| ポルトアレグレから―世界社会フォーラムレポート(4) かけはし2003.3.17号より |
| 二万五千人の参加者が総立ちとなって「イマジン」の大合唱 |
フォーラム五日目、一月二十七日午前中はアジア・ミーティングがあり、アジアからの参加者百人余を前に、ATTAC・ジャパンの大屋さんが最近の日本情勢(アフガン侵略戦争でのアメリカとの軍事協力関係の進展と日朝国交交渉での日本人拉致被害者問題の公然化、在日朝鮮人への排外的攻撃の現状、国鉄分割民営化以来の郵便など公共部門民営化の攻撃実態など)を報告した。
インド代表は、アジア社会フォーラムの成果を報告した。その後、来年インドに世界社会フォーラムが移動するに際して、求められている課題を参加者から何人かが発言した。バングラデシュの女性からは、「民族紛争での犠牲は女性や子どもに集中する。核兵器だけでなくすべての兵器の廃絶を求めたい。また、宗教的原理主義から女性への迫害は強く、家から外出する自由もない。堕胎や出産の権利もない。一方で、民族的マイノリティも危うい状況だ。ところが女性の権利のためのワークシュップには男性の数が少ない。男性にもこの問題を考えて欲しい」と訴えた。
ネパールの女性からは「ネパールの女性運動の困難さは、アメリカの帝国的ヘゲモニーだけでなく、インド政府からの圧力もあり、フォーラムでは、世界的帝国との対決だけでなく、地域ヘゲモニーの問題も話されるべき」と指摘があった。この他の意見では、インドでのフォーラムについては、貧しい民衆でも参加できるものとして作らないと、一部のエリートだけのものになってしまう。少なくとも一つのイベントをパキスタンに持っていくべき。インド・フォーラムはすべてのアジア地域を網羅する組織委員会を作りたい。インドへのアクセスを容易にするためには、ビザ発給含めインド政府の協力も重要だ。アジアでの開催という観点からは、中国の問題が大きく、いかに参加を得るかアジェンダにあげようなど数多く出された。
最後の方で、タイの女性が「フォーラムで、話しているだけでは何も変わらない。行動が必要だ。フォーラムに多くの人が集まって喜ぶのは大企業でもある。飲料水だけでもどのくらいになるか。本当は、大資本と闘うこと。民衆への力が必要だ。その力の使い方も考えながら…」と訴えた内容は、本当に耳に痛かった。
会議最後に、イランの参加者からの発言にもあったイラン学生国際連帯デーをアジェンダに含むアジア・ミーティング・アピールを参加者一同で確認した。
午後からは、ギガンチーニョ・スタジアムで「不処罰」というテーマでのカンファレンスがあった。不処罰という用語自身、いわゆる日本軍「慰安婦」問題の闘いの中から生まれた言葉だと思っているが、主催者は韓国挺身隊問題対策協議会の申さんほか、アルゼンチン、イスラエル、イラクの代表にまで拡大した。
中南米からのフォーラム参加者には、「慰安婦」問題が初めてという人もあるだろうが、私たち日本人にとっては、一九九〇年の国会答弁(「慰安婦」は民間業者が連れ歩いたもの)を期に、被害当事者が身をもって国家による犯罪を告発してからすでに十二年以上が経過し、日本の一市民として本当の解決に至らせていない心痛む問題である。
しかし、この闘いの中から、被害者の救済とは単に金銭的な賠償問題ではなく、被害者の尊厳回復、国家による謝罪と再発防止保証(教育を含む)、そして不処罰となっている犯罪者・責任者の法的な処罰が緊要であることを国際社会の常識とさせてきたのである。皮肉なことに今日、日本国内でのこの実践は、朝鮮民主主義人民共和国による日本人拉致被害者問題そのものになってしまっている。いまやマスコミすら責任者処罰を語るが、それは自分たち日本人にも跳ね返ることを忘れてはならない。
この後、ギガンチーニョ・スタジアムは、四時から行われる「帝国との対決」カンファレンスのノーム・チョムスキー講演を目当てに、参加者がみるみる増えてきた。そして、イスラエルとパレスチナ代表、ポルトアレグレ市長による反戦宣言が、それぞれ読み上げられた直後、二万五千人近くの参加者が総立ちとなって、ビートルズの「イマジン」の大合唱が行われた。これこそ、今回のフォーラムでの最も感動的な場面であった。合唱後も、しばらく円形スタジアムを何周も回るウェーブが自然とわき上がっていた。
続いて、「帝国との対決」と題されたカンファレンス。これには、インドの小説家・政治活動家のアランダティ・ロイも講演し、翌日の新聞には、「北アメリカと南アジアの二つの心が合流して、ギガンチーニョ・スタジアムの大群衆に知的な楽しみを提供した」と記された。
最初のノーム・チョムスキーの講演は、現局面について、不吉だが希望にも満ちる特殊な世界史の局面にあると切り出し、史上最強の国家が、明確にその力による世界支配を公言している。そして、「帝国と対面する」方法とは、暴力、征服、憎悪、恐怖にもとづかない「別の世界」を作ることであると断言し、「それこそ、なぜわれわれがここにいるかという理由である。そして、世界社会フォーラム(WSF)は、これらがむだな夢ではないという希望を与える。昨日、私は、世界中で最も重要でエキサイティングな民衆運動であると思うMST(土地なき農業労働者運動)共同体におけるヴィア・カンペシーナ国際集会において、このゴールを達成するための非常に感動させられる取り組みを見た。それは、極めてまれな特典であった」と指摘した。
さらに、その一方で、トルコにおける政府軍によるクルド人虐殺の再開、プラン・コロンビアというアメリカ軍にサポートされた戦争の結果、組合活動家の暗殺と小農民の土地追い立て、大地の破壊が進行していることを列挙し、「これらを少しでも避けることができる。これら犯罪を終わらせるための良いモデルが、MST、ヴィア・カンペシーナとWSFである」と強調し、彼は二つの主題を提示した。
一つは、世界的な公正とポスト資本主義の生活について。「なぜなら、人類は既存の資本主義制国家の下で、非常に長く生存する見通しはあまりない」からだ。二つ目の主題は、戦争と平和。「もっと具体的に言うと、ワシントンとロンドンが絶望的にも、事実上単独で、実行しようしているイラクへの戦争についてである」。
そして、これら主題に関連する良いニュースとして、ダボスは暗い雰囲気で、ポルトアレグレは希望に満ち、明るい。実際、経済フォーラムの創設者は、「企業の力は完全に消え去った」ことを認めざるを得なかったと述べた。
そして、ヨーロッパ、トルコの状況を説明し、アメリカの反戦運動について触れた。「実際、合衆国での抗議運動は、他と同じぐらい、歴史的先例のないレベルにある。単にデモンストレーション、ティーチイン、その他の公共イベントだけではない。異なる例として、先週シカゴ市議会は、他の五十の市町に合流し、四十六対一で反戦決議を通過させた」。
さらに、ベトナム反戦闘争との違いについて触れ、戦争開始前に始まった反戦運動であることを強調。最後に、コントロールされるべき問題は、合衆国と英国に多くの方法で巨大な富をもたらす「物質的な戦利品」と「戦略的権力における途方もない資源」―それは今や公然と宣言されるゴールである「一方的な世界支配」と翻訳されるが―と、合衆国における保守的な支配層であると述べ、「(変革への)勇気づけられる多くの理由があるが、長い厳しい先行きであろう」と締めくくった。
続けてインドのロイは、「帝国との対決を語るとき、帝国とは何かをはっきりさせるべきだ。それはアメリカ政府、そのヨーロッパ同盟国、世界銀行、IMF、WTO、あるいは多国籍企業のことだろうか?」と切り出し、インドの政治状況について言及した。
彼女は簡単に、新自由主義グローバリゼーションはインド十億の民をWTOの前に差し出し、インドのエリートを水道、電気、石油、石炭、鉄鋼、健康、教育、電気通信の分野での民営化に走らせ、インドRSS政府の二つの手が完ぺきな挟撃作戦を展開していると述べた。
そして、「一つの手がインドを大量に売り払うことで忙しい間に、もうひとつは注意をそらすために、ヒンズーナショナリズムと宗教的ファシズムの、わめき、うなるコーラスを演奏している。それは核実験を行い、歴史本を書き直し、教会を燃やし、そしてモスクを破壊した。昨年三月、グジャラート州で、二千人のイスラム教徒が国家の資金援助で虐殺された。イスラムの女性たちが特別に目標に定められた。彼女らは裸にされ、生きたまま燃やされる前に、集団レイプされた。放火犯人は、店、家、織物工場、モスクを燃やし、略奪した。十五万人以上のイスラム教徒が自たちの家から追い出されている。イスラム教共同体の経済的基礎は破壊された」と糾弾し、以下のように展開した。
これらのことは、自由市場が国境を打ち壊すというのが神話だということを物語っている。自由市場は国家主権を脅かさない。自由市場は民主主義を衰退させるのだ。金持ちと貧しい人の格差が広がるにつれ、資源を買い占める闘いは激化する。企業のグローバリゼーションには、嫌がられる改革を進め、反乱を抑える貧しい国の腐敗した独裁的な政府が必要になる。同時に、北の国々は国境を固め、大量破壊兵器を蓄積する。結局、彼らはお金、商品、特許、サービスをグローバル化するのであり、人々の自由な行き来、人権、人種差別や化学兵器・核兵器や気候変動に関する国際条約をグローバル化するのではない。これら独裁政府の連合、権力の集中、意思決定者とそれに苦しむ人々の間の距離、これらすべてが「帝国」だ。
私たちのゴール「もう一つの世界」はこの距離をなくすことだ。インドでは企業主導のグローバリゼーションに反対する運動が宗教ファシズムの反対勢力となっている。エンロン、ベクテル、ワールドコム、アーサーアンダーソンはいまどうなったか?ブラジルの大統領はいま誰か? 一方、対テロ戦争の広がりの下で、企業家は仕事にいそしんでいる。爆弾が降り注ぎ、巡航ミサイルが飛ぶ間に、契約が結ばれ、特許が登録され、石油パイプラインが敷かれ、天然資源が略奪され、ブッシュは対イラク戦争を計画している。私たちと「帝国」の対峙で、私たちは負けているように見える。
しかし私たちはそれぞれ「帝国」に攻囲を敷いてきた。彼らを止められてはいないが化けの皮をはがした。彼らはいま、国際舞台に野蛮で不正な姿をさらしている。帝国はいま、自国の人々を勇気づけることもできないほど醜い姿をしている。大多数のアメリカ人が私たちの側に立つ日は遠くない。アメリカでの対イラク戦争反対の運動は勢いを増している。誰もがサダム・フセインなしのイラクの方がよいことは間違いないと考えている。しかしブッシュなしの方が全世界によいことも事実だ。実際、彼はサダム・フセインよりはるかに危険である。それで、私たちはホワイトハウスからブッシュを追い出す爆撃をするべきだろうか?
しかし、この事実にも世界の世論にも関係なく、ブッシュが対イラク戦争を決めていることは明らかだ。私たちは世論を積み上げ、巨大な叫びにしよう。対イラク戦争は、米政府の過剰な暴力を白日にさらすだろう。ブッシュとブレアとその同盟者が、赤ん坊を殺し、井戸に毒を入れ、遠距離から爆弾を投下する小心者であることを暴露しよう。
私たちは創意に満ちた方法で市民的不服従を復活させることができる。私たちの戦略は、帝国に対抗するだけでなく攻囲を固めることだ。彼らの酸素を奪い、彼らに恥じさせ、彼らを笑いとばそう。私たちの芸術、音楽、文学、頑固さ、喜び、改革、私たちが信じるよう洗脳されてきた物語とは違う、私たちの物語を語り合う力をもって……。企業による改革は、彼らが売りつける考え、歴史、戦争、武器、不可避という概念を、私たちが買うことを拒否すれば崩れる。私たちは多数で彼らは少数だ。私たちが彼らを必要としているよりもっと彼らは私たちを必要としている。
鳴りやまぬ拍手でカンファレンスが終了した後、反戦・反ALCA(FTAA:米州自由貿易地帯)協定のパレードが四万人参加の下繰り広げられた。途中、安い食堂が入っているので、期間中私たちもお世話になった大きなショッピング・センターの壁には、大きな「PAZ(平和)」という横断幕も掲げられていた。また、街頭の広告塔には、フォーラムに向けた政党やNGOのポスターばかりであった。フォーラム解散地では、多くの国の仲間たちが、日本の「漢字」の旗を見つけ、写真を撮らせて欲しいと寄ってきた。そのあまりの数の多さに、この次は闘争の内実でこうなりたいと思ってしまった。
実は、この二十七日夕方の反戦パレードをもってフォーラム終了と分かったのは、同行した日系の友人が、フォーラムは今日で終わりという報道がなされているとの話からだったが、プログラムにも二十八日十一時からの閉会式の案内が載っていた。
確認できたのは翌二十八日朝、PUC(キリスト教大学)校内に訪れ、閑散とした会場を見たときだった。閉会式をしなかった理由はいろいろ言われていたが、オープニング・セレモニーの時、保守派となったRS(リオグランデドスル)州知事のあいさつに強烈なヤジとブーイングの声があり、州知事がもう出席しないと決めたことも大きな原因らしい。あとは、ブラジルの組織委員会が、海外にフォーラムが行くことに反対の団体も多く、混乱状態となったという話も聞いた。
しかし、ここからもう一つのセミナーが始まっていた。統一書記局―第四インターナショナル系のセミナーであり、PUC校内が閑散となるに連れ、このセミナー会場だけは盛り上がっていた。このセミナーはこの日から三日間PUC校内で行われる予定だが、私は翌日午前中までしか参加できなかったし、セミナーよりブラジルやフランスの同志と話をしている時間の方が多かった。
彼らの話では、世界社会フォーラムはターニングポイントに来ていて、ブラジル組織委員会内部でもインドへのフォーラム移動には難色があったけれども、結局フォーラムはインドに行く。アジア各国NGOの協力なしにインド・フォーラムの世界化は難しい。事実、WSFは二年ごと開催とし、来年はインドでの「地域」フォーラムでいいとの話まで出ていたという。しかし、インドでのWSF開催ということになり、そこでの日本の役割の大きさなど強調された。この他、ルラ政権の評価、モレノ派トロツキストの動向など討論できた。
いずれにせよ、ブラジル政府と民衆に対し、統一書記局―第四インターナショナルに結集するPT―DS(社会主義的民主主義潮流)として、農業開発相などの閣僚派遣を含め多大なる責任を負うこととなった中、すべてはこれからの闘争にかかっている。
ルラ政権は結局、敗北したスリランカやチリの人民戦線政府になるのではないかという意見もある。軍部のクーデターという要素は敵側から困難にしても、グローバル化の中での資本逃避、為替相場への圧力、IMFの締めつけ(事実、昨年来三百三十億ドルの融資を基金から受け、民営化などの構造調整プログラム強制の他、四半期ごとの国家財政の黒字の率まで義務づけられている)の中で、ブルジョアジーに妥協し民衆への裏切りに追い込まれる可能性はゼロではない。
「もう一つのブラジルは可能」なのか、ルラ政府の一挙手一投足が、世界社会フォーラムで掲げられた「もう一つの世界の可能性」の現実化を世界に波及していくと言っても過言ではない。フォーラムで、だれかが指摘していた。「ルラの勝利は、全世界民衆の勝利だ」と……。勝利への巨大な一歩を本当の勝利に結びつけていく闘いこそ問われているのである。
(おわり 北野はじめ)
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