回の会合はまた、ツォエ・コンスタントポウロウ議会議長の介入でも目立ち、彼女は、二、三日中にも公表が予想されている債務監査委員会の最初の結論を基礎に、債務返済の一年棚上げを公然と支持した。彼女はその上、再建された公的放送会社、ERT、の新社長としての大きな物議を醸したラムビス・タグマタルチスの指名も拒否した。タグマタルチスは、メディア界エリートとの結びつきが非常に大きな人物であり、ゲオルグ・パパンドレウのPASOK政権下で、ERTの社長としてすでに任を務めたことがあった。

左翼プラットフォーム文書全文

 「諸機構」は、ある者たちが「名誉ある妥協」と呼んでいるもののために努力しているわけではない、ということが今や非常に明白となっている。「名誉ある妥協」は、私有化と民衆諸階級への新たな数々の重荷という手段によっては、どのようなやり方であれ存在し得ない。そしてそれは、緊縮の真の終了なしには、債務再編(最大部分の)なしには、また経済再活性化に向けた流動性の十分な提供なしには、確実にあり得ない。
EU、ECB、またIMFの支配的サークルが過去何カ月もの間情け容赦なく、かつ一貫して狙いとしているものは、経済を絞め殺すこと、この国の蓄えから最後の一ユーロまで搾り取ること、そして「保護をはぎ取られた」政府を全面的な従属と見せしめ的な屈辱へと押しやることだ。
EUの諸々のパートナーのこうした戦術は、再度リガサミットでも誇示された。
政府にはもはや、シリザの選挙前の誓約並びに政府の綱領的な諸言明を基礎とした、代わりの計画をもって反攻へと移る以外の選択肢はない。
以下の諸方策が即時に実行に移されなければならない。

▼透明性のある、生産的な、発展的かつ社会的な基準に沿ってその機能を確実にするあらゆる必要な付随的諸方策と一体となった、諸々の銀行の即時的国有化。
▼それらの債権関係に対する実質的な統制と一体となった、有力メディアにおける民主制、合法性、透明性の確立。
▼この国のスキャンダルまみれの特権的支配層を保護しているすべての網の目を即刻機能停止にすること。
▼大企業の利益に対する特権的調整とその負担免除の停止。
▼所得の最高位層および高収益企業に対する課税に加え、富と大資産に対する実質的課税。
▼労働立法並びに労働組合の諸権利の保護と実効的履行、そしてその即時全面的再導入。

 政府は支配的諸サークルの諸々の宣伝に決然と対抗しなければならない。その宣伝は、言われていることとして、債務利子支払いの停止とその後のユーロ圏離脱がこの国にもたらす全面的な惨害というシナリオをもって、人びとを怖がらせているのだ。
この国が直面している最大の惨害は、あれやこれやの形を取った新たなメモランダムの賦課であり、過去のメモランダムの実行の延長だ。
この展開はあらゆる手段で、必要な犠牲を払っても回避されなければならない。
メモランダムに対決する進歩的政策のためのすべての代わりとなる解決策には、何よりもまず債務への利子支払い停止が含まれる。そこに必然的に伴われるあらゆる諸困難にもかかわらず、それがこの国に希望と展望を与えるからには、他のあらゆる選択肢よりもはるかに好ましい。
今後に続く日日、「諸機構」が彼らの脅迫政策を続けるのであれば、政府にはこの時から、政府は彼らの蓄えから盗み取ることによってギリシャの人びとを「裸にする」ようなことはしない、IFMへの次の返済には進まない、政府は、経済的、社会的、政治的、そして戦略的レベルで、この国の方向のための、政府の綱領の履行を守る代わりの諸解決策を推し進めるつもりである、とはっきり言明する義務がある。(二〇一五年五月二四日、アテネ)

▼筆者はロンドンのキングスカレッジで哲学の教鞭をとり、シリザの全国指導部にも席を占めている。(「インターナショナルビューポイント」二〇一五年五月号)



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