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    かけはし2016.年10月17日号

サード配置で農民は皆死ぬだろう


さらばサード、来れ平和!

無責任な政府政策に苦しめられる星州、金泉の住民たち

 「朝日」10月1日付によれば、「韓国国防省は9月30日、米軍が来年末までに慶尚北道星州郡に配備する高高度迎撃ミサイルシステム(THAAD)の予定地を、韓国軍基地から20キロ弱離れたゴルフ場用地に変更すると発表した」。星州郡は韓国民が愛好するチャメ(マクワウリ)の一大産地で、電磁波などによる影響を心配する農民たちによるサード配置反対運動が広がっており、隣接する金泉市でも反対の炎が盛り上がっている。(「かけはし」編集部)


3人の息子を育てる前から、うちのオンマ(母さん)は「女丈夫」だった。オンマは田舎の村の6人きょうだいの長女だった。オンマは幼い弟妹たちの前で「長男」の役目を担った。オンマが育ったハラボジ(祖父)の家には、うら寂しい音をたてる竹林があった。そこでハラボジは碑石を刻む仕事をしていた。石に筆字を書き、石ノミ1つで針仕事よりも精巧に文字を刻む腕前は実に見事だったそうだ。ハラボジは農作業にはさして気を使わなかった。農作業がどんなに忙しくても、1枚のむしろを敷いてマッコリを飲むのを日課にしていたと言う。農作業はもっぱらハルモニ(祖母)とオンマそれに6人きょうだいの領分だった。
オンマが育った所はチャメで有名な慶尚北道星州郡星州邑大家面(注1)だ。その頃、大方の農村では稲刈りが終われば秋には麦を植え、冬の大地にうちかった麦を食べて5〜6月まで、ひもじい腹をなだめて暮らした。それでも星州に暮らしていたオンマ6人きょうだいが、おいやめいに「腹をすかすこともなく糧食がなくなる心配もせずに暮らした」という話をしているのは、紛れもなく「星州チャメ」のおかげだった。
星州の人は大概このようにして成長した。チャメが飯を食わせてくれた。9月5日、星州郡庁前で会った農民チョン・シギョンさん(62)も「父母が私を育て、再び私が子どもらを育て、今後は孫らに小遣いをやれるのもすべてチャメのおかげ」だと話した。牛を売って息子を大学に行かせた時代に、星州では父母らがチャメを売って子どもを大学に行かせた。今も全国のチャメの70%が星州で作られる。
ここの農民たちは「チャメ作りの仕事は米や麦の作業よりも数十倍は手がかかる」と語る。「チャメ作りの努力の10分の1も父母に尽くせば、親孝行賞ものだ」という言葉もある。冬からハウスを建て、3月から1年の半分以上もの間、収穫が続けられる。畑の管理にも他の作物よりもはるかに手間がかかる。慶尚道の言葉に「チッコル」というのがある。カボチャにチャメを接ぎ木して、より多くのチャメができるように「チャメ・チッコル」をする。畑の養分を維持する知恵も、星州の人々のものだった。

星州と言えば、チャメ

 静かだった「チャメの本場」に問題が生じたのは去る7月13日、政府が駐韓米軍のサード配置予定地として、星州郡星州邑星山里に位置している星山砲台を突然に発表してからだった。サード配置の地域を事実上、星州と念押しをすると、星州の住民たちの胸はがぜん落ち込んだ。この時から他の地域の人々の間で、「サード・チャメ」「電子レンジ・チャメ」「電磁波チャメ」などの言葉が乱舞した。住民たちの暮らしを支えてくれていた「チャメ」が危機に陥る状況だった。
チョンさんは「今、うちの畑から『サード第1候補地』と話されていた星山砲台が目と鼻の先に見える。1qほど後ろでレーダーの電磁波が放たれる形だ。星州のチャメ畑全体の80%以上が星山砲台のサード予定地にさらされたとの話も聞いた。この土地を放棄することもできないが、体にそれほどまでに害が及ぶという主張があるのに政府はキチンとして説明さえしないものだから不安感は一層、募らざるをえない」と語った。
彼は40年以上も、ここで農業を営んでいる。1日も欠かすことなく未明の3時30分に起きて4千坪のチャメ畑を守ってきた。先祖の墓も星山砲台の真下にある。計画通りにこの地で作業が進められれば墓を移さなければならないということにもなりかねない。そのうえ今は畑に出て行けば、「サード配置予定地」という言葉が頭の中によぎる。
「私も今すぐ出ていきたくはない。息子が家に来た時に『チャメ畑に遊びに行こう』という言葉は、もう絶対に言えないのだ。電磁波を受ければ脳に異状が生じるという話もあるし、蜜蜂は一定の高さ以上を飛べば電磁波の影響で方向感覚を失うという話もあるが、それが本当であるにせよ、そうでないにせよ、住民にとってはそのすべてが不安の材料なのだ」。
直接、訪れた星州の現実は予想よりもずっと深刻だった。9月4日、大邱を経て高速道路経由で入った星州は、その入り口からして「サード配置反対」の横断幕が道端に1つ2つとかけられていた。百日紅(サルスベリ)が華やかだった高速道路を過ぎると、星州郡庁の近くには色とりどりの横断幕が入り乱れるようになびいていた。
星州郡庁に近づけば近づくほどその数は増え、郡庁付近ではざっと見積もっても千枚以上と思われる横断幕が、まるで万国旗のようにかかっていた。「星州郡サード配置、決死反対」「行政手続き無視したサード配置、即時撤回せよ」「韓(朝鮮)半島を脅かすサード配置、決死反対」「子どもらに電磁波を浴びさせることはできない」。それらの中に住民たちの苦痛や怒りがそっくり込められていた。
「私はパク・クネの国民ではなく、大韓民国の国民だ」「私は共産党が嫌です、今やセヌリ党も嫌です」など、政府や執権党に対する反感をそのままに表したものも多かった。伝統的に保守政治の性向が強かった地域であることを考えれば、以前には想像もしがたい態度の数々だ。
星山、星元、ソソン、柳西里など星州地域のほとんどの村が横断幕の張り出しに参加した。またさまざまな同期会、MTB同好会、星州管弦楽団、儒林会、学園・子どもの家連合会、町中の酒場「マドンナ」が掲げた横断幕も目についた。右も左もなかった。枯れ葉剤戦友会、在郷軍人会星州郡支会、正しく生きる運動など、保守性向の諸団体も「地域経済をすべて殺した国防省は賠償せよ」として横断幕の隊列に合流した。

「共産党嫌です、セヌリ党も嫌です」

 日が暮れると星州郡庁前の広場にはキャンドルが灯った。政府がサード配置の予定地として星州を発表した後、毎日夕刻にキャンドル集会を行い、もう55日も続いている。この日も農作業や夕飯が終わるころの7時半ごろから星州郡庁駐車場が埋められ始まった。車からハルモニ、ハラボジたちが5人、6人と連れ立って降り、仲むつまじく語り合っていた。「きょうは、人々がいっぱい乗ってきたのかい?」。比較的若い層などは子どもの手を引いてやってきた。30分ほどで郡庁前広場は人々によってビッシリと埋め尽くされた。
ある住民は「この地域でキャンドル集会というのは極めて珍しいことでもあり、初めは余りにも熱気がすごくて心配だった。今はサード配置に反対する情緒が完全に定着し、キャンドルが違和感のないものになった」と語った。ハルモニたちは踊りを踊った。農民会が主導する集会では民衆歌謡「農民歌」がスピーカーから流れてきた。クリスマス・キャロルに歌詞を重ねた「クネヌン アニダ」(注2)のような反政府性の歌詞が出てきても、ギターの音に合わせて一緒に体を揺らした。また一方では「セヌリ党脱退届を受け付けます」という文言が書き込まれたテントが設置された。8月25日までに1151人が脱党届を出した。
サードがもたらす軍事的緊張感だけではなく、数十年間にわたって地域経済の元手だった「星州チャメ」が「サード・チャメ」によって無視されることに対する怖れは、それほどに大きい。9月5日に会った農民イ・イルンさん(48)も心配していた。「有機農チャメを作ってから20年になる。チャメ・ハウス1棟につき少なくとも1千万ウォンほど9施設投資費がかかるし、毎年堆肥・種子・ビニール代など維持・補修費も軽視できない。来年、サードが来たらどうなるのか分からない。『星州チャメ』というブランド価値が急激に落ちてチャメの価格が暴落し、一両年に物量が減りでもしたら借金のヤマに座ることになりかねない」。

1151人がセヌリ党脱党


融資を受けてチャメ作りをしている人々は最近の事態のせいで不安感にさいなまれていると彼は付け加えた。おまけにイさんの場合、有機農チャメを育てつつ1年間に数百万ウォン分の「蜜蜂」を使わなければならない。一時、電磁波が小型昆虫の行動に障害を及ぼすという報告書が論難になったことがある。
「チャメの受精は蜂が全部やっているが、自分の巣を見つけられなければ無駄なことになる。強力な電磁波が生態系に与える影響について政府がキチンとした答えを出せずにいる。近頃は若い帰農層が星州にいっぱいやってくる。サードが存在すれば、どんなにチャメが良くても、誰が子どもを連れて星州にやって来るだろうか。星州は死んだ村になりかねない」。
実際、星州チャメを育てるために帰農した人々は同様の心配をしていた。星州出身の帰農1年目のキム・キルテさん(43)が語った。「食うために昨年、星州に来た。少なからぬ借金をして農業を始めたのに、政府は何の予告もなしに1年ほどでサードを配置すると言うものだから、農作業にどんな悪影響を与えるのか不安にならざるをえない」。
彼は昨年、2200坪の土地にビニール・ハウス8棟を設置した。今まで貯めたカネと受けた融資を含めて数億ウォンかかった。昨年は収穫がかなりよかった。10 kg入りのチャメ2800箱を収穫した。だが彼には心配が絶えなかった。「星州チャメは既に『最高のチャメ』としてブランド化されたのに、サードがやってくればイメージがかなり悪くなるだろう。帰農する前に分かっていたら兄たちに『サードが入って来たら、買って食べるだろうか』と聞いてみると、『わざわざ買ってまで食いはしないだろう』と言っていた。他の地域の平凡な人々は星州の闘いにそれほど関心を持ってはいない、という話も聞いた。サードを阻止しなければならない」。
政府は耳を閉ざしている。サード・レーダーの安全性問題について「サード・レーダーが配置された地点から少なくとも100m以上離れれば個人の健康や安全に問題はない」という立場を繰り返しているばかりだ。そうしながらも、サード・レーダーにかかわる国防省の検証報告書の公開を拒否している。
政府に対する不信は深まっている。星州が「サード配置の適格地」として言及されるとともに、話題になった村のうちの1つが星州邑星元里だ。ここでは全世帯の80%以上が高霊パク氏一族で構成されている「集姓村」だ。パク・クネ大統領は高霊パク氏の流れだ。パク大統領の高祖父(祖父の祖父)など、先祖の墓所が星元2里にあり、パク・チョンヒ元大統領のすぐ上の代がこの地域で長い間、暮らしていた後に漆谷を経て亀尾に行ったものと伝えられている。
この地域の里長を務めたパク某さんは「ハンギョレ21」に、こう語った。「星元里の人々は農業を営み、ヒマな時に焼酎の一杯も飲めばそれで良いという人々だ。大統領を2人も輩出した地域だからといって何か恵沢を受けたわけでもないし、何かを望んだということもない人々だ。ところが、見たことも聞いたこともないサード問題がもちあがった。農作業をやりながら静かに暮らしていた以前に戻してくれと願うばかりだ。村では今も政府のすることに、ああだこうだと反対する人はいない。だがサードばかりは来ないほうがいいとの考えが広がったのは事実だ。キャンドル集会に出かけられる方もいるにはいる。

金泉でもキャンドルが始まる

 政府が「押しつけ式のサード政策」を推進するとともに、サード配置反対の火の手は隣りの金泉にも広がっている。パク・クネ大統領が8月4日、「星州郡民の不安を減らすために、星州郡が推進する新たな地域があるならば綿密に検討し、調査する」との言葉で「第3の候補地」の通告を始めたからだ。翌日、青瓦台は「サード第3の敷地調査・検討」発言について「選定されたものを変えるのは簡単ではないけれども、他の地域も精密に調査し詳しくお知らせするとのお言葉」だと語った。
第3の敷地候補は星州郡草田面に位置するゴルフ場ロッテスカイヒル星州カントリークラブ(ロッテCC)に糸筋をつけている。ロッテCCは行政区域上は星州郡に属するけれども、金泉市庁との距離が14 km、人口が密集する慶北ドリーム・ベリー革新都市とは7kmしか離れていない。サードの核心施設にして「有害電磁波」の論難を招いたレーダーの発射方向は、金泉市を正面から狙うことになる。星州郡碧珍面ヨムソッポン山、修倫面カッチ山など別の候補地も挙げられたが、国防部の調査結果では事実上「不適格」との判定を下した。
時ならぬ「流れ弾」を受けることになった金泉もキャンドルを灯した。金泉市サード配置反対闘争委員会を中心にして8月20日から金泉市庁と金泉駅前に住民1300余人がキャンドルを持って集まった。金泉は人口14万人規模の大都市だ。道路の一隅では星州のように、セヌリ党脱党届を受け付けていた。あるボランティアが語った。
「キャンドル集会が始まってから300人余りが脱党届を出した。多くはないと考えるかも知れないが、保守傾向の色濃いこの地域で、以前であれば想像しがたい集団的動きだ。他の地域に配置が困難な危険な施設を金泉側に持って来たということに伴った怒りが現れたのだ」。
大型スピーカーからは「大韓民国は民主共和国だ」という歌が流れてきた。住民たちは「サードはさようなら、平和よ来たれ」というプラカードを手にしていた。市民パク・トテギョンさんは「大統領はサードの配置に伴う長所、短所、安全性の問題、被害対策をまずもって理解させるべきだった。それが大統領の言葉というものだ。サードは国家の安保や平和のためのものだというが、我々にとっては必要のないもの」だと主張した。
子どもらの手を握ってやってきた若い夫婦たちがけっこう目についた。妻と子どもらの手を握ってやってきたキム・ジェヨンさんが語った。「サードの電磁波のせいでその是非を政府は説明できない。金泉でこのようなデモは初めてのようだ。わが家族もこういう所は初めてだけれども、今後はもっと出てくるつもりだ」。
2人の子どもを連れてきた「30代のオンマ」チョン・スウォンさんも心配は尽きない。「電磁波の影響が検証されていない軍事施設を、人々が暮らしている所に向かわせるのはダメだ。大邱に暮らしていて、週末に米軍人らの道理にもとる行為を数多く目にしたが、娘をもつオンマとして、金泉でも同じようなことが繰り広げられはしないか恐ろしい。ここに暮らし、将来も暮らさなければならない住民たちの声に政府がどうか耳を傾けてくれ」。
金泉はスモモやブドウ、リンゴが有名な地域でもある。星州のように、ここの農民たちもため息の数が増えている。サード基地第3候補地から放つレーダーが金泉地域全体に影響を及ぼすだろうという憂慮が出てくるとともに、今度は「サード・スモモ」「サード・リンゴ」という言葉が出回っている。星州と金泉の農民会を中心にして「サード配置反対連帯」に乗り出したのも、このためだ。金泉テドン面でリンゴ作りをしているナ・ヒョンテクさんは「政府のせいで人が死ぬことになりそうだ」と語った。

政府の第3候補地はどこ?

先立ってテドン面は政府が住民の同意なしにテドンダムの建設を推進し、地域住民らは3月から金泉市庁前で170日余りも1人デモを繰り広げた。既にひとしきりのハシカをすましてはいたが、再びサード問題によって政府は金泉の農民を苦しめているのだ。ナさんは怒りをぶちまけた。「ダムができれば気候の変化によって農業がメチャメチャになりかねない。ダム建設を阻むために農作業を削ってまで努力した。やっと少しは静かになると思っていたのに今度は政府がサードで、事故をひき起こした」。
政府は早ければ秋夕(チュソク)(注3)直後に「サードの第3候補地」を確定発表するとの計画だ。引き続き、来年にサードの実戦配置を終えるとの計画も変えてはいない。「我々も生きて行かなければならないのに、政府がサードを配置して農民らを立ちいかなくする。政府は人が生きていく上での手助けすべきなのに、とんでもないことをして…」。ナさんはリンゴの箱を広げたまま、タバコの煙を深く吸い込んだ。(「ハンギョレ21」第1129号、16年9月26日付、星州・金泉=ホン・ソッチェ記者)
注1 邑、面ともに行政単位。
注2 「クネヌン アニダ」クネではない、となるが、ここではクネ(ブランコ)とパク・クネ大統領のクネを掛けている。
注3 旧暦8月15日を指し、日本のお盆のように人々が故郷に帰参し先祖供養などを行う。


 



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