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    かけはし2016.年2月8日号

前には困難な道が長くつづく


台湾

労働者の立場から台湾総統選挙を分析する(下)

真の相手は「資本主義ファクター」

2016年1月12日

毛翊宇(労働視野工作室)


両岸問題貫く資本の論理と利害


 蔡英文にとってこれらの問題はそう大きな問題ではないと考えているかもしれない。さらに大きな試練は今後訪れる。二〇一四年のひまわり運動の余波は、台湾民衆の中国共産党政府に対する強烈な拒否感を浮上させ、その強大な民意は国民党が当初強硬的に推進しようとしていた両岸サービス貿易協定を立法院で立ち往生させ、現在に至るまでも全く推進することができていないだけでなく、他の貿易協定に関する政策さえも政治的タブーとなった観があり、大手を振ってその推進を宣伝できないでいる。経済問題は単に経済の問題にとどまるわけではなく、貿易協定はこれまでも大国が政治的影響力を拡大する道具となってきた。台湾民衆は、中国共産党政府の官僚資本が「経済で統一を促進」して、台湾の民主主義を瓦解させるかもしれないという懸念を抱いているが、それは杞憂とは言えない。
実際のところ、両岸問題はたんに「中国ファクター」という単純なものではなく、中国共産党政府は近年来対外政策を積極的に推進しているが、インフラ投資から、はては軍事基地の建設や釣魚台および南海の主権等の動きの背景には、台湾の主権に対する野心とまったく同じ理由が存在する。つまり、中国資本主義の経済的命脈を確保し、アメリカと覇権を分担しあい、中国共産党政府の官僚ブルジョアジーの専制支配を維持するためである。
世界経済の成長エネルギーと将来的展望の欠如により、各国の資本はますます中国の市場と高度成長に依存しているが、中国という一党独裁の国家においてビジネスを展開しようとすれば、政治と経済の大権を一手に握る中国共産党と協力し、中国共産党の専制支配と周辺国家に対する覇権主義を支持しなければならない。これは世界的な現象であり、台湾系資本においても例外でない。もし中国共産党が台湾の主権に対して行っている国際的な攻撃を取り除いたとすれば、台湾の政治情勢に直接的な影響を実際に及ぼしているのは、郭台銘や王雪紅などの台湾系大資本のブルジョアジーたちのほうである。詳細に検討すればいわゆる「中国ファクター」というのは実際には「台湾ファクター」と「資本主義ファクター」によって構成されているのである。

蔡英文の屈服は早晩不可避

 蔡英文が台湾系資本のビジネス展開の前に立ちふさがり、大ブルジョアジーに対してノーを突きつけることができなければ、早晩この「中国ファクター」に対して頭を垂れざるを得ないだろうし、資本の利潤のために台湾人民の利益を犠牲にせざるを得ないだろう。蔡英文を支持する民衆の多くがいまだ彼女への幻想をもっている。しかし今回の選挙戦における両岸問題に対する彼女の立場である「現状維持」、「中華民国の憲政体制に従う」からは、民進党の態度が今後急速に国民党政府のそれに接近し、すでにほとんど区別のないものになることが予想される。その原因はほかでもなく、台湾資本の利益を考慮し、中国共産党政府との関係を悪化させたくなく、台湾民衆がもっとも関心をもっている主権問題において回避的態度をとっているが、それはおそらく今後の譲歩と妥協のための予防的方針である。
台湾のブルジョアジーは選挙期間中はこの民進党の政治的人物を許容できたし、両岸サービス貿易協定の条件づけにも不満を漏らすことはしなかったが、選挙が終われば必ずや全力で圧力をかけるだろう。民進党が抱える爆弾は、サービス貿易協定だけでなく両岸物品貿易協定にも及ぶだろう。この試練は今後ますます勢いを増すだろうし、それは民進党にとってだけでなく台湾民衆にとっても試練であり、その時われわれは、どれほどの民衆が、両岸問題における民進党の日和見的で大企業寄りの本質を見抜いているのかを知ることになるだろう。
二〇一四年のひまわり運動から二年近くを隔て、いまのところ民衆は両岸サービス貿易協定を真に阻止できてはいない。この二年来の国民党政権によって、われわれが関心をもっている各種の問題、すなわち基本産業と労働者に関する貿易自由化、労使間の分配不均衡と青年の将来展望の欠如、台湾人民の自決権に対する外部からの脅威などはますます悪化し、まったく改善の兆しを見せていない。そしていま国民党は有権者によって政権の座から引きずり降ろされようとしている。だが政権交代によって真の変革がもたらされると期待できるだろうか。これまで述べてきた分析からも、われわれは確実にこう言うことができるだろう。それはあり得ない、と。台湾の労働者は投票によって政府を選ぶ自由があるかに見える。しかし我々は二つの右派政党のあいだでの選択を迫られているのであり、新たな執政者に問題解決の意志と手段があるとは思えないのである。
選挙は政治の一部でしかない。現段階においては国、民両党によって政治権力が独占される構造にあり、権力エリートや政治家は選挙を通じて民意を人質にとっている。台湾の労働者が真の変革をあきらめないとすれば、われわれを待つのは欣喜雀躍(きんきじゃくやく)する開票日の夜ではなく、長くつづく困難な道である。

追記
二つの新勢力の
今後は不透明


国民党と民進党の二大政党のほかに、ひまわり運動によって誕生した二つの政治勢力、「時代力量」と「社会民主党」も今回の立法委員選挙に立候補した。民進党候補の蔡英文の当選がほぼ確実という状況下での選挙戦術として、時代力量は民進党と協力することを選択し、蔡英文の支持と補選への立候補を明らかにして、選挙区では民進党候補と争うことを避けた。民進党との関係で言えば監督よりも協力の色合いが強く、政治的分岐点は極めてあいまいである。
社会民主党は先にミニ政党の「緑党」と合同して「緑党社会民主党連盟」(緑社盟)を結成し、選挙区および比例区で候補者を擁立した。選挙戦序盤では、国民党の打倒と民進党に対する監督を政治的使命に掲げ、民進党との違いを明確にする路線を選択した。時代力量は知名度の高いメディア露出の多い社会運動アクティビストを主要な候補者に立てたことで、政党から票を奪った。緑社盟はみずからを左翼進歩政党と位置付けて、セクシャリティ、環境、労働などの政策理念を掲げ、それぞれの領域で長年活動してきたベテランの実践者を候補者にたて、ナショナリズム(注)と距離を置いた数少ない政党でもあった。
社民党は選挙に参加してから騒動が絶えなかった。社民党の結党呼びかけ人の範雲は、それまでは民進党と協力しないとしていたが、選挙戦の直前になって蔡英文への支持を打ち出し、宣伝においては民進党からの恩恵を受ける形となった。批判の力点は国民党と親民党の総統候補に向けられ、当初の民進党に対する鋭いスタンスは、女性候補としての蔡英文に対する賞賛に変ってしまい、民進党の保守的な労働政策に対しても言及しなくなり、いたるところで「隠悪揚善」がごとく民進党の良い面しか語らなくなった。
社民党の比例区リストには労働組合の背景を持った候補者もいて、既存の労組の中からも広範な支持が見られた。しかし結党呼びかけ人の範雲は民進党とのあいまいな関係や原則の動揺を批判されたが、それについては終始沈黙を守り、比較的進歩的な労働政策を提起するにとどまり、民進党との政治的関係を明確にすることはなかった。
時代力量と社民党の二つの新興勢力はいまだ発展中であり、さらに観察が必要であり、すぐに結論を下すべきではないだろう。しかし現在の状況では、時代力量は独立政党とはいえ、政治的には民進党の一分派と言えなくもない。社民党は労働組合を基礎とした進歩的勢力の一面を持っているが、党の指導部には強力な妥協的傾向がみられる。
(注)台湾政治におけるナショナリズムは、国民党に典型的な中華民国愛国主義、強固な統一志向をもち現在は国会議席を持たなくなった新党に典型的な大中華ナショナリズム、民進党や時代力量、台湾団結連盟および多くの庶民が共有する台湾ナショナリズムなどに分けられる。ひまわり運動の前後にはこの台湾ナショナリズムが最も強く喚起されたこともあり、多くの新興政党や既存政党において台湾ナショナリズムに訴える傾向が強い。しかし台湾の特殊性から、国家アイデンティティーは分裂しており、それゆえ台湾ナショナリズムに対立するものとして、より広義のナショナリズム(国民党、新党など)が存在している。

後記
結果は既成二党構造の受容記す


選挙結果が明らかになった。予想通り、蔡英文は五六・一%の高得票率で、三一・〇%の朱立倫に勝利した[宋楚瑜は一二・八%]。ひとつ注目されるのは、今回の投票率が六六・二%と最低であったことである。台湾で総統の直接選挙が始まって以来[一九九六年]、投票率が七〇%を下回ることはなかった。多くの有権者が国民党に失望しつつも、民進党には投票したくないという、国、民両党に不満を持つ有権者の増大を表しているのかもしれない。同時に実施された立法院選挙[定数一一三]では、民進党六八議席、国民党三五議席、時代力量五議席、親民党三議席などの結果となった。時代力量は選挙区で三議席を獲得、全国比例区でも六・一%を獲得し、当選ラインの五%を上回り二議席を獲得した。議会第三党に躍り出るという、新興勢力としては大躍進と言えるだろう。同様に二〇一四年のひまわり運動から誕生した政治勢力である緑社盟の運命は大きく異なった。主力を投入した全国比例区では、当初多くの期待を集めた有権者の期待に沿うことはできず、二・五%の得票率にとどまり、議席獲得のラインをクリアすることはできず、今後の存続すらも危うい状況に直面している。台湾の民衆は今回の選挙においても依然として自覚的あるいは無自覚のうちに、国民、民進の両党に左右される構造を受け入れざるを得なかった。(一月一六日、開票後)

サウジアラビア

隠された蜂起


闘争中の全民衆との連帯を

シリア・フリーダム・フォーエバー


  サウジアラビア民衆への連帯を求める以下の呼びかけは、インターナショナルビューポイントに一月二日に掲載された。文中で言及されているイスラム聖職者のニムルがサウジ政権によって処刑され、それを契機にイラン、サウジアラビアの関係が危機的なものとなり、中東情勢の不透明さがさらに高まっているが、その直前に書かれた呼びかけと思われる。サウジアラビア政権の今回の行動の背後に何らかの社会的緊張があったことを伺わせている。(「かけはし」編集部)
 サウド王家の反動的かつ権威主義的独裁に反対して闘争しているサウジアラビアの民衆と連帯することは、シリアとその他の全革命派の義務だ。自由と尊厳を求めて抗議に立ち上がっている者たちは、シリアやエジプトでと同じく、彼らの政権からテロリストであると責められている。われわれの闘争は彼らの闘争であり、われわれの運命はひとつだ。自由と尊厳への道はこの地域の全民衆の解放に結びついている。これにはもちろん、パレスチナ民衆の、イスラエルというアパルトヘイト国家からの解放が含まれる。
 支配的独裁諸政権と反動的かつ日和見主義的な宗派諸グループの諸々の試みは、彼らの宗派、民族性、またジェンダーにしたがった民衆の分割に成功することはないだろう。われわれはこうした政策並びにこれらの政策と感情を促進している諸グループに反対して闘わなければならない。闘争中の民衆は一つだ。
 カティフ市(サウジアラビア東部のバーレーン対岸に位置する都市:訳者)およびサウジアラビアのさまざまな都市で闘っている人びと、そしてサウド政権の退陣を求めている人びとは、民主主義と社会的公正と世俗主義達成のために下からの抜本的変革を求め自ら闘っている、そうした中東と北アフリカ中の全革命派にとって最良の連携者だ。革命は、サウジアラビアに、またその他の湾岸首長諸国に広がるに違いない。そしてそれらの国こそこの地域における反革命のセンターなのだ。独裁と新自由主義と帝国主義から民衆を解放するために、この地域とその他におけるあらゆる蜂起に対し連帯が必要とされている。
 抗議活動指導者の一人であるシェイク・ニムル・ニムルは、サウジ王家によって今なお投獄下にあるが、アル・サウド、アル・カリファ、アル・アサドの独裁の転覆を欲すると、あるデモで実際に語った。これは本物の国際主義的連帯だ。
 私は、ゲオルゲ・サブラが代表を務めるシリア国民連合の指導者、あるいはアーメド・ジャルバが首座にある「シリアの革命派と反政府勢力のための連合」の指導者が、ただ一人でもこうしたことを語るのをいまだ聞いたことがない。実際にこれは、カタールとサウジアラビア……各々からの支援をどのような犠牲を払っても求めることによって、彼らが全く逆のことを行ってきたからだ。
 彼らは、これらの独裁者の脚に口づけするよりもむしろニムル・ニムルから少しは学ぶことができたはずだ。その独裁者たちは、革命以前はアサド政権の親密な連携者であり、革命勃発後は、反動的かつ宗派的なイスラム主義者やジハーディスト軍事グループへの資金供与によって、あらゆる努力を払ってシリア民衆革命を宗派戦争に転換しようとしてきたのだ。これらの反動的首長たち、特にサウジアラビアの最大のおそれは、シリアにおける革命の成功、そしてその国境を挟んだ民主的、社会的そして非宗派的国家の確立を見ることなのだ。
 シリアの民衆と同じことを求めている自身の民衆を抑圧している独裁者たちと連携しつつ、その一方で自由と尊厳のために一国で闘っていると主張できる者などはいない。

闘争中の全民衆との連帯を!
アサド打倒! サウド打倒! 全独裁者打倒!
富と権力を民衆へ!

▼シリア・フリーダム・フォーエバーは、シリア革命とこの地域における他の諸国内の運動の進歩的勢力から届くニュースを専門とするブログ。(「インターナショナルビューポイント」二〇一六年一月号)


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