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    かけはし2015.年9月28日号

粉飾決算の全貌を暴き出せ


東芝不正経理事件について

 東芝の不正経理問題も、今や焦点は監視委が持ち出す課徴金の額と九月末の株主総会で決まる新人事体制だけのように流布されている。原発産業の旗振り役、中曽根臨調で大ナタを振るい、国鉄、電電公社、専売公社の民営化を推進した土光敏夫を送り出した東芝は、時の権力と一体である。安倍政権と財界がねらっている東芝の「軟着陸」を絶対に許してはならない。

東電と同じ経団連銘柄

 今年二月、証券取引等監視委員会は東芝の会計処理に疑問があると判断し報告命令を出した。これに対して五月、東芝は監視委に対して「二〇一四年三月までの三年間で営業利益のかさ上げ額が五〇〇億円もある」と明らかにし、田中久雄社長は記者会見で謝罪し、第三者委員会を設置することを発表した。この段階では日本経済新聞などの経済専門紙・誌を定期購読している「経済問題に精通」している人たちでさえ、東芝の不正会計問題がこれだけ大きなスキャンダルに発展するとは考えていなかっただろう。
 これについて東芝周辺を取材していた毎日新聞の記者は今年四月「取材に応じた東芝の幹部たちの言葉も思いの外、楽観的だった。『テクニカル(技術的)な問題』『会計の見方によって違う』などと問題が大きくないことも強調し、『あんまりあおらないでくれ』と不満をぶつけられたこともあった」と述べている。
 だが七月二〇日、第三者委員会は、利益水増しなどが「経営判断として行われたというべきだ」「いくつかの案件では、経営トップらが見かけ上の利益かさ上げを目的にしていた」と「組織ぐるみの不正」を指摘する報告書を提出した。
 二〇一〇年三月期から一四年三月期の決算を調べてきた第三者委員会は「不正な処理に関係する範囲は〇八年四月〜一四年一二月に広がった。水増し額は税引き前利益で一五一八億円に及んでいる」と断定し、第三者委員会の上田広一委員長は記者会見で「日本を代表する大手の会社がこんなことを組織的にやっていたと衝撃を受けた。会社の内部統制、役職員の意識のなさが原因だったと思っている」と発言した。
 東芝は「財界天皇」と呼ばれる日本経団連の会長に二度も就任し、副会長にも何度もついている。その意味で東芝は東電、新日鉄住金と並んで経団連銘柄企業と呼ばれ、「日本の国」を支える日本経済の柱と見られてきた。しかし東電が福島第一原発の事故を通していかに反人民的企業であり、政府、時の権力と一体であるかが明らかになったように、今や東芝の会計処理問題も東電と同じ体質であることを浮かび上がらせている。
 報告書が公表された翌日の七月二一日、二〇〇八年四月から一四年一二月の約七年間に東芝のトップに君臨していた西田厚聡、佐々木則夫、田中久雄の三人の社長を含む八人の取締役役員が引責辞任を表明した。ここから東芝経理スキャンダルの第二幕が始まった。

次の人生を決める東芝での実績


七月二〇日に公表された第三者委の報告書は、次のような三項目で構成されている。第一項では、二〇〇八年四月から二〇一四年一二月の税引き前利益が一五一八億円であるとし、全体の「利益の水増し」をあぶり出している。
第二項では、不正経理の原因を「経営トップの関与」「過大な目標値」「逆らえない企業風土」「会計知識の欠如」「会計監査法人に対して事実を隠す」「人事への影響」の六つの要因に分類している。ここで驚くことは多くの事業部門で長期間にわたって売り上げを過大計上し、経費の過少計上が行われていることである。報告書では文章になっていないが、仮に二〇〇七年以前の分も調査をするならば同じような不正経理がまたぞろ出てくるのではないかと思わせるニュアンスがにじみ出ている。それも合わせて「企業風土」ということであろう。
第三項では再発防止策を幾つかの点に分け具体的にあげて提案している。しかしこの提案も「福島以降の東京電力」を思い出すと「風土・体質」を変えるというのは簡単な問題でないように思うのは私一人ではないだろう。
報告書は田中社長をはじめとして三人の社長が事業部門を利益水増しに追い込む不正がいかに意図的で組織的であったか具体的に立証している。「チャレンジ」「押し込み」「真水が無理なら『c/o』で」というふうに当事者にしか分からない隠語・合言葉を使って命令が下されるシーンは企業ものの小説を読んでいるようでぞくぞくさせる。
第三者委の上田委員長は、東芝には他の企業と比較して利益に強くこだわる「利益至上主義」という考え方が根強く存在すると指摘している。聞きようによっては「利益を出すなら何事も許される」という風土が不正経理を増長していると言っているように思う。
その最も典型的な経営手法が佐々木則夫、田中久雄、西田厚聡の三人の社長によって引き継がれた「選択の集中」だという。西田は音楽や不動産などの周辺事業を売却し、他方でアメリカ原発大手の買収や半導体工場への大型投資などを行い、中核事業を集中的に強化した。それに続いて佐々木、田中も同じ手法で携帯電話や海外テレビ事業から撤退し、大型の投資や買収を進めた。
不振事業を切り捨て、期待できる事業への資金を集中的投資するという方法は、一見最良の形であると思われるが、目先優先の方法と表裏一体なのである。半導体への集中は「超円高」によって他の日本企業よりも大きな打撃を受け、原発優先のあり方は〇九年度に受注した米テキサス州での原発工事が遅れ、予定を上回る数百億円を投じることになり、さらに二〇一一年の福島第一原発の事故は収益を低下させ「選択と集中」という経営プランは完全な行き詰まりとなった。
この結果、「チャレンジ」と呼ばれる過大な目標が設定され、インフラ部門ではスマートメーターなどで発生した損失を先送りしたり、テレビ部門では費用の先送りなどによって利益のかさ上げが行われた。パソコン部門でも部品の仕入れと完成品の売買の過程が操作され利益がかさ上げされた。
「黒字に出来ないなら事業をやめる。脅しではない」とどう喝し、「ありとあらゆる手段を使って黒字化を」と事業部に利益を求める姿がリアルに報告書に記述されている。時には「三日後までに営業損益を一二〇億円『改善』するように指示」したり、「今回は少しくらい暴走してもいいから東芝に貢献せよ」と命令するありさまが報告書に記述されているのに、田中社長が当初「不正の指示はしていません!」と強弁していた。三日で一二〇億円の利益がどうしてできるのか。経理操作せよと言っているのは明白だ。七月二一日に全文が公表されると「関与」を認め、三人の社長以下が引責するしかなかったのは当然といえる。
記述された三人の社長の「利益」追求に対する執念は、東芝での実績がそのまま次の財界での自らの位置に直結するからであろうと類推することができる。彼らの「執念」には次の人生もかかっていたのだ。

新自由主義への対応と「破産」


東芝は日本を代表する総合電機企業として不動の位置を築いてきた。原発、火・水力発電などの重電部門から家電、コンピュータ、ソフト・サービスに至る多角化した事業部門の安定的な経営によって利益をあげてきたと言われている。しかしそれはあくまで日本という「枠内」での話に過ぎなかった。
この枠組みを食い破る「黒船の来航」こそ一九九〇年代に米帝国主義の主導で押し進められた新自由主義的グローバル化の嵐である。グローバル化の嵐は地球上全体を市場とし国境の壁を低くさせ、旧来の生産と市場を中心とする資本主義から投資を軸にする「金融資本主義」、そして企業は株主のものであるという考え方に立つ「株式資本主義」と呼ばれる方向に大きく舵をきった。「株主資本主義」のひとつの重要な特徴は「四半期(三カ月)ごとに経営状況が発表され、そのつど株価が大きく上下するようになります。経営者は目前の三カ月に確実に利益を上げることが、自己の地位を安泰にすると考えるようになりました」(藤田実、「赤旗」8月23日)。
二〇〇〇年代に入ると東芝も否応なしにこの新自由主義的グローバル化に立ち向かい、対応することが強制された。このための第一の経営プランが前記した「選択と集中」であり、これによって「目先の利益」を追求したのである。それは旧来から東芝の中に存在した「利益至上主義」と結びつき「チャレンジ」という形を取って今日の不正経理処理にまで行き着いたと考えるべきであろう。経営トップが東芝を退いた後も財界でもトップの位置を占めたいという野望はその東芝的なあり方と構造を増長させたとみることが可能である。
「……社員の賃金は前年比で一%増えただけ…消費税増税の影響で…実質的にマイナス。…企業の事業全体の…経営利益は三七・四兆円(前年度比七・五%増)、株主への配当金は一二・一兆円。前年度から一・五兆円増加…社員の賃金全体の増加額七七〇〇億円の二倍…大企業の内部留保は二九九・五兆円と三〇〇兆円の大台に迫りました」(「赤旗」9月3日)。この圧力、この構造が不正経理を生み出したのである。
東芝がグローバル化に対応するために取った第二の経営プランは、米国流経営監視ともいうべき「委員会設置会社」という経営方式であった。これは社外出身者が中心となる取締役会が経営幹部を監視するシステムである。このシステムを東芝は日立グループやソニーと先陣を争って導入し、同時に公認会計士三五〇〇人を擁する「新日本監査法人」に監査を依頼し、財界の中でも「優良企業」・「モデル」と呼ばれ、財界・経済界の中に不動の位置を築いた。冒頭ジャーナリストが見た「楽観性」を記述したが、その根拠はこうした経過の中に存在していたといえる。
だが「東芝は取締役一六人中四人が社外出身だが、そのうち二人は経営経験の乏しい外務省OBだ。委員の人選も疑問で、二〇一四年六月まで取締役だった西田厚聡会長(当時)は経営陣報酬を決める報酬委員と取締役候補を選ぶ指名委員にもついていた。経営監視の仕組みが『カネと人事』という企業内の力源泉を支える装置に成り下がっていた」(「朝日」、7月22日)のであり、システムは形だけで実際は骨抜きされ内部統制の機能は働かなかったのである。その上、監査法人に必要な情報を渡さないという事態は「無法状況」を日常化させたといえる。オリックスの宮内会長は、経営陣が必要な情報を監査法人に渡さなければほとんどの監査法人は不正を見抜くことができないと発言している。

安倍政権と一体化した東芝


前にも引用したが第三者委の上田委員長の「……会社の内部統制・役職員の意識のなさが原因であったと思っている」という言葉に込められている本音は、東芝の経営者たちは、上場が廃止されたり、企業が倒産するということを全く考えてはいないと思っていたのではないか。それは旧経営陣だけではなく、現在経営を託され「信頼回復」に取り組むこと強調している室町政志新体制も同様であるように思われる。
それを裏付けるように室町新体制の最初の仕事にそれが現れている。通常二〇一五年三月期の決算・有価証券報告の提出期間は今年六月末である。だが東芝は不正会計問題を受けて期限の二カ月間延長を財務局に申請し、八月三一日に決算発表と報告書の提出を行うはずであった。しかし八月三一日に「新たな検証の必要」が出てきたと述べ、再び九月七日まで延期した。九月七日の発表によると米国の子会社が手掛ける水力発電事業のコストの見積もりが過少だったことが判明したからだと弁明していた。
室町新執行部は不正会計処理問題で二カ月も延ばしてもらっていながら再び延期を要請したのに対し、政府も財務局も証券取引等監視委員会も何の批判・意見もしないのである。さらに驚くべきことは、マスメディアも一切批判していない。そればかりか、この東芝スキャンダルが明らかになって以来、マスコミ各社は打ち合わせたように「不正会計」という言葉を使い「粉飾決算」という言葉を使用しない。メディアにとって大スポンサーである東芝に対して粉飾ということは絶対に言えないのだろう。広告とは企業にとって製品であると同時に、こうした局面に対応するための経費でもあり、税金対策でもある。仮に「粉飾決算」使用を各社とも刑事事件を意味するとでも考えたのであろう。メディアのインタビューなどでも断固として「粉飾決算」という言葉を使っているのは、前述した藤田実氏と経済評論家の森永卓郎氏だけである。
九月七日の発表者、証券取引等監視委員会はようやく重い口を開き、東芝に対して課徴金を科すことを軸にする方針だという。検察も国税庁も政府も沈黙したままである。「監視委や検察の幹部は、刑事立件に否定的な意見が多い。…『会社として事前に計画を立て、実行するのか組織的な粉飾』、『東芝は場当たり的だ』と話す。オリンパスは幹部が粉飾を主導しており、こうした点が違うという指摘だ」(「朝日」、9月8日)。第三者委報告では三人の社長の指示は明白であり、組織的意図的も鮮明であるにもかかわらず監視委や検察はこうした発言をしているのである。政府と権力は東京電力と同様に東芝を守ろうとしているのである。絶対に刑事事件にさせないという意図は明白である。
今回引責辞任した前相談役で副会長の佐々木則夫は、政府の産業競争力会議の民間議員や政府税調調査会の特別委員である。安倍政権が押し進めるアベノミクスを推進する経済財政諮問会議の民間議員でもあり、「法人実効税率引き下げ」の財界急先鋒だ。さらに東芝の社長・会長を歴任し現在も東芝の相談役として大きな影響力を持つ西室泰三は首相の諮問機関「戦後七〇年談話に関する有識者会議」議員であると同時に、NTT以来の高額の上場をめざす日本郵政の社長である。まさに東芝は東電と同様に安倍政権と一体なのである。
二〇〇四年西武鉄道は、大株主であり非上場企業のコクドが西武の持ち株比率を過少記載したという証券取引法で上場が廃止された。これは企業の買収、株価の値上げを追求する米政府の圧力・要請だったとも言われている。オリンパスは粉飾決算で上場廃止の危機に直面したが、自民党議員たちの「技術が中国などに渡れば、武器に転用される」の圧力によって当時の社長ら三人だけが粉飾決算で逮捕され有罪となったが、上場廃止はまぬかれた。東芝の不正会計の額はオリンパスと比較してもはるかに額が大きい。それが課徴金で済まそうとしているのである。あのライブドアの粉飾決算は五三億円であったが社長は起訴され有罪になっている。
政府と権力は原発産業の中心であり、原発輸出の主要な企業である東芝を東電と同様に防衛しようとしているのである。東芝スキャンダルの「核心」はここにある。東芝の幹部で政府関係の役職からの辞任を申し出ているのは、社長や専務を歴任していない企業会計審議会会計部会の臨時委員である久保誠前取締役だけである。佐々木則夫も西室泰三も沈黙したままである。
東芝の粉飾決算の全貌を明らかにせよ! 三人の歴代社長を証券法違反で起訴せよ! 東芝の上場を廃止せよ! 東芝を救済するのを許すな!  (松原雄二)


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