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    かけはし2015.年8月10日号

大衆的決起こそが偉大な変革を導いた


米国

活性化進む民衆の自立的決起の独自的政治表現への挑戦を

アゲンスト・ザ・カレント


 来年一一月の大統領選に向け、米国での長い予備選騒動が始まろうとしている。この中で民主党では、ヒラリーの対抗馬として、自称社会主義者のバーニー・サンダースが名乗りを上げ、労働組合運動や市民運動の活動家の間に一定の熱気を呼び起こしている。以下の論考では、就任時に人々に抱かせた希望とは裏腹のオバマ大統領の行きづまりを分析した上で、サンダース現象の米政治変革に果す袋小路的機能を冷徹に確認しつつ、現に発展しつつある独立した大衆的決起を政治的に表現できるあり方の探求に徹底して挑戦することが呼びかけられている。(「かけはし」編集部)


 共和党大統領候補者名簿は急激に拡大しそうに見えるが、民主党側――戴冠か名ばかりの競争かを待っている一人の候補者を抱える――では、長らく「独立の民主的社会主義者」と認められてきたバーモント州の上院議員、バーニー・サンダースが五月、レースに参入した(議員本人は無所属だが、民主党予備選に立候補:訳者)。
 われわれは以下で、サンダースの立候補が左翼及び自立的政治行動の主張者に対して、どのような意味をもつ可能性があるのか、を論じたい。バラク・オバマの大統領期が、まさに多くの彼の支持者にまったくの幻滅を与えつつ、その最後に向けてきしみを見せている中、先のことは米国政治において一定数の逆説を構成するものの一つなのだ。そして、不快で野卑な長期にわたる二〇一五―二〇一六年の選挙サイクルが始動するにつれ、内的に相互に結びついた多層的危機が、欧州、世界経済、また国際的な国家システムと並んで、国内政治をも揺さぶりつつある。

オバマ大統領期の数々の逆説

 たとえばまず、オバマ大統領のもっとも急を要する外交政策を邪魔するためにベンジャミン・ネタニヤフを米国議会に連れ出したその同じ共和党が、イランとのまだ決着を見ていない核交渉を難破させようとの試みを続けている。それでもオバマは同時に、環太平洋パートナーシップ(TPP)として知られる最新の企業によるグローバルな「自由貿易」攻撃に反対する彼自身の党の公然たる反乱をひっくり返すために、共和党の投票に頼っている。
これが「二大政党制」なのだ。われわれは、われわれの停滞の後退を喜ぶことができるだろうか(この号が印刷に回されている時点で、ファストトラック権限付与〈貿易交渉の一括合意権限を大統領に与えること、これが与えられると議会は合意の個別的修正はできず、一括でのイエスかノーを票決しなければならない:訳者〉の最初の敗北を経た、別の投票に向けたいくつかの策謀は決着がついていない)。
第二の逆説だが、最初のアフリカ系米国人大統領の、また同じく黒人司法長官の執政の六年、非武装の黒人市民に対する警官による殺人がほとんど週を単位に起きている。投票権法から五〇年経って、共和党支配の州議会は、「二〇一六年選挙の大窃盗」ゲームに帰着する様々な有権者抑圧法を広げてきた。このすべては、その期間を通してアフリカ系米国人とラティーノの経済資源がすっかり破壊されることになった大恐慌を背景として起きている。
さらに、まさに数多くの環境活動家の希望を取り込み、気候変動の脅威に取り組むとのまさに多くの約束を行ったオバマ大統領は、米国の化石燃料採掘では歴史的な拡張を指揮している。彼は、北極圏原油採掘に道を開くことによって、彼の環境に関する遺産を、ジョージ・W・ブッシュよりも悪いものとして固めてしまったも同然だ。
燃料効率、炭素排出、また再生可能エネルギー資源に関するオバマの規制は今後の政権によって簡単に逆転可能なものだが、北極圏の略奪と破壊は、歴史的な尺度で永続的なものとなろう。「米国のエネルギー安全保障と指導性」を名目として、採掘は大量の規模で雨後の竹の子のようにはびこってきた。それは、キーストーンXLパイプライン(カナダ西部のオイルサンド抽出原油などを米国のメキシコ湾岸製油地帯まで送る長大なパイプライン、現地住民や先住民による激しい抵抗が続いている:訳者)がもたらすシナリオすら小さいものに見せるほどだ。
第四の逆説例だが、米国の有権者が選出し、戦争を終わりにするとの約束によってノーベル平和賞の光栄に浴した大統領が今、シリアとイラクの泥沼に深く足を取られ、大量の市民の死傷者がでていることを認めることなく、イエメンからパキスタンまでドローン攻撃に乗り出した。
現在オバマ政権は、ISとの戦闘に対する全体的な戦略はまだないと公然と認めつつ、「アルジェリア、エジプト、レバノン、リビア、チュニジア、イエメンのような諸国民に対する戦争の拡張に権限を与える方策に議会の支持を確保しようと試みつつある」。
第五の逆説例だが、これは本当のところ逆説とは言えない。オバマの大統領期が約束したあらゆる「希望と変革」の後に、法に関しても民衆意識に関しても、何らかの本物の進歩――限界はあるが重要な――が生じた。直接行動を含んだ、政権の願いとは無関係に、あるいは時にそれに反抗して、自立的に行動する社会的高揚を通してだ。これらの高揚の中でもっとも目立つものものはもちろん、LGBT、移民活動家、そして「黒人の命も大事」諸運動だ。
われわれは、これを「本当ではない」逆説という。事実として、前向きの変化は常に、「投票箱の外で」、指定された日の一般に受け入れられた「現実主義的」政治的知恵から離れて行動し考える、この双方に対し準備のできた諸闘争の道によってもたらされてきた。
それこそが、一九世紀に奴隷制がいかに終わったか、二〇世紀にジム・クローの隔離(米国南部に制度化されていた、アフリカ系米国人に対する差別と権利否認の米国版アパルトヘイト:訳者)がいかに打ち破られたか、第二次世界大戦中、またその前後に、偉大な高揚の中で労働組合の諸権利がいかに勝ち取られたか、さらにベトナム戦争推進のために民主党が語った冷戦的嘘が六〇年代にいかにして信用を失ったか、を説明するものだ。

企業支配受け入れが逆説の根源


実は、他の逆説のあとにもまた、「しかし本当はそうではない」と書き加えることができるだろう。それがTPPや化石燃料産業の問題であれば、オバマ大統領は単に、常に彼が語っていた者、つまり親企業の中道派民主党員、であることを証明したにすぎない。そここそが、オバマの大統領期に関するまじめな分析の出発点となるところだ。
同じ議論が、他の明らかな―しかし―本当―ではない、逆説にも適用できる。つまり、崩壊を阻止するには十分だったが力強い回復には不十分だった二〇〇九―二〇一〇年の経済刺激策、「大きすぎてつぶせない」銀行をかつて以上にさらに大きく肥えさせ、より危険なものにした弱々しい金融再規制、私企業の保険業を豊かにし、米国人が必要としまた欲している普遍的な医療保険には痛ましいほどに届かない「手頃なケア法」(この国ではオバマ以前時点で五〇〇〇万人近くの人々が保険に入っていなかったというぞっとするような事実を前提とすれば、このケア法もおよそ一六四〇万人を保険対象としたという点で、一定の改善となった)、などだ。
これらの問題すべてにおいてこの大統領は、「一%」の富がそこから来る企業の米国の特権、利潤、権力を踏みつけることなく、「論理的に意味をなす」改革を追い求めた。もちろん共和党は、そんなものを受け付けなかった。オバマは民主党の下院多数に恵まれたが、共和党は彼らが支配可能となるようその破滅に向け活動した。
共和党はいったん多数派となると、喜んで事実上の企業の満場一致があるTPPを支援しつつ、彼らの見境のない強硬右翼の政策課題を推進中であり、またオバマを、ジョージ・W・ブッシュがつくり出した中東の破局の広がりに戻りたいと彼が思っている以上にもっと押しやっている。彼らは、レーニンが異なった文脈で表現したように、「つり下がった人間を一本の綱が支えているように」、この大統領を今支えている。
オバマの綱領の収支決算は、一つの最高裁判決が出るまでは未決のままに残っている。それは、連邦政府管理の取引所を通して低所得の人びとが保険を買うことに対し税金から助成することに対する攻撃に関する判決であり、右翼が支配する諸州はその助成創出を拒否してきたのだ。これはあらゆる側面で条理を欠いた事例だ。そこでは助成廃止がオバマケアを破局に投げ込むと思われるが、保険業界をも崩壊させ、何百万人というもっとも脆弱な民衆の医療保険を直接脅かすのだ。これはもちろん、右翼が上機嫌でこれを推進している理由だ。
この件は、法的論理と企業論理であってさえ、一笑に付されて良いと指示しているはずのものだが、現在の最高裁の奇っ怪な形勢の中では、あらゆる兆候によって、判決は僅差で決定され、政治的に影響を受けた決定となるだろう。逆説的なことだが、オバマケアを効果的に解体する判決は、結局共和党には期待に反する結果で終わるかもしれない。彼らは、「苦境」を持ち出したというほとんど信じがたい立場に置かれることになるだろう。
人種的不平等、抑圧、警察の残忍さ、死を呼ぶ暴力をめぐるもっと爆発的な諸課題をめぐってさえ、取り組みに対する優柔不断さというオバマ大統領の実績は、本誌上で繰り返し論じられてきた。これは、選挙に関わる日和見主義という問題だけではなく、より本質的には、戦闘的な要求と大衆行動の代わりにエリートに橋をかける方法を使おうとする彼の核心をなす政策の問題でもあった。
その結果は全面的にまたも明白だ。白人優越主義の公然とした教義は姿をくらました。そして最高裁首席判事は、黒人大統領の選出は投票権法が時代遅れになっていることをはっきり示している、と公言している。その一方で、大量投獄の異常発生、警察の野蛮さ、経済回復期であってさえ進む不平等の成長、さらに米国主要都市における公教育破壊――オバマ自身の教育省と教育を収益源としている悪徳な者たちにより共同で練り上げられた、そしてこれも「二大政党制」のもう一つの毒を含んだ成果――のすべては、バラク・オバマの大統領期における人種と階級の諸々の現実を示している。
それこそがまさしく、「黒人の命も大事」運動が爆発した理由であり、この運動が、オバマのホワイトハウスがあれやこれやで語ることにほとんど注意を向けない理由だ。
このすべては、オバマが意図したかもしれないことという問題ではまったくない。それは、企業の資本家的課題設定の基本的指令を受け入れることから出てくる問題なのだ。

サンダースは民主党を変えない

 われわれはここでの目的に沿って民主党予備選と特にバーニー・サンダースが予示するかもしれないものに焦点を絞るために、共和党の示す恐ろしい絵柄は脇に置くだろう。
さて、一〇万人の人びとがサンダースに一晩で一五〇万ドルもオンライン寄付をしたという事実は、民主党のエリート並びに全体としての政治情勢に対する彼らの姿勢に関し何ごとかを語っている。労働運動のいくつかの部門には、あり得る最初の機会にヒラリーを承認するために走るよりも、むしろバーニー支援を支持する感情があるのかもしれない。
銀行や保険会社や製薬企業の盗人たちに対するサンダースの鋭いポピュリズム的批判は、正当な称賛に値し、純粋な興奮を生み出すだろう。そして、大金による支配と票の利用に対する制限的な諸法律は、数多くの人に、サンダース自身と同様、民主党予備選に参加する以外に、「実際的なオルタナティブはまったくない」と論じさせている。
しかし、何らかの理由でヒラリー・クリントンが大統領候補指名者とはならないことがあるとしても、それは、彼女がサンダースに負けたから、ということではないだろう。
進歩的で自立した政治行動を支持する左翼のわれわれは、特に、自立した政治行動に対するサンダースの印象的な貢献、並びに「自由貿易」という詐欺から普遍的な医療保険にいたる数多くの課題に関する彼の立場を評価しそれに敬意をもっている私は、このいずれに関しても一切の幻想をもつべきではない。結論的に、バーニー・サンダースが指名を勝ち取るチャンスはなく、予備選が終われば彼が彼の支持者に民主党名簿支持で全力をあげた活動を行うよう呼びかけることも、一〇〇%確実だ。
政治のもう一つの逆説は、民主党予備選へのサンダースの参入が民主党の何らかの「始まり」、ないしはこの党の分裂を表すものではない、ということだ。それとは逆にサンダースは、この党の諸部分の並びにおけるリベラルの終端にできた真空を埋めつつあり、党指導部が距離を置く十分な左翼にいる支持者を引きつけている。彼のキャンペーンをめぐる即座の民衆的高まりはこのことを確証している。
エリザベス・ウォーレン(マサチューセッツ州選出の民主党上院議員、消費者保護論者:訳者)はヒラリーの対立候補者とはならないだろう。黒人の指導部、およびほとんどの労働運動役職者は、「自由貿易」、「反テロ・効果的死刑法」(クリントン大統領時代の一九九六年に制定された、大量破壊兵器を使用するテロへの対応能力向上を名目としている:訳者)あるいはその他に関するクリントンの実績に対しては、公的な批判をまったく行っていない。TPPに関するオバマ大統領のファストトラックに反対した議会民主党の反乱者たちの多くは、この国を通貨操作に押しやるいくつかの傍線的立法――それらは、この種の「自由貿易」が労働者、環境基準、また社会的保護をあらゆる諸国の中で最低に押しやる一方で、企業権力をどれほど塹壕で囲い込むか、という基礎的実体とは何の関係もない――の中で、すぐさま消散する可能性がある。

自立政治への道は挑戦継続から


サンダースのキャンペーンのもつ波及力とはどのようなものだろうか? サンダースのメッセージに対する民衆的歓迎は、党のキャンペーンの言い回しに圧力をかけ、ヒラリー・クリントンのそれをも僅か左に寄せることもありそうに見える。しかしこれは、党の真実の綱領を変えるわけではまったくなく、結局は何の意味ももたないだろう。
クリントン自身は五月に、不法移民の若者と家族を国外追放から守ることに関し、一定の悪くない線を語り始めていた。この問題ではクリントンは、何ほどかサンダースの左に立っているとすら言えるかもしれない。サンダースは、それについて言うべきことをもっているとしても、これまで多くを語ったことはなかったのだ。しかし、クリントンがこれや別の何かについて語っていることを実際に意図していると想像するとすれば、それは、ここまでの多年すばらしい証拠などほとんどなかったという意味で、一つの憶測にすぎない。
結局サンダースは、民主党大会で演説する時間枠を獲得するに値することを十分にやるかもしれない。その獲得は、彼の支持基盤に指名者の後ろで「団結する」よう説くことを目的としたものだ。そしてそれこそかつてと同様袋小路なのだ。
この点での決定的な問題はかなりの程度で、本当の自立的な政治にとって実行可能な表現があるのかどうか、それは一つの政党形成か、それとも幅広い連合か、というものになるのかもしれない。必要なものは、共同する二党制のワナから数千、数万の活動家を引き離すことのできる、人種と民族の抑圧、大量投獄、移民の権利、「一五ドルのための戦闘」、環境的惨害と終わりなき戦争との衝突、をめぐる高まる民衆的反乱を――労働者の伝統的な経済諸課題と共に――取り込んだ一つの勢力だ。
それを行うことは可能だろうか? それは、二〇一
六年中は幾分は眠り込むとしても、それが最終的に終わったあとでは目覚めることを期待して、オルタナティブな勢力が確実に他の選択肢を打ち負かすという発展に向け挑戦する、という以外には解答のない問題だ。

注)アゲンスト・ザ・カレント誌七・八月号に向けたこの編集部声明は、オバマケアと同性婚に関する最高裁判決、並びにTPP交渉に対しファストトラック権限付与に対する議会承認以前に、印刷所に送られた。(「インターナショナルビューポイント」二〇一五年七月号)
訳注)本論文中で言及された最高裁判決は、六月二五日に出されたが、オバマケアに対する助成金支出を合法とするものだった(六対三)。また翌日、同性婚を認める判決も出された。



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