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    かけはし2015.年9月28日号

交渉誘発のための危機煽り


北韓の軍事冒険主義と両面戦術

地雷爆発から高位級接触合意まで

 最近の南北関係は一触即発の危機状況だった。8月25日未明、南北韓高位級接触で6項を合意し、危機は鎮静した。けれども、この間の危機状況から北韓(北朝鮮)の戦術を探ってみなければ、国民の生命を担保として南北が極端に対峙する「チキン・ゲーム」はいつであれ再発しかねない。南北合意にもかかわらず韓(朝鮮)半島の内在する不安指数を心配するのは、このような理由からだ。
 今回の危機は南側の非武装地帯(DMZ)で発生した地雷の爆発によって始まった。合同参謀本部は地雷の爆発事故が北の挑発であるとして北韓の謝罪と責任者の処罰を要求した。2004年以降、11年ぶりに(対北)拡声器放送も再開した。

対人地雷禁止協約未加入

 1997年に発効した対人地雷禁止協約によって、対人地雷を使用していること自体が国際法違反だ。南北韓は今なおこの協約に加入していない。対人地雷の埋設によって韓半島有事の際に相手の進撃を遅らせることができ、これを通じて防御の時間を確保できるという信念のゆえだ。今回の地雷爆発は、対人地雷の使用に関する国際法違反と共に、このような好戦的信念が混合したものでもある。
南側鉄柵の入り口に木函地雷3個を埋設したのを、北韓の総参謀部などが初めから企画したものなのか、個別部隊の挑発的行為なのか、現在のところ確認する手立てはない。我々がよくよく注意してみるべき点は、地雷爆発以降、国防部が8月11日から始めた拡声器放送に北韓が敏感に反応しつつ韓半島の危機を高めた戦術だ。
北韓は地雷が爆発した8月4日から「8月25日、南北高位級接触合意」を導き出すまでの21泊22日間、南北対峙を集中的に引きあげつつ南韓を交渉の場に引き込んだ。この過程で北韓は前例のない、最高指導者(キム・ジョンウン国防委員会第1委員長)の動線を北韓メディアに、そのまま公開することにした。
拡声器放送に対する北韓の最初の反応は8月15日に出てきた。北韓前線司令部は「対北放送を中止しなければ物理的な軍事行動が開始されるだろう」と警告した。拡声器放送を中止するための北韓の攻撃的意志が短い警告文に圧縮されている。北韓は2013年2月から4月まで、南韓に駆使することのできるすべての脅しを盛り込み、いわゆる「言葉の爆弾」を降り注いだことがある。けれども当時の「言葉の爆弾」は「口先だけ」にとどまった。だが今回は、11年ぶりに再開された拡声器放送を中断しなければならない絶対的課題が北韓の前に横たわっていた。彼らが前とは違って実質的な脅しを作る必要を感じた理由でもある。
対北拡声器放送は韓国(朝鮮)戦争期間中に心理的次元から始められた。南北韓は1972年の7・4共同声明以後と1988年7・7宣言発表以後、拡声器放送を一時的に中断したりもした。それ以降、2004年の将軍級会談で完全に中断することで合意し、これを履行してきた。

キム・ジョンウンと拡声器放送

 北韓は南側の心理戦を戦時軍事作戦に次ぐ敵対行為として判断している。南韓の拡声器の性能が、けたはずれに優秀なことも北韓が負担に感じている部分だ。拡声器放送が北韓の兵士たちの心理に及ぼす影響を無視できないというのも一部の脱北者たちの証言だ。
けれどもこれは今回、北韓が準戦時状態を宣布したり、高位級接触において拡声器放送の中断に専念するだけの充分な理由にはならない。11年ぶりに再開された対北拡声器放送に北韓が敏感になったのは、拡声器を通じて、いわゆる北韓の「最高尊厳」(キム・ジョンウン)を冒涜していると考えているからだ。
北韓社会を支配しているのはチュチェ(主体)思想であり、このチュチェ思想に基づいて人民の生活や精神世界を掌握しているのは「党の唯一思想確立のための10大原則」(10大原則)だ。この10大原則は事実上、憲法よりも優位にある。
10大原則は1974年、キム・ジョンイル後継体制を定立する過程で作られた。北韓のキム・ジョンウン委員長はチャン・ソンテク処刑以降、2013年6月に自身の権威をさらに強化し、これに対する挑戦を断固として排撃する方向へと10大原則を改正した。そしてキム委員長は同年6月19日、労働党幹部らを対象に「革命発展の要求に合わせ、党の唯一の領導体制をさらに徹底してうち立てることについて」という題目の演説を行い、唯一体系の守護のための精神武装を強調していたことが伝えられた。
キム・ジョンウン体制において一層強化された10大原則の下で北韓の人民たちは、いかなる地位にあろうとも、誰もが身を捧げ最高尊厳を死守しなければならない。前線の軍人たちや軍の指揮官たちも同様だ。キム・ジョンウン委員長を誹謗する拡声器放送を放置してはダメであり、いかなる手段を用いたとしてもこの状況を解決しなければならないのだ。
特に今回、北韓が拡声器放送により敏感になったのは拡声器放送がキム・ジョンウン体制発足以降、初めてだという事実が大きく作用したと言えよう。拡声器放送をキム・ジョンウン体制に対する最初の重大な挑戦だと判断したのだろう。
首脳会談を除き、南北対話の歴史において最も高位級である北韓のファン・ビョンソ総政治局長とキム・ヤンゴン対南秘書が南北接触に直接乗り出したのも、このような背景が作用したと思う。キム・ジョンウン体制に対する誹謗を阻むために、北韓は準戦時状態の宣布も甘受したのだ。
北韓は拡声器放送に対応しようとして緻密なシナリオを本格的に稼働し始めた。軍事的緊張を高めさせつつ、同時に南北接触を試みたのだ。イ・ミョンバク、パク・クネ政府の7年半の間、南北関係が悪化した状況にあって北韓が選択した戦術が、まさにこのような強穏両面作戦だ。 8月20日にあった北韓の2度にわたる砲撃は、まさに危機を高める戦術を綿密に計算した行動と見なければならない。緊張を誘発するが、軍事的衝突へと拡散することを統制する戦術を駆使したからだ。

対応射撃をめぐる駆け引き


北韓が8月20日に発射した高射銃は南方限界線南側近辺の草山に落ちた。拡声器に対する照準射撃ではなかった。緊張を誘発しようとする意図だったのだろう。次いで発射した直射砲も非武装地帯の軍事分界線(MDL)南側地域だった。南韓の施設を狙ったり人命の被害を意図した砲撃ではなかった。
目につくのは砲撃の後の北韓の動きだ。北韓は2度の砲撃直後、韓国軍の対応射撃が行われる以前に、対南メッセージを伝える。最初は8月20日午後4時50分、キム・ヤンゴン対南秘書がキム・グワンジン青瓦台国家安保室長に板門店のチャンネルで送った通知文だ。この通知文でキム・ヤンゴン秘書は現状況に対する関係改善の意思を披歴した。
さらに6分後には相反する雰囲気が込められた2度目の通知文を送る。北韓軍総参謀部が西海(黄海)の軍通信線を通じて送った通信文には「きょう17時から48時間以内に心理戦の放送を中断せよ」という警告が書かれていた。48時間以内(8月22日午後5時まで)に拡声器を撤去しないならば軍事行動を行うという通牒だった。午後4時50分と4時56分に「関係改善」と「通牒」という相反する通知文を送り、流れの主導権を握ろうとする布石だったものと思われる。
付け加えるならば、2度の砲撃直後に送ったこの2通の通知文は、北韓の砲撃が計画されたものであったことを裏付ける、否認しがたい状況だ。北韓が砲撃を行わなかったならば、南韓が対応射撃をしてもいないうちにこのような通知文を送ることはできないからだ。
韓国軍の自走砲による対応射撃に対する北韓の反応も、よくよく見ておくべきところだ。北韓は韓国軍の対応射撃に対して神聖な領土に対する攻撃だとかっかしながらも、それ以上の対応射撃を行わなかった。人命と施設に被害を与えない南北の砲撃の交換がなされたが、南北が直接衝突をしてはいないのだ。交渉局面に転換させられる水準で、危機がより高められただけだ。北韓の意図が何であるのかを読み取ることのできるところだ。
人命や施設被害のない南北の「安全な」(?)砲撃交換があった日である8月20日の夜、北韓は異例なことにキム・ジョンウン委員長が駐在している労働党中央軍事委員会の非常拡大会議を招集した。中央軍事委非常拡大会議は南韓の国家安全保障会議(NSC)常任委員会と類似した性格のものと見られる。けれども、このような会議は朝鮮労働党70年の歴史において初めて公開されるものだ。身辺の安全を理由にキム・ジョンウン委員長の動静報道も直ちに行わないという慣行からも逸脱した。
翌日未明、「朝鮮中央通信」は同会議の結果を迅速に知らせ、南韓世論が大々的にこれを報道するという結果を導きだした。前線地帯に準戦時状態を宣布し、北韓軍が完全武装した戦時状態に転換するという内容だった。「朝鮮中央通信」の報道によって韓半島の緊張感は最高潮に達した。「朝鮮中央通信」の報道内容から、非常拡大会議が狙っている目標が明瞭に読みとれる。
「48時間以内に心理謀略放送を中断しないなら心理戦の諸手段を撃破射撃するための軍事的行動を行う」。
緊張感を極度に引き上げるためにキム・ジョンウン委員長の動きを即座に報道する行為を動員したのだ。

軍事行動と政治接触の開始

 8月20日から21日未明へとつながる北韓の一切の特異な諸行動は、一様に拡声器放送の中断を目的とするものだ。北韓の緊張を高める流れは8月21日、外務省が全面戦も辞さずと発表するとともに途絶えることなく続けられた。そうしつつ、北韓は最後通牒として指定した「48時間」を前にして緊張が高まっている間に再び交渉のカードを投じた。
8月21日午後4時にキム・ヤンゴン対南秘書がキム・グワンジン国家安保室長との接触を提案したのだ。典型的な和戦両面作戦(軍事的緊張感と交渉の併行)だ。キム・ヤンゴン秘書は北韓で最高の対南戦略家だ。キム・ヤンゴンが接触を提案したのは、軍事的緊張をテコに交渉の流れへと移していくという北韓の意図をあらわにしている。
南韓政府は北韓の提案に対して、ファン・ビョンソ総政治局長が出てこなければならない、と逆提案した。北韓としては当惑するところだ。ファン・ビョンソ総政治局長は労働党の実際の力を有する部署としての組織指導部で生え抜きの人物だ。対南分野の専門家ではないし、南北交渉の経験が蓄積されているわけでもない。
けれども北韓が長くちゅうちょしている余裕があるわけでもない。北韓は軍事行動の起源として自分たちが釘を刺した「8月22日」以前に南北接触を始めなくては南韓に対する圧迫の効果を活かすことができないと判断したのだろう。北韓は直ちにキム・グワンジン安保室長とホン・ヨンピョ統一部長官を南側代表としてくれ、という修正提案をする。「ファン・ビョンソ」に目星をつけたのが南韓の「神の一手」ならば、「ホン・ヨンピョ」に目をつけたのは北韓の「神の一手」だ。北韓はこれまでキム・ヤンゴン対南秘書に比べて格が下だとして南韓の統一部長官との対話を避けてきたからだ。南韓政府が拒絶する理由のない北韓の修正提案だった。こうして「2プラス2の南北高位級接触」が実現した。
北韓は「2プラス2接触」が8月22日午後6時から始まるのに先立って背水の陣を敷いた。ファン・ビョンソ総政治局長の外信記者会見を通じて、北韓が最近行った対南危機づくり行為を否定したのだ。
緊張感を圧縮して高めさせてきた北韓は、交渉のテーブルに座り、南韓と押したり引いたりを繰り返しつつ8月25日未明に6項目の合意に到達する。けれども北韓は1つの課題を残しておいた。南韓を圧迫するために危機を作りあげる挑発行為をした後、これを公然と否定していたが、現に南北が合意した共同報道文には北韓が遺憾の意を表す文言が入ったのだ。北韓は自分たちの主張と合意内容との間隙を解消しなければならなかった。このためファン・ビョンソ総政治局長が朝鮮中央テレビに直接出演し、北韓人民を対象に交渉結果を説明するという前代未聞の行為をしたのだ。

「戦争も辞さず」は無謀な考え

 北韓が和戦両面戦術を駆使することができたのには、韓半島をめぐる利益当事者に対する北韓の情勢判断も影響を及ぼしていたようだ。米国、中国、国連司(国連軍司令部)のいずれも戦争を望んでいないがゆえに、北韓が危機を煽り交渉力を高める戦術を駆使したものと見ることができる。特に9月3日の戦勝記念行事を前にした中国が、韓半島が極度の緊張状態におかれることを喜ぶわけもない。国連司は北韓が今回、非武装地帯での挑発を敢行して以降、北韓に対話を提案したりもした。
この21泊22日の間に北韓は拡声器放送を中断させる一方、今後の追加的な南北交渉のために軍事的危機によって韓半島を不安に陥れた。これは極めて危険な軍事冒険主義に該当する。北韓のこのような挑発に「歯には歯を」で対応していくという韓国メディアの一部もまた、戦争を辞さないという無謀な考えだ。
北韓は自らが望んでいる交渉を誘導する目的で、いつであれ一層精巧かつ脅威を帯びた危機煽り戦術を稼働することができる。反対に南韓の一部では戦争辞さずを覚悟しつつ、北韓の脅しに断固として対処すべきだとの主張が勢いを増しかねない。このように「強対強の衝突」が日常化することは良くない。今回、我々が目撃したように、株価指数など経済にも悪影響を及ぼす。
わが政府もメディアも北韓の和戦両面作戦に幻惑されて北韓の危機煽り戦術に巻き込まれない慎重な対処が必要だ。何よりも北韓からやってくる脅威を予防するためには韓半島の危機指数を下げなければならない。そのためには南北の信頼構築と非武装地帯の非武装化、平和体制構築の努力、南北の疎通を強化する「ホット・ラインの構築」が先行されなければならない。(「ハンギョレ21」第1077号、15年9月7日付、キム・チャンス/コリア研究院院長)

【訂正】本紙9月14日号、「韓国はいま」、最初の文章の前に以下の文章が抜けていました。「国家情報院は『信じてくれ』と言う。今あの中は、まるで教会です」。本紙前号(9月21日号付)1面9・12集会記事の下から2段目左から1行目の「かとっていこう」を「かちとっていこう」に、2面9・9集会の最下段右から2〜3行目の「繰り返しいる」を「繰り返している」に、3面最賃記事の下から2段目右から6〜7行目の「行われおり」を「行われており」に訂正します。


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