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    かけはし2016.年5月16日号

民衆の自立的反トランプ決起の中に未来宿す芽


米国

共和党とトランプ問題

民主党との連携が社会運動を
弱体化させ右翼に余地与えた

チャーリー・ポスト


 米国共和党の大統領候補予備選は、最終的にドナルド・トランプの勝利で決着した、と報じられている。以下はそれ以前に書かれたものだが、トランプ支持層の実体、またトランプと米国のエスタブリッシュメントの間にある根深い溝について、主流メディアが伝える表層的な観察が隠している重要な問題をえぐり出している。(「かけはし」編集部)

強まる一方の党エリートの絶望


 共和党は一つの問題を抱え込んでいる。これを書いている時点で(三月二四日)、ドナルド・トランプは二〇一六年共和党大統領候補指名選挙戦ではっきりしたリードを得ている。指名に必要な一二三七人の内六〇%近く(七三九人)をもって、残っている彼の相手、テッド・クルーズ(四六五人)とジョーン・ケーシック(一四三人)の両者を超えている。ネイト・シルバーのウェブサイトによれば、トランプは、ウィスコンシン、ニューヨーク、メリーランド、コネチカット、ロードアイランド、ペンシルバニア、デラウェア、インディアナ、ウェストバージニア、ワシントン、カリフォルニア、そしてニュージャージーのすべて、あるいは多数を獲得すると予想されている。彼がもし残る州(コロラド、ワイオミング、ネブラスカ、オレゴン、サウスダコタ、モンタナ、そしてニューメキシコ)代議員で一定の少数を獲得するとすれば、六月七日までに、指名が手の届くところ(投票先を誓約した一二〇八人の代議員)まで来ていることになるだろう。
 共和党の「エスタブリッシュメント」には、合衆国における産業資本主義最古の政党がトランプを指名するという見通しがつきまとって離れない。多くがクルーズ支援に回り、レースから降りるようもっと「穏健な」ケーシックをせき立てることをもってしてもだ。彼らは、第一回投票でのトランプ指名の阻止を期待し、この夏のクリーブランドにおける党指導部が候補者を選抜できる「候補者空白の大会」を扇動している。ある者たちは、あまりの絶望から、第三党からの立候補の可能性まで――一一月にはヒラリー・クリントンの選出を必至にすると思われるとしても――議論してきた。

トランプの綱領こそが問題の種


 党のエスタブリッシュメント――保守的なWASP(白人、アングロサクソン、プロテスタント)産業資本家と銀行家に結びついた者たち――は単に、自分の性器の大きさをおおっぴらに自慢する者が候補者になる可能性がある、ということに当惑しているというわけではない。むしろ彼らは、トランプの綱領の中心要素に反対なのだ。
 トランプは資本家だとはいえ、彼の階級の重要な部分すべてを代表しているわけではない。共和党エスタブリッシュメントと彼らの企業スポンサーは、レイシズム(特にイスラム嫌悪)、女性蔑視、そして反労組政治といったもの以上にというわけではないとしても、世界のいたるところで米国資本の支配を確実にすることを追求する攻撃的な対外政策、そして新自由主義を奉じている。つまり、NAFTA(北米自由貿易協定)からTPPまでの「自由貿易」諸協定に対するトランプの反対、第二次湾岸戦争に対する彼の孤立主義的反対、そしてイスラエル(中東における米国のもっとも信頼できる同盟者)に対するどっちつかずは、米国の資本家階級にとってはぞっとするようなものなのだ。
 さらに、無資格移民の大量追放というトランプの要求も、圧倒的なビジネス界の人間の中では共鳴を起こすことなどない。資本家たちは、大資本家であろうが小資本家であろうが、市民権をもつ者であれば甘受しないと思われる条件の下で、賃金のために働く、そうしたこの国で利用可能な移民労働力の政治的に脆弱な蓄えを欲しているのだ。
 米国資本家のもっとも幅広い組織である全米商工会議所は、アメリカ人市民的自由連合並びにラテンアメリカ人市民同盟による請願を支持した。無資格労働者の拘留のための州法執行を可能にするアリゾナ州法に反対する、という請願だ。先の法は、何千人という労働者がこの州から逃げ出し、その結果、この州の農業と建設産業から、安く言いなりになる労働力を奪い取ったのだった。
 商工会議所および最大規模の多国籍企業を代表するビジネス円卓会議は、移民改革を後押ししている。それは、ハイテク産業と農業両方向けに「臨時労働者」計画を拡張し、「法的地位獲得のために今日この国で暮らしている無資格の人びと一一〇〇万人向けの厳しいが公正な手続き」を拡張する、とするものだ。ありていに言って資本家が欲しているものは、米国経済すべてで労働する本当に自由に使え不安定な「ゲストワーカー」の蓄えであり、米国労働力市場からの彼らの排除などではない。

トランプ支持者とは何者か


 トランプへの支持はどこから来ているのか? 主流の右翼とリベラル左翼の多くの者にとって、回答は鮮明――白人の「労働者階級」――だ。不幸なことだが、「白人労働者」という彼らの定義はあまりに幅広い。つまり、専門高等教育を受けていないヒスパニックではない白人すべて、ということだ。この概念は、トランプを例とする嘘つきの道化師によって左右される無学な者として、主流評論家が白人労働者を漫画化することを許すだけではなく、彼らがトランプのキャンペーンの社会的基礎を不正確に述べることも可能にしている。
 第一に、トランプ支持者のおよそ五五%は学士号をもっていないとしても、この人口統計対象層は、米国人口中ではおよそ七〇%となり、つまりトランプ支持層の中でこのグループの代表度は過小になっている、ということだ。しかしながら一方、専門高等教育を受けた白人の「新中間階級」(専門家と管理者)、人口のおよそ三〇%は、トランプ支持者の四〇%として、過剰に代表されている。もっと重要なことだが、「専門高等教育学歴のない白人」という類型には、賃金労働者と自営層――伝統的な中間階級――の双方が含まれている。
 いくつかの労組メンバーを含む白人労働者はトランプ支持層の少数派となっている一方で、多数派は、伝統的な中間階級と新しい中間階級――全体として高齢の白人男性とこれらの階級中の暮らし向きが良くない層――から汲み出されている。ワシントンポスト紙によれば、トランプ支持層の半分は、個人年収が五万ドル以下だった。
 新自由主義の三〇年の影響、特に実質賃金の停滞と成長一方の不平等は、二〇〇七〜八年の不況以後の個人資産(ほとんどは住宅価値)の大量喪失、高まる一方の個人債務、そして増大を続ける経済的不安定と組になって、二〇一六年の米国政治における分極化をつくり出してきた。
 より若く、より人種的かつジェンダー的に多様な中間階級と労働者階級の人びとをバーニー・サンダースの左翼ポピュリズムへと動かしてきた同じ社会的、経済的諸力が、中間階級と労働者階級の多くの高齢白人男性に対して、トランプの右翼ポピュリズムを魅力的なものにしてきた。中間階級の諸部分は、大量の犠牲者差し出しを強いられた労働運動と極度に攻撃的な資本家階級に挟まれて、移民、諸労組、女性、LGBTの人びと、また白人ではない人びとをスケープゴートにする政治に引き込まれている。トランプ現象は、中間階級内部の右翼ポピュリズムの資本主義世界を貫く成長――英国のUK独立党、フランスの国民戦線、イタリアの五つ星運動――の重要部分だ。

進歩派左翼の屈服を助ける議論


 右翼ポピュリズムは思想的に、一九二〇年代と一九三〇年代の古典的なファシズム運動に似ている。トランプキャンペーンは疑いなく、米国内で真正ファシズムの要素――諸労組、移民、白人ではない米国生まれの人びと、またLGBTの人びとと物理的に衝突するために組織された白人優位主義者諸組織――が政治的な明るみの中に現れる余地をつくり出してきた。
 トランプの政治的敵対者に対する肉体的暴力の候補者自身による奨励、および「ライオンの護衛」――「極左暴徒に体で立ちふさがることで、トランプ支持者の安全と安心に専念する非公式市民グループ」――の登場は、警戒警報となるものだ。
 しかしながら、トランプキャンペーンはファシズムではなく、その周辺のファシズム的諸要素にも――またトランプ自身にも――権力に到達する意味のあるチャンスはない。
 ファシズムを確定するものはポピュリズムイデオロギーただ一つではない。実際ファシズムは中間階級の一つの社会運動であり、その運動は、選挙政党、また街頭で戦闘する組織、その双方として組織されている。そして戦闘組織は、勤労民衆の諸組織を物理的に打ち壊すこと、そして資本主義的民主主義の諸制度を破壊することを追求する。ファシズムは、左翼が権力をとる脅威となりながらもそれに失敗するとき、また資本家階級が底辺からの異議突き付けを怖れ続けているとき、権力を奪取する潜在能力を手段に一つの大衆運動となる。
 トランプは、代表制政権廃絶に挑んでいるのではなく、選挙の勝利に挑もうとしている。もっと重要なことだが米国の資本家は、ファシストには不幸なことに、米国の彼らの支配に対するいかなる深刻な異議突き付けにも直面したことはなかった。彼らには、急進化した中間階級に権力を渡す必要は一切ない。共和党のエスタブリッシュメントがたとえトランプを阻止できないとしても、ありそうなこととして彼らは、党派の垣根を越え、ヒラリー・クリントンのような新自由主義政治家を支持するだろう。
 トランプはファシストであるという主張は、単純な学術的な問題、あるいは分析上の問題ではない。それはもっと重要なこととして、自滅しつつある進歩派左翼向けの一つの戦略を強化している。つまり、女性、白人ではない民衆、移民、またLGBTの民衆の諸組織と諸労組の公式指導部は、当然とはいえトランプ大統領の実現という見通しにぎょっとして、フィアデルフィアでの民主党大会(今年夏大統領候補者を指名する:訳者)でこの党が指名する者が誰であれ――クリントンを含め――その支持に、「より小さな悪」として、身を二つ折りにしてひれ伏すだろう。

右翼と対決する直接的決起を

 この戦略は二つの幻想を基礎にしている。第一として、トランプは大統領に選出される理の通ったチャンスを確保しているとの考えがある。しかしほとんどの政治評論家が一致していることは、トランプが勝つ可能性は、投票率の大きな下落がある場合だけ、特に若者たち、女性、白人ではない民衆の中でそれが起きたときだけ、ということだ。
トランプが指名されるならば、ほとんどの伝統的な共和党の企業資金提供者は船を捨てクリントンを支持するだろう、との強力な見込みがあるのだ。「もう一人の大統領(ヒラリーは、ビル・クリントン政権の陰の実力者として特に共和党支持者から批判を受けた:訳者)」、上院議員、国務省長官としての彼女の実績は、彼女が資本の信頼に耐える代表者であることをはっきり示している。
より多額な戦費で武装し、広範なトランプ嫌いに訴える可能性をもつクリントンはおそらく、大規模な「票引き出し」機構を構築できるだろう彼女が、二〇〇八年にオバマがやったことと同じほど圧倒的に、有権者を動員するのは、まったくありそうなことだ。二〇〇八年の時には、投票資格を持つ有権者の五七%を少し超えた人々が投票所にやって来たが、それはこの四〇年では最大のパーセンテージだった。
第二として、「より小さな悪主義」があるが、それは実際には、米国政治における右への漂流を加速してきたのだ。民主党の「連携者」を遠ざけるという怖れが過去八〇年の改良運動の公的指導者たちを導き、改良を勝ち取ることができ、左翼意識と左翼の政治を築き上げることができる社会運動の型――戦闘的な労働者の諸闘争、反レイシズム、反性差別主義、反戦の大衆運動、――を脱線させてきた。
「現実的であること」との名目でこれらの諸勢力は、民主党に順応し、実質的な改良に向けた要求を引き下げる。次いで民主党は、縛られることなく共和党の右翼と妥協するのだ。弱体化され見えなくされた社会運動と一体化された民主党との「連携」は、ポピュリスト右翼に、民主党の破綻した諸政策に対する戦闘的な反対の主要な声としてとどまる余地を与えている。
幸いなことにわれわれは、トランプ並びに右翼といかに闘うかの具体的な一例をもっている。トランプに彼の集会を取り消させたイリノイ・シカゴ大学の移民学生が主導した反トランプの決起は、トランプがキャンペーンを行おうとするときはいつでもどこでも繰り返されるべき一例だ。勤労民衆内部での有効な社会運動の再建と並んで、この種の決起が、右翼ポピュリズムと主流の新自由主義双方に対する本当に自立した政治的オルタナティブに向け基礎を据えるだろう。

▼筆者は、米国の社会主義者グループであるソリダリティーのメンバーであり、彼が社会学の教鞭をとるニューヨーク市立大学教職員組合で活動している。(「インターナショナルビューポイント」二〇一六年四月号)


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