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    かけはし2018.年1月15日号

「復興」宣伝の嘘をあばき被災者の権利を


福島からの報告

7年目を迎える原発事故被害者

現状と課題をどう捉えるか


 原発事故からまもなく七年が経つ。今、被害地の現状はどうなっているのか。「復興」に向けた政策と膨大な財政が投入されてきたが、効果は表われているのか。賠償と生活支援打ち切りおよび帰還促進キャンペーンによって住民は元の暮らしを取り戻せているのか。具体的に見ることによって、運動の課題について考えたい。

8万人以上が戻っていない

 避難指示を受けた県内一二市町村の住民は約九万七〇〇〇人余であった。原発立地の大熊・双葉両町全域と浪江町、富岡町、南相馬市、飯舘村の一部を除いて避難指示が順次解除され避難指示区域の面積は当初の三二%(三六九平方キロ)に縮小した。ふくしま復興ステーション等の統計によれば、昨年夏の段階で住民登録人口は八万二〇〇〇人余(約一万五〇〇〇人の減)、解除区域に帰還や転入した居住者は一万三〇〇〇人余りで、比較的線量の低い広野町・川内村・田村市都路を除けば、帰還率は二〇%台だ。二〇一七年春の解除で戻った飯舘村、浪江町、富岡町、川俣町山木屋の住民は合わせて一一〇〇人余、事故当時の二・五%に過ぎない。
国や県は、原発事故で失われた産業基盤を再建するため廃炉やロボット、再生可能エネルギーなどの新産業を集積させる「福島イノベーション・コースト構想」を打ち出し、各市町村も研究施設や関連企業の誘致に力を入れている。富岡駅と浪江駅間を除く常磐線、常磐道、国道六号が開通し、筆者も幾度か被害地域を訪れ、とても立派な駅舎とバス・タクシーターミナル、真新しい復興住宅、道の駅、複合商業施設、福祉施設、学校、役場等が作られているのを見たが、原野と化した田畑の中にフレコンバッグの山が連なっている中で、それらの施設があまりに場違いで宙に浮いているような感覚を持たされた。
これらにとどまらず、最も汚染のひどい大熊・双葉両町でも居住制限区域や帰還困難区域で除染やインフラ整備を進め、陸の孤島のような町の復興拠点を作ろうとしている。まさに「無理筋」というしかない再開発事業が復興の名のもとに進められているのだ。しかし、現実には約一〇〇〇カ所あった事業所も約七〇カ所に減り、地域住民・労働者に支えられる飲食・サービス業などは再開が難しく、住民帰還も事業再開も進まない悪循環に陥っているのだ。
住民の帰還が進まない一方、廃炉や除染などを担う作業員が、楢葉町と広野町を中心に約五〇〇〇人が宿舎などで生活しているという。八万人の住民が故郷に戻っていない、特に若年層ほど戻らない現状こそ、住民の安全と生業が担保されないままの帰還促進策が成功していないことを示している。放射能汚染は消えず事故も収束していず、安全な状態になっていないのだから当然である。

事故収束・廃炉工程は進んでいるか


昨年七月ロボットが格納容器に入り、燃料溶融物と思われる物体を撮影したことが大きく報道され、廃炉工程が大きく前進したような印象を与えたが、政府は、昨年九月、一〜三号機の燃料デブリを取り出す工法の確定時期を二〇一八年前半から翌一九年度に遅らせた。実際には、容器内の状況も燃料デブリ実態も把握できておらず、高い放射線量の中で作業できる機器や放射性物質を外部に飛散させない技術も開発の段階だからだ。
水素爆発で原子炉建屋が壊れた三号機の使用済み核燃料プールには使用済みと未使用燃料五六六体が残っており、その取り出しは二〇一四年末に開始予定だったが、三度延期され、今年度半ばからに変更した。一、二号機の使用済み核燃料プールからの取り出しも二〇二〇年度が二〇二三年度に延期された。いずれも放射線量が低減しないためである。汚染水対策はどうか。約四〇〇億円をかけた凍土遮水壁は昨年一一月に全範囲で地中温度が零度以下となった。しかし、東電が一日約五〇〇トンから一〇〇トンへと見込んでいた汚染水発生は、約二八〇トンとなっており、効果を発揮しているとは言い難い。福島第一原発構内のタンクの貯蔵可能量一〇七万トンに対し、保管量は約一〇二万トンに達しており、限界が迫っている。

除染廃棄物と中間貯蔵施設


県内の除染廃棄物は約二二〇〇万立米(フレコンバッグで二二〇〇万袋)に及ぶとされている。内訳は、八〇〇〇ベクレル以下除染土約一〇〇六万立米、八〇〇〇超一〇万以下の除染土一〇三五万立米、一〇万超の土壌一万立米、除染廃棄物の焼却灰一五五万立米。一〇万超の除染廃棄物約二万立米。大熊町と双葉町に建設された中間貯蔵施設の保管場には、二〇一五年に県内市町村から搬入が始まっている。
「受け入れ・分別施設」の稼働は三年遅れで昨年一〇月末に稼働した。分別後に搬入する「土壌貯蔵施設」は、今のところ六〇〇〇平米(〇・六ha)に三・五メートル掘った穴。ここで振り分け、減容化施設で焼却、濃度の高いものは廃棄物貯蔵施設に保管される。減容化施設は大熊町が今冬、双葉町が二〇一九年度に稼働、廃棄物貯蔵施設は二〇一九年度貯蔵開始を目指している。
中間貯蔵施設全体は一六〇〇ha。民有地の契約済みは地権者一二三〇人、七一八ha、約四五%が確保されたが、残り一一〇〇人余りとの契約が未了で、うち五三〇人余りは、死亡などで連絡先が把握できないという。廃棄物の最終処分場となることの懸念に対し、環境省側は二〇四五年三月を返還期限と明示したが、「最後は金目でしょ」と漏らした当時の石原環境相をはじめとする政治家・官僚の約束が反故にされることは確実だ。
土地の確保と処分場整備には時間がかかり、学校の校庭や住宅地、事業所敷地、仮置き場、積み込み場に埋蔵保管されている除染土・廃棄物の取り出し、搬出・搬入の輸送には様々な困難が予想され、現に、フレコンバッグからの漏水、車両故障、交通事故、輸送ルート逸脱などが起きているからだ。これらが、幸運にも計画に沿って進んだとしても、何より最終処分場を県外で引き受けてくれるところが出てくるのか。
被害地住民は、使用済み核燃料や燃料デブリの問題とともに、原発がもたらした解決が困難な課題に直面させられている。

膨らみ続ける事故処理費用


二〇一六年末、政府の東京電力改革・1F問題委員会(東電委員会)が発表した資料では、福島第一原子力発電所の事故処理費用を約二二兆円と試算した。当初想定の二倍に膨らんだことが話題を呼んだが、この試算には必要な対策が含まれていないと指摘する民間のシンクタンク日本経済研究センターによれば五〇〜七〇兆円にもなるという。
前述したように除染汚染土等は二二〇〇万立米にも上るが、中間貯蔵施設で三〇年間保管された後の最終処分費用や原発内の放射性廃棄物の処理費用も必要とし、青森県の六カ所低レベル放射性廃棄物埋設センターでコンクリートピットによる埋設で汚染土を処分すると費用は六兆円から三〇兆円に膨らむと計算した。原発内の廃棄物については、炉心溶融を起こした一〜三号機はすべて放射性廃棄物になるとすれば、廃炉費用は八兆円には収まらず、最低でも一一兆円はかかる。
すでに一〇二万トンを超え一日二八〇トン増えている汚染水のうち効果的な処理方法が確立していないトリチウム除去には、汚染水一トン当たり二〇〇〇万円もの費用がかかってしまい、廃炉費用はさらに約二〇兆円積み増しされて三二兆円になり、加えて賠償に八兆円、合算すると総額は七〇兆円にも膨らみ国の試算の二〜三倍になってしまうという。ここには、地震や津波、懸念される排気塔の倒壊など不測の事態は入っていないので、それがあればさらに増大する可能性がある。そしてこれらはいずれ国民負担として確実にのしかかってくるのである。

目を逸らす動き

 以上のように、被害地住民の生活と事故処理をめぐっては極めて厳しい現実があり、問題は増大するばかりである。しかし、内堀雅雄知事が二〇一八年度の政府予算編成に向け求めたのは、風評払拭・風化防止対策の強化(復興が進んだ福島の現状を国内外に発信するための事業費の支援、国を挙げた放射線リスクコミュニケーションの推進)であり、帰還困難区域での特定復興再生拠点の整備だ。これに福島・国際研究産業都市(イノベーション・コースト)構想推進機構の事業費となる基金の創設、医療・介護人材の確保への支援など従来からの要望を加えた。
ここには避難指示解除・賠償と生活支援打ち切りで窮状に陥る住民・避難民の支援強化策は見えない。むしろ兵糧攻めによって戻そうとしているようだ。現に、避難指示区域以外の避難者の住宅支援打ち切りに続き追い出しのための裁判を昨年末に県当局は起こした。
行政当局ばかりではなく、原発事故がもたらしている惨状から目をそらさせようとする一群の勢力―新聞社、学者たち―も蠢いている。曰く「再起阻む支援慣れ」「自立意識の低下」「甲状腺がんの多発は過剰診断による」「実態とかけ離れているイメージを発信している原発反対派」、「不幸なフクシマのままでいてほしい人がたくさんいる」「これからは楽しくかかわる方法を探求すべき時期」などと、被害者や避難者(自主避難も強制避難も)、その支援者、反・脱原発運動を進める人々に悪罵を投げつけ嘲笑している。
また、高校生に放射線影響の低さを発表させたり、原発構内に入らせ事故は収束し廃炉工程が安全に前進しているかのような印象を与えようとしてきた学者たちもいる。さらには、六回開かれてきた「原発のない福島を県民大集会」を内堀県政のもとでの復興イベントの一部に変質させようとする動きすら現われてきた。だが、こうした反動的策動の効果は一時的なものにすぎない。時間の経過とともに一層深刻化する事態によって自らの不明を恥じることになるだろう。

諸裁判に勝利しよう!

 昨年一〇月、福島・宮城・茨城・栃木県の住民が国と東電に約一六〇億円の損害賠償などを求めた「生業(なりわい)を返せ、地域を返せ!」福島原発訴訟で福島地裁は、国と東電に法的責任があったとして総額約五億円の支払いを命じ、福島第一原発の敷地高を超す一五・七メートルの津波を予見できたとし、「津波対策義務に関する規制権限の不行使は、許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠いていた」と国を断罪した。
また一二月一三日、四国電力伊方原発三号機について、広島高裁は、地裁判決を覆し、運転差し止めを認める決定を下した。「火山の影響による危険性について、新規制基準に適合するとした原子力規制委員会の判断は不合理である」との判断だ。
東京地検の二度にわたる不起訴を打ち破って検察審査会が強制起訴した東電旧経営陣三被告の刑事責任を問う裁判は昨年六月の第一回に続き、第二回公判が一月二六日に東京地裁で開かれる。被害者救済と原発廃絶の道を開くためには、事故原因の究明、責任の明確化、経営者の処分が不可欠だ。
全国から傍聴に結集しよう。また、「厳正な判決を求める署名」を一人でも多く集めていこう。全国各地で取り組まれている原発裁判の勝利を実現し、原発推進勢力を封じ込めよう。昨年末に突如「原発再稼働推進意見書」を採択した埼玉県議会に抗議の声を集中しよう。被害者の切り捨てを許さず、「東電と国による被害者への謝罪」「被害の完全賠償」「暮らしと生業の回復」「被害者の詳細な健康診断と医療保障」「被ばく低減策の実施」等の実現に向かおう。安倍政権による憲法九条改悪を阻止する運動とともに脱原発運動の強化を進めよう。(世田達)


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