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    かけはし2018年4月16日号

朝鮮半島の平和への道を探ろう


中朝首脳会談と朝鮮半島情勢の行方

軍事的衝突あおる政策をやめろ

南北首脳会談を出発点に

歩調合わせと戦略的意思疎通


 金正恩朝鮮労働党委員長の電撃的な北京訪問によって三月二六日、中国共産党の習近平総書記との中朝首脳会談が行われた。一一年に金正恩が朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)の最高指導者になって以来、初の国外訪問となった。それは電撃的な訪問ではあったが、南北首脳会談と米朝首脳会談の開催が決定してから、三月二〇日に閉会した中国全人代の日程に合わせての「予定されていた訪問」だったとも言える。
 首脳会談で習近平は「朝鮮半島非核化を実現する目標を堅持して、対話と交渉を通じて問題を解決する。北南の関係改善を支持するよう各国に呼びかける。中国は建設的な役割を続け、半島情勢が緊張緩和に向かうよう各国と努力したい」と基本的な立場表明を行った。そして今後の具体的な中朝関係について「@ハイレベル往来の継続A各分野での交流と協力の促進B平和発展の積極的な推進C両国人民の往来の強化」ということを提起した。
 一方、金正恩は「もし南朝鮮と米国が我々の努力に善意で応えて、平和と安定の雰囲気が作られ、平和を実現するために段階的に歩調を合わせる措置をとるなら、半島非核化問題は解決できる。中国側と戦略的な意思疎通を強化して、対話の勢いと半島の平和的安定を維持したい」という発言を行っている。
 これらの発言のなかで注目するのは、金正恩の「段階的に歩調を合わせる措置」と「中国側と戦略的な意思疎通を強化」するという部分だ。
 三月五日の会談のなかで金正恩は韓国特使団に対して、南北首脳会談の実施と米国と協議する用意があることを表明した。そして@南北首脳間のホットラインの設置A対話継続中は核・ミサイル実験はしないB米韓合同軍事演習への「理解」C軍事的脅威が解消され体制の安定が保証されれば、核を保有する理由がないD核兵器だけでなく通常兵器でも韓国を攻撃しないことを表明した。

米朝会談は実現するか?


 ここまでは金正恩の計算通りだったのだが、直後に訪米した韓国の文在寅大統領の特使によって「五月までに米朝会談を行う」ことが明らかにされることによって、事態はドタバタし始めたのであった。それはトランプ政権内でも同様だった。
 三月九日、サンダース報道官は「北朝鮮側の具体的な行動を確認するまでは会談はしない」「米国が一切の譲歩をしない一方で、北朝鮮側はいくつかの約束をした。いまは招請に応じた段階」と発言。ペンス副大統領は「北朝鮮が核放棄に向けて具体的かつ恒久的で検証可能な措置をとるまで圧力をかけ続ける」と宣言した。
 その一方で「米朝首脳の直接対話はかなり以前からあった構想だった。これまでで最も前向きな知らせだった。少し驚いた」と語ったティラーソン国務長官は、五日に更迭されたマクマスター大統領補佐官(国家安全保障問題担当)に続いて、一四日に解任された。そしてその後任には、朝鮮やイランへの強硬的な対応も辞さない姿勢のボルトン(ネオコン)とポンペオCIA長官が充てられた。
 さらにトランプ政権は、二月末にジョセフ・ユン国務相北朝鮮担当特別代表が辞任し、駐韓大使や東アジア担当国務次官補のポストも空席のままだ。米国は米朝首脳会談に向けた体制すら作れていない状態なのだ。ニューヨークタイムズによると、ホワイトハウス内には調整は容易ではなく「会談は実現しない」という見方もあるようだ。またEUも仲介外交への意欲を見せつつも、朝鮮と米国の方針転換で首脳会談が実現しない可能性もあるとみている。
 そんななか欧州のメディアは「スウェーデンが首脳会談の候補地として浮上した」とも報じている。スウェーデンはNATO非加盟の中立国であり、朝鮮のスウェーデン大使館が国交のない米国との窓口になってきたからである。
 また金正恩が暗殺されるリスクを冒してロシアや中国からチャーターした航空機を利用したとしても、ストックホルムまでの航路は中国とロシア上空ということになる。あるいは数日間かけて、ウラジオストック経由でシベリア鉄道を使った特別列車で向かうという方法も可能だ。しかし問題の核心は、そのようなリスクを冒してまで米朝首脳会談に出かける価値があるのかどうかということである。

米中関係と米ロ関係

 金正恩は予定通りに五月末に米朝首脳会談が開かれたとしても、核問題をめぐる米国との交渉には相当の時間がかかるだろうと見ている。だから米国側の出方を見極めながら「段階的」に交渉を積み重ねるのと同時に、中国などからの力を借りながら南北の平和的安定を維持しつつ、経済制裁の「解除」を国際社会に訴え続けるということになる。南北離散家族の再会や日本人拉致被害者の新情報の提供や朝鮮戦争で死亡した米兵の遺骨収集などは、そのための強力なカードになるだろう。
また南北と米朝の二つの首脳会談の後に、中国とロシアなどが朝鮮への経済制裁を緩和する可能性もある。中露ともに朝鮮の核問題解決のためには「朝鮮が核・ミサイル活動を一時停止し、米韓が大規模合同軍事演習を一時停止して対話を模索する」ことが必要だと提案してきたからである。しかしそこで一番のハードルとなるのは、昨年の九月に打ち出された米国の独自制裁措置である。その内容のなかには「北朝鮮制裁対象の個人・団体との取引や、北朝鮮との貿易に関連した取引について、それと認識したうえで行った外国銀行を米金融システムから排除する」という項目がある。これによって朝鮮への経済制裁は著しく強化された。
しかし現在、新たな状況が出現している。トランプは今年一一月の連邦議会中間選挙を意識しながら、これまで以上の「ヤクザ的なワンマン政治」に乗り出している。その最たるものが米通商法三〇一条による中国をターゲットとした関税引き上げの制裁措置である。それは鉄鋼とアルミから始まり、ハイテク製品分野まで拡大している。中国はWTOに提訴するのと同時に、同規模の報復措置で対抗しようとしている。米中間の「貿易戦争」の勃発である。
こうした状況の延長を考えると、米国の対朝鮮独自制裁措置に対して、中国も同規模の報復措置で対抗しようとすることは十分に予想される。またウクライナ危機とクリミア半島併合以降、NATOとの軍事的な緊張が継続し欧米諸国からの制裁を受けてきたロシアは、元ロシア軍のスパイ暗殺未遂事件をめぐって外交官追放などで対立を深めている。こうしたロシアを現在の朝鮮半島状況に引き入れることは、米国に対する軍事的な抑止という問題と、中期的には石油・天然ガスなど朝鮮にとってのエネルギー問題にも直結してくる。
いずれにせよ中国は米国との対立を通して、米帝国主義と公然と対抗できる「唯一の大国」という国際的な位置をアピールしていこうとするだろう。

「非核化」と「体制保障」

 米朝首脳会談においてトランプは「非核化すれば、体制を保障してもよい」と対応してくることが十分に予想される。しかしそのためには、非核化のプロセス(核実験とミサイル発射停止の継続・核弾頭の製造停止・核施設への査察受け入れと閉鎖)と体制保障のプロセス(経済制裁の解除・朝鮮戦争の停戦協定を平和協定に変える・在韓米軍の撤退)を、米朝が同意しながら段階的に推し進めてゆくしかない。「非核化が先で体制の保障はその後で」という論理では話はまったく先に進まなくなるだろう。
またこれまでに米帝国主義が「対立する体制」や「好ましく思わない体制」に対して、「体制を保障」したことは一度もない。フセインのようにイラン・イラク戦争では米国に利用されて、後に叩き潰されるという例はたくさんある。トランプは現在「シリアからの撤退」を言い始めることによって、ISとの地上戦の主力を担ったクルド人民防衛隊(YPG)をトルコ軍の餌食として差し出そうとしている。数々の反革命軍事クーデターというやり方も体制打倒の方法のひとつだった。
金正恩にとっても非核化をあっさりと受け入れられない国内事情がある。昨年の一一月二九日に発射したICBM「火星15」がミサイル発射実験の最後になっているわけだが、同日の「声明」では「ミサイル強国の偉業が実現した」「人民が勝ち取った勝利」だと宣言した。またその後の「新年の辞」では「核とミサイルの開発と量産」を宣言している。そして核・ミサイル開発には巨額の資金が投入されて党・軍・人民に対して困窮を強いてきたのである。そう考えると「非核化」など現時点では説明のしようがないのである。そして何よりも「朝鮮の核武装とICBMの獲得」は金正恩自身の最大かつ唯一の実績であり、彼の権威の象徴に他ならない。

朝鮮半島の平和確立へ


四月二七日に予定されている南北首脳会談では、理念的に「朝鮮半島の非核化」ということが確認されるのであろうが、「どのように」という過程と方法に関しては触れられることにはならないだろう。朝鮮にとっては米朝首脳会談を前にして、その手の内を明かすわけにはいかないからである。
南北首脳会談の結果を受けて、ニューヨークやストックホルムでは米朝の水面下での予備交渉が行われるのであろうが、会談場所問題も含めて米朝首脳会談は中止か延期になる可能性が高い。トランプが警戒していることは、何らの成果も期待できない首脳会談を開催してみても、米朝対話の開始が朝鮮の経済制裁解除に道を開くことになるかもしれないということである。トランプは南北首脳会談を前にして、韓国の文在寅政権が独自の人道支援などに踏み切らないように目を光らせている。また足元から政権が揺らぎだしていて、大きな得点を上げたがっている安倍に対しても、拉致問題で朝鮮に対して暗に妥協しないように釘を刺すだろう。
トランプとともに軍事的な緊張関係を煽ってきた安倍政権打倒の闘いをおし進めながら、朝鮮半島の軍事的緊張緩和のための南北首脳会談を支持しよう。平和状態の確立こそが朝鮮の核問題を解決する唯一の道だ。そして朝鮮半島の平和的発展なくして、朝鮮の民主化も実現することはできないのだ。  (高松竜二)



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