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    かけはし2015.年7月20日号

刑訴法改悪反対闘争に立ち戻れ


日弁連は村越会長声明を撤回し

――冤罪被害者も強く抗議


 安倍政権は、グローバル派兵国家にむけた戦争法案の強行制定にむけて加速化しつつある。この戦争法案と一体である刑訴法改悪法案も五月、衆議院法務委員会で審議入りしており、司法取引、証拠開示・保釈、盗聴法に関する質疑、参考人意見などが行われた。質疑等は継続して行われているが、与党は七月二八日(火)以降の採決強行をねらっている。戦争法案廃案の闘いとともに刑訴法改悪法案の制定阻止にむけた国会闘争が求められている。
 刑訴法改悪法案は、@部分「可視化」(捜査員の恣意的な判断で、取調べの録画・録音を「いいとこ録り」できる)A盗聴法対象の拡大B「司法取引」(自分の罪を逃れるために他人の密告を奨励する)などを柱にしており、えん罪の大量生産、人権侵害、監視社会にむけた超反動法だ。
 こんな改悪法案に対して村越進日本弁護士連合会会長が「取調べの可視化の義務付け等を含む『刑事訴訟法等の一部を改正する法律案』の早期成立を求める会長声明」を明らかにし、「全体として刑事司法改革が確実に一歩前進するものと評価している。本法律案が、充実した審議の上、国会の総意で早期に成立することを強く希望する」などと強調する始末だ(五月二二日)。この態度は、安倍政権の「戦争ができる国づくり」攻撃に屈服し、戦争法案とセットである対テロ治安弾圧強化への加担であり、民衆の人権を防衛しぬく弁護士の基本任務の投げ捨てだ。すでに千葉県弁護士会会長の刑訴法改悪反対声明、「通信傍受法の対象犯罪拡大に反対する一八弁護士会会長共同声明」、全国の闘う弁護士、市民運動から抗議が殺到しているにもにもかかわらず、いまだに官僚的に無視し続けている。
 日弁連村越派の裏切りは、冤罪被害者の抗議の申し入れ(六月八日/別掲参照)に対しても同様に貫かれている。春名一典(日弁連事務総長)は、会長の逃亡を防衛するだけでなく、「申し入れ書では、可視化、証拠開示、通信傍受及び司法取引に関する当連合会の意見をお求めですが、当連合会が公表している会長声明のとおり御理解いただければ幸いです」などと居直ってきた(六月一六日)。冤罪被害者たちは、ともに闘ってきた日弁連の従来の主張と完璧に違うから問いただしているにもかかわらず、まともに回答しようともしない。こんな失礼な振る舞いは許されない。冤罪被害者一三人は、「村越日弁連会長 まともにまじめに回答してよ」と抗議している。
 日弁連村越派の反民衆的態度、安倍政権の戦争国家づくりをバックアップする踏込みの危険性を糾弾し、ただちに村越声明の撤回と刑訴法改悪反対の闘いに立ち戻ることを求める。その一環として「冤罪被害者からの申し入れ書」を掲載する。        (Y)

冤罪被害者からの申し入れ書 二〇一五年六月八日

日本弁護士連合会会長 村越 進 様

冤罪被害者/石田崇(痴漢事件)/川畑幸夫(志布志事件・踏み字事件)/ゴビンダ・プラサド・マイナリ(東電女性社員殺害事件)/桜井昌司(布川事件)/杉山卓男(布川事件)/菅家利和(足利事件)/袴田秀子(袴田事件家族)/藤元俊裕(志布志事件)/藤山忠(志布志事件)/藤山成子(志布志事件)/懐安義(志布志事件)/柳原浩(氷見事件)/矢田部孝司(痴漢事件)

 私たち冤罪被害者は、このたび「刑事訴訟法等の一部を改正する法律案」に対して、冤罪が増えこそすれ、減ることはない危険なものだとして、成立の反対を訴えて来ました。しかし、日本弁護士連合会は、同法案の「早期成立を求める会長声明」を出され、国会議員に対しても「早期に成立させて欲しい」としてロビー活動もされていると聞きます。
 国民の権利を守り、冤罪者を救うために活動される日本弁護士連合会が、国民の権利が侵され、冤罪の危険が増す、このような法案を成立させるために積極的に活動されますことは、私たちには信じられない思いですし、驚くばかりです。
 全事件の全面可視化を求めて活動されて来たはずの日本弁護士連合会が、なぜ取調官の裁量を含む抜け道だらけの可視化法案を飲まれて、「早期成立」などと積極的に警察や検察の思惑に乗った活動をされるのか、私たちは残念で納得できません。
 日本弁護士連合会には、ぜひとも私たち冤罪被害者の立場に立ち戻られて、冤罪の虜がなくなる修正が行われるまでは法案の成立をさせないように行動して戴きたいと願いまして、私たちの以下の疑問に対しましてお答え頂きたく申し入れ致します。

一 可視化について

 日弁連は「全事件・全過程の可視化」を求めて活動されていたはずですが、このたびの法律では、可視化されますのは裁判員裁判事件と検察独自事件のみです。
正式に裁判になる事件のうち、たった二〜三%しか可視化されない法案に賛成されたわけですが、日弁連が目標と掲げられた「全事件の可視化」については、どのように実現されようとするのでしょうか。
この「数パーセントの可視化」を手掛かりに、全事件の可視化を実現させると、「夢のような展開」を「期待」としている話を聞いたことがありますが、現に布川事件では「取調官の裁量でなされた一部可視化録音テープ」が有罪判断に強く影響しましたし、逮捕前の拘束段階で自白させられた「足利事件」もあります。これらの経験は逮捕勾留前の段階での可視化も必要と教えますし、一部しか録画されないのでは、却って冤罪作りに利用されかねない恐れも教えます。警察や検察の悪辣さを体験として知る私たちには、「取調官の裁量が利用されて可視化されない冤罪事件が続く悪夢」しか見えませんし、日弁連にある「善良な期待」には、恐怖の白日夢を見せられる思いです。
日弁連として、具体的に、何をどうして、全事件の可視化を実現する計画なのか、お聞かせください。

二 証拠開示について

 私たちは、警察による自白強要など、違法な取り調べが許されている現状こそ、冤罪が作られる原因であることを体験しています。そして、違法な取り調べの上塗りとして、検察官による「証拠隠し」が許されることが、裁判での真実解明を阻害していることも体験しています。
それゆえに、このたびの法案では、その証拠開示について、「証拠リスト開示」は実現することになりましたが、残念ながら、この「リスト開示」では証拠の中身が判りません。それに警察が持っている証拠は入っていません。依然として、警察が検察に提出しない証拠は隠され続けることになります。
この「リスト開示」を運用によって弁護活動に生かし、更に「証拠開示」を進めようという、ここにも「善良なる夢」を聞いていますが、証拠の中身が判らない中途半端な開示は、そこに真実を韜晦(とうかい)する警察と検察の悪巧みが紛れることにもなりまして、却って真実の証拠が隠されることになるのではないかとの危惧を感じます。
私たち冤罪被害者は、国費・税金で収集した証拠物を「検察官の独占物」として許してきた、長年の法曹界の常識が間違っていたと思っています。検察独占であったものに、少し風穴を開けた成果は判りますが、検察が私物であるかのように証拠を独占して来たことが社会常識に反するのです。
裁判に必要な、総ての証拠物が裁判に明らかになり、法曹三者である弁護人が検察と同じ土俵で証拠物を検討検閲できるシステムが作られるべきだ、と私たちは思っております。
検察の証拠隠しと、警察による証拠捏造が見逃されますのは、全面的な証拠開示がなされないからです。完全な証拠開示を実現するために、日弁連として、今後、どのような活動をされる方針なのか、お教えください。

三 通信傍受について

 日弁連は、前回、現行の通信傍受法が制定されますとき、反対されたはずですが、今回の法案は第三者の立会いを無くした上、傍受対象事件を飛躍的に増やすなど、大変に危険な中身です。
ご存じのように共産党の国際部長であった緒方靖夫氏宅盗聴事件を犯した警察は、国会の質問でも「警察が組織的に行った盗聴はない」などと嘯いています。このような警察に拡大した盗聴を許すならば、全国民が公安警察の盗聴対象になるなど、その被害は甚大です。日本の人権を守る存在としてある日本弁護士連合会なのに、なぜ、このような危険な法律に一括して賛成されるのか、私たちには理解できません。
この盗聴法にある危険は感じないのでしょうか。歯止めの具体策は、何になるのでしょうか。日弁連としてのご見解をお聞かせください。

四 司法取引について

 日弁連が支援されます「福井女子中学生殺人事件」はじめ、他人の密告で冤罪が捏造される事件は、これまでにもありました。先の「美濃加茂市長収賄事件」などは、その典型です。自らの刑事責任を逃れるために、他人の罪を密告する「司法取引」は、今までは隠れて行われていたものが公然化するのだから良い、という意見もあるようですが、公然と法律で認めたならば、公然と冤罪が作られます。
そもそも冤罪は警察や検察の誤った見込、思い込みから始まり、誤っても引き返せない組織的な欠陥があることで作られます。この「密告取引」が入り込みましたらば、ますます冤罪が増えることは自明です。
取引に密告する側の弁護士の立会いが書かれていますが、取調べそのものに立ち会えない弁護士が、果たして冤罪の原因である「嘘を語る司法取引」を見抜けるのでしょうか。阻止できるのでしょうか。弁護士は、ただ書面にサインするだけですから、冤罪作りに加担することにならないでしょうか。
私たちの疑問にはどのようなご回答をお持ちなのでしょうか。お聞かせください。

 この他、この法案の他の部分にも、冤罪を増やしこそすれ、減らすことにはならない問題が多くて、わたしたち冤罪被害者には、どこから考えましても賛成できません。このような法律案に賛成される日本弁護士会の方針が理解しかねております。
私たちと会う時間を設けて頂きたい願いは、会長公務の多忙で無理とのことですが、一六日、鹿児島から上京します志布志事件の川畑さん、藤山さんはじめ、冤罪被害者が、この刑事訴訟改正問題で院内集会や記者会見をする予定ですので、その一六日の記者会見前に日本弁護士連合会としてのご見解を受け取りに伺います。私たちの疑念に対しまして、日本弁護士連合会としてのご回答を、回答書として頂けますように、冤罪被害者一同の連名で申し入れさせて頂きます。

コラム

福祉の貧困

 昨年末、脳梗塞で救急搬送された八二歳の母が、二度目の転院をした。急性期病院で危険な状態を乗り越え一カ月。次の病院では、一日三時間の過酷なリハビリを半年間耐え抜いた。そして先日、老人保健施設(老健)に入所したのである。
 最初の病院の若い主治医は家族に、制度上の制約と経営的な側面から、私たちに今後の方針を問うた。地域医療を支える有名な総合病院だが、感染症対策隔離や抑制には、遠慮がなかった。特に、個室に移りミトン(抑制用手袋)を着けた数週間は最悪だった。陽が当らない暗い部屋で、入室には全身を覆う使い捨ての防護着着用を義務づけられた。まるで牢獄である。ようやく一般病室に戻る安堵もつかの間、すぐに次の病院から、受け入れの連絡が来た。
 建物こそ古いが、二四時間の救急体制があった。病院前には多い時で四台の救急車が列をなしていた。私たち兄弟姉妹は、頻繁に見舞いに訪れた。
 午後六時から七時までの時間帯。病棟は戦場さながらである。夕食を終えた患者たちが、異口同音にベッドに帰すよう求めているのだ。ところが病院側は食事直後の嚥下物逆流を恐れ、患者たちの車いすを一列に廊下に並べて監視。自力で動かせる者には、背もたれを手すりに結んでおく。
 右手の筋力が戻りつつある母は、他の患者の先頭に立って職員を呼び続けている。まるで廊下団交である。私の姿を見つけると興奮がさらに高まる。「七時までは横になれないよ」――説得空しく罵詈雑言を浴びせられる。ようやくベッドに横になると、門限までの一時間が、静かに話せるひとときである。
 病状を定期的に報告する病院側との緊張感あるやりとりも、幕を閉じた。退院の朝、院長は自ら笑顔で本人と家族を見送った。喜びも苦しみもあり過ぎた半年間。母の容態は小康を維持した。
 老健に着くと「前の病院に戻りたい」と言い出した。無理からぬ話だ。八〇余年の人生で、妊娠・出産以外、これほど長く家を空けたことがなかったのだから。
 生活苦に喘いだ高齢者が、新幹線の車中で自殺した。老老介護に疲れた家族が心中を図った。そんなニュースが流れない日はない。現行制度の枠内で健康を取り戻す者はまだいい。重症化すれば、各種制度の壁が容赦なく立ちはだかり、費用負担が家計を圧迫する。
 辛くも戦火を生き延びた高齢者に、再びの戦火が襲いかかろうとしている。それでも意識した市民たちは、その英知で闘い続けている。誰のためでもない。未来の、次世代のためにである。
 愛国心煽る東京五輪に、巨額の税金が浪費される。そんな社会の片隅で、ひっそりと息を引き取る人々がいる。この理不尽も、ベッドの脇で話してみようと思っている。 (隆)


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