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    かけはし2015.年6月29日号

銀行危機の成長が国家債務危機に


ギリシャ

債務真実委員会報告実行関連概要

債務の拒否、一時棚上げを提案

政府と議会がトロイカと全面対決


  ギリシャとトロイカの対立がますます緊迫している。その中でギリシャ議会が設立した「債務真実委員会」の予備的報告が出された。そして債務返済の拒否あるいは一時棚上げを勧告しているこの報告の概要が、二〇一五年六月一七日にCADTM――第三世界債務帳消し委員会――により発表された。本紙が読者の手元に届く時には何らかの結論が出ているかもしれないが、その意味を考える素材として、以下にその概要を紹介する。(「かけはし」編集部)

債務に対する
調査権限を付与


二〇一五年六月、ギリシャは、債権者団により強要され破綻したマクロ経済調整計画のさらなる推進か、それとも債務の連鎖を断ち切る真の変革を行うか、この分かれ道に立っている。経済調整計画が始まって五年、この国は今も経済的、社会的、環境的な危機、また民主主義の危機に深く固着されたままだ。債務のブラックボックスは閉じられたままであり、今にいたるまで、ギリシャの機関であれ国際機関であれ権威ある機関は一つとして、ギリシャがトロイカ体制になぜ、どのようにしてしたがわせられたのか、についての真実に光を当てようとはしてこなかった。債務は、その名前の下では何一つ危害を免れることのなかったそれは、それを通して新自由主義的構造調整が強要され、また平和時に欧州が経験した中ではもっとも深刻かつ最長の不況が強要されている、そうした規則であり続けている。
適切な考察を必要とする一つの広がりをもつ法的、社会的、経済的な諸問題に取り組む即刻の必要と、社会的責任がある。このためにギリシャ議会は、二〇一五年四月、「公的債務に関する真実委員会」を設立し、公的債務の創出と成長、それらが契約された方法と理由、そしてこれらの借り入れに付けられた諸条件が経済と住民に及ぼしてきた影響、に対する調査権限を与えた。真実委員会には、ギリシャ債務に関係する諸問題についての意識を、国内的にも国際的にもその双方で高める任務が、また債務取消に関する議論と選択肢をはっきり定める任務がある。
この序文的な報告で明らかにされている同委員会の探求は、ギリシャがしたがわされてきた調整計画全体が政治的に方向付けられた計画であったこと、そしてそれが今も続いているという事実に、光を投じている。マクロ経済的変数と債務諸計画を取り囲んでいる技術的な図上演習、また民衆の生活と家計に直接関係する諸々の数字が可能としてきたことは、債務をめぐる諸論争を、ギリシャに課された諸政策が債務返済能力を改善するという主張を軸に主に回転する、技術的なレベルにとどめることだった。
この報告で示されている事実は、この議論のあり方に異義を突き付けている。

ギリシャは債務を返済すべきでない


この報告でわれわれが明らかにしている証拠すべてが示していることは次のことだ。つまりギリシャにはこの債務を返済する能力がないばかりではなく、トロイカの取り決めから現れた債務はギリシャ住民の基本的人権に対する直接的な侵害であるという理由で、ギリシャはまず何よりもこの債務を返済すべきでないということだ。それゆえわれわれは、それが不法で正統性を欠き、またあくどいものであるという理由から、、ギリシャはこの債務を返済すべきでない、という結論に到達した。
ギリシャ債務の持続不可能性は国際債権者団、ギリシャ当局、さらに企業メディアには最初から明白だったということもまた、委員会の理解となった。それでもギリシャ諸機関は、EU内の他の諸政府と共に、金融諸機関を防護するという目的の下に、二〇一〇年の債務再構築に反対して共謀した。企業メディアは、住民を彼ら自身の悪行に値する者と見せる意図を込めた物語を一方で紡ぎつつ、ギリシャに利益をもたらすために財政支援が論じられていると状況を描くことで、公衆から真実を隠した。
二〇一〇年と二〇一二年の双方の計画で提供された財政支援基金は、込み入った構造を通して外部から管理され、どのような財政的自律性をも阻害してきた。財政支援マネーの使用は債権者団によって厳格に指令され、こうして、政府の現金支出には、これらの資金の一〇%以下しか割り当てられてこなかった、ということが明らかにされつつある。
この序文的報告は、公的債務に関係する諸課題と鍵を握る諸問題の第一次的精密作図を提出し、債務契約に関係する核心的な法侵害を特筆している。同時にそれは、債務返済の一方的な一時的棚上げが基礎を置くことのできる法的な基礎の輪郭をも描いている。これらの発見は、以下のように組み立てられた九つの章の中で明らかにされている。

ユーロの採用と
私的債務の膨張


第一章の、「トロイカ以前の債務」は、一九八〇年代以後のギリシャ債務の拡大を分析している。その結論は、債務膨張は過大な公共的支出に原因があるのではなく、その原因はむしろ別のことにある。というものだ。ちなみに公共的支出は、事実として他の欧州諸国のそれよりも低いままにとどまっていた。
そして問題の他の原因とは、債権者に対する極度の高利支払い、過大で正当化不可能な軍事支出、不正な資本流出による税収損失、民間銀行に貸し出された国家資金の資本組み入れ、通貨同盟それ自身にある欠陥を通して生み出された国際的不均衡、とされている。
ユーロ採用はギリシャにおける私的債務の猛烈な膨張を導いた。そしてそのことに、欧州の主要銀行とギリシャの銀行がさらされた。この銀行危機の成長がギリシャの国家債務危機に寄与した。ゲオルグ・パパンドレウ政権は、公的財政赤字と公的債務を強調し、宣伝することで、二〇〇九年、銀行危機の諸々の部分を国家債務危機として押し出すことに力を貸した。
第二章の「二〇一〇―二〇一五年期におけるギリシャ公的債務の展開」は、二〇一〇年の最初の貸し付け協定が主要に狙いとしたものは、ギリシャと他の欧州諸国の民間銀行救済、並びにこれらの銀行の存在がギリシャ政府債券所有者として露出することを低めることをこれらの銀行に可能にすることだった、と結論づけている。
第三章の「二〇一五年の債権者によるギリシャ公的債務」は、第八章でさらに分析が加えられている貸し付けの核心的な諸特性の輪郭を描きつつ、現在のギリシャ債務にはらまれた問題のある性格を明らかにしている。
第四章の「ギリシャにおける債務システム機構」は、二〇一〇年以後に実行された諸協定によって案出された諸々の仕掛けを暴露している。これらが、二者間契約債権者および欧州財政安定基金(EFSF)に対する債務実質額を生み出し、その一方で横暴に強要されたコストを諸々作り出し、様々な危機をさらに深刻化した。こうした仕組みは、借り入れられた資金の過半がどのようにして直接金融機関に移されたかを明らかにするものだ。それらは、ギリシャに利益をもたらすというよりも、金融の道具の利用を通して、私有化の進行を加速してきた。

債務返済は
人権を奪う


第五章の「持続可能性に反する賦課条件」は、貸し付け協定に付けられた押しつけ的諸条件を債権者団がどのようにして強要したか、を明らかにしている。そしてこの諸条件が、債務の持続不可能性と経済的実行不可能性に直接導いた。債権者団が今なお固執しているこれらの条件は、GDP低下に加えより高い公的借り入れに、それゆえギリシャ債務の持続不可能性をより高める公的債務/GDP比率のさらなる上昇に寄与してきただけではなく、社会の劇的変革をたくらむものでもあり、人道的危機を引き起こしてきた。ギリシャの公的債務は、現在では全面的に持続不可能と考えることが可能だ。
第六章の「『財政支援計画』の人権に及ぼす影響」は、「財政支援計画」の下で実行された諸方策は人びとの生活条件に直接に悪影響を与え、国内法、EU法、さらに国際法の下で、ギリシャとその相手が尊重し、保護し、促進するよう義務づけられている、まさにその人権を侵害したと結論づけている。全体としてのギリシャ経済および社会に強要された根底的な構造調整は、生活諸基準の急速な悪化をもたらすことになった。そして今も、社会的公正、社会的結合、民主主義、また人権と両立不可能な状態にとどまっている。
第七章の「MOU(訳注一)と貸し付け協定を取り囲む法的諸問題」は、ギリシャそれ自身の側に、同時に貸し手側に、すなわち、ギリシャに問題の諸方策を強いたユーロ圏(貸し手)諸国、EU委員会、欧州中央銀行(ECB)、そしてIMFの側に人権義務不履行があった、と結論づけている。これらすべての主体は、彼らがギリシャに遂行を義務づけた諸政策の結果としての人権侵害を評価できず、しかしまた同時に彼ら自身が、ギリシャからその主権のほとんどを実質的にはぎ取ることで、ギリシャ憲法を侵害した。
諸々の協定には、主権の重要な諸部門を明け渡すようギリシャに強いる、横暴な諸規定が含まれている。これは、これらの諸協定を支配する法としての英国法の選択、という形で強く印象づけられる。そしてこの選択がギリシャ憲法と国際的な人権義務の迂回を促進した。人権や慣習的義務との諸対立、背信の中で行動している契約当事者諸部分といういくつかの指標は、協定にはらまれた良心を欠いた性格と一体的に、これらの協定を無効なものにしている。

貸付協定には不
法な条項が存在


第八章の「正統性欠落、悪質性、不法性、持続不可能性に関する債務評価」は、委員会が採択した正統性がなく、悪どく、不法な、そして持続不可能な債務に関する定義にしたがって、ギリシャの公的債務に対する評価を提供している。
この章の結論は、ギリシャはその基本的人権義務を満たす能力を深刻にそこなうことなしには現在利子支払いができない以上、二〇一五年六月現在、ギリシャの公的債務は持続不可能、というものだ。報告はさらに各債権者に対して、不法で正統性がなくあくどい債務の指標的な事例に関する証拠を提示している。
IMFに対する債務は、その契約承認がIMF自身の規約を破り、さらにその諸条件がギリシャ憲法、国際慣習法、さらにギリシャがその一部である諸協定を侵犯している以上、不法であると見なされなければならない。それはさらに、諸条件には人権義務を犯す政策処方箋が含まれている以上、正統性をも欠いている。そして結論的に、強要された諸方策が反民主的で、実質的に社会・経済的諸権利の深刻な侵害に導くだろう、ということをIMFは分かっていた以上、これらの債務はあくどいものとなる。
ECBに対する債務は、この機関がトロイカに参加することを通してマクロ経済調整計画の適用を強要(つまり労働力市場の規制解体)することによって、その権限を踏み越えた以上、不法と見なされなければならない。有価証券市場計画(SMP)の本質的な存在理由が、欧州とギリシャの主要銀行が彼らの保有するギリシャ債券処理を可能にすることで金融諸機関の利益に奉仕することであった以上、ECBに対する債務もまた正統性がなくあくどい。
EFSFは、EU機能条約(TFEU)一二二条二項が侵犯されたが故に不法と見なされるべきキャッシュレスな貸し付けに携わっている。さらにそれらはいくつかの社会・経済的権利と市民的自由を侵犯している。その上、二〇一〇年のEFSF枠組み協定と二〇一二年の総合財政支援協定は、貸し手側のはっきりした違法行為をあらわにするいくつかの専横な条項を含んでいる。EFSFもまた、民主的原則に反して行動し、これらの特殊な債務を正統性のないもの、あくどいものにしている。
二者間契約の貸し付けは、ギリシャ憲法に規定された手続きを侵害している以上不法なものと見なされなければならない。この貸し付けは貸し手による明確な不法行為を含み、法律や公共政策に違反する諸条件を伴っている。マクロ経済計画設計の中では、人権を脇に押しのける目的でEU法と国際法双方が侵害された。
二者間契約貸し付けはその上に、それが住民の利益のためには使われず、ギリシャに対する私的債権者が単に財政投入で救出されることを可能にしただけである以上、正統性もない。最後にこの債務はあくどくもある。その理由は、貸し手の諸国家とEU委員会がその潜在的な侵犯可能性を分かっていながら、二〇一〇年と二〇一二年に、マクロ経済調整とこの貸し付けの条件であった財政強化が及ぼす人権上の影響に対する評価を避けたからだ。
私的債権者に対する債務は不法と見なされなければならない。それは、民間銀行がトロイカ登場以前、当然の精励義務を遵守できず彼ら自ら無責任な金融を指揮し、一方でヘッジファンドのようないくつかの債権者は背信的行動も行っていたからだ。民間銀行とヘッジファンドに対する債務部分は、それらが不法であることと同じ理由で正統性もない。その上ギリシャの銀行は、正統性がないまま、納税者の負担で資本注入を受けた。
そして主要な私的債権者たちは、それらの債務が住民の最良の利益に沿う形で負われたのではなく、むしろ債権者自身の利益を目的に形成されたということに自覚的であった。それゆえ民間銀行とヘッジファンドに対する債務はあくどいものとなる。

利子払いは
持続不可能


報告はいくつかの実践的な考察をもって締めくくりとしている。そうしたものとして第九章の「ギリシャの公的債務の清算と一時棚上げに向けた法的基礎」は、債務の帳消しに関する、また特に、債務返済の一時棚上げないしは清算という一方的行為に向け国際法の下で主権国家が権利を行使できる諸条件に関して、選択肢を提示している。
いくつかの法的議論は、不法な、あくどい、また正統性を欠いた債務を一方的に清算することを一国家に許容している。ギリシャの場合、そのような一方的行動は、以下のような議論を基礎にあり得ると思われる。
すなわち、ギリシャに、国内法の侵犯と人権に関する国際的な義務の侵犯に向け圧力をかけた、債権者たちの背信行為。トロイカの債権者団と前任のギリシャ政府の間で署名されたもののような諸協定を凌駕する人権の卓越性。強制。ギリシャの主権とギリシャ憲法を紛れもなく侵害している不公正な諸条件。そして最後に、その財政主権に意図的に打撃を加え、悪どく不法、かつ正統性のない債務を当然視させ、経済的自己決定権と基本的人権を侵害することを義務づける、そうした債権者たちによる不法行為に対決して対抗諸手段をとることを国際法の中で一国家に認めた権利、といった諸論拠だ。
持続不可能な債務に関する限りすべての国家は、由々しい切迫した危険によって脅かされた基本的な利益を保護する目的で、例外的な状況での必要性に訴える権利を法的に与えられている。そのような情勢において国家は、現行の貸し付け契約による事例がまさにそうであるように、危険を増大させる国際的な義務の履行を免じられると思われる。最後に諸国家は、自ら一方的に利子支払いが持続不可能になっているという支払い不能を宣言する権利をもつ。その場合に国家は何一つ悪行を行っているのではなく、したがってどのような責任も負わない。

民衆の尊厳は不法で正統性がない、悪どく持続不可能な債務より価値がある


委員会は上記のように予備的な調査を結論づけた上で、ギリシャはIMF、ECB、EU委員会によって組織され、前もって計画された一つの攻撃の犠牲者となってきた、そして今もそうだ、と考えている。この暴力的で不法かつ正統性のない、道義を欠いた特命は、私的債務を公的部門に移し替えることをもっぱらの狙いとしていた。
委員会は、この序文的報告をギリシャの当局者とギリシャ民衆に利用できるようにした上で、二〇一五年四月四日の議会議長の決定の中で明確に定められたものとしての任務について、その最初の部分を満たしたと考えている。委員会は、緊縮の破壊的論理から抜け出し、今日危険にさらされてるもののために、つまり人権、民主主義、民衆の尊厳、そして次世代の未来のために立ち上がりたいと思っている人びとに、この報告が有益なツールとなることを願っている。
ギリシャの人びとは、不公正な諸方策を強いている者どもに応えて、アテネ民衆の政体についてトゥキディデスが述べたことを連想させるかもしれない。「名称について言えば、行政執行は一握りの少数ではなく多数を向く観点をもって運営されているがゆえに、それは民主主義と呼ばれている」(トゥキディデスの「ペロポネソス戦争の歴史」からとられた演説中のペリクレスの弔辞)(訳注二)と。(「インターナショナルビューポイント」六月号)

訳注一)Memorandum of Understandingの頭文字略語で日本語では了解覚え書きとされている。契約とは異なる当事者間の決意を整理する意味合いで使われる元々はビジネス用語だが、契約の一部として効力をもつこともある曖昧さ、ある種のごまかしをも含んでいる。政府当局者間で使われる場合、法的拘束を「迂回」する効果が狙われており、要注意用語だ。本文では概要の第七章に関して英国法適用に問題があることを示唆しているが、それはこの用語の使用にも重なることかもしれない。
訳注二)ペロポネソス戦争は、古代ギリシャでアテネとスパルタ(それぞれを中心とする都市国家連合)がギリシャとエーゲ海世界の覇権を争った二七年に及ぶ戦争。その戦争の指揮官でもあった(後に失脚)トゥキディデスが残した著作が「ペロポネソス戦争の歴史」であり、同時代を扱った歴史書でありながら、客観的、中立的な名著と評され、単に「戦史」と呼ばれることもある。当時の政治家、軍人の演説多数が挿入され、ここで引用されている開戦一周年の戦没者合同追悼式に際したペリクレスの追悼演説は特に名高い。ペリクレスは時の政治家で、貴族会議の権限を奪い民主改革を断行、民主政治の完成を率いアテネの黄金時代を築いたとされている。 


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