非民主的システムと歪められた選択
十一月二日に投票が行なわれた米国大統領選挙で、ブッシュが再選された。この結果、戦争と石油利権と右翼キリスト教原理主義を体現するブッシュと彼のネオコン人脈が二〇〇九年初めまでの四年余にわたり、引き続き強大な権力を付与されることとなった。
しかも、今回の選挙は、前回の選挙とは違い、投票率も六〇%と一九六八年以来の高率であり、得票率においてもブッシュは民主党・ケリー候補に三%の差をつけた。九・一一以降の突出した軍事行動が国際的な非難を受け、対イラク戦争の犠牲者が十万人近くに達しており、イラク開戦をめぐる情報操作が白日の下になったという条件の下で、なおかつブッシュが六千万人もの支持を得たのである。
戦争と雇用問題か
ら目をそらさせる
大統領選挙の投票日にCNNが行なった出口調査は興味深い事実を示している。投票にあたって最も重視した問題がイラク戦争だと答えた人は一五%で、それらの人々の七五%はケリーに投票した。経済・雇用だと答えた人は二〇%で、それらの人々の八〇%はケリーに投票した。これに対して、テロリズムだと答えた人は一九%で、それらの人々の八六%はブッシュに投票した。また、道徳的価値だと答えた人は二二%で、それらの人々の七九%はブッシュに投票した。
テロへの恐怖、「道徳的価値」を脅かす同性間の婚姻や中絶などへの嫌悪が、イラク戦争の膨大な犠牲や雇用の不安を凌駕したのである。これこそまさに、戦争や雇用の問題から有権者の目をそらさせるためにブッシュが取った選挙戦略であり、右翼的、キリスト教原理主義的宗教勢力が大統領を決めるキャスティング・ボートを握る層として動員された。
八〇年代以来の新自由主義政策、金持ち優遇政策に伴う貧富の格差の拡大と大量の貧困層の形成、そして九〇年代後半以降加速化する産業の空洞化と雇用の不安定化という状況の中で、米国社会の分裂と矛盾は深まっている。にも関わらず、選挙においては大企業の利益を代表する二つの政党以外に有効な選択肢が提供されていない。
きわめて非民主的・排他的な選挙制度と、意図的に操作されたメディアの報道と、途方もない金権選挙の中で、選挙結果は米国の人々の意志や希望を歪められた形で表現しているにすぎない。
私たちは、ケリーへの投票として表現されたイラク戦争反対の意思や、労働者、女性、人種的少数グループ、ゲイ、レスビアンの権利を擁護する人々の希望が、失望に変わるのではなく、ブッシュを包囲し、打倒するための大衆運動の再構築へと向かうことを期待し、注目しよう。
米国の労働組合、人種的少数グループ、女性、市民運動はこれまで、共和党政権の下でも民主党政権の下でも、自分たちの独立した大衆運動によってさまざまな基本的権利や先進的権利を勝ち取ってきた。今日では、ゲイ、レスビアンの人々や、移住労働者がその最前線に立っている。ケリーの勝利に期待した人々が四年後の大統領選挙までブッシュ=ネオコン支配に沈黙することはありえない。彼ら・彼女らは共和党政権の下でも民主党政権の下でも闘いを続けてきたし、これからも続けるだろう。
AFL・CIOの後退と内部矛盾
しかしながら、私たちはブッシュの当選が全世界の反戦運動にとって、また、新自由主義的グローバリゼーションに抵抗する労働運動や社会運動にとって大きな敗北であるという事実から目を背けるべきではない。
米国の労働組合運動は、組織率の低下、経営側からの組合解体の攻撃に直面して、その存亡をかけて民主党の勝利のために全力を投入した。「改革派」スウィーニー会長の下でAFL・CIOは、労働者の権利を擁護するどころか口先ですらそのような約束をしないケリーのために数十億ドルの資金を費やし、五千人の専従を配置し、二十万人のボランティアを動員し、三千万枚のリーフレットを配布した。
地域レベルで草の根の組織化が進められ、その結果、労働組合員の投票率も、労働組合員の民主党への投票数も前回選挙を大幅に上回った。
しかし、AFL・CIO指導部は、民主・共和の二つの資本家政党に対して労働組合・労働者の独自的な要求を掲げるのでなく、民主党・ケリーへの根拠のない願望を煽ることに終始した。
それに対して、港湾労働組合をはじめとする労働組合の多くの先進的な支部は、十月十六日に、雇用・医療・公教育などの差し迫った要求とイラクからの軍隊の撤退を掲げて「ミリオン・ワーカー・マーチ(MWM)」に参加した。しかし、AFL・CIO指導部は大統領選挙中であることを理由に、この行動への参加を統制し、多くの組合がそれに追随した。そのためこの行動の参加者は一万数千人にとどまった。
AFL・CIOでは、改革派・スウィーニー指導部の下での組織拡大運動が、部分的な成果にもかかわらず、労働組合運動の全体的な停滞に歯止めをかけられていない状況の中で、これまで改革推進派の中心だったSEIU(サービス従業員組合、160万人)をはじめとする5つの組合が「新しい統一のための連合(NUP)」を結成し、〇五年の大会に向けて現指導部と対決する動きを強めている。この流れは、組織拡大運動の効率化を自己目的化し(大組合への統合、中央集権化、政治的マヌーバー)、労働組合の民主主義、下からの参加の要素を切り捨てるものとして批判されている[詳しくは「労働情報」誌11月15日号を参照]。
こうした内部矛盾によって、労働組合・労働運動の中でのイラク反戦の闘いや、新自由主義的グローバリゼーションに抵抗する闘いは、ナショナルセンターのレベルでは大きな後退を余儀なくされるだろう。しかし、MWMやUSLAW(「戦争に反対する米国労働者」)のように、州やローカル(支部)のレベルでは運動は必ずしも後退していない。ここに反撃の拠点が存在している。
敗北した「より小さな悪」戦略
左派・進歩派にとって、事態はより深刻である。
左派・進歩派は前回(2000年)の大統領選挙では、前年のシアトルの闘いが切り開いた新しい可能性と結びついて、緑の党が推薦したラルフ・ネーダー候補を押し上げ、三百万票(3%)近い票を結集することができた。その後も、カリフォルニア州知事選挙で緑の党が推薦したピーター・カメホ候補が5%の票を獲得した。これは資本家の二大政党と対抗する新しい政治的潮流の登場の可能性を示した。
しかし、前回の大統領選挙で「ラルフ・ネーダーが民主党の票を奪ったことでブッシュの当選が可能になった」という誤った総括が広く受け入れられ、とりわけ九・一一以降、左派・進歩派の間でもブッシュを落選させるために「より小さな悪」として民主党を支持するという流れが形成された。ノーム・チョムスキー氏をはじめとする多くの左派・進歩派の知識人たちがその先頭に立った。当初は民主党の候補者指名に名乗りを上げていた反戦派のディーン氏に期待が集まったが、ディーン氏は共和党と民主党右派からの強力な切り崩しにより指名争いで惨敗した。
チョムスキー氏は三月二十一日に、「ケリーはブッシュの亜流だが、ブッシュよりはましだ」として消極的支持を表明した。彼は「両者の違いはわずかだが、わずかな違いが大きな結果をもたらすこともある。ブッシュとその取り巻きは、私たちがこれまで獲得してきた成果を完全に一掃しようとしている」と述べている。これは九・一一以降の米国における反動的・抑圧的体制の確立に対する危機感を反映している。
一方、ラルフ・ネーダー氏は今回、保守派とも協力していることから、緑の党は彼を推薦せず、デービッド・コブ氏を推薦した。このほかにもいくつかの社会主義政党が独自の候補を立てた。しかし、いずれの候補も二大政党と対決する広範な勢力を結集することはできなかった。とりわけ民主党支持者と「より小さな悪」論の支持者からのラルフ・ネーダー氏に対する批判は、バッシングとも呼べるほど苛烈だった。その結果、彼の得票は今回は三〇万票にとどまった。
左翼の政治組織の一つである「ソリダリティー」は、大統領選挙では特定の候補を推薦せず、ケリーまたは第三の候補への投票のいずれの選択肢も否定されるべきでないと主張した。現行の選挙制度の問題や左翼の力量、そして統一した候補をもてないという状況から判断して、大統領選挙に集中するよりも、地域レベルの選挙キャンペーンに集中するほうが効果的であるという観点からである。
全世界の反戦運動の中でも、イラクをめぐる状況の「手詰まり感」の中で、ブッシュ落選に展望を見出そうとする傾向あるいは気分が広がった。ATTACフランスのリーダーであるスーザン・ジョージさんすら、ブッシュの再選の危険を強調して、ネーダー氏の立候補を強く非難している。
しかし、ケリーは戦争政策や経済政策でブッシュと対決することを避け、むしろ対テロ戦略における優位を競った。ケリーはいかなる意味でも、反戦や労働者の権利の主張を託すに足る候補ではありえなかった。
こうして反戦運動や左派・進歩派は、ブッシュと対決する明確な基軸を提供することに完全に失敗した。再選されたブッシュは、イラク・中東に対する軍事戦略・戦争政策を一層強力に進めるだろうし、災禍と犠牲がさらに拡大される恐れがある。しかし、そもそもケリーが勝利すれば米国が占領をやめ、軍を撤退させると考えられる根拠はどこにもなかった。
「より小さな悪」戦略は敗北した。いや、闘う前から敗北していたのである。
ベトナムへの侵略戦争が民主党のケネディ政権、ジョンソン政権の下で遂行され、共和党のニクソン政権の下で米軍が最終的な撤退を余儀なくされたことを再度想起するべきである。占領をやめさせ、米軍を撤退させることができるのは、選挙における民主党の勝利ではなく、占領に対する抵抗闘争の発展と米国内および全世界の反戦運動の発展の力だけである。
反戦運動の再構築を目指そう
ブッシュは再選を手にした直後から、ファルージャに対する総攻撃を再開した。無差別殺戮によって、来年一月に予定されている選挙までに抵抗闘争を壊滅させることを狙っている。
もはやアラウィ政権への「主権移譲」が虚構でしかなかったことは明白である。抵抗は日々拡大しているだけでなく、人々の中に米国に対する嫌悪と憎悪が深く刻み込まれている。アラウィ傀儡政権は米軍による支援なしには一日たりとも存在しえなかったし、今後も存在しえない。一月に予定されている選挙は、たとえ実施されたとしても、何の正統性も持ちえないし、占領の終結を意味しない。
「主権移譲」の事実上の失敗によって、国連の関与やアラブ諸国の関与の可能性はほぼ閉ざされた。英国を除くヨーロッパの主要国の協力も得られそうにない。こうして第二期ブッシュ政権は、イラクの長期にわたる軍事占領の軍事的・政治的・経済的コストを払い続けるしかない。米国経済がいつまでそのコストに耐えられるかは不明である。英国と日本以外に、このコストを部分的に肩代わりする国はない。
いずれにせよ、第二期ブッシュ政権の命運は、イラク占領の帰趨によって決定される。たとえ彼らがイラクの平定に成功したとしても、彼らはただちに次のターゲットを見つけるだろう。彼らの「テロとの戦争」に終わりはない。なぜなら、彼らの軍事行動や経済的収奪が常に「テロ」の根拠を再生産するからである。この点についてのいかなる幻想も持つべきではない。
再び、ブッシュを包囲する国際的な行動が組織される必要がある。ブッシュ=ネオコンのの戦略と真っ向から対決し、それを完全に打ち破る戦略が必要とされており、現実の力関係を変えていくための長期にわたる運動の持続と発展が必要とされている。ケリーへの投票によって反戦の意志を示した数百万人の人々や、ラルフ・ネーダー氏をはじめとする「第三の候補」に投票した人々と共に、反戦運動を再構築しよう。昨年の二・一五のような運動を何度でも組織すること、これが私たちのブッシュ再選に対する回答でなければならない。 (小林秀史)
12・14集会では遅すぎます。国会包囲行動を!
T・S
私は、香田さんの虐殺、ブッシュの勝利で、この泥沼を解決するのは、国家の枠を越えた民衆の国際連帯と、その連帯の強化のために献身する新しい政治グループの登場と拡大が必要だという事を痛感しています。
この間、オサマ・ビン・ラディンの演説等を見る中で、オサマ・ビン・ラディンは、政治的には、自由主義者であり、アメリカの侵略に対して、実業家の才覚と、宗教カルトの結集で、対抗しようとしていると考えるようになりました。すなわち、自由主義の枠の中で、宗教カルトを支持基盤として、国家主義化する二つの傾向が、民衆の命を無視し、無差別テロ合戦に入っている。
ですから、自由主義の枠内で、この二つの傾向を抑える可能性は、わずかだし、どちらかに加担し、どちらかを封じるという可能性も薄い。
無差別テロの対象とされる民衆同士が、連帯してこれを封じる方法しか残されていないし、この強化に献身するグループは、ソ連社会主義国家圏が、民衆の利害を代表しえなくなった原因を解明し、その繰り返しをしないグループだろう。
さしあたって、十二月四日のイラク特措法にもとづく「基本計画」の延長阻止。民衆の百万人動員で国会包囲。自衛隊撤退を実現できれば、危険な自由主義者が世界を破壊する無差別テロの泥沼から、世界を救う方向が見える
。これは、日本から発信し、国際連帯行動に呼応してもらうくらいの取り組みの根拠がある課題だと思う。
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