もどる

    かけはし2015.年6月22日号

マイナンバー制度の凍結・中止を


年金個人情報の大量流出問題

「絶対安全」システムという嘘

改悪法案をただちに廃案にせよ

「安全神話」の
でたらめさ立証


 六月一日、日本年金機構は年金の個人情報を管理しているシステムがウイルスメールによる不正アクセスを受け、約一二五万件の加入者の個人情報が流出したことを発表した。だが事件は、五月八日に発生しているにもかかわらず、塩崎厚労相に報告されるまで二〇日間もかかり、外部掲示板に事件発生メールが掲載され、隠蔽し続けることが困難となりあわてて公表したにすぎない。事件の全貌を解明できず、セキュリティーを強化してきたなどと手前勝手な「安全神話」をデッチ上げてきたことが完璧に破産したことを示す「謝罪」を繰り返すのみの会見だった。
 事件発覚直後、甘利経済再生担当大臣は、マイナンバー制度の導入スケジュールに「変更予定はない」と断言し、「厳重なファイアウォール(防御壁)で隔離されている」「今回の事案を検証し、絶対にこういう事案が起こらないよう対処していく」(二日)と強がっていた。ところが事態の深刻さを認め、同時にシステム開発の大幅な遅れ、ずさんな不正アクセス対策の現実を突きつけられて、「年金にマイナンバーを使用することについては、今回の事件をしっかり検証して、検証を踏まえて導入時期を考えたい」と言わざるをえなかった。つまり、年金個人情報流出事件発生で明らかなように絶対に安全なシステムはありえないことを改めて証明したのである。

新しいウイルス
感染の広がり


年金個人情報流出事件の概要はこうだ。
五月八日〜一八日、日本年金機構九州ブロック本部(福岡市)外部窓口に「竹村」名のメール(ヤフーのフリーメールアドレス)が厚生年金基金制度の見直しに関する意見書を装って届き、職員がウイルスが含まれた添付ファイルをダウンロードしてしまった。ウイルス対策ソフトを装備していたが、「新種」だったため検出できなかった。しかも職員のパソコンは、機構のサーバーとインターネットの両方に繋げており、ウイルスによってパソコンは乗っ取られ、遠隔操作が可能となり、利用者IDなどの情報が抜かれていった。二三日には、一九台のパソコンから大量の情報発信が操作されていた。
結局、東京、福岡の四〇台が次々と感染し、「記録突合センター」(東京)、沖縄事務センター、和歌山事務センターから一二五万件の個人情報が流出した(@「年金加入者の氏名と基礎年金番号の二つ」が三万一〇〇〇件A「氏名と基礎年金番号、生年月日の三つ」が一一六万七〇〇〇件B「氏名と基礎年金番号、生年月日、それに住所の四つ」が五万二〇〇〇件)。しかも一二五万件のうち五五万件にはパスワードを掛けていなかった。「内閣サイバーセキュリティセンター」(NISC)によって感染したパソコンを遮断したが、全拠点のネットを切断したのが二九日であり、すでに大量流失が拡大した後の祭り状態だった。さらにメール送受信専用で使われていたネット回線は、六月四日まで接続された状態が後に判明し、新たにウイルス感染が広がっていることは確実であり、年金個人情報流出件数は一二五万件よりも膨らむはずだ。流出件数を確定できないほど年金機構のセキュリティーシステムが破綻していたのである。

危険性・問題点
の周知徹底必要


なにがなんでもマイナンバーを実施したい安倍政権は、今回の年金個人情報流出事件の責任を年金機構に押し付けようというねらいで、メールへの対応やパスワードの未設定に切り縮めようとしている。「新種」ウイルスを摘発できなかったように、次々と「新種」ウイルスが開発され、不正アクセスが繰り返されているのが現状であり、「安全神話」にしがみつくことこそが最も危険な対応なのである。
ウイルスは「標的型メール攻撃」でかなり有名な存在だった。近年、官公庁、国会議員などに送られ被害を拡大している。だから最低限のセキュリティーとして内部のデータベースにつなぐ専用パソコンと、インターネットにつなぐパソコンは分離しておかなければならなかった。だが経産省官僚は、年金個人情報流出事件に対して「ネットを完全に切り離してしまうとコストがかかり、業務の利便性に影響が出る。機密性が高い場合に限りネットと隔離されたパソコンを使うなど、内容によって使い分ける」(産経新聞/六・六)という認識のレベルだ。年金個人情報流出は、「機密性が高い場合」ではないと言いたいのか。
安倍政権の「成長戦略」と称する中軸のIT政策のいいかげんな実態が集約的に発生したことを認めるべきなのだ。つまり、政府は、マイナンバーが個人情報漏洩の危険性とセキュリティーの脆弱性を持っており、ICカードによる身分証明書機能や個人情報の統合的なデータベース化の危険性を周知徹底し、ただちに凍結し、廃止にむけて着手することを宣言すべきなのである。

アメリカでも相
次ぐ情報漏えい


甘利は、今回の事件の全貌掌握が不可能にもかかわらずマイナンバーは安全だと居直り、いまだにウソの「分散管理」を撒き散らしている。マイナンバー制度は中間サーバー(自治体などが保有する個人情報と国などが持つ情報と連携させる)の拠点を東日本・西日本の全国二カ所に集約・設置し、自治体の外に個人情報を集約する。これは分散型ではなく中央集約的システム、個人情報の一元的管理だ。ここにサイバー攻撃が行われたら年金個人情報流出事件より大規模な流出事件となってしまう。どのような根拠で安全だと言えるのか。
「先輩」の米国でさえも、「米政府 四〇〇万人分の個人情報流出」事件が発生している(六月四日)。セキュリティー対策を積み重ねてきたが、現段階でも不正アクセスの犯人を特定することもできず、侵入を許しており、ついに米人事管理局から連邦政府の職員などおよそ四〇〇万人分の個人情報が流出した。米では社会保障番号を個人認証に使っているので、慢性的な個人情報流出が多発しており、本人なりすましによって税金の還付金をだましとる犯罪が増えている。オバマ政権は、、サイバー攻撃は「国家安全保障への挑戦だ」として、五月、米軍にコンピューター・ネットワーク空間の専門部隊「サイバーコマンド」を発足させてきた。だが、ほとんど防御できず、あわてふためいているのが現状だ。

個人情報管理と
民衆統制・支配


安倍首相にいたっては最悪だ。年金個人情報流出事件を知っていながら、高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(六月三日)でマイナンバーの利用範囲の拡大にむけて安倍は「健康保険証などのカード類を個人番号カードに一元化し、カード一枚で身近なサービスを受けられるワンカード化、電気・水道などの公共サービスの手続きをまとめて行えるワンストップ化を三二年をめどに実現することとし、具体化に向けた作業を加速してほしい」と述べ、民衆のプライバシーが大規模に侵害され、現在進行形であるにもかかわらず平然とこんな指示をしていたほどだ。
あげくのはてに会議では「世界最先端IT国家創造宣言」の工程表案でマイナンバーの利用範囲として「戸籍事務、旅券事務、預貯金付番、医療・介護・健康情報の管理・連携、自動車検査登録への利用拡大、国・自治体が法人に係る情報を公開する際の法人番号の併記、公的サービスや国家資格等資格証明に係るカード類と個人番号カードとの一体化を進める」ことを決める始末だ。年金個人情報流出事件に触れることもなく、ずさんなセキュリティーの実態を解明していく姿勢もなく、資本が求めるIT政策を押し進めるだけだ。こんな人権破壊政策を許してはならない。
安倍政権は大量の個人情報を一元的に支配し、治安弾圧・民衆管理のためのマイナンバー制度をただちに凍結し、中止せよ。これが最も有効な安全対策なのである。すでに年金個人情報大量の流出事件が明らかになってから、無差別に「名簿から削除してあげる」「流出情報を確認してあげる」などと不審電話がかけられる被害が出ている。今後、流出情報によって名簿化され、強引な勧誘商業に使われてしまうのが必至だ。政府は、マイナンバー実施強行をするのではなく、事件の全貌を明らかにし、被害拡大を止めることを優先して強化すべきなのである。現在、国会でマイナンバー制度(二〇一三年五月)導入に続いて、マイナンバー(共通番号)改悪と個人情報保護法改悪を一体化した改悪法案を参議院内閣委員会で審議中(五月二一日、衆院可決)だが、改悪法案を取り下げ、廃案にすべきである。
(遠山裕樹)

投書

樋上さんの思い出

S・M

  樋上徹夫さんが亡くなった。享年六〇歳。四月一二日、彦坂諦氏(文学者)の講演をメインとする「天皇のパラオ「慰霊」の旅 ?責任隠蔽儀礼を許すな! 四・一二集会 ―― 殺し殺されるということ」が韓国YMCAで行われた日だった。食道がんだったという。樋上さんは、タバコは吸わなかったようだ。
 樋上さんは、私にとっては「かけはし」読者会の司会者であった。読者会の集合場所に行くと、樋上さんはたいてい新聞を読んでいた。『樋上さんの「かけはし」にはたくさんチェックがしてあった。樋上さんは、私には難しい『かけはし』の文章を解説してくれた。私には樋上さんの話は全部は分からなかったかも知れないけれども、読者会で樋上さんの話が聞けるのを楽しみにしていた。樋上さんは、メガネを少し下げて、いつも熱く政治を語っていた。
 樋上さんは、北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)の核開発で事故がおきることを心配していた。朝鮮人民のことを心配していた。樋上さんは、「かけはし」の記事でも親北朝鮮的な記事(北朝鮮に無批判的な記事)は容赦なく批判した。樋上さんは、私の記憶が正しければ、ファン・ジャンヨプ氏が発表した北朝鮮における餓死者数は数が多すぎると言っていた。
 また、私の記憶が正しければ、藤本健二氏(キム・ジョンイル氏の元・専属料理人)の予測が当たったみたいなことを言っていた。韓国が怒っているのは、「産経新聞」よりも「夕刊フジ」に対してではないか、とも言っていた。「リムジンガン」という雑誌(北朝鮮内部からの通信、アジアプレス出版部発行・発売)を評価していた。記憶があいまいなのだけれども、北朝鮮のことを批判出来る左翼は「かけはし」派と「SENKI」派ぐらいだ、と言っていたのも樋上さんだったろうか。樋上さんは、共産主義者としてキム一族による独裁体制を批判した。そして、その批判は具体的であった。樋上さんは、私の内なる親北朝鮮的な部分を解体してくれた。

 読者会の仲間と一緒に二月にお見舞いに行った時は、樋上さんはやせてはいたけれど、元気そうだ。そう思った。二〇一二年に胃がんで亡くなる時の父と比較してそう思ったのだ。樋上さんは、お見舞いの時、テレビの録画を見せてくれた。その録画には、新左翼や「韓国の闘う労働者」などがうつっていたような気がする。玄関には、自転車が置いてあった。私は、本当はお見舞いの時樋上さんともっと話がしたかった。
今から思えば、読者会の途中でセキが出て樋上さんが先に帰った時も、樋上さんがカゼで読者会が中止になった時も、樋上さんはすでにがんだったのだろうか。私は、樋上さんにもっと生きてほしかった。樋上さんは、幸せだったかも知れない。でも、樋上さんが亡くなって、これからは、誰が「かけはし」で北朝鮮に対する革命的批判を行うのだろうか。「かけはし」の読者会は、どうなるのだろうか。心配だ。
新時代社や労働者の力社の皆さんは、メンバーの定期的な健康診断をやっていないのだろうか。もしもやっていないなら、やった方がいいのではないのではないだろうか。私は、そう思う。
(2015年5月2日)

コラム

川崎・日進町の火災

 かつて東大闘争の被告であった私は七〇年代の前半、月に一回裁判のため地方から東京地裁に通った。往復の旅費を稼ぐため、毎回裁判の後四〜五日東京でバイトをした。その一つが大井ふ頭での荷下ろし作業。ある時ボーキサイトの荷下ろしで同世代の三〜四人と知り合った。話を聞くと全員「日進町」から来ていると言う。私はその言葉の意味を全く理解できなかった。
 それが“ドヤ”の地名であることを知ったのは、再び彼らと会った数カ月後。ボーキサイトの荷下ろし作業の中心はクレーンであるが、私たちの仕事は船底の隅に残ったものをスコップでベルトコンベアーに上げる作業。衣服もマスクも真っ黄色になり、仕事が終わると風呂に直行し、コインランドリーに作業着を投げ込み、居酒屋で乾くのを待つのが日課であった。そのうち必然的に大井ふ頭のバイト期間は、私も彼らといっしょに日進町から通うようになった。
 日進町は川崎駅から鶴見川方向に七〜八〇〇メートル程行った所にあり、京浜東北線、京急線、南武線に挟まれ、ドヤとしては山谷、釜ヶ崎、寿などに比べるとかなり小さい。その上今では周囲をビルに囲まれ外からはほとんど見えない。また日進町も二〇〇〇年を境に日雇労働者が利用する“ドヤ”から、生活保護費受給者の長期滞在の場である「簡易宿泊所」に代わり、かつて知り合った人たちも日進町を離れた。
 五月一七日の早朝、その日進町で「簡易宿泊所」二棟が全焼した。死者一〇人、重軽傷者一八人の大惨事。マスコミによると二棟に住んでいた「七四人のうち七〇人が生活保護費受給者」であったという。行政は生活困窮者の生活や住宅問題を棚上げし、簡易宿泊所を住所にするように「指導」し、生活保護費を支給する形を取りながら、彼らを貧困ビジネスに売り渡しているのが現実だ。二〇〇九年に群馬県の無届け老人ホーム「たまゆら」の火災で一〇人が死亡する事故が起こったが、それも全く同じ構造である。違いは一方が「簡易宿泊所」で他方が「無届け老人ホーム」なだけである。今度の事故に対して川崎市は「三階建てに改築されたのは知らなかった」と言い、消防署は「検査報告はしたはず」と互いに責任をなすり合っている。
 聞くところでは一部屋が三畳間で一カ月六万円、テレビは一時間一〇〇円、エアコンは各階廊下に一台、ガスコンロはあっても自炊はできず三食とも弁当。風呂、トイレは共用で洗たくはコインランドリー。月一四万円弱の生活保護費のほとんどは簡易宿泊所とその周辺の貧困ビジネスに吸い取られる実態が垣間見えてくる。現役時代は低賃金と劣悪な労働条件を強いられ、現役を退くと貧困ビジネスの餌食。日進町の火災もまた、今日の日本社会の縮図だ。   (武)

 


もどる

Back