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    かけはし2015.年8月10日号

政府の対処診断は受動、消極、縮小志向


「MERS情報非公開決定、誰がやったのか」

予防医学選考医師出身キム・ヨンイク議員に聞く


  彼は中東呼吸器症候群(MERS)の事態が繰り広げられた1カ月余の間、政府の対応を「あたふた」という言葉で要約した。かけがえのない命を1人、2人と次々に奪っていった感染病を前にして、政府の態度は「受動、消極、縮小志向、事後対策」のレベルだったと語った。「垣根(防疫網)を大きく作って、積極的に対応」しなければならないのに、どうしたことか政府は正反対に振る舞ったというのだ。
 キム・ヨンイク新政治民主連合議員は国会MERS対策特別委員会の野党幹事だ。MERSによる「無防備襲撃」は当然だったというのが予防医学専攻医師出身の彼の診断だ。6月18日、ソウル汝矣島の国会議員会館で会った彼は「この3年間、事前の備えが全くなかったのだから突然、被害に遭うほかはない。政府は実に無能だった」と語った。
 世界保健機構(WHO)は2012年、サウジアラビアで最初に発生したMERSを同年、新種の感染病に指定し、各国に注意を促した。けれども、わが政府は3年間、MERSという病名を法定伝染病として明確に指定しなかった。彼は、感染病に対処する公共病院が少なかったことも事態を悪化させたと考えた。

中東から韓国に来る人は2万6千人

 このような事態が膨らんだ出発点を2012年だと見ているのか。

 そうだ。3年間、MERSについての研究を全くしなかった。政府は、その豊かな研究報告書の何一つとて出さなかった。(MERS発生国に)調査のための出張も送り出さなかった。MERSについての治療経験がある中東やヨーロッパの学者を招いてセミナーをやるということも一度もなかったのだから、今さら政府が何をかいわんや、だ。

 政府はMERSを法定伝染病目録に上げなかったが、「感染病の予防および管理に関する法律」(感染病予防法)の施行規則において定めた「4群感染病」の中の1つである「新規感染病症候群」にMERSが包括的に属している、と語る。

 話にもならないことだ。MERS発生後、3年が過ぎた。MERSを(感染病のうちの1つとして)補充する考えを持たず、3年の歳月を送った。MERSが発生した中東は我々と交流のない所なのか。中東の国籍で韓国に来ている人々も年間、2万6千人に及ぶ。だから6月17日に感染病予防法の改正案を代表発議した。国内に流入しかねない新種の伝染病を「管理対策の海外新種感染病」として別途指定し、前もって研究し準備・教育・訓練することを義務化する内容の改正案だ。

 大統領が最近、MERS患者が多く発生したサムスン・ソウル病院の院長を呼んで叱ったそうだ。小学校を訪れMERSを「中東型のインフルエンザ」と表現したことをめぐって、安逸な認識だとの批判もある。どう考えるか。

 ショーをやるのではなく実質的な措置を取ればよかったものを。危機警報のレベルを(関心段階から)上向きの調整をしていない。これは大統領が決断したことだ。現在、保健公務員、医療陣は疲れはてている。警報の等級を上げなければ新たな人力をさらに投入することはできない。伝染病との闘いにおいて新たな兵力を補充してやり、疲れきった兵力を休ませなければならない。何がなんでも「孫子の兵法」を読まなければ、こんなともできないのか。

 国会MERS対策特委の目標は何か。

 まず、対応失敗の真相を明らかにすることだ。MERS関連の情報を公開しないようにする決定は誰が下したのだろうか。疾病管理本部諮問委員(感染関連の教授・医師など)らが、公開するなと言ったわけがない。そうではなかったというそれなりの証拠も持っている。保健福祉部もそうではなかっただろうと思う。これまでSARS、新種インフルエンザ、家畜伝染病の時には情報を隠したことはない。福祉部にも予防医学を学んだ専門家らがいるが、隠せば被害が拡大するということを知っている。それなのに隠そうとした。では、それはどこなのだろうか。それを究明しなければならない。再びこのようなことが繰り広げられないように法や制度を整備しなければならない。

400病床規模クラスの公共病院を

 民間病院がMERS伝播の震源地となり、対応を誤った。公共病院拡大の必要性が再び提起されている。

 MERSの最前線に配置された部隊は病院だ。医療陣は、その前線の戦士たちだ。ところでMERS患者が1人来れば今、その病院は潰れるようになった。政府は(病院休診などに対して)損失補償も約束していない。常識的にいって民間病院がMERSに対して熱心に診療することができるだろうか。病院をまるごと空けなければならないのはサムスン・ソウル病院だけれども、民間病院は(収益を出さなければならず)そうすることはできない。6月17日に出した感染症予防法改正案に以下のような内容(公共病院の拡大)を盛り込んだ。一挙にすべてを建てることはできないので、まずいくつかずつを作っていくのだ。このような公共病院だけが感染病専門の人材と感染病施設(陰圧病床・診断整備など)を備えることができるだけではなく、感染病に備えた訓練までをも平時に実施することができる。

(キム議員は)公共病院の拡大を長い間、主張してきた。けれども依然として韓国は経済開発協力機構(OECD)加盟国の中で公共病院の病床数が最下位だ。なぜそうなのだろうか。

 OECD加盟諸国の公共病院の平均比率は40〜70%だ。(9%にすぎない)韓国は公共病院を無視する。医療は民間病院が担当し、公共医療は補助機能を果たすべきだというのがパク・チョンヒ時代からの医療に対する支配的流れだった。(公共病院である)地方医療院の中で良くなった所ができたにもかかわらず、市民らは「公共病院は実力が劣る、貧しい人々だけが行く、官僚的な感じがする」と認識している。政界も公共病院の拡大を論じることを避けてきた。新政治民主連合の議員たちも、これまでためらってきたというのが事実だ。

 なぜ、ためらったのだろうか。

 公共性の拡張を話すと、韓国社会では社会主義の主張として烙印づけられるというのがピッタリではないのか。その上、(野党の議員たちでさえ)公共病院に対する信頼がなかったのだ。

 ノ・ムヒョン元大統領は公共医療の供給を全体の30%にまで増やすという大選(大統領選挙)での公約を提示した。2005年から09年まで4兆5千億ウォンを公共医療に投資する政策を05年に発表したりもした。(キム議員は)参与政府(ノ・ムヒョン政府)において青瓦台の社会政策首席を務めたが、当時の公共医療拡大政策が成果を挙げられなかった理由は何か。

 その公約は私が参加して作ったものだった。公共病院を30%まで増やすことに対する政治的意志が足りない部分があった。(何よりも)公共病院が必要だという社会的合意や流れが形成されないまま公約を掲げたことが、どれほどむなしいかを感じた。

公共病院30%、世論の形成できなかったが


イ・ミョンバク、パク・クネ政府はどうか。

 両政府は公共医療を進める考えはなかった。むしろ反対に医療の営利化に向かった。企画財政部(省)も公共医療にカネを出さないようにする。民間病院があるのに、なんで政府がそんなことをするのか、と。

 MERS事態悪化の1つの軸である公共医療の不実に、政治に関わる人々の責任はないのだろうか。
議員たちも(2013年に)ホン・ジュンピョ慶尚南道知事が晋州医療院を閉鎖したのをきっかけに公共病院への関心を持つようになった。それまでは公共病院に対する国会の論議は、ほとんどなかった。MERSの事態のゆえに、公共病院が必要だという世論が国民、政治圏、メディア、さらには民間病院の医師たちの間でも相当に高まっており、今回は私も(公共病院拡大の)試図を再び挑戦しようと思う。

 最近、セヌリ党所属のチョン・ウィファ国会議長が与野党議員らに携帯のメールを送った。「公共医療機関の確保と財政の支援が必要だ」という趣旨の内容だ。民間病院の院長経験者であるチョン議長もMERSの事態を経験している今が公共病院拡大のための好機であり、「急がれるべき時期」だと考えたのだ。(「ハンギョレ21」第1067号、15年6月29日付、ソン・ホジン記者)

頭を下げて手にした遠隔診療

サムスンの新事業と今回の特
恵はなぜ結びついているのか


サムスン・ソウル病院のためのさらなる「特恵」なのか、それともサムスン・ソウル病院の患者たちだけのための「親切な配慮」なのか。
保健福祉部(省)は中東呼吸器症候群(MERS)のために部分閉鎖されたサムスン・ソウル病院の患者たちに、医師の電話による診療や処方を許容すると6月18日に発表した。外来診療を受けたことのある再診患者の場合、担当医師に電話をかけて診察を受けた後、患者が決めた薬局に処方せんをファクスで送り、薬を受け取ることができるようにした。一種の「遠隔診療」だ。

遠隔診療の推進エネルギーとなった
現在試行中の医療法において医師―患者間の遠隔診療は禁止されている。医師・歯科医師・韓医師などの医療人が「遠い所にいる」医療人にのみ「コンピューターや画像通信」によって医療の知識や技術を支援(医療法34条)するようになっているからだ。医師―医師間でなされている遠隔医療ではなく、医師―患者間で直接電話で診療する遠隔診療は事実上、禁止されたのだ。
政府とセヌリ党は遠隔診療を許容する内容を盛り込んだ医療法改正案を2014年に発議した。高血圧や糖尿病などの慢性疾患者、島などの僻地に暮らしている患者、動作の困難な老人・障がい者などに対しては医師―患者間の診療が可能なようにする内容が骨子だ。野党や医療界は「医療の営利化」の近道になりかねない上に、患者の安全が脅かされるとして強く反対してきた。
ところがMERSの事態以降、突然に遠隔診療の推進に再び火が付いた。セヌリ党キム・ムソン代表やユ・スンミン院内代表は6月6日の党最高委員会で「(MERSの)事態を経るとともに遠隔診療システムの必要性が台頭した」と語った。その最初の実験台がサムスンだ。遠隔診療は情報技術(IT)企業や医療機器会社、大病院にとっては新たな「飯のタネ」だ。サムスンは2010年、バイオ製薬、医療機器事業を「5大新事業」に選定した。
保健福祉部やサムスン・ソウル病院側の説明は、こうだ。サムスン・ソウル病院の患者たちのうち他の医療機関を探していった後に診療を拒否されるケースが多くて、患者らが電話ででも薬を処方してもらいとの民願(行政当局などの要請)が相次いでいるというのだ。サムスン・ソウル病院の外来診療が再開されるまで一時的に許容したものだと言った。
ところで唯一「サムスン」にのみこのようが特恵が許容された。5月29日に閉鎖された後、いまだに再開院できない平沢聖母病院や、MERS中央拠点医療機関として病院全体が閉鎖された国立中央医療院の患者たちには「親切な配慮」はない。国立中央医療院の患者たちは全面閉鎖された病院の閉鎖を破って入り、臨時に用意された事務室から処方せんをもらって出て来る危険を甘受している。
「MERS拡散の責任から自由ではありえないサムスン・ソウル病院が遠隔医療の導入を要請したことや、それを許容した保健福祉部のいずれも国民の常識からはずれているばかりではなく、痛烈な自己反省が足りない」。大韓医師協会は6月18日に声明を出し、遠隔医療の許容指針撤回を要求した。
「軽症の再診患者は医師―医師間の遠隔医療でも充分に処方せんの需要にこたえることができる」としつつ、対面診療に医師協会が積極的に協力していくとの意思も明らかにした。「健康権実現のための保健医療団体連合」も論評を出し、「他の医療機関で対面診療を受けることは電話での遠隔診療よりも、より安全な方法」だと指摘した。

謝罪を受けるのではなく自ら謝罪を
保健医療団体連合はさらに続けて「サムスン・ソウル病院長は大統領に頭を下げた。国民に謝罪しなければならない大統領が病院長から謝罪を受ける姿は我々をあきれさせる。サムスン・ソウル病院長が大統領に頭を下げて手にしたのは遠隔診療の許容ではないのか」と皮肉った。パク・クネ大統領が6月17日、忠清北道五松にある国立保健研究院にソン・ジェフン・サムスンソウル病院長を呼び出し「90度のあいさつ」を受けたためだ。新政治民主連合MERS対策特別委員会も国会で緊急記者会見を行い、「パク・クネ大統領がサムスン・ソウル病院長を呼んでMERSの防疫に失敗したこと強く叱責したが、実際には政府が遠隔診療のような特恵措置を許容したということは『示し合わせてのゴーストップ』の典型」だと主張した。(「ハンギョレ21」第1067号、15年6月29日付、ファン・イエラン記者)



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