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    かけはし2016.年1月18日号

気候変動にも原発にもNON


寄稿 COP21対抗アクションに参加して(下)

「福島のいま」に大きな関心

寺本 勉(ATTAC関西)

パリの街角で感じたこと

 ガイドブックなどで承知していたものの、パリは予想以上に多人種都市だった。私がよく乗るメトロの路線は、パリの東部を走っていて、乗客の多様さに驚かされたが、特にアフリカ系の人が多いと感じた。ホテルの清掃やベッドメイキング、朝食の担当もみなアフリカ系の女性だ。
メトロに乗ると、時々ギターを弾きながら歌っている人に出くわす。大道芸的な感じで、演奏や歌が気に入った人はお金を入れる。ただ、街角では通りすぎることができても、メトロの中では否応なしに聞かざるをえない。演奏や歌の善し悪しで、メトロの雰囲気が変わってしまう。モントロイユに行く途中で聞いたアフリカ系男性の歌には、私も含めて乗客が聞き入ってしまい、一曲終わるたびに拍手が起きるほど。こういうのに遭遇すると、得したなという気分になる。
そうかと思うと、ある駅でオペラ(多分)の一節を歌っている男性がいた。例の大道芸かと見ていると、横で気候変動を訴えるパンフレットを配っていたということもあった。

民衆フォーラ
ムの会場にて


「グローバル・ヴィレッジ」のテント村と並行して、モントロイユ市の高校で「民衆サミット」が開かれた。一二月五日、六日の二日間で一〇〇を超えるワークショップやカンファランスが行われた。パリに行く直前になって、CADTM(第三世界債務帳消し委員会)などいくつかの社会運動団体からワークショップへの招請が飛び込んできた。その中から、CADTMが関係している二つのワークショップとカンファレンスに参加することにした。
一二月五日の正午過ぎ、テント村から少し坂を登って会場の高校まで出かけた。この高校は相当大規模校のようで、教室や多目的ホールなどがワークショップ会場として使われていた。教室の壁には、生徒の作品が貼られていたりして、高校の授業の合間にフォーラムが開かれている雰囲気だった。高校に着くと、グラウンドに主催者の露店が出されていて、ちょっとした軽食を売っている。私もオーガニックのサンドイッチとジュースを購入し(五ユーロ)、校舎横のベンチで遅いランチを食べた。

「環境債務」についてのワークショップ


一二月五日に開かれたCADTMのワークショップは「環境債務(Ecological Debt)」がテーマだった。「環境債務」という言葉になじみがない人もいるだろう。気候変動は先進工業国によって生み出された(現在までの炭素排出の七五%は、世界人口のわずか二〇%が引き起こしてきた)にもかかわらず、気候変動の影響は世界で最もこの危機に責任のない途上国が受けている。気候変動の最前線に置かれた途上国は、気候変動を引き起こした金持ち国は途上国に借りがあるのだから、この危機を招いたことについて補償の義務を負っていると主張している。これが「環境債務」という概念である。
具体的には、途上国が化石燃料に代わって再生可能エネルギーを導入したり、気候変動の被害を最小限に押さえたりするためにかかる膨大な資金を先進国が負担すべきである、つまり「汚した者が金を出す」という考え方である。
さらに加えて、このワークショップで、CADTMフランスのニコラさんが指摘したように「先進資本主義国による植民地支配の歴史的な負債、途上国の自然資源の収奪、廃棄物の途上国への輸出」なども広い意味で環境債務と言える。同時に「これらは金融債務とは違って隠された債務だから、COP21でも問題にされていない」のだ。
CADTMアジアのサスホボンさん(インド)は「途上国の大多数の生活水準を向上させる闘いと先進国に環境債務を支払わせる闘いの両方が必要だ。気候変動に起因する津波などの自然災害の被害に対して、政治的・経済的利害に基づく援助ではなく、債務を帳消しするように求めることも先進国と途上国の連帯した闘いになる」と指摘した。
議論の中で、私に対して、福島原発事故と環境債務について発言を求められ、「日本が原発輸出を進めようとしていることが一種の環境債務だと考えている」と答えた。すると、福島原発事故について、参加者から「原発の稼働状況は?」「汚染が続いているのか?」「再稼働についての市民の反応は?」など質問が相次いで出された。その中で「原発が運転していない状況で電力をどうやっているのか?」という質問があった。別のワークショップでこの質問について話すと、フランスの脱原発活動家から「そういう質問が出るのはよく分かる。フランスの市民は、原発で電力の多くが生産されている状況に慣らされてしまっている。福島の事故以降、原発に疑問を持つようになっても、原発がなくなって今の生活水準を維持できるかどうか、まず不安に思ってしまう」と言われ、原発大国フランスがもたらす市民の意識状況を思い知らされた。

ワークショップ「人民主権VS免罪の構造」

 一二月六日午前中、「人民主権VS免罪の構造」というワークショップに参加した。多くの団体が参加するワークショップで、同時通訳つき(その正確さはさておくとしても)。
世界各国における多国籍企業による人権侵害、自然破壊とそれとの闘いがテーマで、ブラジル、フィリピン、モロッコ、モザンビーク、コロンビア、フランス、エクアドルの参加者からレポートがあった。フィリピンのレポーターは、フォーカス・オン・ザ・グローバルサウスのジョセフさん。日本にもよく来ているし、WSFなどあちこちのフォーラムで一緒だった旧知の活動家である。
報告されたレポートのいくつかを紹介しておこう。
「モザンビークのほとんどの農家は、自給自足的な農業をしている。プロサバンナ・プロジェクト(日本主導で進められている農業開発計画)に対して、私たちはNOを突きつけて、地域の人々の権利を守るために闘っている。日本企業は住民と対話をするといっていたが、これは嘘だった。開発の名のもとに農民の生活はますます悪化している。鉱山開発が共同体の真ん中ではじまり、住民が立ち退かされている。国際的な連帯の闘いが必要だ」。
「日本企業を含む各国の資本がブラジルの多くの地域で、輸出用農産物生産のプロジェクトを進めるために土地を奪っている」。
「コロンビアにおいて、スウェーデンの多国籍企業がダム建設を進めている。鉱山開発には安価なエネルギーが必要で、電力供給のためにダムが建設されている。これまでに五〇人が殺され、地域のコミュニティが強制移動させられた。軍隊が鉱山を守っており、人権に対する構造的侵害が行われている。ダムが低炭素社会の解決策であるというのは嘘だ」。
「エクアドルのアマゾン地域では、森林破壊が進行している。われわれは環境に敬意を払い、人と自然の結合をめざしている。二二年間にわたる多国籍企業の土地占有に対して闘っている」。
報告の後、司会が「報告された七つのケースは、いずれも気候変動と結びついている。気候危機と人権危機とは切り離されない。企業の力を解体することなしには、次の展望はない」とまとめた。

街角でみた選挙
キャンペーン


パリ滞在中は地域圏選挙キャンペーンの真最中で、街角のあちこちに選挙ポスターが貼られていた。ポスターを貼るスペースは日本に比べて大きく、党派ごとに決まっているようだった。私が見た限りでは、極右・国民戦線のポスターは必ず破られていた。帰国後に読んだ新聞報道によると、ポスターが破損させられていたのはパリなど大都会に限られていたようである。
パリで会ったフランスの活動家の多くが、国民戦線の躍進を予想し心配していた。広域州の首長は取れなかったものの、この心配は現実のものとなってしまった。一年半後の大統領選挙で、第二回投票が「サルコジ対ルペン」になったらどうしようという声も聞いたが、大阪ダブル選挙の比ではない「究極の選択」になってしまう可能性がある。

日本での核問題フォーラムに向けた準備会合

 パリ訪問の目的の一つ、「核と被ばくをなくす世界社会フォーラム2016」の準備と宣伝について、まとめておきたい。このフォーラムの開催は、二〇一四年一〇月にブラジルのシコ・ウィタケーさんが来日した際に提唱したもの。シコさんは世界社会フォーラム(WSF)の発案者の一人で、現在は「原発のないブラジル連合」を率いている。昨年三月のWSFチュニジアでも会合を持つなど、三月開催に向けて準備が進められている。
パリでは、一二月二日、八日にフランスの脱原発活動家とともに準備会を開催した。また、「グローバル・ヴィレッジ」での宣伝用ブースの設置、「民衆サミット」でのワークショップの開催などを通じて、フォーラムの宣伝活動をおこなった。この活動は、日本からの参加者に加えて、パリ在住でATTACフランスのメンバーであるKさんの多大な尽力によって実現したもので、他にもパリで活動する何人かの日本出身の方々にお世話になった。
一二月二日の会議では、冒頭にシコさんがサンパウロからスカイプを通じて発言した。「昨年一〇月に日本を訪問した時に、このWSFのアイデアがでてきた。日本訪問で、反核運動をしている活動家がお互いに孤立しているのではないかと感じた。共同でものを考え、意見を交換できるスペースを作っていきたい。誰かが上から話をするのではなく、下から意見を言っていくというフォーラムにしたい。あらかじめテーマを決めるのではなく、参加したい人がテーマを持って来るというフォーラムを考えている」。
シコさんは、三月の日本開催をこの課題別フォーラムの第一回目と考えていることも明らかにした。
続いて、日本で準備活動を中心的に担ってきた小倉利丸さんが問題提起を行った。小倉さんは、フォーラム開催にあたって考えなければならない課題として、「福島の原発事故は全く収束していない。廃炉作業や除染作業に携わる労働者の被ばくが深刻になっている」「これだけの重大な事故にも関わらず、国や原子力産業・企業は、考え方を全く変えていない。九月以降、原発の再稼働が進んでいる。さらに政府は原発の海外輸出を推進しようとしている」ことを挙げ、「原発先進国と第三世界の人々が核の問題で連帯できる枠組みを作っていくことが必要で、そのための小さな第一歩として、来年三月のフォーラムを開催したい」と述べた。

原子力専門家から見た原子力の現状

 一二月五日の午後四時半から、「民衆サミット」の会場で、「核と被ばくをなくす世界社会フォーラム2016」についてワークショップが開かれた。
ここでは、ベルナール・ラポンシュさんの問題提起を紹介したい、ラポンシュさんは、日本でも明石書店から『フランス発「脱原発」革命』(共著)を出されている原子力の専門家だ。一九六〇年代には、初期のフランス原子力発電所建設に関わり、その後環境相の技術顧問や国連欧州経済委員会のエネルギー効率21プロジェクトの指導委員長などを務めるという経歴を持つ。
ラポンシュさんは、原子力の現状について次のように話された。
「いま原子力を取り上げるのは、気候変動を理由に原子力を売り込もうとしているからだ。エネルギー生産のうち、原子力の占める割合は五%くらいに過ぎない。前提として、先進国に偏っているエネルギー消費の不平等状況をまず考える必要がある」。
「エネルギー政策を考えるとき、気候変動や温暖化だけを考えるのではなく、いろんな要素(エネルギー源の埋蔵量、温暖化ガスの排出量、過酷事故、汚染など)を考慮する必要がある。エネルギーのうち、最終的に消費されるのは五三%で、三五%が電気の生産、運送のために消費される。電気について言えば、原子力の二倍以上を再生可能エネルギーが生産している」。
「原子力は、石炭、石油に比べると温暖化ガスの発生は少ないが、二・七%しか減らしていない。再生可能エネルギーは九・七%減らしている。国際機関による温暖化ガス削減のシナリオは、エネルギー節約、再生可能エネルギー、メタンガス排出減、化石燃料使用減が重要だと指摘し、原子力は入っていない」。
「原発の問題点として、核廃棄物の処理・長期にわたる管理、プルトニウム、ウラン濃縮技術が流出する危険などがある。廃棄物は深く埋めてはならないと考える、長期的に見ると忘れ去られる可能性、管理が困難になる可能性があるからだ」。
「原子力による発電量は一九九八年がピークで、原発の老齢化が進んでいる、原子力への投資額も低迷している。ウラン埋蔵量から見ても、原発建設の費用は高騰、原発維持は経済的に成立できない」。

福島原発事故
に強い関心

 「グローバル・ヴィレッジ」の一角に設営された私たちの宣伝用ブースには、常に何名かが詰めていて、訪れる人々への対応に追われた。特に六日の日曜日には、多くの人々がブースを訪れ、フランス語の説明文が付けられている福島原発事故被災地の写真に見入ったり、私たちに質問してきたりした。
「福島の状況はどうなっているか」以外にも、「原発は再稼働しているのか?」「再稼働について市民の反応は?」など、真剣な表情で質問してくる姿が印象的だった。ルーマニア出身の若者は、チェルノブイリ原発事故がすぐ近くで起きたことに踏まえて、福島での健康被害に大きな関心を持っていると語ってくれた。

3月反核WSF
2016の成功を


世界社会フォーラムの課題別フォーラムの一つとである「核と被ばくをなくす世界社会フォーラム2016」は、三月二三日〜二七日に東京と福島で開催される。途中からは、先行して開催されるノーニュークス・アジアフォーラムの参加者も合流する予定である。アジアをはじめ、ヨーロッパ・ラテンアメリカなどから数十名の海外代表を迎え、世界社会フォーラムの中で、新たに核問題を議論するスペースが誕生することになる。
特に核の軍事利用(核兵器)と商業利用(原発)の両方に明確に異議を唱え、さらに原発や廃炉・除染作業で働く労働者の被ばく・労働環境を国際的に課題にするという意味では、きわめて大きな意義を持つフォーラムになると思う。その成功のためには、途上国からの参加者の旅費を含めて、多大な費用が必要となる。
「かけはし」読者の皆さんにも旅費カンパとフォーラムへの参加を訴えて、私のパリ報告を終えたいと思う。      (おわり)



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