もどる

    かけはし2015.年10月26日号

「地政学的カオス」をめぐる討論のために(中)


分極化と遠心化―統制不能の
力学とエスカレートする軍事化

2 帝国主義諸国関係の再編――
新興国家、とりわけ中国の位置

 グローバルな「地政学的カオス」について語るとき、われわれは
?中国の経済的・軍事的拡張主義と東シナ海、南シナ海をめぐる緊張、アメリカのアジアへの「復帰」とその軍事的・政治的・経済的ヘゲモニーの後退、そして米国を補完する日本・安倍政権の「積極的平和主義」という軍事的グローバル化=「戦争国家」化への飛躍
?ウクライナを焦点にしたEUとロシアの緊張関係、ロシアによるクリミア併合と新しい「冷戦」、G8からのロシアの排除。プーチンのロシアは、どこに向かおうとするのか。
?EUそれ自体の諸問題――アフリカ・中東からの増大する移民・難民の排除を求める極右レイシストの伸長(北欧の「福祉国家」を含むほぼすべての欧州諸国で――スウェーデン、オランダ、ドイツ、フランスなど)とスコットランド、カタルーニャなどの分離・自治・独立運動の拡大、反「緊縮」政策をベースにしたギリシャ(シリザ)、スペイン(ポデモス)などの新しい「急進左派勢力」の前進と「政権獲得」、あるいはその可能性。しかしシリザの例は、「反緊縮」との闘いがどのような「壁」にぶつかることになるのかを改めて提示することになった。
?アフリカ・サヘル地域(サハラ以南アフリカ)から中東・アラブの全域、そしてパキスタン、インドネシアやミンダナオにまで及ぶ、イスラム過激主義(ISに限定されないテロリスト)勢力の浸透と、永続的戦乱、国家崩壊状況……
などについて、概括的に捉えていく必要がある。
そしてそれは、同時に旧来の帝国主義諸国の相互関係、ならびにその国内的支配のあり方の変化という問題を提起することになる。

(a)「官僚的国家資本主義」としての中国


中国は、中国共産党の一党独裁支配の下で「官僚的国家資本主義」のシステムを立ち上げ、まだイギリス領だった香港への「対外」直接投資に踏み込んだことを皮切りに、一九九〇年代以後、本格的な対外投資を加速化させた。投資競争がもたらした国内市場の狭隘化はアジア諸国への投資ラッシュを加速化させ、初めての株式市場ブームを生みだした。一九九七年のアジア経済危機を乗り切った中国は、輸出志向型の高度経済成長を持続させるためにも石油など資源獲得をめざした対外直接投資に踏み込んだ。それは中南米、中東、アフリカなど世界の隅々にいたるまで大きな位置を占めている。
共産党独裁体制の中国による多国籍企業の投資・開発戦略は、米国などの先進帝国主義諸国と異なっているのか。香港「グローバリゼーション・モニター(全球化監察)」で活動している左派活動家で労働運動研究家の區龍宇は次のように述べる。
「二つの国(中国と米国)の間に政治的な不一致、さらには競合すらあるが、両国が新自由主義の社会的経済的政策課題を共有しており、両国の多国籍企業間の緊密な協力を通じて利益を得るという同じ利害を共有しているという事実を見失うべきではない。たとえ中国が覇権国への台頭の過程で米国と衝突することがあったとしても、それは新自由主義の枠組みの中で二つの大国が弱い国を支配するために争っているだけであり、支配される国の労働者の利益に大きく寄与することはない」(區龍宇「中国の対外経済進出」、『台頭する中国 その強靭性と脆弱性』、つげ書房新社刊)。
ところで中国での新しい資本家階級とは、中国共産党の一党独裁体制を支えた国家=党官僚層の資本家階級への直接の転化という形を取って形成された。外資の役割も相対的に小さなものだった。その意味でそこには何らかの支配体制の質的「転換」があったわけではない。この点は、近い将来GDPで米国を追い抜き、世界ナンバー1の位置に上り詰めることが確実な中国資本主義の固有の特質として押さえておく必要があるだろう(その特徴は相当程度までロシアについてもあてはまる)。
いま中国は、年率一〇%を超える急速な発展の後に、経済成長率の低下現象と生産能力過剰傾向に直面している。新たな経済危機のラセン的爆発をもたらす事態を避け、かつ米国に対抗して世界経済のイニシアティブに挑戦するために打ち出された構想こそ、アジアとヨーロッパを陸と海からつなぐ「一帯一路」という「新しいシルクロード経済圏」であり、アジアインフラ投資銀行(AIIB)の創設である。
この戦略は、アジアとヨーロッパを結ぶ新しい政治・経済・金融的イニシアティブの形成を意味している。先に紹介した區龍宇はこのAIIBについて、それが中国経済自身の内部的不均衡克服策であるとともに中国による「対外干渉主義」と結びついていることを指摘する。
「貧困国への直接投資とは、その国を長期的に搾取することに他ならない。この目的を達成するために、現地政権及び現状の『安定』を維持する必要があるのだ。選挙に干渉もせず、政治家を買収もしないで、いかにして長期的な安定が確保できるだろうか」。このあと區は、中国政府が八〇〇人にのぼる国連平和軍部隊(戦闘部隊)を南スーダンに送ったことを、中国が南スーダンに対する最大の投資国家であったこととの関連で説明している。(週刊「かけはし」2015年4月27日号)。

(d)中国の経済的・軍事的拡張主義と安倍政権


中国の、とりわけ南シナ海における拡張主義的海洋戦略は南沙諸島、西沙諸島での領有宣言・環礁埋め立ての強行によって、フィリピン、ベトナムなどとの間に領土紛争を誘発している。それは総じてアメリカのグローバルな政治的・軍事的ヘゲモニーの後退と連動したものであるが、こうした中国による覇権的拡張主義が、米国のアジアへの「リバランス」戦略とアメリカを補完する日本帝国主義の一連の「戦争国家」化への流れに大きな口実を与えることになった。
昨年五月三〇日にシンガポールで開催された第一三回アジア安全保障会議(シャングリラ・ダイアローグ)で基調演説を行った安倍首相は、「南シナ海における紛争の解決」にあたってフィリピン、ベトナムの立場を支持するとともに、「現状の変化を固定化しようとする動き」は「強い非難の対象」であるとして中国を批判した。
さらに安倍は、「日本の優れた防衛装備の提供」が、新しい「防衛装備移転原則」の下で可能になったと語り、「ODA、自衛隊による能力構築、防衛装備協力など、日本が持ついろいろな支援メニューを組み合わせ、ASEAN諸国が海を守る能力を、シームレスに(切れ目なく)支援してまいります」と宣伝した。日米新ガイドラインに基づく中国包囲網形成と連動した戦争国家法は、「武器輸出市場の開拓」という意味をも持っている。
私は、日本と中国・韓国との「尖閣諸島(釣魚列島)」、「竹島(ドクト)」をめぐる領土紛争において、日本の「領有権」の主張は日清戦争、日露戦争を通じた植民地支配の拡大の一環であるという立場に立って、その不当性を強調してきた。南沙諸島(スプラトリー諸島)、西沙諸島(パラセル諸島)の場合も、一九三〇年代、南沙諸島の一部の島の領有権をフランスに次いで主張し「新南群島」と命名して当時植民地支配下に置いていた台湾の高雄市に編入したのは日本だった、という歴史的責任を忘れてはならない。第二次大戦終了後、当時の中華民国国民党政権が台湾の主権を回復する立場に立って南沙諸島の領有権を主張したのは、元はといえばこうした歴史的背景に起因しているのだ。
しかし、同時に現在の南沙諸島をめぐる中国政府のベトナムやフィリピンに対する強圧的な拡張主義政策については、はっきりとした反対の立場をとることが東アジア、東南アジアにおける相互に錯綜した国家的・民族的対立の構造を民衆の観点から解きほぐす上で、必要だと考えている。問われていることは国ごとに島嶼を囲いこむことではなく、海洋資源の保護・環境保全を優先した共同のプログラムの可能性にねばり強く挑戦していくことである。
こうした中国共産党一党独裁の下での官僚的国家資本主義について、「初期的(proto)帝国主義」と規定すべきではないかと「国境なき欧州連帯(ESSF)」のピエール・ルッセは述べているが、私は現在のところそのように考えてはいない。

(c)ウクライナとEU―ロシア関係について そしてEUそれ自体の諸問題


ウクライナでは二〇一三年一一月に当時のヤヌコビッチ政権がロシアからの強い圧力もあって、EUとの経済連携協定交渉を打ち切ったことへの民衆的批判が拡大し、首都キエフの広場を民衆が占拠する「ユーロマイダン運動」が、暴動にまで発展した。この中でついにヤヌコビッチ大統領はキエフを脱出し、ヤヌコビッチ政権は崩壊した。この運動には、反ロシア・親西欧のウクライナ民族主義をベースにして、より極端な「ファシスト」的反ロシア排外主義の傾向も明らかに存在していた。そして親ロシア勢力の影響が強いウクライナ東部と親西欧の西部との間でウクライナは事実上分裂した、この中でロシアのプーチン政権は、ロシア人が多数を占めるウクライナ領クリミアに軍事侵攻し、クリミアをウクライナから切り離しロシアに統合する「国民投票」を組織して、クリミアをロシアに併合した。
ウクライナ問題に関するロシアの強硬政策(ここでは大ロシア民族主義の傾向が前面に出ている)もあいまって、米国やEUとロシアの関係は悪化した。ロシアはG8から排除された。ウクライナ東部における親ロシア派と親EU派の軍事紛争の停戦は成立したが、ロシアとEUの関係にはウクライナをはさんで新たな「壁」が形成されている。これも新しい「地政学的カオス」の一つの要因である。ロシアのプーチン政権は、ウクライナだけではなく中東におけるロシアの唯一の手掛かりと言えるシリア・アサド政権の防衛を通じて、EUへの対抗的足場を築こうとしている。しかし、その対シリア戦略は、基本的に「防衛的」なものだと考えられる。
他方、EU諸国で顕著になっているのは国家間・地域間の格差を伴った国際的な経済的比重の低下であり、社会民主主義的統合システムの解体であり、また極右レイシスト的勢力の制度圏政治での伸長である。この極右レイシストの議会での伸長はフランスなどにとどまらずスウェーデン、オランダなどにも及んでいる。一部の諸国では、こうした極右政党は選挙で相対第一党を伺うほどの位置についている。
またスコットランド、カタルーニャなどの分離・独立運動による旧来の国民国家システムへの拒否、さらにはギリシャ(シリザ)、スペイン(ポデモス)など、EUの新自由主義的緊縮政策に反対する民衆的抵抗運動を土台にした新しいラディカル左翼が選挙で伸長している。シリザに見られるように政権の座に就いて「トロイカ(EU、欧州中央銀行、IMF)」が強制する債務返済のための緊縮政策の強制と闘うという新しい事態が起きている。
現在、焦点となってきたギリシャについては、七月「国民投票」での「緊縮拒否」の圧勝、その直後のチプラス政権の「緊縮」受け入れとシリザの分裂、そして九月、今年二度目の総選挙でのシリザ政権の再確立という急転換が進行している。しかしチプラス政権の新しい「メモランダム」受け入れは決して解決への道とはなりえない。ここでは、もはやユーロという共通通貨、EUという新自由主義の政治的・経済的枠組みを根本的に問題にしない限り、危機からの脱出はありえないことが明確になっている。
さらにこれまで考えられなかった事態――イギリス労働党党首選で「極左」と言われてきたジェレミー・コービンが大差で勝利したという「事件」が起きた(これについては週刊「かけはし」10月5日号の「ソーシャリスト・レジスタンス」の論文、ならびに『世界』11月号の進藤兵「私は新しい種類の政治に票を投じたのだ――イギリス労働党2015年党首選」を参照)。
EUそのものの分解の圧力と、新自由主義的耐乏政策へのオルタナティブへの動向が注目される。そこでも移民との連帯・共同の闘争をふくめた、全欧州的な「反トロイカ」の連帯が問われている。シリザの挑戦は、チプラス自身の屈服によって挫折を強いられたが、「反緊縮・反トロイカ」の闘いは、EU・ユーロという政治的・制度的枠組みを超える展望とEU圏内の労働者・市民の闘いが支援して、トロイカに緊縮政策反対・債務帳消し・ギリシャ支援の圧力を行使しうるか――ここに今日の重要な課題がある。そこでは「移民・難民」に連帯する反レイシズムの内容が決定的に問われることになるだろう。

(d)イスラム圏 無政府化とIS問題

最後に、アフリカから中東そして南アジアにつながるイスラム圏でのIS(イスラム国)に代表される原理主義的テロリズム集団の浸透と、無政府化の拡大の流れである。言うまでもなく、この無政府化とイスラム原理主義的テロリスト勢力の拡大は、旧ソ連のアフガニスタン侵攻に始まり、一九九一年の湾岸戦争、二〇〇一年「九・一一」を契機にしたアフガニスタン戦争、二〇〇三年のイラク戦争にいたる一連の米国主導の戦争と、「テロとの戦い」を名目にした占領支配の破綻の結果だった。それは占領者への抵抗、独裁政権との戦い、宗派間の殺戮などが複雑に絡み合った永続的な「内戦」状況を作り出した。米国主導のイスラム世界に対する占領支配こそが、テロリズムの拡散と社会的紐帯の破壊に導いた。
二〇一〇年一二月のチュニジアを起点とし、エジプト、イエメン、そしてリビアで長期独裁政権の崩壊を引き起こした「アラブの春」は、さらにシリアのアサド政権を窮地に追い込む内戦へと発展した。しかしチュニジア、エジプトでまさに貧困と抑圧に苦しむ民衆自身の自発的・主体的な闘いとして拡大した「アラブの春」は、多くの国で新しい強権的秩序の再導入、独裁の復活、あるいは終わりの見えない内戦に帰結することになった。その間隙をついて「カリフ制」の復活を宣言したIS(イスラム国)の「領域支配」とテロリズム(恐怖政治)の体制が拡大することになった。サブサハラ・アフリカの多くの国ではISに連なる勢力の割拠によって政府機能が事実上解体する国家が広がっている。
IS、ならびにISに連なる勢力の本質的役割は、「アラブの春」=民衆自身による民主主義運動への反革命であることをはっきりさせる必要がある、と私は考えている。この点についていかなる幻想をも持つべきではない。
そしていま新たな危機の焦点としてトルコが浮上している。それはエルドアン大統領のAKP(公正発展党)政権が、クルド人政党として六月総選挙で大躍進を遂げたHDP(人民民主党)やPKK(クルド労働者党)に全面的な内戦を発動しているという問題である。トルコAKP政権は「ISとの闘い」ではなく、「テロとの闘い」を名目にクルド人政治勢力の全面弾圧に踏み込んでいる。 (つづく)


もどる

Back