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    かけはし2016.年12月12日号

天皇主義者の分岐と憲法問題


天皇生前退位

「有識者会議」ヒアリングが示したもの

原則的論議こそ問われている



明仁天皇の仕掛け

 八月八日、TVを通じて流された明仁天皇による「生前退位」の表明=新たな「玉音放送」は、天皇自身による、きわめて明確な憲法違反の政治的意向表明であり、安倍政権の憲法改悪スケジュールにも影響を与える衝撃力を持った天皇の意識的政治行動だった。
 本紙では、天皇の「生前退位」表明放送をうけて反天皇制運動連絡会の天野恵一さんのインタビュー記事を掲載した(本紙八月二九日号)。
 このインタビューでは、「象徴としての務め」に焦点を絞った天皇のビデオメッセージが、きわめて意識的な違憲の政治行動であるという事実と、この「お言葉」に対する政府、各政党、メディア、そして学者・評論家の動向にはっきりとした批判を加えている。われわれは「反天皇制」と「反改憲」の運動を結合し、どのような主張と運動を作り上げていくかについて、今後とも継続的な討議を本紙上で提起していきたい。
 その上で重要なことは、天皇が語る「象徴としての公務」なるものが、現憲法で明記された「国事行為」の枠組を踏み越える違憲の政治行動であるという事実が、マスメディアのすべてで無視されていることである。そうした意識的無視の上で、「ご公務を手控える」とか「生前退位の承認」といった主張が横行している。おそらくマスメディアや世論がそうした「生前退位」に好意的な反応を示すだろうことも、なかなかしたたかな明仁天皇の「計算」に入っていたであろうことは間違いない。

「特例法」で乗り切れない


 安倍政権は、明仁天皇の「生前退位」の意向を受けて、その法的整合性を現行憲法との関係でどのように解決できるのか、という調整に入っている。安倍首相にとってそれは、彼の悲願である「改憲」プロセスの推進との関連でも、重大かつ困難なテーマになっている。しかも天皇明仁は、ビデオメッセージの中で明確に二年後の「平成三〇年」(二〇一八年)をメドに新天皇に「譲位」する意向を示した。時間は限られている。
 安倍内閣はそのために、天皇の「生前退位」を当面、明仁天皇一代限りの「特例法」を軸に承認していく方向で調整を図ろうと、「有識者会議」(天皇の公務負担軽減等に関する有識者会議)を開き、三回にわたるヒアリング(一一月七日、一一月一四日、一一月三〇日)を行ってきた。しかし、このヒアリングの結果は、必ずしも安倍政権の思惑にかなったものとはなっていない、と言うべきだろう。
 それは「一代限りの特例法」という安倍政権の思惑を容認しているのが一六人の「有識者」のうち六人なのに、明確に反対している「有識者」が七人に達し、反対論のほとんどが安倍の強力な支援部隊である、極右「日本会議」系のイデオローグたちがその中心にいるからである。この問題では「日本会議」系の中での「分裂」も見られるのだが、その多くは「生前退位反対」である。

粘り強く「いらない」の声を


 「有識者会議」の中での極右天皇主義に基づく「生前退位」反対意見を幾つか列挙しよう。
 「天皇ご自身で拡大解釈した役割りを果たせなくなるといけないから、元気なうちに皇位を退き、次に引き継ぎたいというのは異例のご発言だ。……偏った役割り解釈にこだわれば、世襲制の天皇に能力主義的価値観を持ち込むことになりかねず、皇室制度の維持は困難になる」「天皇の大御心として特例法で対応するならば憲法違反に近い」(平川祐広東大名誉教授)
 「陛下の『お言葉』に見られる『公務ができてこそ天皇』との論理は、『存在』よりも『機能』を重視したもので、天皇の能力評価につながり、皇位の安定性を脅かす」「移ろいやすい世論に流されたり、陛下や皇族のご意向に過剰に寄り添ったりして思考停止すべきではない」(八木秀次麗澤大教授)。
 朝日新聞は一二月二日の社説で、こうした見解に対して「多くの国民が現に共有している天皇観を踏まえず、明治憲法がつくりだした特異な神権天皇に通じる主張を展開しても、皇室と国民との距離を広げ、存在を不安定にするばかりだ」と述べ、「天皇『生前退位』メッセージ」にエールを送っている。「朝日」の同社説は基本的に明仁天皇の意向を無条件に擁護する「生前退位」推進論だ。「リベラル派」と目される議論は、おおむね日本共産党をふくめて明仁天皇の「象徴行為」論を容認し「生前退位」に好意的な姿勢を取っている。
 天皇の「生前退位」メッセージは、明仁天皇の計算されたパフォーマンスが功を奏して、世論の多数の支持を得ていると言われる。しかし「特例法」による退位容認は明らかに憲法問題と関わっている。
 一二月二日の「朝日新聞」の「私の視点」欄で元内閣法制局参事官の鎮西迪雄が「特例法対応は憲法違反」として次のように書いている。
 「憲法第二条は、『皇位は、世襲のものであって、国会の議決した皇室典範の定めるところにより、これを継承する』と明記している。天皇の退位は、皇室典範の改正によってのみ可能なのであって、特例法その他の法律による対応は明白な憲法違反であることに議論の余地はない」「天皇の退位については、恒久措置とするか、特別措置にするかにかかわらず、憲法上、皇室典範の改正以外の道はあり得ない。特例法による法整備は選択肢になり得ないのである」。
 「皇位継承」にかかわる憲法解釈としては、この鎮西見解以外にないだろう。そしておそらく、安倍政権が構想した「一代限りの特例法」は、違憲性の壁にぶつかることになり、「皇室典範」の部分的改定が緊急に日程にのぼらざるを得ない。
 言うまでもなく「皇室典範」は憲法の下での一つの法律に過ぎない。その「改正」は「憲法改正」とはなんの関係もない。しかし「皇室典範改正」がもたらす政治的気運は確実に、改憲と連動した形で宣伝されることは間違いない。
 一一月二〇日に吉祥寺で行われた「天皇制いらないデモ」に対する、天皇制右翼の襲撃と警察権力によるその容認は、明らかに「代替わり」と改憲を想定した、政治的・社会的攻撃が始まっていることを示している。
 この局面においてこそ、「天皇制はいらない!」の主張と運動を、粘り強く大衆的に、説得力を持って繰り広げるべきである。 (純)

11.26

止めよう改憲!おおさかネットワーク

「武力で平和はつくれない!」

青木理さんが講演

 【大阪】止めよう改憲!おおさかネットワーク主催の憲法集会が一一月二六日、国労会館で開かれ、二〇〇人を超える市民が参加した。このネットワークは二〇〇七年第一次安倍政権が誕生した時につくられた。

改憲阻止へ!
本番が始まった
初めに中北龍太郎さん(ネットワーク代表)が主催者あいさつをし、次のように語った。
「南スーダンでは政府軍と国連PKO部隊との戦闘まで起きている。ここに派遣された自衛隊に駆け付け警護の任務を与えることは、自衛隊員が殺し殺される関係になることを意味する。安倍政権はそれを承知の上で新任務を命じている」。
「米国で誕生する米国第一主義のトランプ政権は、日本に米軍関係費の大幅増・米国の戦争に対するさらなる貢献を要求してくるだろう。安倍政権は来年から憲法改悪の動きを本格化し、自民党改憲草案をベースにして、国家への忠誠を重視した憲法をつくろうとしている。政府が国民を強制できる憲法、人権法から国民抑圧法に憲法を変えようとしている。この安倍改憲と日本会議の草の根の考えは同質だ。改憲の突破口は緊急事態条項だ。改憲止めていくために、日本会議の正体をしっかり捉え、運動にいかそう」。

教育勅語暗唱
する幼稚園児
主催者あいさつの後、DVD(大阪で進む教育勅語の復活)の上映が行われた。大阪市にある塚本幼稚園の園児が教育勅語を暗誦する姿、また園児の保護者がそのことを伝統あることと評価しているのが衝撃的だった。この幼稚園の籠池という園長は日本会議の役員をしており、八月一五日に日本会議の主催で行われる靖國神社での戦没者追悼式に参列している。
続いて、青木理さん(フリージャーナリスト)の講演とインタビュー形式の話があった。青木さんの講演は、おそらく、年末か年始めに出版予定の青木さんの著書『安倍三代』に出てくる話の一部から始めた。(別掲)
最後に、相可文代さん(子どもたちにわたすな!危ない教科書大阪の会)、矢野宏さん(新聞うずみ火)、井上淳さん(「ピースおおさか」の危機を考える連絡会)、木村真さん(「瑞穂の国小学院」問題を考える会・豊中)の四人からアピールがあった。
このうち最後の「瑞穂の国小学院」という聞き慣れない小学校は、DVDで取り上げられた塚本幼稚園を経営する学校法人が豊中市に建設中の小学校だ。用地は、伊丹空港移転跡地だった国有地を学校法人に売却した土地だ。ところが、近畿財務局に行政文書公開請求をして入手した売買契約書のコピーには、売買代金は非公開になっている。四月開校のこの小学校、名誉校長は安倍晋三の妻・昭恵が務めている。うさん臭さを感じる。    (T・T)

青木理さんの講演から

安倍晋三とは何者か?

「三代」の系譜


安倍晋三とは何者なのか。安倍晋三の父方の祖父は、安倍ェという。東京帝大の法学部を出た後、東京で自転車の運輸会社を経営するが、関東大震災で会社がつぶれ地元の山口県に帰り、地元で尊敬されたえらい人だった。請われて村長をやりながら、一九三七年から国会議員をやった。
当時の選挙マニュフェストを見ると、【富の偏在が国を危機に落とし込む。差別は解消すべし、反財閥】などを訴えていた。一九四二年の翼賛選挙になっても、大政翼賛会の推薦なしで反戦を訴えて当選している。安倍ェは一九四六年、息子の安倍晋太郎(晋三の父)が一八歳の時、結核で亡くなった。
晋太郎はェの息子だということで村でも大事にされた。戦時中は海軍の特攻を志願するというすさまじい戦争体験も持っていた。晋太郎も東大法学部を出て毎日新聞記者をし、政界に出て行くが、ェが早く亡くなっているので、地盤をそのままもらったわけではなかったので、苦労して当選している。
下関は在日コリアンが多いところだ。晋太郎は在日の人に信頼されていた。晋三の大邸宅が下関の町の高台にあるが、それは在日コリアンのパチンコ店主が寄付したもので、晋太郎の人柄によるものだった。晋太郎は自民党の政治家だったが、人とのつきあいは異端児といわれるぐらい幅広かった。当時は冷戦の時代だったが、在日の北系の人にも信頼されていた。非常にバランスがあって、北系だからといって悪いようにはしなかったという。
母方の祖父、岸信介は東京帝大法学部を優秀な成績で出て、商工省の革新官僚として満州の経営を任された。A級戦犯で捕まるが、訴追を免れ政界に入り、首相になり日米安保を改定する。昭和の妖怪といわれる。晋三のことをものすごくかわいがったという。
ェ、晋太郎、信介のいろいろなエピソードを調べるとわくわくするが、晋三のことを調べてもちっともおもしろくない。受験競争なしにエスカレーターで成蹊大を出た。どういう生徒、学生だったかを聞いても誰も記憶していない。可もなく不可もないという感じ。大学のゼミは、佐藤亘先生という地方自治の専門家のゼミだったが、ゼミの友だちも晋三の発言を聞いたことがなかった。
下関の神戸製鋼に入社する。会社では上司の言うことに腰が軽くよく動き、要領が良かったが、晋三が政治の話をしたという記憶はない。どうして首相になったのだろうという。晋三の政治知識は政界に入ってからの日本会議の影響ではないか。
講演はこれで終わり、後はインタビュー形式で。

 インタビュー


安倍政権と日本会議


日本会議に関する本が今年たくさん出たが、それで日本会議に入りたいという人が増えたという。日本会議は、会員三万八〇〇〇人。日本会議は支部づくりをし、地方議員を組織する活動を懸命にやっている。地方議員は一七〇〇人。支部は三〇〇ぐらいあるという。決して小さい組織ではないが、それほど影響力があるとは思えない。せめて、九条の会ぐらいになりたいというのが、彼らの希望だ。
日本会議そのものより、むしろ神社本庁・~政連(神社政治連盟)が影響力を持っている。~政連は一〇万から二〇万票を持っているといわれる。山谷えり子が推薦議員だ。日本会議国会議員懇談会には二八一人が参加しているが、名簿を出さない。民進党議員も少数だが入っている。谷垣、岸田、野田聖子なども入っているので、一色ではない。しかし、安倍政権だからというので、日本会議は元気になっているといえる。
日本会議の実質上のキーパーソンは椛島有三だ。彼にインタビューしたら、以前は阻止や反対活動(女性天皇、夫婦別姓、戦後五〇年談話、天皇訪中などについて)ばかりだったが、安倍政権になって政策提言ができるようになったという。

改憲に向けての
スタンスは?
日本会議の活動の柱、換言すれば、彼らの琴線に触れる問題は、皇室尊崇・憲法改正・国防充実・愛国心教育・伝統的家族観の五点だ。
でも彼らが選択的別姓にどうして反対なのか理解できない。かれらの出版物でみると、ソ連は伝統的家族の解体から始まったので、選択的でも別姓を認めるとやがて社会が共産化すると危惧しているようだ。長谷川三千子などは、夫婦別姓を認めると、女のわがままを許すことになり、女のこらえ性がなくなるからという。意味が分からない。
改憲といっても、現憲法の破棄と明治憲法への復帰とその後の改憲、自主憲法制定、現憲法の改憲というように、日本会議の中に違いがある。本気でやろうとすると簡単ではない。また、共同通信の世論調査によると、憲法改正賛成が六〇%だが、同時に、安倍政権下では反対が六〇%だという。

日本会議の
宗教心の水準
日本会議の源流は生長の家だ。これは新興宗教だが、悩み相談などで伸びてきた出版宗教の走りだ。戦前戦争賛美で伸びてきた。一九六〇年代に全共闘運動に対抗したこの教団の学生会員が卒業後日本青年協議会をつくった。椛島有三、安東巌、高橋史郎、百地章などの面々。また日本政策研究センターの伊藤哲夫。彼らは表に出たがらない。彼らが生長の家という宗教関係者だと分かるとマイナスのダメージがあるのだろう。でも、彼らが日本会議を牛耳っているのは間違いない。しかし、本家の生長の家は脱政治宣言をして現在は、エコロジー運動に重点を移している。三代目で完全に方針転換した。
日本会議の生長の家系のメンバーは、ある種宗教心で献身的に活動しているのだろう。資金はない。資金力や動員力は神社本庁や他の宗教団体が受けもっている。村上正邦(元自民党参議院会長、生長の家)によると、日本会議は、宗教右派の統一戦線だという。

安倍政権の
マスコミ介入
サンデーモーニングなどを見ても、さすがに政権による直接の介入はないだろうが、でも間接的に確実に起きている。メール・抗議ファックス・電話・ツイッターの数がものすごいし、しつこい。スポンサーにまで届く場合もある。
プロデューサーで根性のある人も少なくなったが、みんなかつかつで仕事をしているので、これらの抗議に応えるとなると大変だから、先に自粛してしまう。いい番組は応援しないといけない。悪い場合は言うが、良い場合は言わないことが多い。でも、良かったら良かったといってほしい。

なぜ支持率が
こんなに高い
安倍政権は時期も運が良かったし、安倍自身も勘がいいし、要領もいいところもある。第一次安倍内閣は一年でつぶれた。安倍は、官僚につぶされたと言ったそうだ。今は官僚をうまく使っている面もある。支持率は五〇%少しで、低くはない。
でも、世論調査で最も多いのは、【他に適当な人がいないから】が三〇%だ。代わる者がいないのが大きい原因だ。だから積極的支持ではない。安倍本は売れないというのが通説だ。本人には興味が無いのではないだろうか。憲法改正をどの時点で発議するのか。党内でも温度差があるし、公明党との違いもある。日本会議とのすりあわせはできるのか。極右に担がれた政権で、いとも簡単に長期政権になったが、でも強いとは言えない。

反朝日だけが
右翼の統一点
おおやけに在特会などのヘイトクライムを支持はしないだろう。もう少し上品な在特会とならいざ知らず。
日本会議には、反米とか日米関係見直しという考えはない。自主右翼なら反米の方に行くはずだが。右派の人間に聞いたが、右派の中でまとまるのは、反朝日新聞だと言っていた。

提言はないかと
の問いに答えて
ジャーナリズムから見て気になることをひとつ。最近石破元防衛相と同席をしたとき、南スーダンで自衛隊が死んだら政権は持たない、と言っていた。
私はそうは思わない。戦死者が出たら、死を無駄にするな、もっと武器を持たせろという風潮が強くなるのではないか。安倍はトランプに会ったことを宣伝している。だからむしろ、五輪でもテロが起きる可能性がある。それに対して、本質的な論議に向かわずに、テロに屈するな、治安強化をという雰囲気が強くなる。それをどう防ぐかが重要だ。(発言要旨、文責編集部)

 


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