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    かけはし2015.年11月16日号

バブル期の「夢物語」は過去のこと


寄稿

郵政株式上場を考える(上)

民営化とは一体何だったのか?

国際的にも破綻が広がる


はじめに


「〜これらの株式が国民全体の財産であることに鑑み、その処分に当たっては、ユニバーサルサービスの確保に配慮しつつ、可能な限り株式が特定の個人・法人へ集中することなく、広く国民が所有できるよう努めること」。
これは二〇一二年に参議院で成立した郵政民営化法(改正)の付帯決議である。そもそも郵政民営化の目的とはなんだったのか、それを今正確に論じることができる者がいるだろうか。ようするに今となっては結局「一億総カジノへご招待」というような空疎なドラマの結末を見るようなことになってしまったのではないか。付帯決議の結語はその皮肉な現実として眼前にあるだろう。

NTT株放出時の失敗を教訓化
「安価で安定した長期投資環境」演出


一九八七年二月九日、NTT株上場。IPO(新規公開株)初値一株一一九万七〇〇〇円。約三カ月後の四月二二日には初値の三倍近い三一八万円の高値を付ける。当時の日経平均株価は同年二月九日時点で二万円弱、現在とさほど変わらない。しかしそれから一気に加熱、バブル絶頂期の一九八九年一二月二九日に三万八九五七円四四銭の日経史上最高値を付ける。
二〇一五年一〇月三一日、同NTT株、一株四四八六円。
一一月四日、日本郵便を除く郵政株上場。グループ三社の売り出し価格は、日本郵政一四〇〇円、ゆうちょ銀行一四五〇円、かんぽ生命保険二二〇〇円。購買単位は一〇〇株単位。三社そろえて最低購買株数を揃えても五〇万五〇〇〇円。これは絶妙に計算された政治的値付けだろう。NISA(少額投資非課税制度、二〇一六年からは非課税枠一〇〇万円→一二〇万円に増額予定)枠にも十分収まる。
とはいえ三社を合わせた市場からの資金吸収額は一兆四〇〇〇億円超。この額は、昨年のすべてのIPOをあわせた額を上回るという。公開時三社合計時価総額は約一四兆一四五〇億円。上記一九八七年二月のNTT(一八兆六七三二億円)に次ぐ史上二位。
証券投資史上、バブル期以来の最大のイベントである。
その大イベントを担うべく、日本郵政IPOを取り扱う主幹事証券会社はこれまでに一一社も指定された。例のない数だという。

*主幹事一一社の内訳。
(国内区分)大和証券、野村證券、みずほ証券、三菱UFJモルガン・スタンレー証券、SMBC日興証券
(海外区分)ゴールドマン・サックス証券、シティグループ証券、JPモルガン証券、UBS証券、
(国内特定区分)岡三証券、東海東京証券

 そしてこの一一幹事の他にも、この国の全証券会社約八〇社中約六〇社が郵政株を取り扱うといわれ、新規口座開設営業を精力的にかけてきたという。さらに証券会社をグループ系列傘下に持つ大手都市銀行にいたるまで窓口営業を行っている。「みずほ銀行が個別株として初めて窓口で取り扱う。三菱東京UFJ銀行も窓口で販売、三井住友銀行もグループの証券会社を紹介する体制を整えている」という(日経9月24日付)。
今回のIPOでは、持ち株会社の日本郵政、ゆうちょ銀行、かんぽ生命保険の三社につき、それぞれの発行株式総数の一一%が売り出される。その内八〇%が国内向けで二〇%が海外向け。さらにこの国内向け販売株の九五%が個人株主を対象にしている。冒頭の国会付帯決議、「可能な限り株式が〜広く国民が所有できるよう努めること」に則り、機関投資家は遠慮してくれということだろうだが、当の機関投資家からの不満は聞こえてこない。市場マターではなく政治マターなIPO、実は証券・金融各社にしてみればそれは渡りに船であったに違いない。

一億総カジノへ御招待


たしかにかつてのNTT株上場のときと同様に、これまで投資などしたこともない膨大な新規の個人投資家が市場に参入してくるだろう。しかし今、バブル絶頂期の株式高騰の再演は二度とない。証券会社にとってそもそもこんなに安い株価では市場で大ばくちを打つほどのロットを揃えづらい。浅く広く口座開設手数料を稼いだ方が堅実。今回はNISAの枠内にも余裕で収まる安価な株価。株の口座を開く側にしてみれば、儲けも少ないだろうがバブル期のように大きなやけどを負うこともないだろう。
その安心感を売りに各証券・金融会社はこぞってキャンペーンを張ってきた。金利が限りなくゼロに近い銀行に預けるよりは高配当、バクチではなく長期保有株として老後の安心を、と。証券会社にとっては、膨大な新規口座の開設と共に獲得した膨大な新たな顧客に対して、また新たな営業機会がいくらでも増えていくということでもある。株は郵政株だけではない。他に魅力的なバクチがいくらでもあるのだと。最初の実入りは少なくとも長期的に賭場を維持していくに十分な魅力ある顧客獲得のチャンスであると。
各銘柄一〇倍から三〇倍の事前応募があったと伝えられる。すでにヒートアップ気味だったが、過度の期待を顧客に持たせないようにするためか、マスコミ等で流れる情報・分析は抑え気味だった。郵政事業に成長力は期待できないだろう、と。
おそらく郵政株はそれほどの乱高下をすることもなく比較的落ち着いた値動きになるのではないか。それはバクチ株ではないのだ、この値段では。そうすると今抽選に漏れても一一月四日以降は市場による売買も順調に推移するだろう。さらなる安心感が出てくる。今後も少なくない小口株主が得られるのではないか。

 一一月四日上場日初日の株価状況を記しておく(表1)。
初日、かんぽ生命はほぼストップ高に近い値を付けたが、これはかんぽ生命だけその売り出し株数が少ないためということもある(表2)。

アベノミクスのスローガンの一つ、貯蓄から投資へ。証券会社にとってはまるで一億総国民からバクチの手数料を巻き上げるよう官からお墨付きをもらったに等しいだろう。官民挙げて言祝ぐべきは郵政株式上場である。郵政事業自体の成長力? まだまだ今のところ最大の株主は国な訳だし、先々のことはそのときに考えればいいだろう。常態的赤字体質の日本郵便の株は上場しないのだし。
ただし、証券アナリストが最後に必ず付け加えるこの一言については、私も保険として添えておきたい。海外事情によっては相場は急展開することもあり得る。

株式放出後の郵政事業
 ユニバーサルサービスの中身


日本郵政グループの営業収益はほぼ金融二社のそれに依っている。日本郵便に至ってはゆうちょ銀行からの毎年六〇〇〇億円強もの委託手数料が最大の収益源。かんぽ生命からのそれを合わせると約一兆円。それによってかろうじて全国二万四〇〇〇局余の郵便局網を維持している。しかもその八割の局は赤字経営で残り二割の都市部の郵便局の収益が地方の郵便局網を支えている構造になっている。
ゆうちょ銀行にしてみればその営業経費約一兆円強の五割以上にのぼる経費を郵便局に支払っていることになる。全国二万四〇〇〇局余の郵便局にゆうちょ銀行の窓口、ATMがあるが、本社直属の支店・営業所は全国わずか二三四カ所しかない。九九%以上は日本郵便の郵便局に窓口業務を委託。つまり日本郵便の収益はゆうちょ銀行のそれに依るが、ゆうちょ銀行の営業はもっぱら日本郵便の八割の赤字郵便局網に依っている、という相互依存関係になっている。
よくいわれるユニバーサルサービスの義務について。郵政民営化法にそれが義務づけられているのは、日本郵便に対してだけである。金融二社にはその縛りがない。金融二社はいずれその全株を放出し名実ともにそれぞれ独立した金融機関として自立することが前提になっている。つまり、そのときにゆうちょ銀行の株主が、営業経費の五割以上もの資金を、赤字を垂れ流し続ける事業に支出することをよしとするかということになる。
日本郵便は早晩金融二社の上がりに依存する経営を改め自立した経営を目指さなければならないが、郵便事業は端的にいって儲かるわけがない。

世界の郵政民営化
  ―その惨憺たる光景

 新自由主義政策の象徴としても、かつて世界的に郵便事業の民営化が進められた。熱に浮かされたように。
その端を発したドイツポスト、郵政民営化最大の成功例? しかし今や当時の勢いはない。一九九八年、ドイツポストは米DHLを傘下に収め華々しく国際物流市場に参画した。世界の郵便事業民営化のお手本ともされた。二〇〇八年、DHLはそのアメリカ市場から全面撤退、二〇一一年には中国市場からも撤退している。ドイツ国内の郵便局網も壊滅。ドイツの郵便局は全国的文具チェーン店などに間借りするなどして営業。日本のような郵便局は街からすべて姿を消している。
当時ドイツに続いて国際物流に乗り出したオランダTNT。かつて郵政公社時代、生田総裁下の経営陣はこの国際物流参入のとっかかりとして一時TNTとの提携を模索したが、双方の思惑が食い違い話はご破算になったことがある。今年四月に米フェデックス社がそのTNTの買収方針を発表。現在欧州公正取引委員会で審査中だが、すでに最大株主のオランダ郵便会社はその買収について了解済み。
ニュージーランド、二〇〇二年。小泉首相直々にその郵政民営化先進地を視察したとき、自由化された郵便事業市場に参入した民間郵便事業会社はそのときすでに破綻していた。その業者の封鎖された青いポストの前に立つ小泉首相の写真が配信されていたのが記憶に残っている。その後紆余曲折を経たニュージーランドポスト、今年からその郵便配達は週三日に短縮、郵便料金もこの一〇年で倍に。
カナダ、二〇一三年末に今後五年間で郵便の戸別配達を全面廃止すると発表。現在、都市部も含めほぼ戸別配達は行われていない。郵便は近くの集合ポストか街の商店に間借りしている郵便局などへ取りに行かなければならない。
イギリス、近代郵便制度発祥の国。郵便事業民営化方針に対しては二〇〇〇年代を通じて労働者による激しいストライキ抵抗闘争が頻発。しかし二〇一三年のロイヤル・メールのIPOはいきなり初値の三八%もの高値を付け市場を湧かせる。今年、その全株放出、完全民営化。その過程で約三万人の人員削減、郵便局はコミュニティー経営という名の下、地方財政の持ち出しによって一万二〇〇〇局(〇七年時点で一万四〇〇〇局)を維持。
アメリカUSPS、正式名称「アメリカ合衆国郵便公社」、つまりここは民営化されていない。二〇一三年一〇月、「米郵便局が倒産」の報。「今月の支払い五五億ドル(約四〇〇〇億円)の資金繰りがつかず、事実上デフォルトする模様だ」。すでにその年の六月末時点で一九五億ドル(約一・五兆円)の債務超過を抱えていたという。その年、USPSが出した今後5年間の再建策が、
1)土曜日の集配中止
2)三七〇〇カ所の郵便局閉鎖
3)郵便集配センター最高三〇〇カ所閉鎖
4)レイオフ一二万人を含む二二万人の従業員削減
というもの。
世界各国どこも郵便事業は破綻の淵にあるが、あまり大きなニュースにはなってこなかった。金にならない事業は誰も興味がないということだろう。しかし、実際もう郵便事業はフェードアウトしていくだけのスクラップ産業でしかないのだろうか。   (つづく)
(丸池忠怒)

表1 郵政株上場  初値速報 14:00 終値   

日本郵政:  1400円→1631円(17%) →1744円 →1760円(25・7%)
ゆうちょ銀行:1450円→1680円(16%) →1684円 →1671円(15・2%)
かんぽ生命: 2200円→2929円(33%) →3430円 →3430円(55・9%)

表2 株式売り出し数   

日本郵政   3億9600万株
ゆうちょ銀行 3億2995万株
かんぽ生命    5280万株

 

【訂正】本紙前号(11月9日付)1面10・28集会の下から2段目右から12行目の「反原発・反TPPへの闘い」を「反原発・反TPPの闘い」に、3面10・26集会の上から3段目左から15行目以下の「許されない、と述べた。そして原発被害者」を、「許されない』と述べた。そして『原発被害者」に訂正します。



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