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    かけはし2016.年10月31日号

県民は原発再稼働反対を選択


新潟県知事選―歴史的勝利

新潟 T・S

6万票以上の差をつける

 東京電力柏崎刈羽原発の再稼働問題が最大の争点となった新潟県知事選(一〇月一六日投開票)は、東電や同原発に厳しい対応をとってきた泉田浩彦・県知事が直前に撤退を表明する中、同知事の路線の継承を掲げて告示直前に立候補した米山隆一候補(医師・弁護士、社民・共産・自由・新社会・緑の党・市民団体などが推薦)が、自民・公明推薦の森民夫(前長岡市長)候補に六万票以上の差をつけて当選した。米山氏は民進党の五区支部長を務めていたが、それを離党しての出馬であった。

 得票数・得票率は以下の通りである。
米山隆一 528、445票(得票率52・2%)
森民夫  465、044票(得票率45・9%)
※他に2候補

 わずかな準備期間で活発な選挙戦を展開できた大きな原動力の一つは、昨年以来の安保法制に反対する運動や七月参院選で勝利した新潟の野党・市民共闘の信頼・協力関係だ。それがエンジンとなり、効率的な全県選挙の組織化や展開を可能にした。さらにもうひとつ重要なのは、七月参院選で野党・市民共闘によって当選した森裕子氏のイニシアチブだった。森議員は泉田知事撤退直後から「再稼働反対を争点にした知事選」をにらみ、各政党や団体にも呼びかけて準備を重ねていたのである。

自主投票の民進党も最後は支援


七月の参院選と大きく異なり、野党候補の出馬が直前まで遅れたためもあって、連合は自公推薦の森候補を支持、それを受けて民進党は「自主投票」となった。しかし、まさに「自主」的に、民進党の阿部知子氏や近藤昭一氏ら「原発ゼロの会」所属議員をはじめ、それ以外にも多数の国会議員が全国から米山候補応援のため連日新潟に乗り込んだ。最終的には前原誠司氏、玉木雄一郎氏、蓮舫代表も駆けつけたが、これはまさに先の民進党代表選に立候補した全員が応援に入ったことになる。このような流れにおされ、県内の民進党の各級議員も積極的に登場するようになった。
民進党の混乱について、県連幹部のイニシアチブのなさを批判する声も大きいが、民進党を含む野党共闘が成立していれば原発問題を「最大の争点」にすることができたかは微妙だ。
七月参院選の原発再稼働問題に関する報道機関のアンケートに対する森裕子氏の回答は民進党に配慮せざるを得なかったが、米山候補は「(現状では)再稼働を認めることはできない」として、泉田知事の路線よりも一歩踏み込んだ立場を明確にすることが可能になった。原発再稼働問題が争点として浮上するにしたがって相手候補も慎重姿勢を明確にし始めた中で、民進党や連合の立場に拘束される必要性が低下したことは結果的に有利に働き、より踏み込んだ立場を明確にできたのである。

「古い政治」と「新しい政治」の対立

 森候補の応援には政権・与党の幹部が次々に入り、候補も「国とのパイプ」を強調した。これは民進党を離党してまで出馬し、市民運動にも支えられた米山候補の運動とは好対照で、「古い政治」と「新しい政治」の対決構図を明確にすることになった。森陣営が泉田県知事を対立候補として想定していた「新潟県政批判」路線も軌道修正することができず、批判する相手が不在のまま、その多くは空振りに終わった。
一方、米山陣営では、参院選と同様に、あるいはそれ以上に、市民の参加も力強かった。各地の選挙事務所には「ママの会」などの若い女性たちが子連れでボランティアに参加したり、組織動員以外の多くの市民たちが電話かけなども必死に取り組み、市民集会も重ねた。北海道五区補選以来の「デンカツ」(ネット上で情報を許攸しながら全国から新潟の有権者に電話かけをする取り組み)も組織された。池田佳代子さん、飯田哲也さん、金子勝さんをはじめ多くの文化人らも続々と応援に駆けつけ、支援の輪は県内外に大きく広がった。
政党支持率で見れば野党が束になっても勝てない相手に勝利できたのは、福島原発事故を起こした東電が管理する世界最大級の原発を抱え、福島からの避難者も多くが暮らす新潟県で、自民・公明支持層や無党派層の中にも「再稼働反対」の意思が広範に広がっていることが大きい。
知事選を前後した報道機関の調査では、県民の六割以上、投票した人の中でも六割から八割程度の有権者が原発の再稼働に反対であり、そして反対の七割から八割が米山氏に投票したということが明らかにされ、この知事選を通して原発再稼働に対する県民多数の意思が明確に示されたことは画期的だ。
さらに、TPP問題の農業や地場産業への影響の不安、実感のない「アベノミクス」、政権の政治手法そのものへの批判、といった要素が加わり、これらが「地方の反発」という形で今回の結果に表れたと言える。

新たな局面の始まり

 今回当選し新たに知事となる米山氏は、医師・弁護士としての知識や経験はあっても、行政経験はなく、議会で支える政党は圧倒的少数だ。これらの弱点は、権力や業界の攻撃や付け入る隙として狙われるだろう。また、米山氏自身も、これまで自民党や維新の党なども渡り歩き、かつては原発再稼働も明言しており、本人の政治信条に関しては不安もある。
しかし私自身も選挙前後の米山氏の発言(発言の字面だけでなく、そこに浮かび上がる本人の熱意や語り方も)を聴く限り、この知事選を通して、原発事故避難者をはじめ多くの人々の切実な想いに出会い、自らの確信を育ててきたようにも感じる。いずれにせよ、政治家の確信をぶれずに確固としたものとして育てていくのも市民の義務でもある。
今回の結果は、新潟と全国、そして世界の脱原発運動にとって大きな歴史的勝利である。同時に、この間積み重ねられてきた、野党と市民の協力という形に象徴される「新しい政治・民主主義」の大きな前進でもある。選挙を担った他の野党や全国の仲間の皆さんとともにこの喜びを分かち合い、県政と原発再稼働をめぐるこれからの新しい局面に向けても仲間とともに備えたい。

10.17

共謀罪に反対する講演会

現代の治安維持法だ

永島靖久弁護士が講演

 【大阪】エルおおさかで一〇月一七日、共謀罪に反対する市民連絡会・関西が主催する講演会が開かれ、永嶋靖久弁護士が講演した。講演のポイントを整理した。

これまで三度
廃案になった
共謀罪法案は、TPPの批准を優先させるため今臨時国会の上程こそ断念されたものの、年明けの通常国会に上程されるのではと危惧されている。これまで三度廃案になった。
共謀罪法案は、二〇〇〇年一一月に国連総会で採択されたパレルモ条約の批准に必要だとの理由でつくられたものである。パレルモ条約とは、日本政府訳の国際組織犯罪防止条約のことで、日弁連は、トランスナショナルという言葉を重視し国連越境組織犯罪防止条約と訳している。この訳の違いには意味がある。
共謀罪法案は二〇〇三年一回目が上程され、二〇〇四年、〇五年と上程された。〇五年案は第三次まで修正されたが、〇九年通常国会の解散で廃案になった。三度廃案になったら、以後上程は断念されると言われてきたが、共謀罪はそうではないだろう。
パレルモ条約の批准に共謀罪は必要なのか。この条約は、性質上国境を越えた犯罪に対処するもので、同時に組織的な犯罪者集団が関与するものを適用範囲としているとして、日弁連は共謀罪法案が越境性も組織的な犯罪集団の関与も要件にないと批判している。条約の三四条では、締約国は自国の国内法の基本原則に従って必要な措置をとると述べていることを指摘している。国内法の基本原則とは、既遂処罰の原則だ。共謀罪では、未遂でも、相談しただけで罰せられる。既遂処罰の原則を完全に覆すものだ。

労働組合さえも
犯罪共謀の対象に
今年八月二六日、共謀罪が要件を変え新設案『テロ等準備罪』法案として国会上程を検討されていることが朝日新聞で報道されたが、冒頭述べたとおり上程されなかった。
当初の政府案では、組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律の第六条の二として、「組織的な犯罪の共謀」を加えるというシンプルなもので、団体の活動としての行為を共謀した者の刑罰は懲役・禁固長期四年以上としている。長期四年以上の法定刑が定められている罪に共謀罪が適用されるという規定の仕方のため、法定刑引き上げの法律改正があると共謀罪の対象犯罪がどんどん増えていく。法定刑の懲役・禁固長期四年以上のリストは、二〇〇六年現在で六一九件にものぼるが、現在は七〇〇件を超えているだろうとのことだ。
団体とは、暴力団や政治結社、労働組合だけではなく、二人以上が共同の目的を持ち内部的な任務分担があれば成立しうる。共謀とはどのようなことか?「漠然とした相談」、「意気投合した程度」と、「具体性・現実性を持った犯罪実行の意志の連絡」とを区別することは不可能である。「目配せでも十分共謀が成立する場合はある」(〇五年一〇月法務省答弁)。
条約はテロ対策なのか。越境的組織犯罪は、薬物、銃器、人身売買、移民の密輸、マネーロンダリングなど多くの形態があるが、対テロ対策ではない。

共謀罪は犯罪の
範囲を拡大する
共謀罪ができると、犯罪の範囲は拡大する。既遂で無罪になっても、共謀で有罪になるかもしれない。ロス疑惑の三浦和義さんは、殺人では日本で無罪が確定した後、殺人の共謀罪でアメリカで逮捕された。準備行為は、処罰要件であって犯罪の構成要件ではない。現行の殺人予備や放火予備には客観的に相当の危険性が必要だが、共謀の準備は、それ自体が危険性を有する必要がない。実行に向けたと想像される具体的な行為があればいい。例えば、相談した後、メモを残す・ATMからお金をおろすなど。
二〇一六年五月刑事訴訟法の一部改正が行われ、盗聴対象犯罪の拡大が図られた。一二月一日から発効する。薬物・銃器・組織的殺人・集団密航に加え、爆発物取り締まり・放火・殺人・傷害・詐欺・窃盗・逮捕監禁・誘拐・児童ポルノなど、ほとんど全ての犯罪について盗聴権限を与えた。その結果、犯罪者のみならず、ジャーナリスト、報道関係者、学者、研究者、NPO法人関係者、市民団体運動家、労働組合関係者、さらに、一般市民すら危険にさらされる。今までは、通信事業者の施設で事業者による立ち会いのもとでのスポット盗聴だったが、今後二〇一九年六月までに、盗聴実施中の全通信について、事業者が記録し、暗号化して捜査機関の施設内の装置に伝送することになる。根こそぎ盗聴だ。刑事訴訟法の一部改正では、もう一つ司法取引が認められ、二〇一八年六月までに実施される。

戦争法と治安法の
境界がなくなる
この法改正と共謀罪がセットになれば、誰に対しても犯罪がでっち上げられかねない。それが、共謀罪は現代の治安維持法だと言われるゆえんである。治安維持法は一九二五年共産党の運動を弾圧するためにつくられ、一九四一年の改正で国体変革・私有財産制の否認を目的とする結社の組織等を処罰した、最高刑は死刑。これにより一九四三年までの検挙者六万七二二三人、起訴された者六〇二四人。労働組合の活動、宗教団体、文化運動、治安維持法被告の弁護活動まで処罰の対象となり、反戦運動、労働運動はじめ全ての社会運動を衰退させた。治安維持法は「危険な思想」の処罰したが、共謀罪は「危険な相談」を処罰するものである。
共謀罪ができれば、人と人との関係を変えるだろう。共謀罪は相互不信を増大させ、冗談が言えない社会をつくり、恐怖と不安を基軸とする国民統合と治安法制の要となる。張り巡らされた監視システムとコミュニケーションの監視により、戦争法と治安管理の切れ目のない再編が行われる。自衛隊と警察の一体的運用はすでに国内では進んでいる。戦争法と治安法の境界がなくなろうとしている。国際的には、FATF(金融活動作業部会)が司令塔のひとつの役割を果たしている。FATFは加盟国・地域の閣僚によって一九八九年に設立された政府間機関だ。マネーロンダリングや大量破壊兵器を拡散させる資金調達に対抗するための国際基準として一連の勧告を出した。勧告は何回か改訂され、最近では二〇一二年に改訂された。グローバルな金融資本の利害を保護し、公平な競争の場を確保しようとする。国際的・国内的に進むこれらの再編は、憲法的制約を逸脱して進んでいく。安倍がめざす世界一安全な国とは、このような再編と一体のものであろう。

なんとしても
上程の阻止を
反社会的勢力を追放するという言葉が、いまや暴力団追放に取って代わろうとしている。犯罪対策閣僚会議の「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」の中では、反社会的勢力を暴力・威力と詐欺的手法を駆使して経済的利益を追求する集団と定義している。これが厳密に適応されれば、労働組合も含まれるだろう。社会的貢献活動と称して公共の場所の清掃や落書き消し、除雪などが執行猶予における保護観察の遵守事項として新設された。安全であってこその自由という論理は、市民生活へ警察の一層の介入を可能にする。警察こそ自由を実現するというわけだ。迷惑防止条例が不安防止条例に取って代わられる。重要犯罪は明らかに大きく減少しているにもかかわらず、体感治安という言い方で、監視カメラや民間パトロールが生活安全条例の拡大と並行して増え続けているという。
最後に司会の永井さん(関西救援連絡センター)から、「自公と維新で国会の三分の二以上の議席を確保している現在、共謀罪が上程されれば、ほとんど通るのは確実。だから、この法律の内容を広め、上程させないように努力しよう」との提起があった。         (T・T)

 



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