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    かけはし2015.年11月30日号

エネルギー産業の支配を永続化
させる欺瞞的合意を許すな!



COP21

システム変革を目指すクライメート・ジャスティス運動の発展

パリに呼応して全国で行動を


〇九年以降のCOP交渉の後退と変質

 一一月三〇日から一二月一一日までフランス・パリで国連気候変動枠組条約第二一回締約国会議(COP21)が開催される。
気候変動対策をめぐるCOPにおける交渉は、〇九年にデンマーク・コペンハーゲンで開催されたCOP15の失敗以降後退を重ね、京都議定書の第一約束期間(〇八―一二年)以降の温室効果ガス排出削減目標を設定することもできず、決裂させないことのみを目標として空疎な合意を繰り返してきた。
COP15以降の交渉の中で、米国・カナダ・日本の執拗な妨害の結果、京都議定書の重要な原則である「拘束力を伴う削減目標」と「共通だが差異のある責任」が否定された。代って、すべての加盟国が努力目標を提出し、それをベースとした二〇二〇年以降の排出削減に向けた新しい枠組みを一五年のCOPで合意することとなった。
この間の交渉ではエネルギー産業を中心とする多国籍企業のロビイストたちが大きな影響力を及ぼし、具体的な目標の先送りやさまざまな抜け穴の導入を画策してきた。COP交渉の初期には市民団体やNGOが「南」の諸国と連携して各国政府の態度に一定の影響力を及ぼしてきたが、最近では「南」の諸国の分断と買収が奏功し、EUと米国が相互に対立しつつも、交渉の主導権を確保している。
昨年のペルー・リマでのCOP20の直前に米国のオバマ大統領と中国の習近平国家主席によって米中合意が発表された。この合意について「フォーカス・オン・ザ・グローバルサウス」のワルデン・ベロは次のように指摘している。「(この合意が)義務性のない排出削減目標を設定する一方的で不透明なプロセスの先例となったことにより、一五年一二月のパリでのCOP会合で、排出削減義務をベースとした、より厳格な気候変動抑止の体制を確立するという希望が打ち砕かれた」、「米中の合意は発展途上国に、金持ちの先進国こそが『共通だが差異のある責任』の原則に従って排出量削減の負担を負うべきであるという確固とした立場から名誉ある撤退を行うための言い訳を提供した」(ワルデン・ベロ「米中合意がリマ会合(COP20)を座礁させた」、ATTAC Japan首都圏のブログより)。

二〇二〇年以降の枠組―各国の約束案は全く不十分

 COP21は二〇二〇年以降の枠組を決定する会合として位置づけられている。そのベースとして、すべての国が二〇二五年および二〇三〇年に向けた温暖化対策の目標案を提出することとされ、すでに大部分の主要国が提出している。
EUは一四年一〇月に「三〇年までに排出量を一九九〇年比で四〇%削減」、「再生エネルギーの比率を二七%以上に」等の目標に合意した。
米国は昨年一一月の日中首脳会談において、「二五年までに〇五年比で二六―二八%削減する」という目標を発表した。
中国は同首脳会談において、「三〇年ごろまでに排出量のピークを過ぎるようにする」という目標を発表した。
日本政府は「三〇年に排出量を一三年比で二六%削減」という目標を提出した(九〇年比では一八%の削減)。
気候変動対策の実施状況を調査している四つの国際的な研究機関が共同で運営しているクライメート・アクション・トラッカー(CAT)によると、各国が提出している温室効果ガス削減目標の合計と、二一〇〇年までに地球上の気温上昇を二度または一・五度以内に抑止するという目標のために必要な削減量には大きなギャップがある。CATは各国の目標を多角的に検討し、日本、ロシア、カナダ、韓国、オーストラリア、ニュージーランドの目標を「不十分」と評価している。ちなみに米国、EU、中国は「中程度」と評価されている。
日本の目標を「不十分」としたCATの評価に関連して東北大学アジア研究センター教授(環境科学科教授兼任)の明日香壽川は、次のように指摘している。
「……経産省が管轄する『長期エネルギー需給見通し小委員会』でのエネルギーミックスの議論が最初にあって、その結果を踏まえて『二〇三〇年度に排出量を一三年比で二六%削減』という数値目標が決定された……
日本での議論においては、@『二度』目標やカーボン・バジェット[炭素予算]を考慮した公平性や野心度に関する議論、A長期的な視点に基づいた議論、などがほぼ欠如していた。……安倍首相は『日本の目標は国際的に遜色のない野心的なもの』と発言した。しかし、あくまでもこれは国内に向けての発言であり、国際交渉などに関する状況を十分に理解した上での発言とは考えにくい。いずれにしても、国際社会に対する説得力はきわめて乏しい」(「クライメート・ジャスティス」日本評論社刊、一五四ページ)
COP21においては、各国の目標の妥当性の評価方法、今後目標を高めていくための方法、「南」の諸国への技術移転と資金援助などをめぐって、さまざまな駆け引きが展開されるだろう。
しかし、現実には各国は温暖化の促進に最も直接に寄与している化石燃料の開発を競い、「省エネ」と銘打った自動車や家電製品の消費を煽ることで大量生産・大量浪費のシステムを維持しようとしている。また、各国の削減目標には原子力発電の利用や、炭素貯留技術のような未確立の技術の利用、排出量取引やREDD(森林の減少 ・劣化の防止による森林からの排出削減)などの、必ずしも実際の削減に対応しないメカニズムが組み込まれている。
環境運動団体や、地球温暖化の影響を最も直接に受ける南アジア、アフリカ諸国や島嶼国からは、必要とされる努力とはかけ離れた低い目標設定への憤り、危機意識が共有されていないことへの苛立ちや不信が表明されている。

異常気象・巨大災害、予想を超える速さで進行する危機

 地球温暖化の影響はすでに、毎年のように繰り返される異常気象、巨大災害として顕在化している。アフリカ・中東地域では干ばつ・水不足は大量の難民の発生や戦争の危機と結びついている。
インドネシアでは今年七月以降、スマトラ島南部とカリマンタン島中南部を中心に大規模な森林火災が発生し、五〇万人以上が呼吸器疾患に陥り、死者が十数人に達している。六つの州に非常事態が宣言され、隣接するマレーシア、シンガポールにも影響が拡大している。オランウータンなどの絶滅危惧種も存亡が危ぶまれている。
火災発生地域の半分以上が泥炭地であり、大量の二酸化炭素が蓄積されている(ジョコ大統領は一〇月に今後、泥炭地でのプランテーション開発を許可しないと発表した)。
インドネシア気象・気候・地球物理庁のヌグロホ報道官は「凄まじい規模の人道に対する罪だ」と語っている(英国「ガーディアン」紙一〇月一五日付)。この火災による一日あたりの温室効果ガス排出量は米国の一日あたり排出量を上回ると推測されている。
インドネシアでは主にパーム油(マーガリン、シリアル食品、カップラーメン、シャンプー、洗剤などに使われる)と製紙用パルプの生産のために森林の乱開発が行われてきた。日本などの諸国における大量消費に対応するためである。今回の巨大災害は乱開発に伴う泥炭地の乾燥と、エルニーニョ現象、干ばつなどの要因が重なって発生した。自然現象と人為的現象が結び付き、その結果さらに大量の温室効果ガスが排出されるという循環となっている。
日本においても、今年、「観測史上最大」と形容される豪雨が各地を襲い、洪水、土砂崩れの被害が相次いだ。世界各地で四〇度を超える猛暑が記録された。一一月三日には内戦下のイエメンで観測史上初めてのサイクロンが、年間降雨量一〇〇ミリというこの地域に、二日間で五〇〇ミリの大雨を降らせた。
予想を超える速さで進行する気候変動と地球環境の危機を前に、対策をこれ以上先送りすることはできない。地球の気温上昇を二度あるいは一・五度の範囲内に抑制するという最低限の目標すら、今すぐ効果的な対策に合意し、実施しなければ、ますます達成が困難となる。
「……事態はこれ以上明白になりようがないところまで来ている。しかし大多数の人々は、危機感を持って進路を変えるために全力を尽くすのではなく、わかっていながら、今までと同じ道を進み続けている」(ナオミ・クライン「『今そこにある明白な』危機」、『世界』一二月号)。

農民団体や島嶼国代表がボン準備会合での合意草案を厳しく批判


一〇月一九〜二三日、ドイツ・ボンでCOP21に向けた最後の準備会合が開催され、COP21の合意草案が発表された。
「地球の友」オーストラリアのブログに掲載されているレポート(同二六日付)は次のように述べている。 「……準備会合は失望と混乱の中で閉会しようとしている。軟弱な交渉用文書は先進国に圧倒的に有利な内容であり、パリにおける交渉が不十分なものになることを示唆している。先進国はいくつかの交渉の会場からオブザーバーを排除しようと試みたが、発展途上国はそれに反対した。
……現在交渉のテーブルに上っている案は、発展途上国による努力を促すものであるが、それだけでは破滅的な気候変動を回避することはできないだろう。金持ち国が劇的に心を入れ替えない限りはである。われわれは金持ち国がただちに自分たちの公平な負担を引き受けることを確約することを必要としている」。
小島嶼国連合を代表するモルジブのアムジャッド・アブドゥラ環境相は、「草案は発展途上国の考えを反映していない。草案のテキストに挿入するためにまる一日かかった」、「軟弱な内容の合意なら、合意がない方がましだ」と語っている。
国際的な農民団体、ビアカンペシナは、草案に組み込まれているREDD+について、森林保全の名の下に農民や先住民族の農地や森を保全区域、あるいはプランテーションに変えようとするものだと批判している。
WWF(国際気候基金)Japanのウェブでは、ボン会合で途上国から多くの修正意見が出たが、「結果として見ると、各国の提案が盛り込まれ、COP21における合意に向けて、希望のもてる草案になりました。まだまだ、対立点を多く残した状態の草案であることに加え、交渉のペースが依然として遅いなど、課題は多いですが、COP21へ向けて、なんとか素地を作ることに成功した会議でした」と報告されている。
このような評価は、先に紹介した準備会合および合意草案への批判と比較した時、先進国NGOの側からの願望の投影ではないかと思われる。

クライメート・ジャスティスの運動の前進―米加間のガス・パイプライン建設を阻止


COP交渉が空転し、後退と変質が進む中で、環境団体、農民団体をはじめ広範な社会運動団体による「クライメート・ジャスティス」の運動は、気候変動を止めるにはシステムを変えなければならないという観点から、エネルギー企業やアグリビジネスに代表される多国籍企業の支配に挑戦するラディカルな運動を拡大してきた。
「クライメート・ジャスティス」は「気候正義」と訳されることが多いが、正義と悪という二元論を含意しているのではなく、ジャスティス(公正)がキーワードである。それは、気候変動にいかなる責任も負っていない「南」の諸国や小さな島嶼国が最も大きな影響を受けることの不条理、自らの歴史的責任を認めず新興国に温暖化防止の責任を負わせる「北」の「先進国」の横暴への憤りを表現している。
前出の明日香壽川「クライメート・ジャスティス」はCOP交渉の脈絡の中で、この観点からの各国の気候変動対策のあり方に関して検討を加えている。専門的な議論であり取っつきにくいが、「公正」というキーワードから各国政府に野心的な対策を求めているという点で好感が持てる。
〇九年のCOP15の失敗の後、一〇年四月にボリビアのコチャバンバで、モラレス大統領の呼びかけで「人民の気候サミット」(気候変動およびマザーアースの権利に関する世界民衆会議)が開催された。一三年と一五年にチュニジアで開催された世界社会フォーラムで、世界の社会運動団体による「気候スペース」が開催された。一四年九月にはニューヨークで行われた気候変動対策を要求するデモに四〇万人が参加した。
クライメート・ジャスティスの運動の中では、特に化石燃料の開発に反対する直接行動が各地で発展してきた。その大きな成果として、一一月六日に米国のオバマ米大統領は、カナダから米テキサス州に原油を運ぶ「キーストーンXLパイプライン」の建設計画を却下した。このパイプライン計画に対しては建設地周辺の住民のほか、米国とカナダの環境運動団体や労働組合、オキュパイ運動活動家などが七年間にわたって反対運動を続けてきた。
このほか世界各地でシェールガス開発や石炭火力発電に反対する行動が続いている。
重要なことは、再生可能エネルギーの活用が加速度的に広がっている中で、温暖化対策と脱原発を対立させる誤った議論を克服する基盤が広がっていることである。クライメート・ジャスティスの運動と脱原発の運動を意識的に結合することがますます重要になっている。

対テロ戦争を口実としたデモ・集会規制に抗して、パリと全世界で行動を


COP21に向けて、世界の社会運動団体は一連の大規模な行動を計画し、呼びかけてきた。ビアカンペシナやATTACフランスなどの団体がその中心を担っている。
主催国であるフランスのオランド大統領は、一月のテロ事件以降、中東への軍事介入を深める一方、国内ではテロ対策に名を借りた言論抑圧を繰り返してきた。COP21に向けても、集会・デモへの規制、海外からの活動家の入国に対する監視の強化の方針を打ち出してきた。一一月一三日のパリにおける大規模テロに対して、オランドは即座に「テロとの戦争」を煽り、シリアに対する空爆を強化している。COPの会場の周辺での行動は大幅に規制される可能性がある。
フランスの活動家たちは困難な状況の中で、COP21に向けた一連の行動の成功を期している。
米国やNATO諸国は気候変動の問題を気候難民の問題や、水・食料の奪い合いを伴う安全保障戦略の中に位置づけており、「テロとの闘い」もその一環として組み込まれている。ここには、気候変動問題を人類全体、とりわけ脆弱な立場に置かれている人々の生存にかかわる問題としてではなく、自分たちだけが生き延び、新たなビジネス・チャンスを独占しようとするシニシズムが貫かれている。
一一月二八〜二九日にパリと全世界で計画されているグローバル・マーチ(日本では二八日に東京、二九日に京都で集会・デモが呼びかけられている)、一二月五〜六日の民衆の気候サミットと気候フォーラム、同七―一一日に開催されるクライメート・アクション・ゾーン、そしてCOP会合終了後の一二月一二日に予定されている大規模なデモなどの行動に世界の民衆の創意とエネルギーが結集する。
この闘いは九九年一二月のシアトルにおけるWTO反対の闘いが新自由主義グローバリゼーションに反対する世界の運動の飛躍的発展の契機となったように、「テロと戦争」の循環を根本から断ち切り、世界の民衆の連帯を再構築するあらたな飛躍の契機ともなるだろう。
パリでの闘いに呼応して、全国でクラメート・ジャスティス、グローバル・ジャスティスのための行動を!
(小林秀史)



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