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    かけはし2016.年5月16日号

手詰まりの中で長期化の危険も


中東

シリアとイエメンの惨状

ジルベール・アシュカルに聞く

 米国の社会主義組織、ソリダリティーが発行する「アゲンスト・ザ・カレント」誌編集者のデーヴィッド・フィンケルが、中東における現在の危機と恐るべき難民の危機を議論するために、三月三日電話でジルベール・アシュカルにインタビューした。以下に紹介する。(「かけはし」編集部)

「休戦」持続の見通しはない


――先頃公表されたシリアでの「休戦」が意味するものは何か? それが持続するチャンスがあるとすればそれは何か?

 何よりもまず、それが公式には休戦とは呼ばれていず、むしろ「敵対の休止」と呼ばれていることに是非注意してほしい。その主な違いは、ロシア、シリア政権、そして米主導の連合が、想定ではISISとヌスラ戦線を意味するいわゆるテロリスト勢力に対し砲火を向け続ける、ということだ。
ロシアとアサド政権にとってこれは、反政権派の他のグループを標的にする口実の確保を可能にする。そしてそれこそ、反政権派が厳しく批判し続けてきたことだ。これは、この合意全体がどれほどもろいものかを示している。今その休戦が多少とも続いているとすれば、その理由は、あらゆる諸派が、過去二、三週間の猛烈な戦闘の後でいわば深呼吸を必要としている、ということだ。
しかしながらその継続は、政治交渉の再開にかかることになるだろう。この点に関して何らかの楽観主義に導くと思われるものは、今にいたるまで何一つ現れていない。われわれはおそらく数週間のうちにというよりも今後の二、三日のうちに、「敵対の休止」が崩壊するならば、それが全進行にとって悪い兆候となる、ということを知るだろう。

――あなたは、戦争を終わらせる方向に向けた何らかのあり得る道筋を見ているか?

 これが起きる可能性があるとすればそれは唯一、シリア政権の立場に重要な変化がある場合だけだ。反政権派が合意の基礎と見るかもしれない最低限は、バシャール・アルアサドが降りることと一体となった暫定政権、だと思われる。アサドが統括すると思われる暫定的な仕組みはどのようなものでも、成功の見込みがないだろう。
米国はこの全問題について曖昧な言葉を使ってきた。時にはアサドは降りなければならないと言い、他の場合には、暫定的な一時期彼が適切な形でとどまることについて語る、という具合に。オバマとケリーがアサドが地位にとどまることに基づく合意を反政権派に強要しようとすれば、それは破綻を確定するものとなる。イランについては言うまでもないが、ロシアが政権の側に立って大規模に介入することを止めるために米国が何一つしてこなかったために、米国の影響力が限定されているからには、それはなおのことだ。

地域支配固執の米戦略に矛盾


米国は一貫して、反政権派がはじめから必要とし、今も必要としている主な手段、つまり対空兵器に拒否権を行使してきた。ワシントンが確保できると思われる重要な影響力は今も、この拒否の棚上げを約束することにあるだろう! しかしそれは、反政権派に政権への実体的な脅威となる能力を与えることをオバマ政権の一部が主張した時点への回帰として、ワシントンの側での完全な戦略変更になると思われる。この政策はオバマから受け入れられなかったのだ。
オバマが二〇一二年にシリアに向けては「イエメン型解決」を求めると語ったとき、そして彼はそれによって、権力の主要な手段を掌握させたままの大統領退陣と連立政権形成に基づいて、イエメンで二〇一一年の蜂起を終わらせた合意を意味したのだが、このオバマの立場には基本的な矛盾があった。
この方式こそオバマ政権全体がシリアで求めたことだった。つまり彼らのうち誰一人として、アサド体制の転覆など支持していなかった。こうしてオバマは、情勢が統制からはずれ、国家の崩壊に導くことを怖れ、反政権派に有効に戦闘するための手段を与えることを控えることによって、彼の「イエメン型解決」を得ることができるだろう、と考えたのだ。
しかしながらその結果は、政権が、この国を破壊し民衆を虐殺する形でそのあらゆる手段を自由に利用できると感じ、そうすることで最後には勝利できると信じるものとなった。しかしそれでもこの政権は、二度大敗北の瀬戸際に立たされた。しかし各々の時にこの政権は、後援者の大規模な関与によって救出された。最初は二〇一三年のイランによってであり、次には昨秋以後のロシアによるものだが、そこには同意とは言わないが、ワシントンの受動的なただ見つめるだけ、が伴われていた。

――現時点であなたは、シリアとリビア双方に関して、米国の戦略的政策――あるいは場合によっては麻痺――をどのようにとらえたいと思うか?

 バラク・オバマは部分的に、彼がジョージ・W・ブッシュのイラク侵攻に反対してきたという論拠に基づき選出された。彼は、アフガニスタンでの「良い戦争」とイラクでの「悪い」あるいは「愚かな戦争」との間に区別をつける形で一定の両義性を抱えていたとはいえ、反戦感情に満足を与えているように見えるという見方に基づいて権力に到達した。彼は実際にも、まったくの全面的な破綻であることが判明したアフガニスタンでの増派を組織した。
オバマは、二〇一一年のリビアでの介入には、極めて渋々と加わった。彼は、「実戦部隊を現地に派遣する」ことにはまったく乗り気でなかった以上、何らかの種類のリモートコントロールによって作戦は可能、と考えた。一方リビアの反乱勢力自身はそのような見方すべてにはっきり反対した。結果はここでも再度惨めな失敗となっている。
それがあなたの前にあるものだ。つまり、弱体化し、麻痺した米国というイメージを与える一つの政権であり、それが、特にプーチンのロシアの介入主義的厚かましさとの鋭い対比をも原因に、米国の帝国主義的エスタブリッシュメントの多くを悩ませている。

進行中の諸対立は先行き見えず

――イエメンでの恐るべき戦争に関しわれわれがまさに僅かしか聞いていない理由をあなたはどう考えるか? またその情勢をどう読んでいるか?

 あなたが多くを聞いていない理由は何よりもまず、その国が貧しければそれだけあなたに届く情報が少ない、ということだ。中央アフリカの何百万人という民衆がほとんどいかなる注意も引かずに、戦争や飢饉で死ぬことができている理由こそそれだ。メディアに注意を要求するものは、悲劇の大きさではまったくなく、その国の戦略的重要性だ。
シリアはむしろ最近になって大きな課題となった。そしてそこでの鍵をなす決定要素は難民危機の衝撃だった。難民の大波がEUに到達し始めたときに、西側のあちこちの首都でパニックが始まった。ロシアの軍事介入はこの西側のパニックに乗じたものであり、こうしてシリアの危機に今のような世界的様相を与えることに力を貸した。
他方でイエメンでの情勢はまったく複雑だ。基本的に、二〇一一年の蜂起によって打倒された前大統領のサレハが問題だ。彼は彼が確保してきた権力に付随した諸資源を利用しつつ復帰を図り、彼が属している宗派を起源とする一つの宗教的原理主義運動(権力の座にあったときにはサレハから弾圧されたフーシ派)と提携している。そしてこの運動はシーア派イスラムと関係を持っている。それゆえこの連合にはイランの支援がある。
二〇一二年に選出されたハディ大統領の「正統」政権は、この政権に味方するサウジとその連合勢力の介入に基づいて反攻を続けている。要するにこれは、エジプトで二〇一二年に選出された大統領であるモルシがシシが率いたクーデターに反攻するようなものだ。サウジが率いる爆撃は大勢の市民に打撃をつくり出し続けている。しかしながらそれは、住民が密集する地域への空軍力使用が引き起こす不可避的結果だ。
それは強く非難されなければならない犯罪的な介入だ。しかし、ロシアによるシリアでの爆撃、および同じ国におけるイランの重大な関与――等しく破壊的かつ殺人的であり、実際にははるかにそれを上回っている――について何も言わないままそれを非難することは、ダブルスタンダードを使うことに帰着する。
これらの進行中の諸対立について結果を予測する方法はまったくない。そのどれであれどのように終わるかを言うことができる者は一人もいない。そしてそれらは、それらが手詰まりである限りは、極めて長期にわたって続く可能性がある。西側の諸政権は、ジョン・ケリーが指導するコーラスに基づいて、あらゆるところで――リビア、シリア、イエメン、エジプトでも――交渉による合意を促進するよう努め、そのことで大混乱への転落を止め、地域を再び安定化するよう試みている。

欧州・米国には難民危機の責任


――難民危機の規模は圧倒的なものになった。中東と欧州双方に対してここに長期的に含まれた意味をどう考えるか(原注:以下の会話は、ギリシャに達した難民を強制的にトルコに戻すという、EUとトルコ間で進行中だった恐るべき取引の公表以前に行われた)?

 私が拠点としている国である英国は、米国同様、その人口比ではスウェーデンやドイツのような国に比べて、極めて少数の難民しか引き受けてこなかった。これはまったく見苦しく破廉恥なことだ。
実のところ欧州、中でも米国は、先頃の難民の波を生み出し続けている悲劇すべてに対して、彼らの多くが侵略したアフガニスタンまたイラクであろうが、現在進行形の破局が展開するのを放置してきたシリアであろうが、大きな責任を負っている。これらの戦争を止め、難民を温かく迎え入れることは、これら諸国の道義的義務なのだ。
EUメンバー諸国は、難民問題について、特に難民がトルコから最初に到着する諸国に対して、近隣窮乏化的姿勢をとってきた。いくつかのEU政府は、難民受け入れに対する人口比例割り当ての原則を拒否した。それはあらためて、すでにユーロに巨大なひずみをつくり出し英国離脱の潜在的可能性をかき立ててきた経済的危機を前にしたときの、EUのような機構の限界を示している。

――あなたの新著に期待すべきことについて少し話して下さい。

 それは五月に出ることになっている。『陰鬱な兆候』という標題は、古い秩序は死につつあるのに新しいそれの誕生が可能になっていない時代に関する、グラムシの有名な引用句からとられ、それは副題「アラブ蜂起の逆戻り」によって表現されたアラブ諸国の情勢に適用されている。
それは基本的に、以前の著作『人民は欲する:アラブ蜂起に対する急進的踏査』で私が分析した事情を背景に、この地域の情勢の現段階を分析している。私は、私が最初から長期の革命過程と呼んできたもの、何十年という進行方向に渡って数多くの上り下りを見ることになるものの枠内で、二〇一三年以後に起きつつある反革命を論じている。この著作は中心的な重要性をもつ特に目立つ二つの事例、シリアとエジプトに焦点を絞っているが、同時により広い地域情勢に対しても一つの概観を提供している。(「インターナショナルビューポイント」二〇一六年五月号)

ブラジル

PT政権にとっての不幸な終焉

危機は弾劾では終わらない

ジョアオ・マチャド

 以下は、ほぼ確定的となったルセフ大統領弾劾についてのマチャド同志による短評。情勢全体を、PTを押し上げてきたブラジルの労働者民衆に対する支配階級の巻き戻しとしつつ、それが事態を固定できるものではなく、労働者民衆による反撃を含め危機がさらに深化する、との見方が示されている。なおブラジル最高裁は、今回の弾劾を主導したクニャ下院議長を捜査妨害として議員資格停止とした(五月六日報道)。制度の舞台でも、ブラジルの政治的対立はさらに鋭いものになろうとしている。(「かけはし」編集部)

支配階級は民衆
への敵対求めた


 かなりの多数に基づくブラジル大統領のディルマ・ルセフに対する下院による弾劾手続き開始の承認は、この政権とPTにとって大きな敗北だ。
 政権内のほとんどすべての右翼諸党、そしてことさら特に副大統領の党であるPMDB(ブラジル社会運動党)は、この数週間の内に政府と縁を切ることになった。政権を支えた左翼諸政党のみが、加えて党指導部にしたがわなかった右翼の僅かな者たち、そして左翼野党のPSOL(社会主義と自由の党)が弾劾手続き反対の投票を行った。
 PTが階級協調の方向に進んでいた当時、ブルジョアジーの重要な部分はPT政権を支持した。しかしながらブルジョアジーは、二〇一四年に深刻さを増し始めた経済危機と共に、民衆の生活諸条件の低落に帰結した緊縮政策適用のために、もっと強硬な政権を求めた。
 ディルマ・ルセフはこの役割を果たそうとしてきた。つまり彼女は、二〇一四年の選挙後、右へと大きく移行した。しかし、労働組合の多数と民衆運動との間に依然維持している結びつきを通して、PTがその政策の遂行に諸々の困難を抱えていることははっきりしていた。ブルジョア政治家である副大統領のテメルは、反民衆的政策の実行という点ではるかに先まで進んだ。それでもなお、FIESP(サンパウロ州産業連合)と他のビジネス諸団体の指導者たちは、弾劾手続きの中で指導的な役割を当然のように引き受けてきた。
 コーナーに追い詰められたディルマ・ルセフとPTは、浅ましいやり方で、つまり最後までブルジョア政治家に利益を提供しようともくろみながら、この状況から抜け出そうと試みてきた。彼らは彼らの敵対者を説き伏せることに失敗した。
 この敵対者たちは、テメル政権の可能性にもっと利点を見ていたのだ。下院の多くのメンバーたちは、ディルマ・ルセフ政権の大不人気、そしてPTに関係した汚職事件を思い起こさせることで、解任手続きに対する彼らの支持を正当化してきた。
 しかしこれには何の意味もない。世論調査によれば、テメルとPMDBはディルマ・ルセフと同じ程度に不人気であり、彼らは暴露されてきた汚職事件にもっと直接にすら巻き込まれているのだ。住民の六〇%近くは、権力の座にある二つの党の退陣、あるいはその解任手続きを支持している。

茶番の手続きに
民衆も反撃開始


 社会主義左翼であるPSOLは、この手続きには正統性がまったくなく、それが完全な茶番であるがゆえに、この手続きに反対の立場をとってきた。弾劾手続きの主要な主唱者であるPMDB党員の下院議長は、悪名がとどろくほどに腐敗した人物であり、PTメンバーが関与した事件の同じ捜査で起訴されている。一方、ディルマ・ルセフを解任する法的な論拠はテメルにもまた当てはまるのだ。
 これらの条件においては、解任手続きはある種のクーデターだ。加えてテメル率いる政府は、少なくともディルマ・ルセフの政府と同じほど不人気となり、民衆の生活諸条件をさらに悪くするだろう。
 弾劾手続きを求める運動には、極右ファシストの諸部分もまたはっきり参加している。それらは今後の政権内に現れることはないだろうが、一定の影響力を保ち、強化された形で登場するだろう。最終的にこの右翼の前進が、ディルマ・ルセフの政権に反対してきた左翼を含んだ、手続き反対の大きな民衆的決起を引き出すことになった。
 ルセフは、上院が弾劾に向けた手続き開始を確定する(それは確実だ)まで、二、三週間の間依然大統領だ。しかし彼女がもはや統治していないということは明白だ。PTによる統治はもの悲しい形で終わりを迎えている。しかしこれは、この進行の終わりを意味してはいない。経済的危機と政治的危機はしつこく続き、傾向的に深まるだろう。(「インターナショナルビューポイント」二〇一六年五月号) 


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