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    かけはし2015.年7月27日号

生きる権利を奪うレイシズム


7.3東京・荒川で講演・学習会

ヘイトスピーチの背景とは

「現実」を避けて通ることはできない



 【東京東部】七月三日夜、
東京・荒川区の町屋文化セ
ンターで、「ヘイトスピー
チの現状と背景」(※)と
題する講演会が開かれた。
企画したのは地域で護憲運
動を続ける「平和憲法を守
る荒川の会」。同会は荒川
区民をはじめ東京東部地
域、近隣県の団体・個人で
構成するグループ。会員相
互の発案で自由にテーマを
決めて学習するほか、さま
ざまな運動団体とも連携を
とりながら活動している。
今回は第四七回を数える定
例学習会になる。
 講師として招かれたのは
宋恵淑(ソン・ヘスク)さ
ん(在日本朝鮮人人権協
会)。宋さんは日本生まれ
の在日三世。幼稚園から大
学まで朝鮮学校で学んだ
が、高校時代は都立上野高
校の通信制にも在籍した。
自身も、そして子を持つ親
としても、ヘイトスピーチ
の恐怖に日夜さらされてき
た。
 司会を同会共同代表の森
本孝子さんが務めた。最初
に、ヘイトスピーチの実態
を伝えるビデオが上映され
た。
 数本の映像が会場のスク
リーンに映し出される。東
京・新大久保コリアンタウ
ンでの在特会のヘイトデモ
は有名だが、大阪の鶴橋で
は、一四歳の女子中学生が
トラメガを握っていた。「在
日が憎くてしかたがない。
南京大虐殺ではなく、鶴橋
大虐殺を実行しますよ」な
どと扇動している。驚くべ
き光景だ。ソンさんが「背
筋が寒くなる」と繰り返す
理由がここにあった。


ソン・ヘスク
さんの講演から


ソンさんによる講演が始
まる。
二〇〇七年一月に正式に
発足した「在特会」は、排
外主義、人種差別主義集団
の代表格である。彼らの目
的は主に「朝鮮人の特権の
廃止」で、「日本人が差別
されている」と主張してい
る。その行動の特徴は、事
前にウエブサイトで攻撃を
予告し、現場では暴言・暴
行をビデオ撮影してサイト
で公開、支持を拡大すると
いうやりかたである。攻撃
対象は、在日朝鮮人とその
居住地域、朝鮮学校のみな
らず、それを支援する団体
やイベント、在日中国人が
多く住む地域、被差別部落
などにも及んでいる。
「朝鮮民族は劣等民族で
ある」「朝鮮併合は正しかっ
た」「在日クズ」「犯罪者集
団」などと叫びながら、各
地の朝鮮学校への直接の恫
喝や襲撃を繰り返してき
た。「朝鮮ばばあ、出てこ
いよ」「殺してやるから出
てこいよ」などと敵意と殺
意をむき出しにした凶悪な
言動で、在日に襲いかかっ
ている。
しかしこれら朝鮮人を
標的にした暴言や暴行は、
「けっして新しい現象では
ない」とソンさんは指摘す
る。


政府の施策が
差別を拡大した


六〇?七〇年代。国士館
高校、法政大第二高生によ
る朝鮮高校生殺傷事件が
あった。八〇?二〇〇〇年
初めにはチマチョゴリ事件
などが多発した。北朝鮮の
「テポドン騒ぎ」があった
頃だ。
民間だけではない。歴
史的には、公権力による
朝鮮学校差別があった。
一九四八年の「朝鮮学校閉
鎖令」弾圧。六五年には、
朝鮮学校を「各種学校」と
しても認めない文部省通達
があった。六八年、朝鮮学
校が美濃部都政で「各種学
校」と認められ、以後次々
と認可されていった。
ところが二〇一二年一二
月に安倍政権が発足する
と、「高校無償化排除」を
皮切りに、政府の号令で自
治体が朝鮮学校への各種補
助金などを削減・停止する
動きが続出した。
日本政府の一貫した朝鮮
人・朝鮮学校差別政策が、
日本社会に朝鮮人差別を許
すだけでなく、むしろそれ
を増長させる結果をもたら
してきたと、ソンさんは憤
る。
こうした国をあげての差
別政策を、国際社会はどう
みてきたのか。
日本も批准する国連差別
撤廃条約。締約から二〇年
目になるが、これまで三
度の審査を受けている。人
種差別撤廃委員会の所見
(二〇一〇年三月)では、
韓国朝鮮学校への集団での
暴言暴行に懸念が示され、
一四年八月の所見でも右翼
運動、右翼集団によるヘイ
トスピーチについて懸念が
表明された。かつ五項目を
あげて適切な措置を取るよ
う勧告されている。とりわ
け、「人種主義的ヘイトス
ピーチの根本原因に取り組
み、」との文言、および「朝
鮮学校」という単独項目
で、この問題の解決を促し
ている。ところが日本政府
は国際社会の忠告を、一貫
してのらりくらりと無視し
続け、逃げ続けている。
ソンさんは、在日の子供
たちを含む家族や同胞たち
が、いかに困惑や恐怖や肉
体的被害におびえているか
を、淡々と語り続けた。


在日の人びと
が抱く恐怖


ヘイトスピーチをなくす
ためにどうすればいいの
か。
安保法案をゴリ押しする
超国家主義者の安倍は、ヘ
イトスピーチについて、過
去以下のように語ってい
る。「他国の人々を中傷す
ることで、われわれが優れ
ているとの認識を持つの
は、我々を貶めること」。「一
部の国、民族を排除しよう
という言動があることは極
めて残念でありまして、そ
ういう中において、日本人
が大切にしてきた寛容、和
の精神、謙虚さを見つめ
直していくなかで、オリン
ピック招致をめざしていき
たい」(二〇一三年五月七
日衆院予算委)。
安倍は舛添要一東京都知
事との会談(二〇一四年八
月)で、こうも語っている。
「(ヘイトスピーチは)日本
の誇りを傷つける。国際
社会から見て恥ずかしい。
しっかり対処しなければな
らない」。
もっともらしい言説では
あるが、「日本の誇り」や「国
益」の視点から一般論を並
べているに過ぎず、加害者
意識はもちろん、被害者へ
の想像力、なによりも当事
者意識がまったく感じられ
ない。口先だけの弁明、釈
明の類である。


朝鮮学校襲撃
と被害の実態


在特会による一連の京都
朝鮮初級学校への襲撃事件
で、最高裁は二〇一四年
一二月(九日付)、被告・
在特会の上告を棄却し、学
校側に約一二〇〇万円の損
害賠償命令が確定した。判
決で最高裁は、在特会の行
為が人種差別撤廃条約の禁
じる「人種差別」にあたる
と認定。五人の裁判官の意
見が全員一致した。学校側
は、「画期的一歩」と評し
たが、在日の子供たち、親
たちが受けた被害実態のす
べては、メディアの報道で
は伝えきれていない。
民事訴訟が成立するに
は、「個人としての」被害
の特定が必要になる。さら
に判決の確定までには時間
がかかる、費用もかかる。
審理の過程では耐え難いほ
どの差別や暴力がフラッ
シュバックし、精神的肉体
的苦痛を追体験することに
なる。そうまでして裁判に
勝つとは限らない。司法の
反動化のなかで、むしろ負
けるリスクも少なくない。
提訴への迷いも大きかった
とソンさんは明かす。
講演後の質疑応答では、
安田浩一氏の近著『ヘイト
スピーチ』(文春新書)が
紹介されたり、荒川区議会
議員(無所属)の差別的言
動についての抗議の進め方
などが、参加者から提起さ
れた。
二〇一四年五月二二日、
民主、社民、無所属議員ら
による「人種差別撤廃基本
法を求める議員連盟」が、
「人種等を理由とする差別
の撤廃のための施策の推進
に関する法律(案)」を参
議院に提出した。この法案
の成立がヘイトスピーチ、
差別街宣をなくすための第
一歩になると期待する。し
かし早くも在特会らネット
右翼の側は、へ理屈を並べ
たてて法案への攻撃を開始
している。


ヘイト事件は
なぜ拡大する?


先日私は、インターネッ
トで改めて在特会関係の動
画を検索してみた。すると、
聞くに堪えない、正視に
耐えない、誹謗中傷、罵詈
雑言の類が氾濫している。
ターゲットは在日だけでな
く、正当な権利行使である
労働組合の情宣にも向けら
れている。
ヘイトスピーチ、ヘイト
クライムを受けたことによ
る傷の大きさは、計り知れ
ない。それがここまでまん
延するに至った根本原因は
何か。人民に多大な惨禍を
もたらした先の戦争に対す
る真摯な反省と謝罪からの
逃亡が、右翼勢力を勢いづ
かせている。精神的・肉体
的暴力の行使を許す「表現
の自由」など、この社会の
どこにも、あってはならな
いのである。総本山は安倍
自民党現政権である。ヘイ
トスピーチ、レイシズムを
一掃する粘り強い闘いが、
今こそ求められている。
(佐藤隆)


※集会の副題は「朝鮮学校
児童生徒への攻撃、国連・
人種差別撤廃委員会の反応を中心に」。

6.29 関西共同行動戦後70年連続講演会

『永続敗戦論』で問うたこと

白井聡さんが講演

 【大阪】関西共同行動主
催の連続講演会が六月二九
日、エルおおさかで開かれ、
一二〇人を超える市民が集
まった。白井聡さん(京都
精華大専任講師)が、「戦
後七〇年を問う」と題して
講演をした。
 中北龍太郎さん(関西共
同行動共同代表)が主催者
あいさつをした。安倍首相
は米国上下両院合同の議会
での演説で、危機の程度に
応じて切れ目のない対応が
できるよう、夏までに安保
法制を整備し、自衛隊と米
軍の協力関係を強化し、日
米同盟を一層堅固にするこ
とを約束した。中北さんは、
「アーミテージは、安倍は
『自衛隊が米軍の下で戦う
ことを宣誓した』といった。
ひたすら、米国に追随して
いく安倍政権に、今こそ対
抗していく闘いを明確に打
ち出す必要がある」と述べ
た。


「劣化」する政治
と私たちの責任


続いて、白井さんが講演
した。白井さんは、「現在
の憲法をいかにこの法案に
適用させていけばいいの
か」(中谷防衛相)という
立憲主義のなんたるかもわ
かっていない信じられない
発言、「ポツダム宣言を読
んでいない」という安倍
の発言、「本当は朝日、毎
日、東京新聞がつぶれて
欲しい」という百田発言、
「経団連に頼んで圧力をか
けて欲しい」と言う自民党
大西議員の発言にふれ、劣
化が現在の政治のキーワー
ドだと述べ、ここまで来た
のは国民にも責任があると
述べた。また、最近話した
知識人が、「安倍には七〇
年談話をきちんと出して欲
しい」とか、「都構想住民
投票で敗北した橋下の会見
は、さわやかだった」とい
うのを聞いて、この人たち
は何も見えていない、政治
は闘争であり、政治家には
闘争しかないのだと述べ、
講演を行った。
最後に、事務局から今後
のさまざまな運動の取り組
みが紹介され、閉会した。
(T・T)

白井聡さんの講演から

敗戦と福島原発
事故を貫くもの


『永続敗戦論』を書いて、
注目されたが、自分はレー
ニンを研究してきた(著書
に『未完のレーニン』)。政
治学・政治哲学が専門だ。
現代は、戦闘能力がある人
が少ないことに驚く。戦う
方法を身につけるべきだ。
『永続敗戦論』を書いた動
機は、鳩山由紀夫政権の退
陣劇。普天間基地問題で日
米の意志が衝突した結果、
日本が敗北したことだっ
た。衝突は、日本のメディ
白井聡さんの講演から
アと官僚が仕組んだ。敗北
した後、メディアも国民も
それを直視する代わりに、
鳩山個人の資質に関するお
喋りに終始した。
この事件が意味すること
は、日本では実質的な政権
交代は不可能だということ
だが、それを認めようとし
ない。八・一五を「敗戦の日」
ではなく「終戦の日」と記
憶しているのと同じだ、と
思った。
もうひとつの動機は、三・
一一福島第一原発事故だ。
強烈な既視感を感じた。戦
争指導層の盲目的な自己過
信と空想的な判断、裏付け
のない希望的観測、無責任
な不決断と混迷。丸山真男
はかつて言った。戦後、戦
争指導者のうち誰一人とし
て「私が戦争を始めた」と
は言わなかった。「むしろ、
自分は内心反対だったのだ
が」と全員が言う。まさに
無責任の体系だ。


システムの
自己維持運動


無責任の体系の本質は、
実質をなおざりにした「シ
ステムの自己維持」運動だ。
国体護持、原発推進体制維
持のためにだ。
福島原発事故は、もう少
し運が悪ければ日本全体が
ダメになっていたかもしれ
ない。佐藤栄佐久さん(元
福島県知事)の指摘は立派
だ。「公益を定義するのは
国家の側であり、国家の役
人がやっていることは公益
に則することであり、民間
の人間がこれに異を唱える
ことは公益に反する」(高
木仁三郎の「原発事故はな
ぜくりかえすのか」に出て
くる役人の言葉)。
二つの出来事から見えて
きた「戦後の核心」は、「敗
戦の否認」だ。日本が戦争
に負けていないのであれ
ば、戦争を始めたことの責
任を誰もとる必要はない。
そのようにして、負けたこ
とを認めずに延々と負け続
ける、つまり、永続敗戦。

米国は、旧支配層を免責
し、登用することで彼らを
カイライ勢力として活用し
た。つまり、日本の属国化
だ。冷戦が始まり、旧支配
勢力の再登板により、日本
を反共の砦にするという日
米合作のプロジェクトが起
動していいく。日本人の多
くにとって、敗戦の写真は、
人々が玉音放送を聞く場面
と、米艦ミズーリ号上での
降伏文書の調印のどちらだ
ろうか。
おそらく前者だ。なぜか、
玉音放送の方には敵が写っ
ていないからだ。そのうち
に、高度成長で日本が経済
大国になり、人々の意識の
中で敗戦は帳消しになっ
た。「敗戦の否認」を可能
にした要素としては、本土
決戦の回避と国体護持、寛
大な賠償と速やかな経済復
興(日本には豊かになって
もらう必要がある、と米
国)、冷戦の最前線でなかっ
たゆえの議会制民主主義の
外観が保てたこと、沖縄の
要塞化(暴力としての米国
のイメージは本土では見え
ず)だった。
永続敗戦レジームには、
対米従属とアジア諸国への
高姿勢の二面性があり、対米従属と東アジアでの孤立
の循環構造がある。このこ
とは安倍の米国議会での演
説によく現れている。彼は、
パールハーバーやバターン
には言及したが、広島・長
崎にはふれなかった。本気
に敗戦を否認するなら、サ
ンフランシスコ条約を否定
し、ポツダム宣言、東京裁
判も否定しなければいけ
ない。永続敗戦レジーム
を可能にした冷戦構造は
一九九〇年頃には消滅し
た。日米関係を根本的に変
化させるような状況に、永
続敗戦レジームは適応でき
ない。
安倍政権は何をやってい
るのか。戦後レジームから
の脱却ではなく、永続敗戦
レジームの純化による死守
だ。そして、戦争する国に
なる。ボクは戦争したい!。
対外的には歴史修正主義、
対内的には占領政策の否定
だが、最大の否認は、福島
原発事故の支援を切り捨て
て、東京五輪の方へ行くこ
とだ。米国への隷属による
不満の代償として、戦後憲
法を憎悪する(「みっとも
ない憲法ですよ」と安倍)。
戦後レジームの基本構造を
理解できない。
軍事的拡大をめざせばめ
ざすほど、独立性を失い隷
属化する。しかし安倍に
は、軍事力を持つ国は立派
な国、というように考える
幼児性がある。安倍には、
深いコンプレックスがある
のではないか。不思議なの
は、父親の安倍晋太郎の話
をまったくしないこと。多
分、晋三から見れば、晋太
郎という政治家は男らしく
ない。祖父は本物の男だっ
た。だからそれを受け継い
でいく。
しかし一方、永続敗戦レ
ジームの支配者たちにはジ
レンマがある。親米保守派
は、対中脅威論を煽るしか
ないが、対中開戦など米国
が許さない。ジャパン・ハ
ンドラー(例えば、アーミ
テージ)にとっては、親米
保守派を支援するしかない
が、対中開戦は許容できな
い。でも、武器は売りたい。


勇気の連帯が
現実変える鍵


永続敗戦レジームは追い
詰められている。改憲から
戦争へではなく、戦争から
改憲へ、そして、永続敗戦
レジームの維持手段として
の戦争。そして矛盾は極点
に達していく。アメリカと
の約束と日本国憲法とどち
らが大事なのか。
永続敗戦レジームの外部
としての沖縄は、異議申し
立てをしている。沖縄は外
部にいるから日本のことが
よくわかる。「『戦後レジー
ムからの脱却』とよく言っ
ておりますが、沖縄に関し
ては、『戦後レジームの死
守』をしていると、私は思っ
ています。沖縄の基地問題
なくして、日本を取り戻す
ことはできません」(翁長
沖縄県知事の発言)。沖縄
は、暴力としての米国と直
接的に対峙してきたが、本
土では暴力としての米国と
文化としての米国の二面性
が隠されてきた。現在、安
倍政権は戦後の総決算を強
行しようとしているが、こ
こ二、三カ月の闘いがきわ
めて重要だ。六月二〇日に
京都で行われたシールズの
デモに参加した一九歳の女
学生の言葉、「権力に逆ら
うことは勇気がいる。就職
や世間体が気になって、今
すぐ逃げ出してしまいたい
衝動に駆られる」について、
感想を述べて終わりたい。
なんと生ぬるいことを言っ
ているのかと初めは思っ
た。でもよく考えてみると、
この女学生は自分が恐れて
いるものが何かを知ってい
る。今の世の中は閉塞感で
いっぱいで、しかも社会の
支配層は劣化している。こ
の世の中では、政治的見解
を持っているだけで忌避さ
れる。こんな世の中にした
のはオッサンの大人たちだ
が、その大人は臆病で自分
が何を恐れているのかを見
ないから、言うことがピン
ト外れだ。女学生のいうよ
うに、勇気の連帯がカギで
はないか。      
(講演要旨、文責編集部)


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