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    かけはし2016.年10月10日号

地方政府と中央政府が全面対決


沖縄情勢の現段階と展望(上)


米軍の利益を代弁する日本政府

沖縄とともに闘う戦線を全国に形成しよう

沖縄 N・J


 以下に掲載する論文は「沖縄情勢の現段階と展望」は、本紙上で毎号、沖縄現地の闘いを生き生きと書いていただいているN・Jさんが今年八月に行われた学習会で報告した内容に加筆していただいたものである。米軍と日本「本土」政府に対して、辺野古・高江を軸にして島ぐるみの反基地闘争を展開している沖縄民衆のねばり強い闘いの現状と展望を、どのように把握し、闘っていくべきなのか。これは沖縄現地においてだけではなく、「本土」の労働者・民衆にとっても正確に分析し、指針を共に形成していくべき、重要なテーマである。ぜひ検討、論議していただきたい。(編集部)

はじめに―若干の総括

 二〇一六年三月四日、代執行裁判の「和解」により海上でのボーリング調査を含む一連の辺野古新基地建設関連の工事が中止となった。それから、はや半年になろうとしている。二〇一五年一〇月一三日の翁長雄志沖縄県知事による埋め立て承認取り消しに端を発した日本政府と沖縄県とのギリギリの攻防は「和解」による工事中止という一つの「均衡点」に到達したのである。辺野古新基地建設はアメリカと約束した日本政府の国策だ。最終的には予算が総額一兆円にもなろうかと言われるほどの巨大プロジェクトだ。昨年度の合宿の段階において、そのような国策中の国策たる辺野古新基地建設がこうした形で中止になることを予測した人は一体どれほどいるだろうか。
私は昨年春から夏の段階において、沖縄県政を含む県民ぐるみの徹底した抵抗と日本政府との対決の進展が日本の政治焦点として浮上し、辺野古新基地建設をめぐって沖縄県民の側に立つのか否かという日本本土の大衆的政治分化を促進する結果、国民の多数が沖縄県民の側に立つにいたるであろう、そうすると日本政府は新基地建設の強行を続けることが難しくなる、それでもあえて基地建設を強行すれば政府危機を生み出す、結局、政府危機の一層の深化による新基地建設の放棄か政府危機を避けるための基地建設の回避かの二つに一つになるに違いないと考えた。
事態はどう動いたか。沖縄県民の徹底した抵抗と日本政府との対決が進展し、日本の歴史上初めて中央政府と地方政府との全面対決の構図が継続した。しかし、一時日本の政治焦点として浮上するかと思われた沖縄の新基地建設問題はまもなく片隅に追いやられて行き、日本本土の大衆的政治分化の進展は限定的で不均衡だった。全面的で劇的な進展は起こらなかった。その結果、政府による辺野古新基地建設の放棄か回避かという事態ではなく、日本政府と沖縄県との全力を尽くした攻防の「均衡点」としての工事中止という事態が現れた。
この事態をどう見るか。「二重権力」の視点からみると理解しやすい。辺野古新基地建設をめぐって、日本国家の中央権力と沖縄県という限定された地域の行政権力が真っ向から対立し拮抗している状態を意味する。現在の沖縄情勢の核心はここにある。もちろん、軍事力を含む古典的な二重権力の概念ではない。選挙を通じた広範な民意、現場の大衆運動と結び付いた地方行政権力の行使によってつくり出された中央権力との対抗関係である。辺野古新基地建設をめぐって日本政府と沖縄県が「二重権力闘争」に入ったのは、昨年一〇月翁長知事が仲井真前知事の埋め立て承認を取り消してからといえる。以降、沖縄県と日本政府との間で互いの行政権力を発動した熾烈な攻防が展開され、「和解」による工事中止に至った。
この状態がいつまで続くのか。もちろん、二重権力の常として、長期間継続するという性格のものではない。早晩どちらかが弱体化し、二重権力状態は解消される。沖縄が持ちこたえている間に、沖縄とともに闘う全国の闘争戦線を強力に形成し日本政府との力関係を逆転させることが、辺野古新基地反対闘争において勝利を手にする唯一の道である。
また、日本政府の中央権力に対抗して、沖縄の民意と現地闘争に固く結合し一体となって県の行政権力を行使する沖縄の島ぐるみ闘争をとことんやり抜く中で、沖縄自治政府・自治議会・自治政府首相という自己決定権の具体的姿が展望されてくるに違いない。

1. 埋め立て承認取り消し以降の攻防


辺野古新基地建設という限定された範囲ではあるが、「二重権力闘争」ともいうべき攻防の始まりは沖縄県による埋め立て承認取り消しだった。知事の行政権限を行使したこの取り消しによって、日本政府による辺野古新基地建設のための工事は法的な根拠がなくなった。埋め立て承認取り消しは、沖縄県が自らの行政権力を行使して日本政府との対決の道に入っていく一里塚であった。沖縄県はこれ以降、基地反対! の県民の民意を代表して、日本政府との非和解的攻防を闘い抜いてきた。

翁長県政の成立と埋
め立て承認取り消し
二〇一四年一一月の知事選で前知事に一〇万票差で当選し一二月に就任した翁長知事は、公約として「オスプレイ配備撤回」「普天間基地の閉鎖・撤去、県内移設反対」「辺野古新基地建設反対」を掲げていた。とはいえ、基地反対の知事の誕生が自動的に中央政府との間に二重権力状態を生み出すものではない。中央政府との間に「二重権力状態」ともいえる情勢が成立するためには、@行政権力を実際に行使することによって中央政府の国家権力との対決局面を生み出す、A行政権力の背景に住民の総意が存在する、B大衆運動と一体的に結びつく、などという点が不可欠だっただろう。
昨年七月の第三者検証委員会の報告は、「前知事の埋め立て承認には法的な瑕疵が認められる」として、具体的に、@「埋め立ての必要性」の要件を満たしていると判断できない、A「国土利用上適切かつ合理的」といえない、B環境保全措置が十分に講じられていると認められない、C「生物多様性おきなわ戦略」など法律にもとづく計画に違反の可能性がある、と指摘した。この報告にもとづいて、翁長知事は埋め立て承認を取り消し、沖縄県の行政権力を実際に行使した闘いが始まった。
その反響と影響力は極めて大きかった。翁長知事による埋め立て承認取消し直後の一〇月一六〜一八日に行われた地元メデイアの緊急世論調査によると、「取り消し支持」が七九・三%、「支持しない」が一六・一%、「どちらでもない」が四・五%であった。県民の圧倒的多数は、日本政府に真正面から対決し辺野古NO! の行政権力を行使する翁長知事を以前にもましていっそう固く支持したのだった。

沖縄をねじ伏せようと
した日本政府の対抗策
日本政府の政治家や官僚たちは、国策にNO! を突き付け県民ぐるみで政府に挑戦してくるまつろわぬ民のくに・沖縄をねじ伏せようと国家権力を動員した対抗策を矢継ぎ早に打ち出してきた。
@沖縄防衛局は即座に国土交通相に取り消し無効の審査請求と取り消しの効力を止める執行停止を申し立てた。国交相は執行停止を決定した。さらに、国交相が福岡高裁那覇支部に、埋め立て承認取り消しの取り消しを求め、埋め立て承認の状態に戻す目的で代執行訴訟を提訴した。そして、沖縄防衛局は四カ月以上中断されていたボーリング調査を再開した。国策に反対する地方の自治は存立させないという中央政府の意思だった。
A辺野古現地の警備に、日本政府は警視庁機動隊一〇〇人余を投入した。日本本土からの機動隊導入は、一八七九年に天皇制明治政府が軍隊四〇〇人、警官隊一六〇人、官僚四〇人を引き連れて琉球併合を強行したいわゆる「琉球処分」を県民に想起させた。
B国家権力の常套手段は暴力とともに金だ。日本政府は、辺野古周辺の久辺三区(辺野古、久志、豊原)に直接金をばらまくという懐柔策として、名護市を通さないで直接区に投入する「再編関連特別支援補助金」なる制度を新たに策定した。初年度は一区当たり上限一三〇〇万円、補助率一〇〇%。次年度は金額が倍増となった。
日本政府の政治家や官僚は、これだけ国家権力を動員した強行策を実行すれば沖縄の抵抗を制圧することができると見積もったのだろう。しかし違った。工事車両の基地内進入を阻止しようとする連日のゲート前闘争はその規模とエネルギーをいっそう拡大し、早朝から一〇〇〇人を結集して警察機動隊の規制をはね返し、資材搬入ゲートを度々封鎖した。抗議船とカヌーによる海上の抗議行動は、海上保安庁と防衛局が契約したマリン・セキュリティの暴力的警備をはねのけフロートの中に入り工事中止を訴え続けた。工事は遅延し、警備費用だけが膨らんでいった。

 県と国の全面対決
と三つの裁判
他方、沖縄県の抵抗を法的に縛り付けて屈服させようとした代執行裁判は、翁長知事の沖縄県の辺野古NO! の固い意思と反撃の中で次の三つの裁判が並立することになった。
@ 代執行裁判
日本政府が沖縄県の権限を奪おうとした「代執行訴訟」は、一二月二日に福岡高裁那覇支部で第一回の口頭弁論が開かれ、翁長知事が次のように意見陳述した。
「沖縄が米軍に自ら土地を提供したことは一度もありません。そして戦後七〇年、あろうことか、今度は日本政府によって、海上での銃剣とブルドーザーをほうふつとさせる行為で美しい海を埋め立て、私たちの自己決定権の及ばない国有地となり、そして普天間基地にはない軍港機能や弾薬庫が加わり、機能強化され、耐用年数二〇〇年ともいわれる基地が造られようとしています」。
A 抗告訴訟
日本政府は、個人や民間に対する不利益な行政処分からの救済を目的とした行政不服審査制度を悪用し、沖縄防衛局の訴えを国交相が認めるとともに、知事の埋め立て承認取消しの効力を無効にする執行停止を行なった。
この国交相の執行停止は違法だとして、沖縄県は、国交相の執行停止の取り消しを求める「抗告訴訟」を那覇地裁に提訴し、同時に執行停止決定の執行停止を求める申立をした。
翁長知事は記者会見で次のように述べた。
「本件の訴えは、国土交通大臣による執行停止決定の効力を失わせることにより、沖縄防衛局が行なう埋め立て工事を止める上で有効な方法だと考えている」。
B係争委決定不服訴訟
国地方係争処理委員会は、沖縄県が申し立てた国交相の執行停止の違法性に関する審査に対し、委員の多数決で「国交相の判断は一見不合理であるとはいえず」「審査対象に該当せず」として、却下した。それに対し、「執行停止の違法性について実質的な審査を一切行なうことなく却下した。国地方係争処理委員会の存在意義を自ら否定しかねずまことに遺憾」(翁長知事)と述べた沖縄県は、福岡高裁那覇支部に係争委決定不服訴訟を提訴した。
こうした三つの裁判の並立を日本のメディアは「裁判合戦」とやゆしたが、その実体は日本政府と沖縄県の死活をかけた闘争だった。三つの裁判の中で代執行裁判が攻防の中心となった。代執行裁判は「国が勝つことははじめから決まっている」との一般の評価が強かったことに見られるように、政府としては「勝訴」の判決を得て沖縄県の抵抗をけちらし基地建設工事に拍車をかける腹積もりだった。ところが、倦むことのない現地闘争の継続と広く世論を巻き込んだ法廷論議を通じて、日本政府の沖縄に対する権力行使の有様があまりにも露骨で手前勝手、不法不当な強行策であることが明らかになり、「国が負けそうになっていった」。

代執行裁判での「和解」
成立と工事中止
一月二九日の第三回口頭弁論のあと、裁判所は、「和解勧告文」を提案した。それは以下のような内容だった。@一九九九年の地方自治法改正は、国と地方公共団体が対等・協力の関係になることを期待されたものであるのに、改正の精神に反する状況になっている、A本来あるべき姿は、沖縄を含めオールジャパンで最善の解決策を合意し米国に当たるべきであるのに、法廷闘争が延々と続くことは望ましくない、B和解案を二案提示する。A案(県は埋め立て承認取消を取り消し、国は辺野古基地の供用開始後三〇年以内に返還または軍民共用とすることを米国と交渉する)を検討し、否であれば、B案(国は訴訟と審査請求を取り下げ、埋め立て工事を直ちに中止する。国と県は違法確認訴訟判決まで円満解決に向けた協議を行う)を検討されたい。
このように裁判所は代執行訴訟で国の強引なやり方に疑問を呈し、国敗訴の可能性を示唆するとともに、正常な裁判手続きに乗せることを勧めた。そして、三月四日「和解」が成立した。
和解条項の骨子は@国は翁長知事の承認取り消しの取消を求めた代執行訴訟を取り下げ、県は国の違法な関与の取消を求めた係争委不服訴訟を取り下げる、A国は、翁長知事の埋め立て承認取消に対する審査請求と執行停止申し立てを取り下げ、埋め立て工事をただちに中止する、B国と県は地方自治法に定められた本来の手続きにそって、「県に対する国の是正の指示」「県による国地方係争処理委員会への審査申し出」「是正の指示の取消訴訟」とすすめる、C「是正の指示の取消訴訟」の判決確定まで、国と県は普天間飛行場の返還および埋め立て事業に関する円満解決に向けた協議を行なう、D判決確定後は、判決に従い互いに協力し誠実に対応することを確約する、となっている。
こうして、事態は昨年一〇月翁長知事が仲井真前知事の埋め立て承認を取り消した段階に戻った。
(つづく)

 


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