もどる

    かけはし2016.年3月21日号

プーチン主義的安定は終った


ロシア

石油帝国の苦悶

危機への回答は生活の質切り下げのみ

イリア・ブドライツキス

 世界情勢の高まる一方の不確実性の重要な一要素として、ロシアのプーチン政権の行動が注意を引いている。ある人びとからは、米帝国主義への対抗効果としての期待すら寄せられている。しかしその行動はロシアの特権的エリートの自己利害に貫かれたものでしかない上に、その安定性にも重大な弱点がある。米国大統領選が明らかにしている米国エスタブリッシュメントの方向感覚喪失と同時並行的に、ロシアの体制自体が重大な危機に入り込む可能性が見え始めている。以下では、現地の同志がこのロシアが抱える重大な問題を論じている。(「かけはし」編集部)

明白な経済危機への沈み込み


あらゆる人々が理解していることだが、今年はロシアが、一つの経済的危機に、ほとんど不可避的に社会的かつ政治的危機を伴う危機に、沈み込まされるのを見るだろう。ウラジミール・プーチンが、「人民との直接的交流」として彼が得意とするTV番組に出演する中で、危機は一年か二年以内に成功裏に克服されると思われる一時的な困難という問題だ、との見方を請け合ってからすでに一年以上経った。
これらの断定は、単なる宣伝屋的な表現にとどまるのではなく、諸々の試練に対しそれが発生するまま対応し、あるがまま戦略を戦術と切り替えるという、いつものように習慣化された、ロシアの支配的エリートたちの意識に深く根付いた諸要素を映し出すものでもある。この意識は、原油価格の上昇という途切れることのなかった一〇年の結果だ。この期間国内経済全体は、天然資源輸出に緊密に結び付けられた。
原油売却からのこの棚ぼたは、ロシアの外交政策の腕力は強化される、また国家支出の恒常的上昇を保証する、との二つの感覚を生み出した。軍、官僚機構、また国家調達の後ろ暗いシステムは、この恩恵を大量に受け取った。そうであっても、社会分野での支出の成長は、むしろその残りとして及ぶ効果としてみられたにすぎず、教育と医療は変わることなく、資金が不足した際は犠牲にされる最初のものと見なされてきた。
石油の繁栄の年月は、たちの悪い社会モデルを育成した。その中では、投機によるエネルギー資源価格のインフレーションが、生産の下降、社会的不平等の驚くべき水準、腐敗、そしてエリートの利益を守る、強まる一方の体系的な権威主義的政治権力を、埋め合わせた。
ウラジミール・プーチンの人気は、この確実性を欠いた基礎に寄りかかっていた(そしてさしあたり、今もなおそれを頼りにしている)。この人気にとって鍵となっているものは広範に広がっている観念だったが、それは、彼の情け容赦のなさを理由として、プーチンは「安定」を、つまり大刷新にはらまれたどのようなリスクからも保護された国の成長という永続的な軌道を、保証できる一人の人物という観念だ。

大統領への信頼と国家への不信

 ここでロシアの住民多数にとってもっとも価値のある識見は、「プーチン主義的安定」は今決定的に過去のものということ、ロシアのエリートはこの情勢を挽回できる代替計画など一つももっていないということだ。昨年までにすでにはっきりとしたことは、危機に立ち向かう政府の政策は、その情け容赦のなさでEU諸政府の現行政策すらをもしのぐ現場の多様な緊縮に要約される、ということだ。
それは、社会支出の急速な削減、強制的な年金改革(六五歳までの退職年齢の後ろ倒し提案)、インフレ率(昨年の一二・九%)連動俸給に対する原則的拒否、さらにより多くの課税と住民から徴収される料金の引き上げから構成されている。市場に導入された通貨準備を助けに抑制されているルーブルの弱体化、および中央銀行での利子率引き上げは、中小規模のビジネスに対し借り入れ利用を不可能にし、経済の崩壊にさらに力を貸した。
この危機にしたがった二〇一六年の国家予算は、石油価格の平均を一バレル五〇ドルに設定する計算を基礎にしている。しかしその価格はすでに三〇ドル以下にまで下落した。政府はその変更をまだ考えていないが、すでに財務相は、他の全機関に支出を一〇%削減するよう勧告した。
この情勢は、モスクワと地方間の歳入配分の現行システムによってさらに悪化させられている。そこでは、全歳入が連邦予算のものとなり、その後はじめて地方予算に数え直されることになっているのだ。結果として、政府と地方当局間の緊張が高まろうとしている。そして地方の諸機関は、民衆を前にこれらの「緊縮諸方策」に対し責任を負わなければならないのだ。同時に大統領は、彼の人気を維持する努力として彼らによる見える形での、「社会的約束」の提示を要求し、彼らを不可能な状況に押しやっている。
政府歳入の急速な下降は、プーチンの「権力の上下関係」が内包する危うさを、すなわち、地方権力の経済的「自律性」(すなわち、予算の諸責任を満たすことに対する責任)と組にされたこの権力の中央に対する完全な政治的依存性がはらむ脆弱さを暴露している。緊縮に起因する政治的な諸々の信用喪失は、ドミトリー・メドベージェフ率いる連邦政府か地方の統治者、つまり大統領以外のすべての者が担わなければならない。大統領の人気は、どのような環境の下でも、彼を支持する民衆の生活の質における引き下げの結果として悪影響を受けてはならないのだ。
「民族の指導者」としてのプーチンの姿は、権力の座にある者たちの多数から見た正統性にとって主な基礎だ。この状況がもつ逆説は、民衆は彼らの大統領を信用するが、しかし彼らは彼が代表する国家を信用していない、という事実にある。

緊縮への社会的抗議の高まり

 この破局的な諸条件の中で、プーチンの政治機構は二〇一六年九月に予定されている議会選挙を準備中だ。それらはこれ以前の全選挙と同じく、クレムリンによって書かれた台本にしたがわなければならないだろう。台本は現在、高まりつつある受動的な不満の犠牲者としてメドベージェフに役割を宛てる一方で、議会多数派として「統一ロシア」を指名しているように見える。「無所属の」候補者たちと、同じく金銭的援助を受けた野党(共産党とジリノフスキー党を含んで)は、その反社会的緊縮諸方策を理由に、政府に攻撃を向けるだろう。しかし大統領は、諸々の批判が届かないところにとどまるだろう。
この指針的な台本は、統制からはずれ、民衆的な騒動の波を巻き起こす可能性がある(前回議会選後の二〇一一年一二月に起きたように)。今日の主な違いは、非民主主義的なシステムに対する政治的抗議と、貧困並びに政府の新自由主義的諸政策に対する社会的抗議が組み合わせになること、ということが判明する可能性がある。
二〇一五年は、賃金遅配、職の削減、さらに不必要な諸々の新税が結びつく中で、地方における抗議行動の一連の上昇を経験した。一二月には、新たな極度に高額な道路料金に憤慨したトラック運転手たちによるデモが、国の全地域のうちほぼ半分で起きた。いくつかの都市では、国家の医療補填に付けられた過酷な制限に反対する抗議行動が諸々あった。専門家たちはおおむね、昨年労働者の諸権利侵害に結びついて四〇九件の抗議行動(うち一六八件で作業停止の形態がとられた)があった、と評価している。それは、二〇〇八年〜二〇一三年の期間の平均より七六%上回っている。
制度上の政治サイクル(二〇一六年の議会選挙、および二〇一八年の大統領選挙)と平行する経済的危機は、エリート内部の諸々の分裂を不可避的に引き起こし、それを強化するだろう。あり得る戦線はすでにほのかに見ることができるものになっている。すなわち、モスクワと地方権力の間で、政府の財務専門家と軍のロビイストの間で。そしてこのロビイストたちは、国家企業の間ではそれらの巨額な債務に資金を手当てするために、国家予算からの新たな助成金を要求しつつ、「外国の脅威」を前に立て防衛予算の増額を力説するだろう。

原油への依存から外債依存へ

 力関係の現存する均衡を維持する試みとして体制は、ウクライナで今なおだらだらと長引いている戦争、西側との摩擦、そしてシリアでの軍事的関与の展開を含んで、過去二年の彼らの外交政策を再考しなければならない。モスクワはすでに、米国とEUの経済制裁の除去に向け精力的に歩みつつある。
ロシアがクリミアを併合したとき以来はじめて、ウクライナ大統領のポロシェンコとロシア代表のボリス・ギリズロフ(「友人たち」から構成されるプーチンのインナーサークルメンバー)の間で、ドンバスの運命に関する直接交渉がキエフで始まった。この会談には、ウクライナ問題に関するクレムリンの主な「調整者」と米国務省長官補佐官であるヴィクトリア・ヌーランドの間での何時間も続いた協議が続いた。ロシア政府にとっては、中でも、枯渇した国の金融準備を引き上げるための大規模な対外借り入れを可能にする理由から、制裁の廃止が必要になっている。原油価格に対する依存はまもなく、もう一つの依存――今度は外国の債権者に対する――によって完全に置き換えられていることが見えるものとなる可能性がある。
このすべてが意味することは、ロシアは深刻な変化の瀬戸際にある、ということだ。そしてその変化は、短期的には、一つのシステムとしての「プーチズム」――少なくとも、この「肥満した」年月の間われわれが知ってきたもののような――の終わりを指し示している。

▼筆者は、第四インターナショナルロシア支部のフペリョード(前進)の一指導者。フペリョードはロシア社会主義運動(RSD)の創立に参加した。(「インターナショナルビューポイント」二〇一六年三月号)

【訂正】本紙前号(3月14日付)4面ひだんれん 統一要求の下から4段目右から13行目「ふる言と破壊」を「ふるさと破壊」に、同下から2段目右から6行目の「1乱ジーベルト」を「1ミリシーベルト」に、5面緊急要求の下から3段目右から8行目の「福島復美加道化指針」を「福島復興加速化指針」に、同下から2段目右から3行目の「維持レ」を「維持し」に、5面2・28秋田集会記事の中見出しとそれに続く本文の「シールズ秋田」を「シールズ」に訂正します。

 


もどる

Back