もどる

    かけはし2016.年8月15日号

「防御用」「北核」「対潜水艦」で包装


サードに関する3つの欺まん

中国けん制用の意味が強い


 韓米両国が7月13日、サード(THAAD、高高度ミサイル防衛体制)の配置地域を慶州北道・星州に確定したなかで、これにかかわる国会の同意が必要なのかをめぐって論争が起きている。野党側では「サードの配置が軍事的緊張関係をひき起こし、『東北アジアの安全保障』問題と関連が深く、サード運営費の一部を政府が負担する可能性があるという点から『重大な財政的負担を背負わせる条約』に該当する」と主張する。反面、政府・与党は「サードは1つの武器配置にすぎず、費用も米国が負担する」として対立している。(「ハンギョレ21」第1121号、「ブリーフィング」欄より)


 米国と中国の首脳たちは韓国と首脳会談を行うたびに、サード(THAAD、高高度ミサイル防衛体制)問題に言及した。サードの配置ゆえに韓(朝鮮)半島は周辺諸国が神経戦を繰り広げる角逐の場となった。近現代史の経験ゆえに、我々ほどに「角逐の場」という単語が与える否定的ニュアンスを切実に感じる民族もそうないだろう。韓国と米国がサードの配置を電撃的に決定するやいなや、中国やロシアの反発が激しい。中ロの強硬派たちの間で経済的報復や軍事的措置が公々然と論じられている状況だ。列強の狭間で進むべき道を失ったわが近現代史の痛みに満ちた記憶が再び浮かび上がる状況だ。

盾は決して防御用ではない


 2014年以降、米国でサードの配置が論じられるたびに、(韓国)政府はこれを否認した。米国からサードの配置についての要請もなかったし、互いに協議をしたこともないので、決定もないという論理で一貫した。そうこうしているうちに2015年末から雰囲気が変わる兆しが見えていたが、去る7月8日にサードの配置を発表した。大韓民国の国家の進路に影響を及ぼす事案なのに、公論化の過程は絶対的に不足していた。
 そうしているうちに、サード配置の必要性についての政府の論理も、その時その時によって変わった。初めは、米国が北韓(北朝鮮)の核やミサイルから駐韓米軍の資産を守ろうとしてサードを配置するとの論理が中心だった。米国が自分のカネで配置するのに、なぜ反対するのかというのだ。そうこうするうちに、サードを配置すれば首都圏をはじめ韓国の防御にプラスとなるという論理が付け加えられた。サードの配置地域として慶尚北道星州に決定した後、サードは首都圏を防御できないとの指摘が出てきた。すると首都圏はサードではなくパトリオット・ミサイルで守るとの論理が作られた。
 政府の論理が変わるのは本質的なことを隠ぺいするためだと思われる。サードの配置を発表した韓米両国の論理とハン・ミンク国防部長官の説明は3つに集約される。第1に、サードは防御用だ。第2は、北韓の核とミサイルへの対応が目的であり、中国へのけん制用ではない。第3に、サードは北韓の潜水艦発射弾道ミサイル(SLBN)も迎撃できる。けれども、この3つのすべてが国民を欺く惑世誣民(世人を欺くこと)だ。
 サードは盾の機能を果たすがゆえに防御用だと主張するのは、攻撃と守備の力学関係を余りにも単純に考えるものだ。国際政治において槍と盾の機能は単純ではない。盾を準備することを、決して防御用だけだとは考えない。
 普通、先制攻撃を第1撃、相手の先制攻撃から生き残って報復を加えることのできる能力を第2撃能力と言う。万が一、Aがしっかりした盾を備えれば、Bは自身の第2撃能力が弱まるだろうと判断する。Aが先制攻撃をした後、Bが何とか戦列を整え報復攻撃(第2撃)を行っても、Aの盾が食い止めることができると考えるからだ。この場合Aが用意した盾はAとBの間のバランスをうち壊す。
 Bはこれに対抗するために盾をつき破ることのできる、もっとしっかりした槍を準備する。その結果AB間の軍備競争が継続される。Aの盾は、Bがより鋭い槍を作るように刺激する攻撃用になる。サードは相手が撃った弾道ミサイルを破壊する迎撃ミサイルであるがゆえに盾だと言うけれども、サードは決して盾の機能だけを担当しているわけではない。
 サードは北韓の核やミサイル対応なので中国へのけん制ではないと言うのも「ケチつけ合いのせこい手」だ。サードによって1千余基に及ぶ北韓のスカッド・ミサイルやノドン・ミサイルを阻むのは難しい。北韓のミサイルが5分内外で南韓(韓国)地域に到着できるがゆえに、迎撃する時間は充分ではない。一部を迎撃したとしても、数多くの短距離ミサイルや放射砲が同時に雨あられのように飛んでくる場合には無気力となるばかりだ。

中国の軍事的対応を刺激


 むしろサードの目的は対中国けん制用と見なければならない。一部の専門家たちはサードでは中国本土から米国に向けて発射される大陸間弾道ミサイル(ICBM)を迎撃することはできないので対中国用ではないと語る。中国の内陸部から米国本土に向かって飛んでいく大陸間弾道ミサイルは、韓半島ではなく北極上空に飛行し、韓国上空では既にサードの迎撃ミサイルが飛んでいくことのできる高度以上に上昇して飛行するためだ。それは合っている。
 けれどもサードの配置は中国の大陸間弾道ミサイル迎撃が目的ではない。サードの体系には迎撃ミサイルと共に「AN/TPY―2」というレーダーが配置される。このレーダーは中国の内陸地方に配置された弾道ミサイルを探知することができる。サードのレーダーによって中国の弾道ミサイル発射を早期に探知し、これを米国と日本に提供することが可能になる。そうなれば米国と日本は中国の弾道ミサイルの発射を迎撃する充分な時間とより多くの機会を確保する。中国のミサイル発射を早めに探知すれば、アラスカ、グアム、駐日米軍基地から迎撃を試みることができる。日本も同様だ。韓国に配置されているサードの体系が対中国けん制用だと言うのは、まさにこのレーダーのゆえなのだ。
 サード・レーダーを韓国に配置することによって米国はアジア・太平洋地域において中国をけん制するミサイル防御(MD)体制を補強することになる。そうであれば韓国は対中国のミサイル情報を獲得する前哨基地になるのだ。この場合、槍と盾の論理を米日同盟と中国の間に適用することができる。米日同盟はサードという盾を整えて中国の第2撃能力を弱めることができる。
 結局、米国と中国の戦略的バランスが破れることになる。これが、中国が反発している核心的理由だ。中国は再びバランスを維持するためにMD体制を無力化する軍事的備えの態勢を準備しようとするだろう。中国政府は公式的に、サードが韓国の防衛範囲を越えて中国の安全を脅かす、と重々して語ってきた。けれども非公式的には軍事的備えの態勢に言及している。中国の予備役将校たちは2014年から、さまざまな非公開の会議で、「サードが配置されることは中国への脅威となるがゆえに、サードが配置された米軍基地は中国の打撃対象になり得る」と威嚇的発言をしてきた。
 中国がサードの配置地域に対する軍事的対応をするのは、実際に打撃をするというよりも、盾をつき破るための槍を強化するということを意味する。中国東南部地域でのミサイルの配置を強化する方向に、ことは推進されるだろう。

潜水艦発射弾道ミサイルを阻む


 日本に、既にサードの探知装備AN/TPY―2レーダー2基が配置されている。けれども地球は丸く、韓半島には白頭大幹(朝鮮半島北部・白頭山に端を発し南北を貫き南部・智異山にまで至る山脈、朝鮮半島を大まかに東西に分かつ)が伸びている。地球の曲面と白頭大幹のゆえに、日本に配置されたレーダーが中国のミサイルを探知しようとするならば発射後、数分が経過した上昇段階になって初めて可能になる。早期の探知は、それぐらい難しい。これが、サードを韓半島に配置する理由だ。
 サードは北韓(北朝鮮)の潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)を迎撃できる、というハン・ミング国防長官の発言は「サードへの無条件賛美」とでも言えるほどだ。北韓は、まだSLBMを完成した段階ではない。SLBMにおいて最も難しい技術だという射出実験に成功した。射出実験というのは海中から水上にミサイルを発射して点火する技術だ。今後、飛行にまで成功するならばSLBMは隠密性のゆえに極めて脅威的な武器となる。北韓がSLBMの開発に執着するのは、サードを無力化しようとする意図が強い。北韓がSLBMを完成し、星州に配置されたサードの後方である済州南方から発射する場合、サードはお手あげとなる。サード・レーダーは北韓側・前方に向かっているからだ。
 北韓がSLBM開発を試図しているのは、その隠密性と技術性のゆえに米国のMD体制やサードを無力化できるからだ。ロシアも2015年にモスクワ広場で行われた第2次世界大戦勝利70周年行事で「RS―24ヤルー(Yars)」という多弾頭大陸間弾道ミサイル(ICBM)を登場させた。この多弾頭ミサイルは飛行した後、弾道が10個以上に分離されるがゆえに米国のMDを弱める武器体系だ。北韓はMD無力化のカードを通じてロシア、中国と共助を取ろうとする努力を強化するだろう。
 サードは防御目的に局限されないし、北韓のミサイル攻撃にそれほど効果的な防御手段になることもできず、首都圏の防御もできない。韓中関係を悪化し、韓国を米国と中国のミサイル角逐の場に仕立て、北韓と中国、ロシアの関係を癒着させる結果をもたらす。北核の廃棄のためには中国とロシアの協力が欠かせないが、そのような国際的協調も弱まる憂慮が高まる。

むしろ北核廃棄から遠ざかる

 北韓の核とミサイルに備えるという名分をサード配置の理由に掲げるけれども、それは実効性のない口実にすぎない。むしろ北韓の核やミサイルを廃棄する道から遠ざかる選択となるばかりだ。北韓の核やミサイルに対する対応の原則は明らかだ。韓半島と周辺の安定・平和が確固たる目標にならなければならない。国際的な北韓への制裁を通じて非核化の対話を導き出す共助の体制を構築しなければならない。そして平和体制の戦略を作ることだ。偏った外交ではない、韓国のバランス外交が切実とされるところだ。(「ハンギョレ21」第1121号、16年7月25日付、キム・チャンス/コリア研究院院長)

THAAD(サード)とは何か

日本にもサードのレーダーが存在


1、サードはミサイルなのですか。
違います。いったん放射線を描いて飛んで行き、目標物に命中させるミサイルが弾道ミサイルです。弾道ミサイルは高く上がった後、目標物に向かって落ちるが、この最後の段階を「終末段階」と言います。この際に我々の側からミサイルを撃って弾道ミサイルを空中で破壊することができるが、まさにこのようなミサイル防御体系を「サード」(THAAD)と呼びます。敵のミサイルに命中させるためにミサイルを撃つ発射台、射撃統制所などを統合した言葉です。ミサイル1だけをサードと言うわけではありません。THAADは「Terminal(終末)High Altitude(高高度)Area Defence(地域防御)」の略称です。普通、「高高度ミサイル防御体系」と呼びます。

2、高高度ですか。
サードの迎撃ミサイルは40〜150qの高度まで飛んでいき相手ミサイルを打撃すると言います。最大射程距離(発射地点から標的までの距離)は200qです。

3、北韓(北朝鮮)のどんなミサイルを防御することができるのですか。
北韓の弾道ミサイルのうち、短距離用としてスカッド・ミサイル(300〜700q)があります。主として我々の首都圏に到着することができます。ところでスカッド・ミサイルは飛行高度が低く、迎撃高度が低いパトリオット・ミサイルによって一部対応をすることができるというのが国防部(省)の説明です。北韓の中距離弾道ミサイルとしてはノドン・ミサイル(射距離1000〜1300q)、ムスダン・ミサイル(同3000q以上)があります。これらのミサイルが韓(朝鮮)半島を越えて最大射距離を飛んでいけばサードで防御するのは難しいです。北韓が中距離弾道ミサイルを垂直に近い高角度で撃ちあげれば、それだけ射距離も減り、わが方に落ちることもあり得るが、そうなればサード迎撃ミサイルで防御することもできるでしょう。専門家たちは「サードで防御するのに都合よく北韓がおあつらえの発射をしてくれるだろうか」と反論したりもしています。

4、慶尚北道星州に配置されるサードの砲台規模は。
射撃統制所、射撃統制レーダー、発射台6基(1基あたり8つの装填・総迎撃ミサイル48発)が1つの砲台を構成します。

5、他の国にもサードが配置されたのですか。
米国の領土でない所で砲台が設置されるのは韓国が初めてです。日本にはサードのレーダー基地だけがあります。

6、実戦に使われたのですか。
まだ、ありません。全部で11回の迎撃実験において成功したと言うが、昨年3月に米国防部武器運用試験評価局長は「実戦の運用に求められる(武器の)信頼性が充分ではない」と評価しました。

7、レーダーの電磁波は安全なのですか。
サード・レーダーにおいて100mまでは人員統制区域であり、3600mまでは非統制人員(関係者以外)立ち入り禁止区域です。国防部はサードの砲台が配置された米国グアム基地のサード環境影響評価書を根拠として、民間航空機が2400m内に入ってきてはならないと発表しました。最近、イ・ジョンミ正義党議員は「米国の環境影響評価書を確認してみると、(民間航空機の接近禁止区域は)5500mとなっている。国防部が危険距離を虚偽で伝えている」という資料を提起したりもしました。(「ハンギョレ21」第1121号、16年7月25日付より)


もどる

Back