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    かけはし2015.年7月6日号

民衆には債務の真実を知る権利がある


ギリシャ

欧州に債務会議が必要な理由

緊縮強要の支配層の嘘打ち砕け
民衆の尊厳をあらためて欧州に

エズレム・オナラン


 ギリシャ議会は、金融支援の条件としてトロイカが強要している緊縮策を受け入れるか否かの国民投票実施を決定した。この決定に対し、日本の一般紙は、非難一色の報道を行っている。しかし少なくとも、緊縮の矢面に立たされる民衆に自己決定権を認めない、というような議論に正当性はまったくない。しかもここには、いわゆる「ギリシャ救済」が本当は欧州の大銀行救済であるという「不都合な真実」が完全に隠されている。このような支配階級の言論操作と攻撃への民衆的反撃をめざす欧州での議論を紹介する。(「かけはし」編集部)

 六月二二日のもう一つのギリシャ債務サミットを経て、冬まで「引き延ばし、ふりをする」談合の兆候はいくつかある。将来の「債務軽減」に関する曖昧な話がある。とはいえそれは、欧州諸政権がどの程度の債務を帳消しにするつもりになっているか、を鮮明にするものではない。もっとも重要なことだが、見返りに彼らが課す条件とは何だろうか?

債務増大をめぐる不都合な事実


ギリシャ政府の現提案によれば、そこに再配分に関係したものを含んだ左翼緊縮といういくつかの要素はあるとしても、彼らに課されたプライマリーバランス予算黒字は、経済と社会の回復を確実にする上では高すぎる。さらなる私有化が見積もられている。最低賃金と集団交渉に関する要求は先延ばしされている。そして年金システムでの削減方式がトロイカの固執点であり続けている。
しかしたとえ談合が達成されるとしても、二〇一〇年以後の公的債務増大に関する他の不都合な事実がある。「公的債務に関する真実委員会」――ギリシャ議会議長、ゾエ・コンスタントプロウによって設立され一一カ国の専門家から構成された独立委員会――は、二〇一五年六月一八日にその予備報告を公表した。同報告は、ギリシャの債務が大きく不法であり、正統性を欠き、しかもあくどい、という証拠をいくつか提供した。
諸々の債務返済計画は明らかに誤った諸想定を基礎に置いていた。しかしながらこれは、いわば思い違いではなかった。それらの計画の持続不可能性は予測できていた。そして主要な目標は、諸銀行と私的な債権者の救出だった。同委員会の質問に答えた二〇一五年六月一五日の公聴会における、IMFに対する元ギリシャ代表のパナギオティス・ロウメリオティスの証言が特に意義深い。
IMFは、ギリシャ債務は持続不可能であり、それ自身の規則に従えば、二〇一〇年に債務再編がなされない限り貸し付け協定に同意を与えることはできなかった、ということを分かっていた。しかし欧州諸政権と諸銀行がその決定に影響力を行使したのだ。さらにパパンドレウ政権は、銀行危機の諸要素を二〇〇九年に国家債務危機として押し出すことに力を貸した。二〇一三年にIMFは、「債務再編の遅れもまた、私的債権者の露出を引き下げることに対して、また債務を公的部分に移すことに対していわば窓を提供した」と認めている。

基本的人権より銀行救出が大事


二〇一〇年の最初のメモランダム以後、私的債権者はやっとのことで、ギリシャ国家が発行した危険の高い債券という重荷を下ろすことができた。二〇一五年では、ギリシャの公的債務の八〇%は公的債権者、つまりユーロ圏メンバー一四ヵ国、EFSF(欧州財政安定基金)、IMF、ECBによって保有されている。諸々の資金の一〇%以下のみがギリシャ政府の現金支出に当てられてきたにすぎない。諸々の賦課条件は、一層の新自由主義的改革を強いた。そしてそれはそれ自体目的であったにとどまらず、それらが将来の債務返済を確実にするよう設計されている、という幻想を生み出すこともまた助けるものだった。
しかしながら賃金カットと年金カット並びに財政固定は、より低下したGDP、税収損失、そしてさらに高まった公的債務へと導いた。われわれの評価は次のことを示している。すなわち、賃金部分の下落はそれだけで、GDP四・五%分の喪失、および公的債務/GDP比率の七・八%上昇に導いた。賃金下落はそれだけで、この期間における公的債務/GDP比率上昇の四分の一以上(二七%)を説明する。メモランダムの諸条件は、債務の持続可能性に関するその目標という領分で反生産的であっただけではなく、人道的な危機の諸々を巧みに工作するものともなっていた。
EU委員会委員長のバローゾに対する二〇一〇年の顧問だったフィリップ・レグラインは、二〇一五年六月一一日、ギリシャ議会公聴会で以下のように発言した。
「EU当局者たちはなぜそれほどまで冷酷で愚かしく思われるのだろうか? その理由は彼らが、普通のギリシャ人の福祉など本当には気にかけていないからだ。彼らは、表面上は連帯を動機に、しかし実際にはフランスとドイツの銀行や投資家たちを財政投入により救出するために、カネを貸すよう欧州の納税者に強いたそのマネーを、ギリシャ政府が返済するかどうかにさえも、頭を悩ませていない。ドイツ首相のアンゲラ・メルケルや他の欧州政策策定者たちは、二〇一〇年に一つの恐るべき間違いを犯したということをまさに認めたくない。そしてそれ以来嘘をつき通してきた」。
同委員会報告は、今日ギリシャに請求されている債務は、それが住民にではなく私的債権者、特にギリシャ、ドイツ、フランスの大銀行というほんの少数に利益になるものであったという意味で、正統性を欠くということをはっきり明らかにした。
この債務は、経済的観点からだけではなく、働く権利、尊厳ある生活、社会保障、医療、教育、また居住に関する基本的人権保障の義務を満たす能力を深刻にそこなうことなしにはギリシャが今金利支払いもできない以上、人権という観点からも持続不可能だ。諸々の貸し付けは、ギリシャ憲法とEU法を侵犯して契約された。それゆえ不法なものと分類できる。貸し手たちはこの貸し付けに付けられた諸条件が基本的人権を侵害していたということを分かっていた以上、この債務はまたあくどいものと分類される可能性もある。
同報告はまた、危機以前の過剰な公的社会支出という神話にも真っ向から立ち向かっている。一九九〇年代以後の債務増大は、過剰な社会支出に原因をもつものではなかった。その支出は事実として、諸債権国の兵器産業に利益をもたらす契約に付随した詐欺の広がりを特徴とした、多すぎ正当化できない軍事支出を別とすれば、他の欧州諸国の社会支出よりも低いままにとどまっていた。公的債務増大の他の理由は、極度に高い利子、脱税と不法な資本流出を原因とした税収損失、最後に民間銀行への貸し付け金資本繰り入れだった。

借りは誰が誰に、を明るみに

 六月二一日四九人のシリザ議員が、「公的債務に関する真実委員会」報告討論のための議会全員会議を要求した(別掲参照)。談合があろうがなかろうがギリシャには今後も、先のような不都合な事実を忘れず、正義を追及する人びとがあり続ける。破壊の年月の後では、誰が誰に借りがあるのか? これはギリシャの民衆だけではなく欧州の民衆にも関係している。欧州には債務会議が必要だ。
一九五三年、ロンドン債務協定の結果としてドイツの債務の半分は帳消しにされた。金融危機の勝者は債務会議に興味は持っていない。しかし欧州の民衆には、銀行を救出するために彼らの税金が使われた、ということを知る権利がある。アイルランド、ポルトガル、スペイン、またラトビアの人びとは、彼らの政府が彼らに似たような誤った緊縮諸方策を強いた、という真実を確かめる必要がある。
勘定書は、最後には民間銀行に送られなければならない。その時までギリシャ民衆には、債務の返済を拒否する権利がある。今こそ、ギリシャ民衆が債務の意味するものについての、この拘束衣を脱ぎ捨てる選択肢が何かについての、鮮明な討論を行う時だ。ギリシャは、女性と男性に対して見苦しくない賃金を備えたまともな職、構造的な変革、持続可能な発展、若者と高齢者双方のための施策をもつ社会、これらを達成する諸政策を必要としている。こうした問題への回答は債務返済、並びにさらなる協定に付けられそうな緊縮諸政策とは両立不可能だ。

いずれにしろ銀行統制が不可欠

 一方的な債務不履行は確実に資本統制を必要とする。しかし危機を煽る大騒ぎにもかかわらず、ギリシャの人びとは、一九七〇年代後半と八〇年代の大規模な金融規制緩和まで、大半の諸国には資本統制があった、ということに注意を与えられる必要がある。ECBの脅迫に対抗するためにギリシャ政府は、国内支払いに向けてIOUs(借用証書:訳者)を導入できる。
これはユーロ圏離脱にいたるのだろうか? ユーロ圏にとどまるか離脱かは、タブーとはなり得ない。そして離脱は対立のあり得る結果ではあるが、唯一の結果でもない。
デフォルト後ECBは、ギリシャの銀行が保有する政府債券が担保物件としての機能を停止する以上、流動性供給を止めるだろう。しかしシティのウィレム・ビターによれば(注)、欧州の諸機関はギリシャの銀行に再投資する可能性があり、ECBは、諸機関が生命維持装置を止める存在となることを避けるための政治決定に到達するまで、資金供与を続ける可能性も残っている。しかしこうした取り組み方は、銀行家の展望から移行期を想定するものだ。ギリシャ政府の展望からは、もっとも重要な課題は、彼らの銀行をECBに渡すということよりむしろそれを統制下に置くことだ。
ギリシャのデフォルト後の残りの欧州に対する金融的伝染の程度は、政府債券市場の凪がECBや欧州諸政府が期待するよりも脆弱であるように見える以上、まだ今後に確認されるべきことだ。しかしギリシャのデフォルトの政治上の伝染は、人びとが脅迫よりも尊厳を選択するにしたがい、欧州の民衆が期待でき、そのために準備できるものだ。政治的伝染と金融的伝染は、いわゆる財政投入救出計画の正統性について欧州の民衆からより多くの問題が問われるにしたがい、中期的に互いに強化し合うものになるだろう。

▼筆者は、グリニッジ大学の労働力・経済開発政策教授、またギリシャの「公的債務に関する真実委員会」メンバー。以前はミドルセックス大学の経済学先任講師。二〇〇四年までは、イスタンブール工科大学に在籍。現在、第四インターナショナル英国支部のソーシャリスト・レジスタンス、並びにFIトルコ支部の出版物である「イエニヨル(新コース)」と協力している。注)フィナンシャル・タイムス紙二〇一五年六月二一日、「ギリシャに関する愚行を超える道がある」。(「インターナショナルビューポイント」二〇一五年六月号)  
【訂正】本紙前号(6月29日付)2面上から2段目右から7行目の「ためたといる」を「ためだとしている」に、同2面上から3段目右から14行目の「可能性もありる」を「可能性もありうる」に訂正、本紙6月8日付号「韓国はいま」の記事の出典「第1058号、15年4月27日」を追加。

ギリシャ

債務監査委員会報告について

議会本会議討論を要求

シリザ議員49人連署

 「公的債務に関する真実委員会」の活動結果に関連して、ギリシャ議会全体会議における討論の開始要求が出された。この要求は、二〇一五年六月一八日の同委員会公開会合から二四時間のうちに、シリザ議員四九人によって提出された。
 ギリシャ議会宛ての手紙に署名した四九人のシリザ議員は次のように宣言している。すなわち「それによれば債務の最大部分は悪どく正統性がないという、わが国の『公的債務に関する真実委員会』の予備報告の発表の後では、わが民衆は債務に責任を負うことはできない。その上に、債務は、フランスとドイツの銀行を救い出すことを目的とした、民間銀行の危機をギリシャの国民的債務の危機へと転換したことの結果である」と。
 さらにシリザ議員たちは彼らの結論の中で、次のことをはっきり示した。つまり「われわれは気付いてほしいが、提案は、わが国の『公的債務に関する真実委員会』の結果に関する討論を行い、債務の最大部分に関する帳消しを求める政府とギリシャ民衆の要求と闘いを強化する目的の下に、全体会合での討論が開始されるようにと、連署されている」と。(CADTMより)(「インターナショナルビューポイント」二〇一五年六月号)


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