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    かけはし2016.年6月27日号

地域の崩壊と貧困の連鎖


4.16アジア連帯講座公開講座―大野和興さん講演(下)

TPPをマクロとミクロの視点から批判する


反TPP運動の
課題とは何か?
世論調査を見ると、TPP賛成が多い。一般の人は、「いいじゃないの安いものが食えるから」と言う。みんなが食えなくなって、低賃金で非正規になってという背景もある。ここをいかに崩していくか。現実としてTPPの運動は、いつも少数だ。僕らの集会だって数百人を超えたことがない。だから共産党も含めたネットワーク作ることにした。TPPストップ市民アクションに全労連、全労協、全日農、農民連も入ってくれ、一緒にやろうよと広げた。農協は途中、安倍政権に脅されて抜けてしまった。反TPP運動は、いかに戦争法反対と反原発と結びつけて取り組んでいけるのかが大きな課題だ。
じゃどうすればいいのか。一つの試みとして農業集落ごとに入り、その集落の農業が二〇年後にどうなるか計算をしようよと言って集まってもらう。つまり農業グループ、個人の農家などが一番身近なところで、今後どうなってしまうのかを実感しないと運動にならない。
三・一一大震災で東北が壊滅し、福島の原発が吹っ飛んだ。実は、二〇一一年五月、六月は反TPP闘争の山場だと位置づけていた。そのために陣形作りをやっていた。二月に東京で集会をやって、五〇〇人集まった。それをバネに春の決戦だとしていた。そしたら三・一一だ。TPPどころじゃないと思っていたら、四月に読売新聞が社説で「震災復興のためにTPPを」を出した。TPPでカネ儲けをしよう、カネで震災復興しなければならないという論理だった。その後、経団連が「今こそTPP」「震災復興はTPPなくしてありえない」と提言した。原発が爆発し、津波被害で三陸海岸は深刻な状況、行方不明者が五〇〇〇人も発生していた。こんな時になんでTPPなのか。
権力者は、TPPによって反転攻勢を狙った。 典型的な意見として元農水省官僚だった山下一仁(キヤノングローバル戦略研究所)が「ダイヤモンド」で「この大震災は、強い農業を作っていくためのチャンスだ」と主張していた。ようするに、三陸海岸含めて農業地帯が真っさらとなった。だから農民の土地所有権がない状態だから私権を制限して大規模な区画を作り、大型農業機械を入れ、政府投資をして企業を動員して大規模農業を育成することができるというのだ。これがTPPで勝つことであり、強い農業の中心だ。TPPで儲けることのチャンスを震災が作ってくれたと言っていた。
まさにTPPの本質をずばり指摘し、その後、あらゆる分野に貫徹していくことになる。私はいろんなところで「ショックドクトリンもいいところだ」と山下批判をやった。
もう農業という言い方で語ることはできない時代に入っていると思う。誰の農業か、主体は誰か。企業の農業、資本の農業、百姓の農業、農家の農業と言わないとだめだ。一つにくくれない局面に入っている。強い農業を作ると言う時、それは農家の農業ではない。それを農業と言ってしまうと、百姓自身が俺も強い農業でやっていけると誤解してしまう。

TPP賛成と
語る農業者も
色々な農家と知り合いだが、千葉の米作地帯で農業を行っている仲間たちからTPPの話をしてくれというので行った。かつて三里塚闘争をやっていた人たちもいる。TPP批判を話したが、終わってからの交流会で大型農家の彼は、「TPPになったら米の輸出を考えている。どうやら儲かるみたいだ。外国で和食がブームだから日本の米が売れる」と言いだし始めた。TPP賛成だという農業者はたくさんいる。農業者だからTPP反対だというのは間違いだ。むしろ専業農家のほうが主流で米の輸出で儲かるからTPP賛成だというのが多い。
私は、「日本中に同じようなことを考えている人が一杯いる。みんな輸出で儲かるということで輸出したら、そんなの誰が買うのだ。それだけの需要があると思うのか。当然、だぶついて大暴落だ。それより国内で売ったほうがいい。アジアで金持ちが増えているといったって、中国の富裕層だけだ。そんな話に乗らないほうがいいよ」と言ったけど納得しなかった。
このあいだ日経新聞で全国の農業法人のアンケート調査の記事が出ていた。大型経営の農業法人は、七割がTPPになったら輸出が増えると答えている。同じように五割が値段が下がると答えている。つまり大型経営の七割は、輸出が増えるから、それに乗っかれということだ。
山下一仁の「強い農業」「大震災が絶好のチャンスだ」という論理と空気が浸透している。このような雰囲気が農業者にも広がっている。
それに対してどうすればいいのか。今、北海道五区で衆議院補選が行われている。自民党の小泉進次郎が張り付いている。小泉は、細かく歩き、強い農業の話をしている。北海道は、TPPでたしかに大変だが、実は北海道の百姓で遺伝子組み換えをやりたがっている農民、農民グループがある。遺伝子組み換えを認めろと常に発信しているグループもある。モンサントからカネも出ている。遺伝子組み換えで量産して、輸出して儲けるという論理が蔓延している。

TPPで貧困
の連鎖が拡大
いま企業化した輸出型の農業経営者は俺らの時代だと思っているが、TPPによって、確実に小さな農業がつぶれてしまう。小さい農業がつぶれたら、どうなるか。僕らはきちっと言わないとだめだ。
例えば、国内では一〇〇〇万トン〜一二〇〇
万トンぐらいの米の潜在生産力があるが、それを減反して八〇〇万トンぐらいにしている。この列島の人が食べるうち、大型経営の人たちの米より小さな農家・兼業農家が生産した米の方がはるかに多い。その小さな農家はつぶれる。小さな農家は、高齢化し、平均年齢が七〇歳ぐらいだ。国民年金が夫婦で五万か、六万円だ。これでは食えない。畑、田んぼを耕して、年金と農業で生活を支えている。小さな農家がいなくなるということは、村がなくなるということだ。地域社会がなくなり、商店がなくなり、そして食えなくなる。地域社会が崩壊しつつある。TPPは、その状況を進めることになる。
都市の労働者にも関係する。例えば、TPPのメリットで牛丼が安くなると言われる。確かに牛肉が安くなる。輸入米も安くなる。安い米と安い牛肉でいっぱい三五〇円の牛丼が三〇〇円になる。かつて四〜五年前、牛丼の安売り競争があった。二六〇円になったこともある。めし代が下がるということは、それだけ賃金を引き下げてもいいということでもある。
三五〇円の牛丼を二六〇円に下げた時、経営者は、二六〇円の牛丼が食えるのだったら、また給料を下げるのもいいなと判断する。そして給料が下がり、二〇〇円の牛丼になる。このように貧困と牛丼の値下げは、貧困の循環だ。
牛丼の引き下げは環境問題にもつながる。一九九三年、GATTウルグアイラウンドの最後に牛肉の自由化をやった。例えば、今回地震にあった阿蘇の山麓は、肉牛の放牧をやっている。赤牛の放牧地だ。春になると草原を野焼きして、牛を放つ。牛は草を食いながら、夏と秋を過ごして、その間に子どもを産む。秋は子牛を連れた母牛を呼びもどして小屋で飼う。牛小屋の牛のフンは、畑、田んぼに入れて作物、米を作る。山と田んぼ、畑、牛がぐるぐると循環する。日本型の循環農業だ。こういう循環の農業が昔から成立している。
TPPでやすい牛肉が入ってくることでこの循環が破壊されてしまう。春の野焼きと牛が草を食べることで、草原は再生する。熊本は昔から名水の地域だが、その水は阿蘇の草原に降った雨が地下に染み込み、地下水となったものだ。牛がいなくなって草原が荒れると、その水も枯れてしまう。
韓国と米国でFTA協定を結び、その後、農家は先行き不安で牛を売り出した。大暴落し、牛肉不足になった。結果として牛がいなくなることによって、いろんな循環が途絶えてしまった。
TPPの問題は、一筋縄でいかない。都市の貧乏人、農村の貧乏人の拡大再生産だ。同時に環境は、どんどん壊されていく。食の安全の危険以前にこのような問題がある。食の安全の基礎が壊されていくのだ。
(おわり)

 


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