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    かけはし2015.年6月29日号

国際スポーツマフィアの体質露呈


FIFAの汚職事件について

金権と国家主義のスポーツイベントはいらない!


 はじめに

 昨年サッカー王国ブラジルでW杯が開催された。だが開催直前にブラジル全土で反対の行動が起こった。スタジアムなどの膨大な建設費がバス、地下鉄など公共料金の大幅値上げを招き、さらに教育予算の削減、都市部では住宅からの追い出しが続き、犠牲を労働者人民に押しつけたことに対する怒りの抗議であった。ナショナリズムを煽り、名実ともに南米の盟主になろうとする政府の野心が動揺した瞬間でもあった。なぜなら、次にオリンピックの開催がせまっている。また今日全面化しているギリシャの経済危機の要因の一つはオリンピック開催のために多額の国家予算が投入された結果でもある。
 多くの場合、W杯にしろオリンピックにしろ、その開催はナショナリズムや排外主義を強め支配体制の強化に利用される。他方、FIFAやIOCという国際スポーツマフィアは、今や新自由主義的政策と一体となって開催国の経済・財政を疲弊させる程の「カネ」を要求する金権体質そのものである。この結果、ナショナリズムと金権主義のバランスが崩れ、開催国では例外なく、スタジアムやスポーツ施設の維持に汲々としている。避暑地ソチで冬季五輪を行ったロシアでは、雪も氷もない施設をどうするかという問題で紛糾しているという。
 今回のFIFAの賄賂を含む組織的不正は、この巨大なスポーツマフィアが生み出した利権と一体であり、金権主義が行きついた先といえるだろう。スポーツが国家支配の道具とされ、商品と扱われる限りこれから先も何度も繰り返されるのは明白である。

米司法省がFIFAを起訴

米司法省は五月二七日、FIFAの現役副会長二人を含む一四人を賄賂などの組織的不正で起訴したと発表した。さらに米国の要請に応じてFIFAの本部があるスイス当局が七人を逮捕したと発表した。記者会見に臨んだ米国のリンチ司法長官は「彼らは何代にもわたって不正を続け、世界のサッカー界を腐敗させた」と述べた。
米司法省が提出した起訴状を見ると不正の概略と何をめぐってどのくらいのカネが動いたかが分かる。起訴状を簡単に要約してみよう。
@ 不正は一九九一年から続いている。A北南米地域で国際試合放映権を含んだ権利をめぐるスポーツ・マーケティング会社との金銭の授受。B二〇一〇年の南アW杯の開催決定をめぐって。C二〇一一年のFIFA会長選をめぐる賄賂総額一億五〇〇〇万ドル(約一八五億円)について。D起訴されたのは、FIFAの二人の副会長、FIFAなどの国際サッカー組織の元・現幹部七人、アルゼンチンと米国のマーケティング会社(マーケティング会社とはFIFAとテレビ会社の間に入って放映料を決めたり、スポンサー会社の額を決める企業)の幹部二人、ブラジルの仲介役一人。Eスイスの検察当局は二〇一八年と二二年のW杯開催地決定をめぐる不正の疑いがある書類をFIFAの本部から押収したと追加発表。
だがブラッター会長は「私個人は事件に一切かかわっていないのは事実」と発言し、米司法省の起訴発表から二日後の五月二九日、FIFA総会の会長選挙で五選を果たした。ところが選挙から四日後、「FIFAのメンバーである協会からは負託を受けたが、ファンや選手などの全世界のサッカー関係から支持されたとは感じなかった」と一転して辞任を明らかにした。さらに後任が決まるまでの間、FIFAの改革に取り組むと意向を明らかにした。一方、マスコミではブラッターが再び会長に復帰するという情報がまことしやかに流されている。
ここではFIFAの組織的不正がどのような性格なのか、会長の辞任は何を意味するのか、そして今後FIFAはどうなるのかを追ってみたい。

利権と独裁体制

 今や世界のサッカー人口はあらゆるスポーツの中で群を抜き、FIFAに加盟する協会の数は国連加盟を上回っている(加盟国は二〇九で、IOCの二〇五を上回る)。戦後FIFAを巨大な利権を生む多国籍スポーツイベント企業・スポーツマフィアに育て上げたのは、「サッカー王国」ブラジルを背景に、アジア、アフリカなどのサッカー新興国をまとめ上げ、一九七四年から二四年間も会長を務めたアベランジェであった。
ブラッター会長はスイス出身で時計メーカーの広報官から一九七五年にFIFAに入り、八一年に事務総長となりアベランジェの片腕として活躍し、一九九八年から一七年間も会長として君臨してきた。この間にFIFAの収入を一〇倍にも増大させ、アジア、アフリカに多数の各国支部を築き上げ独裁体制をつくり上げた。FIFAの報告書によると二〇一一〜二〇一四年の四年間の収入が六八〇〇億円に上り、そのうち一四年のW杯ブラジル大会にかかわる収入が五七〇〇億円となっている。その意味でFIFAはアベランジェのもとでサッカーを産業化、ブラッターのもとで巨大企業として発展させたということができる。
ブラッター会長の独裁体制を築くことを可能にしたのは次の三点だと言われている。第一は全世界にカラーテレビが普及し、さらに衛星放送の広がり、インターネットに繋がる視聴率の拡大構造を利用し、放映権と商標権を年々高く販売しFIFAの収入を増大させたことである。W杯ブラジルでは放映権と商標権の収入だけでも五〇〇〇億円にのぼる。
日本でも単独の放送局で放映権を購入することが難しくなり、二〇〇二年の日韓大会以来NHKと民放が「ジャパンコンソーシアム(JC)」をつくり一括購入し、各局ごとに試合を割り振っている。一九九八年のフランス大会の放映権料は六億円であったが、二〇一四年のブラジル大会ではJCは六〇倍強の四〇〇億円を支払っている。
第二は「ゴールプログラム」と言われるW杯で稼いだカネの再分配方式である。収入の一部を原資として女子サッカーの普及のためにカネを出したり、貧しい国のグランドを整備したりという形で各国協会を引きつけるやり方で支持を拡大した。日本でも二〇〇九年にゴールプログラムの助成金(七六〇〇万円)を受け入れて福島第一原発事故に際して、東京電力の出撃拠点となったJヴィレッジに医療施設が建設されている。このバラ撒き方式が、財源の少ないアジア、アフリカの協会を取り込む手段となり独裁体制の基盤が築かれた。
第三は、FIFAの少数独裁体制である。図(左上)を参照すると分かるように、FIFAの理事会は会長一人、筆頭副会長一人、副会長七人、理事一六人の二五人で構成され、この理事会が投票で四年に一回のW杯開催国(地)を決める。そして理事は加盟する国・地域の推薦で決まる。今回司法省に起訴されたレオス、ワーナー、ウェブ、フィゲル四被告のいずれも南米、中南米の各協会会長を兼任している。
アベランジェFIFA会長の相棒であったIOCの独裁者サマランチ会長は一九九九年五輪招致をめぐる賄賂問題で「形だけでも民主主義」的に委員を一〇一人に広げ、さらに委員に選手代表を加え、会長の定年を八〇歳から七〇歳に下げ、在任期間を最長一二年にした。しかし同じように開催国問題をめぐって不正が取り上げられ何回も危機に直面しながら、アベランジェ、ブラッターともFIFA理事二五人体制に手をつけなかったし、手をつけさせなかった。時には反対派を公然と排除した。こうして世界最大のスポーツマフィア・FIFAが維持されたのである。

開催地決定と理事会

 五月二九日の朝日新聞の社説は「…今回の事件の進展がどうであれ、FIFAは徹底的な改革が必要だ」と述べているが、他のマスメディア同様どのように改革すべきか具体的に指摘してはいない。逆にブラッターに代わる会長選出まで、ブラッターが「改革のためにチューリッヒのFIFA本部に座るなら」何も変わらないどころか次もブラッターの息のかかった人脈が会長になるだろうとヨーロッパのサッカー関係者は指摘している。
FIFAを変えるためには、FIFAを支えている政治経済基盤であるW杯を中止することが決定的に重要である。今回、米司法省が提出した起訴状とそれに関する専門家の意見を総合すると、四年に一回行われるW杯開催地の決定をめぐって賄賂などの組織的不正が集中的に現出していることは明白である。そのためには、この間のW杯開催決定過程の全貌を明らかにすることが必要である。
W杯を開催しようとする国はナショナリズムを煽り政治支配の強化をねらい、外国政府には自国政府の力と地位を認めさせようとしてFIFAに多額の賄賂を出す。また同様に、公式スポンサーとなり、商品を新たに売り込むために多くのグローバル企業が先を争う。FIFAはこれに応えるために衛星放送などを使い、これらの商品をグレードアップさせる。オリンピックでは米のNBAが放送権を一手に乗っ取り、それを各国に売るというシステムが完成している。そのため、人気のあるスポーツ競技の開催時間は米国時間の夕方に合わされ、その他の国でテレビを見る時間帯は早朝とか深夜であるのは一般的だ。しかしサッカーではNBAの放送権の独占はなされていない。今回の米司法省の動きは、NBAのFIFAに対する「やっかみ」と見る関係者もいる。
二〇一〇年の南アフリカW杯をめぐっては南ア政府から南ア開催をまとめ上げたFIFA幹部に一二億円が送られ、一時そのカネをFIFAは南ア支援金で立て替えて支払ったという金銭問題も起訴状に出ている。また当時FIFAの元理事は、「モロッコが二票差で勝っていたのに最後は南ア一四票、モロッコ一〇票と発表された」とFIFAに調査を要求したが未だ放置されていることも初めて明らかになった。
二〇一八、二二年のロシア大会、カタール大会をめぐっても多くのカネが動いたと前から言われている。その中には二人の理事に対してカタールの企業から二億円が振り込まれたとか、二人の理事が投票の見返りに多額の金銭を要求し、FIFAがこの二人の理事を資格停止にした事実も暴露されている。
このようにW杯開催が生む潤沢な利権はFIFAの二五人の理事にとどまらず、「ゴールプログラム」に体現されて各国、各地域のサッカー事業支援という形で全世界にバラ撒かれているのである。また米司法省は、こうした金銭の動きは、マネーロンダリングや不正送金という組織犯罪にも利用されている可能性があると指摘している。

日本協会も例外ではない

 事件発覚後、ブラッター会長に対して退任を迫ったのは欧州サッカー連盟とその会長であるプラチィニであった。これにイギリス政府、フランス政府が続き、ドイツのメルケルまで続いた。こうした事態の進行の中でFIFAの支援企業にも動揺が広がった。最高レベルのスポンサー「FIFAパートナー」六社(FIFAのすべての大会をサポートする企業になれるのは分野ごとに選ばれた六社だけ)の一つであるクレジットカード大手のVISAは、組織的改革がなされなければスポンサー契約を見直すと表明した。ブラッター体制を支えてきた二人の副会長らが起訴された事態を取り上げ、欧州サッカー連盟(UEFA)が「この汚職はFIFA特有の文化に根差すものだ」と反発し、スポンサーが「関係の見直し」を発表したことがブラッターの会長辞任の引き金になったのである。
FIFAの公式スポンサー代は五〇億円、一般スポンサー代一五億円で、スポンサー収入は四年間で一〇〇〇億円を超す額でFIFAの屋台骨であることは明白(ソニーは〇七〜一四年までにスポンサー代として三三〇億円を払っている。一四年業績低迷で更新せず)。スポーツイベントの収益規模でサッカーはアメフトや野球の三倍を超すと言われている。
だがこの数字は公式的なもので実際はさらに大きな額が動いている。米司法省によるとナイキはシューズやウェアなどをブラジルの代表チームに一〇年間提供する見返りに一九八億円、マーケティング費の名目で約四〇億円、計二五〇億円を支払っているという。利権の構造は、FIFA、各地域のサッカー連盟、各国協会と代表チームという形で三重・四重にもなっている。
だが注意しなければならないのは、コカ・コーラやVISAさらにドイツのスポーツ用品メーカー・アディダスという代表的スポンサーは汚職や賄賂事件のたびごとに繰り返し懸念や「再建に向けて正しい道へ歩むべき」という声明を出してきたが、一回もスポンサーを降りることはなかった。そして、事件のほとぼりがさめるとブラッター体制を支持続けてきたのである。今回EUサッカー連盟の中には、公式スポンサーの商品に対して「不買運動」をやろうと呼びかけている部分が存在する。こうした運動が世界中に広がらない限り、スポンサーの発言は形だけの一時しのぎでしかないことは明白である。
今回FIFAの会長選で、ヨルダンサッカー協会会長のアリ・ビン・フセイン王子が立候補して選挙になったが当選に必要な三分の二に達しなかったため第二次選挙となった。しかし、第二次選挙ではヨルダンのサッカー協会会長が立候補を辞退しブラッターが当選しているのだ。四年前も八年前も会長選で選挙はなく信任投票で終わっている。
今回のFIFAの組織的不正に対して日本サッカー協会は沈黙したままであり、かろうじて発言した小倉純二名誉会長でさえ「事実や罪状をはっきりさせて、早く正常な状態に戻してほしい」と言うだけである。日本協会は二〇二二年のW杯開催地に立候補したが、この時FIFAの理事に屋久杉で作られたサッカーボールと一定額の賄賂を送ったと言われている。だがカタールに圧倒的な差で敗れたことによって、それは封印された。夏の温度は四〇度を超し、W杯出場経験もない、誰も予想していなかったカタールに決定した時から今回の捜査は始まったとも言われている。沈黙している日本サッカー協会もまたFIFAの一部であり、その金権体質を引きずっているのは明白である。論より証拠、六月一九日付のスペインのスポーツ紙は「日本サッカー協会の会長であった長沼健氏が、二〇〇二年のW杯日韓大会に投票してくれた謝礼金として南米サッカー協会に一億八五〇〇万円を送った」と報じた。
W杯をやめろ! オリンピックをやめろ! 目標をここに設定しない限り、問題解決の道はないように思える。    (松原雄二)


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