| パウエル米国務長官の国連証言 かけはし2003.2.17号より |
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「石油のための戦争」の正当化ねらうデタラメと屁理屈 |
二月五日に開かれた国連安全保障理事会外相級会合で、パウエル米国務長官は米情報機関が収集したというイラク・フセイン政権の大量破壊兵器開発や「テロ組織」との関係についての「証拠」なるものを公表した。
アメリカ帝国主義は、世界で最も大量の「大量破壊兵器」を保有し、開発し、第二次世界大戦後の何十回もの軍事介入と侵略戦争でそれを行使し、ベトナム戦争での三百万人をはじめ、数百万人の民衆を殺害し続けてきた。そのアメリカなど核武装した五大国が中心となって小国に「大量破壊兵器開発」を開発していないという立証義務を課し、「被疑国」の「無実」の立証が不十分であればその政権を転覆する侵略戦争が正当化されるという、ブリクスら「国連安保理の論理」がそもそも許されない。
しかもパウエルの提示した「証拠」なるものは、通常の刑事裁判なら提出することもはばかられるような、極度にいいかげんな、「証拠能力」の全くないものばかりである。にもかかわらずマスコミは「パウエル長官報告、『推定有罪』印象づけ」「揺らぐイラク主張」(朝日新聞2月6日)と、あたかもパウエル報告に何らかの根拠があるかのような大見出しをつけて報じ、次のように述べている。
「『決定的な有罪証拠』は示さなかったものの、イラク側の妨害や兵器隠しを示す具体的な『状況証拠』を映像や音声をまじえて積み上げ、イラク側が『推定有罪』であることを強く印象づけた。『完全潔白』を主張してきたイラク側の論拠が揺らいだことは間違いない」(前掲紙)。マスコミは、ブッシュ政権による武力行使に一定の正当な論拠があり、やむを得ないものであるかのような気分を作り出す反動的役割を果たしているのである。
パウエルは、安保理外相級会合報告の結語で「イラクは最後の機会を失った」「われわれの前にあるものが何であろうと、ひるんではならない」と述べて、フセイン政権を打倒し多数のイラク民衆を殺害する侵略戦争に突入する以外に選択肢がないことを宣言した。パウエル報告のまやかしを徹底的に暴かなければならない。
最大の「大量破壊兵器」である核兵器開発についてパウエルは、「フセインが核兵器開発をやめた証拠はない」と述べた。パウエルが出した「証拠」なるものは「ウラン濃縮の遠心分離装置の部品になる高性能アルミニウム管を入手しようとした」ということだけである。
ところが、一月二十七日に国連安保理で国際原子力機関(IAEA)のエルバラダイ事務局長が行った報告は、パウエルが唯一の「証拠」とするアルミニウム管問題を含め、イラクが核開発を行っている可能性を完全に否定している。エルバラダイ報告は言う。
「査察が中断された九八年十二月までに、イラクの核兵器計画のいかなる重要な要素も見逃さなかったと確信している」「当時の結論は、イラクの核兵器計画は無力化し、兵器に使用できる核物質を製造できる能力が残存している兆候はないというものだった」。
そして再開された査察の結果について次のように言う。「過去四年間に改造あるいは建設されたことが認められた建造物と施設のすべてを査察した。禁止された核活動は特定されなかった」「強化アルミニウム管調達について、これまでの分析では、イラクの表明した目的と矛盾せず、遠心分離機を製造するには適したものではないと見られる」。エルバラダイ報告は最後に、「今日までにイラクが九〇年代の終結以降、核兵器計画を再開したとの証拠は得られていない」と結論づけている。
パウエルは報告の中で、〇二年四月に撮影されたという写真を見せ、国連決議に違反した射程一千キロ以上の長距離ミサイルのエンジン噴射実験台を建設していると主張した。ところがこの施設は今回の国連査察で五回も査察を受けており、査察官の前で噴射実験を行い、問題のない施設であることが確認されている。最後の査察はパウエル報告の五日前だった。イラクはパウエル報告を受けて、この施設を外国の報道陣に公開した。
パウエル報告が言う「イラクの核開発疑惑」「長距離ミサイル開発疑惑」の「証拠」とはこのようなウソとデタラメだった。
パウエルは、イラクがトレーラーや貨車に載せた移動式生物化学兵器製造施設を持っているとし、「少なくとも十八台を把握している」と述べた。ところが提示された「証拠」は写真でさえなく、何とトレーラーのイラストだった。マンガのような想像図を出して「これが証拠」とは、ほとんど悪質な冗談である。
来日した元国連大量破壊兵器廃棄特別委員会(UNSCOM)主任査察官スコット・リッターは、アメリカがかつて査察官に提供した同様の移動式生物兵器製造トラックの情報について調査したところ、ただの食品輸送トラックであったことを報告している。
パウエルは、生物化学兵器関連施設だという建物とそこから物資を搬出中だというトラックや汚染除去車だという衛星写真を複数提示した。これらの写真の特徴は、解像度が極度に低いことである。アメリカが使用している偵察衛星は、十センチ四方のものを識別できるほどの高度な解像力を持っているにもかかわらず、写っているのがいったい何なのか全く識別できないぼやけた写真である。鮮明な写真にすれば何の写真だかわかってしまうので、わざとぼかしたのであろう。
パウエルは、炭疽(たんそ)菌を詰めることができるという小瓶をもっともらしく示しながら述べた。「イラクは八千五百リットルの炭疽菌を持っていた。UNSCOMは二万五千リットル製造できたとみる。だが生物兵器用の物質をどうしたかイラクは説明していない」。
ところがイラクの炭疽菌製造施設は九六年にUNSCOMによって破壊され、新たな製造施設がないことはその後の「何千回もの査察」(スコット・リッター)によって確認されている。液体炭疽は三年たつと発芽してしまう。八〇年代にイラクが取得した培地の貯蔵寿命は五年である。パウエルがほのめかす「生物兵器用の物質」を仮にいまもイラクが隠し持っていたとしても、それはとっくに使用期限の切れた何の役にも立たないものになっているのである。
パウエルは、大量破壊兵器製造を隠蔽する工作の「証拠」として、イラク軍将校の会話を盗聴したという録音テープ二本を提示した。情報の出所も不明のこのテープが本物であるという「証拠」はない。しかもこれは無線からの盗聴である。無線は有線よりはるかに盗聴されやすいので、機密性の高い軍事情報の伝達には使われない。
アメリカがイラクのあらゆる通信を盗聴し続けているのは世界周知の事実である。にもかかわらずイラク軍が、大量破壊兵器製造の隠蔽工作という国家の存亡にかかわる機密情報中の機密情報を、わざわざ盗聴の容易な無線通信で連絡するなどということは、ほとんど考えられない。しかも暗号さえ使われていない。これが「本物」だと信じるには、最低限の軍事的常識を捨てる必要があるだろう。
パウエルは、「9・11テロ」の首謀者とされるウサマ・ビンラディンの指導するアルカイダとフセイン政権の関係を示す「証拠」として、ビンラディンの「協力者」だというヨルダン人ザルカウィ(テロ未遂容疑で指名手配中)がイラク北部で活動していると主張した。
ところがイラク北部は現在はフセイン体制の過酷な弾圧と闘ってきたクルド人の自治地域となっており、フセイン政権の支配が及んではいない。そのためパウエルは、フセインがその地域にクルド人過激派組織アンサール・イスラムを協力者として持っていると述べた。しかしアンサール・イスラムの指導者クルカル師は二月五日、米ABCテレビに対して「フセインはわれわれの敵だ」と述べ、パウエルのでっち上げを一蹴した。
パウエルは報告の中で、英情報機関MI6がパウエル報告の前日に発表したレポート「イラク―その虚偽と強迫、隠蔽の構造」を「卓越した文書」とほめちぎった。この「卓越した文書」について英テレビ「チャンネル4」は、それが大学院生の文章を含む一般の雑誌に公開された三つの記事のつぎはぎであり、文法やつづりの間違いもそのままひきうつした盗作であると報じた。
二月五日の英BBCテレビは、英国防省が一月半ばにまとめてブレア首相と主要閣僚に提出した、フセイン政権とアルカイダの関係についての秘密報告をスクープした。そこでは、両者には「かつて接触があったが、不信や相いれない思想のために関係は絶たれた」とされている。この文書もつぎはぎの盗作であるかどうかは定かではないが、かの「卓越した文書」よりも真実に近そうである。
パウエルらは、自分たちの提示した「証拠」がゴミ屑のようなものだということを熟知している。パウエル報告に先立つ一月十九日、ライス大統領補佐官(国家安全保障担当)はテレビ番組で「(武力行使には)『決定的証拠』は必要ない」と言い放った。アーミテージ国務副長官は一月十九日、ワシントンで講演し「決定的な証拠がないという人がいるかもしれないが、あるのは証拠の煙ばかりだ」「証拠を査察官が発見しなかったからといって、何もないということにはならない」と述べていた。
ラムズフェルド国防長官に至っては、「査察官たちがイラクで何一つ禁断の兵器を発見できないという事実こそ、おそらくそうした兵器が存在する最大の証拠だろう」と平然と語っている。
川口外相は二月六日の衆院予算委で、ラムズフェルドの迷言をそのまま受け売りして述べた。「(査察で)重大な疑惑に値するものが出てこないのだから疑惑はないという言い方があるが、何も出てこないのが実は問題だ」。
パウエル報告を受けてブッシュは二月六日、国連安保理に武力行使を認める新たな決議を採択するよう求める声明を発した。その中でブッシュは、「イラクの独裁者がチャンスを捨てると決めた以上、安保理の理事国も選択しなければならない」「アメリカはいかなる行動もとる決意だ」と述べ、イラクに対しては「ゲームは終わった」と居丈高に語った。翌七日、ブッシュは記者団に対して、安保理が武力行使を容認する新決議を早期に採択しない時には、「サダム・フセインを武装解除するために連合を率いる」と述べ、米英軍による一方的武力行使に踏み切る意志を改めて表明した。
二月二日のニューヨーク・タイムズ紙は、空爆開始四十八時間で三千発の精密誘導弾とミサイルでイラク軍を孤立化させて地上軍が侵攻、フセイン政権を電撃的に転覆させるという、米国防総省が立案した詳細なイラク攻撃のシナリオを報じた。空爆には衛星誘導弾を積んだB2、B1爆撃機を主体に空軍の五百機、四〜五隻の空母から海軍の二百機以上が出撃する。地上軍は陸軍二個師団と海兵隊で編成、トルコ側とクウェート側の二方向からイラク領内に入るとされている。
「証拠がないから犯人だ」という、とんでもない主張がまかり通り、国連憲章が禁じた違法な侵略戦争が堂々と行われようとしている。かつての湾岸戦争やいまも続くアフガニスタン戦争のように、何千、何万、何十万の民衆が殺害され、傷つけられ、難民となって生活の基盤を奪われることになるのだ。
「『ブッシュ政権にとって、イラク戦争は中東の石油をねらっての石油戦争ではないのか』。私が番組(テレビ)でこう切り出すと、ブッシュ政権の戦略問題の総責任者、カール・ロウブ最高顧問は、ぴしゃりと答えた。『当たり前でしょう。アメリカが手をこまぬいていたら、中東の石油は サダム(フセイン)に押さえられてしまう』。イラク戦争はむき出しの石油戦争であり、フランスがブッシュ政権のイラク戦争に反対しているのは、仏シラク大統領がフセイン大統領に石油の取り引き上、借りがあるうえ、イラクのチグリス・ユーフラテス川の底にある石油を開発したいからだ」。元NHK特派員で現在はハドソン研究所主席研究員のジャーナリスト・日高義樹は、『エコノミスト』(2月18日号)の特集記事の中でこのように書いている。
イラク戦争の開戦を急ぐ米英と、慎重な態度をなお崩さないフランスやロシア、中国などとの対立が深まっているが、その背景にイラクの巨大な石油利権をめぐる抗争があることは周知の事実である。
湾岸戦争後、アメリカが手をつけられない状態になっている間隙をついて、ロシアはイラク南東部の西クルナ油田(推定埋蔵量二百億バレル)の権益を獲得した。フランスもイラク南東部のイラン国境に近いマジュヌーン油田(二百億バレル)とビン・ウマル油田(六十億バレル)の開発権をめぐってフセイン政権と交渉を進めている。中国はイラク中央部のアル・アダブ油田の権益獲得に成功した(『エコノミスト』2月4日号)。
ワシントン・ポスト紙は、ブッシュ政権が元CIA長官ウルジーを使って国連安保理常任理事国に対して、イラク戦争に賛成するように説得工作を進めていることをスクープした。すなわち、「フランスやロシアや中国が締結してきた契約や交渉中の案件はすべてフセイン政権を相手にしたものであり、フセインが打倒されて親米政権ができればキャンセルされるだろう。石油利権を継続したければ戦争に協力せよ」という脅しをかけているというのである。
早期開戦を迫る米英に対して、慎重な姿勢をなおも崩さないフランスとドイツや、仏独に同調する姿勢を示すロシアと中国に過度な期待を寄せることはできない。一月二十三日付のニューヨーク・タイムズ紙は、昨年十一月に国連安保理がイラクの査察強化を採択する際、シラク・フランス大統領がブッシュ政権との間で次のような取り引きをしていたと報じた。「アメリカが武力行使を先き延ばしし国際世論が満足するまで査察をやれば、フランスは武力行使を認める第二の決議を要求しない」。すなわち、新たな決議なしに武力行使を黙認するというものである。裏側での交渉はいまも激しく続いているのである。
イラクへの侵攻に向け、アメリカがNATO(北大西洋条約機構)にイラクへの出撃拠点となるトルコの防衛強化策を求めていた問題で、フランスとドイツとベルギーの三国は二月十日、NATOに対し正式に反対を表明した。
侵略戦争強硬派のブッシュ政権やブレア政権、それに追随する小泉政権が国際的に孤立することは大きな意味を持っている。しかしフランスやドイツの政府が平和主義的感情にかられて反対しているわけではないことは、NATO軍がユーゴスラビア全土に爆弾やミサイル、劣化ウラン弾を雨あられと降り注いで多数の民衆を殺害した九九年の旧ユーゴ侵略戦争でも明らかである。
ロシアや中国と、フランスなどEU諸国は、アメリカ一極支配の強化を食い止めたいと考えている。しかし国連で拒否権を行使してもアメリカが単独武力行使に踏み切ったら、安保理を通じた自らの影響力が損なわれるのではないかと恐れている。フランスのドビルパン外相は、「万策尽きれば武力行使を排除しない」と述べた。ロシアのイワノフ外相は「テロとの戦い」を引き合いに「安保理の一体性」を強調し、拒否権行使は望ましくないという考えを示唆した(朝日新聞2月7日)。
ドイツ・シュレーダー政権は「対イラク武力行使への不参加」を表明しているにもかかわらず、国内では対イラク戦争での米軍の基地使用や領空通過を認めており、すでに戦闘爆撃機などがトルコに向けて飛び立った。戦争が始まれば、湾岸戦争と同様にヨーロッパ最大の米軍後方支援基地の役割を果たすとみられている。
社民党の外交問題スポークスマンであるワイスキルヒェン連邦議員は「『イラク戦争不参加』とはイラクでドイツ兵が直接発砲したり、爆弾を投下したりしないという意味だ」と述べ、反戦運動の怒りをかっている(同紙1月28日)。
トルコやサウジアラビア、エジプトなど周辺諸国政府は、アメリカの侵略戦争開始によって大衆的反米闘争が爆発し、政治的不安定性が激化することを恐れているが、もはや戦争は食い止められないと見て個別の妥協に走っている。トルコのギュル首相は一月二十七日、トルコの戦争協力を求めているブッシュ政権との間で、戦争により予想されるトルコの経済的損失四十億ドル〜百五十億ドルを、アメリカが無償借款の形で保証することで合意が成立したと発表した。
国家間連合である国連も同様である。「国連はイラク問題で、人道援助などの対応策を『武力行使でフセイン体制が転覆された場合』に集中して検討することにした」(朝日新聞1月26日)。すでに戦争開始が前提となっているのである。
いまや、本当に戦争を止めようとしているのは、各国政府支配体制の妥協と屈服を許さない国際反戦闘争だけしかない。文字通り全世界で、イラクへの侵略戦争に反対する闘いがの意志が広がり続けている。
米軍の出撃拠点となることを政府と国会が容認したトルコでの世論調査では、国民の八割以上が戦争に反対している。政府が湾岸への特殊部隊派遣をすでに開始したオーストラリアでは二月五日、上院でハワード首相不信任案が可決された。ブッシュ政権の忠実な副官として戦争に突き進むブレア政権のイギリスの世論調査では、四七%が戦争に反対し、八一%が新たな国連決議なしの戦争に反対しており、戦争反対が増え続け、賛成が減り続けている。
アメリカでは二月初めまでに、メーン州とハワイ州の州議会をはじめ、サンフランシスコ、シカゴ、フィラデルフィア、デトロイトなどの大都市を先頭に、全米二十三州の六十六の自治体が、イラクへの武力行使に反対する決議をあげている。一月十八日の世界一世反戦行動は、アメリカでも七十万人以上が参加した。米軍の準機関紙「星条旗」(1月20日付)が、一面と二面を使って「世界中に広がった反戦の訴え」大きく報じざるを得ないほど、国際反戦運動は広がっているのである。
米英が、フセイン大統領が四十八時間以内に国外脱出しなければ戦争を開始するという国連安保理決議を策定中だと報じられている。先に紹介したように、フランスやロシアや中国が拒否権を行使しない可能性も否定できない。また、仮にこれらの諸国が拒否権を行使しても米英が戦争に突入する可能性は十分にある。そして小泉政権は、ますます強く戦争協力の姿勢を打ち出している。
「国連の十分な査察を」と訴えるだけでは、「石油のための戦争」を阻止することはできない。アメリカ帝国主義ブッシュ政権のねらいを暴き、石油利権と世界政治におけるヘゲモニーをめぐって裏取引を続ける核武装した国連安保理常任理事国五大国の抗争を暴き、それに屈服するドイツ社民党シュレーダー政権の現実を暴き、小泉政権の全面的戦争協力と対決しなければならない。
全世界の反戦運動と連帯し、戦争を止める巨大な闘いを作り出すために全力をあげよう。
(2月10日 高島義一)
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