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自民党の歴史的勝利と労働者市民の課題          かけはし2005.9.19号

驕る小泉に反撃の闘いを

憲法改悪阻止!戦争・増税と権利破壊を打ちくだこう!


吹き荒れた小泉のデマ宣伝

 九月十一日の総選挙は、小泉・自民党の圧勝に終わった。自民・公明の与党は国会議席の三分の二を獲得し、参院で法案が否決されても衆院で再可決・成立させる橋頭堡を築いた。
 解散から郵政民営化反対議員への「刺客」の選定、選挙キャンペーンまですべてが、小泉首相の独裁的とも言うべき個人的イニシアティブで貫徹された。かつて改憲による首相公選論を主張していた小泉は、まさに「大統領的首相」として振る舞った。
 「改革を止めるな」「郵政民営化こそ改革の本丸」「郵政民営化によって官から民への流れを加速する」「民営化によって特権にあぐらをかいた公務員を減らせ」。今日の日本が抱えている閉塞状況と危機のすべての突破口を「郵政民営化推進」一点に絞り込んだ選挙を演出した小泉は、「自民党をぶっこわす」と宣言した二〇〇一年総裁選のスローガンそのままに、橋本派に代表される旧来の党内各派閥を恫喝・統制し、沈黙させることに成功した。選挙戦は、「与党か野党か」ではなく、「小泉を支持するのか、支持しないのか」という基調で終始した。
 メディア報道は、圧倒的に「郵政民営化」を推進する小泉支持の立場に沿って展開された。郵政民営化法案が八月八日に参院で否決され、小泉が異例の「衆院解散・総選挙」を強行した時に「郵政民営化の流れを止めるな」とした各メディアの主張によって、すでに選挙キャンペーンの流れが確定していた。
 「9・11」総選挙は自民党の勝利ではなく、小泉の勝利であった。それは旧来の「利権配分型」の自民党支配のあり方を構造的に転換し、新自由主義的グローバリゼーションと、ブッシュ米大統領が主導するグローバル戦争に参戦する政治体制を頂点から築き上げる歴史的転換点である。
 日本経団連に代表される大ブルジョアジーやアメリカ帝国主義支配階級は、小泉の勝利を全面的に歓迎している。九月十八日に行われるドイツ総選挙と重ね合わせて、アメリカの支配階級は、今回の日本の総選挙を「高度成長を支えた福祉国家型資本主義」と決別することが課題だ、と強調してきた(たとえば「ニューズウィーク」日本語版9月14日号に掲載されたエール大学経営学大学院教授ジェフリー・ガーデン「日本とドイツの崖っぷち選挙」など)。
 「小泉チルドレン」とも言うべき、アメリカで学んだエコノミスト、ビジネスマン、ベンチャー企業経営者、中堅・若手キャリア官僚、さらには一部のNPO活動家からなる「落下傘」候補者の一群は、まさに新自由主義の市場競争万能社会における「勝ち組」イデオロギーを体現している。彼ら/彼女らは、全世界を席巻するグローバル資本主義の申し子である。
 「古い自民党」に見切りをつけて、民主党に期待感を持っていたこうした人びとが「郵政民営化」選挙をきっかけに小泉の下に馳せ参じている現実は、はじき出された「郵政民営化」反対勢力に代わる新しいブルジョア政治勢力が自民党において政策形成の決定的要因になっていく趨勢を明らかにしている。

都市部でも軒なみ議席獲得

 総選挙の結果を数字で見ておこう。投票率は六七・五一%で前回の五九・八六%を七・六五ポイントも上回り、一九九六年に初めての小選挙区比例代表制で総選挙が実施されて以来の四回の総選挙で最高を記録した。都道府県のすべてで投票率が六〇%を上回り、前回比で投票率が一〇%以上増えたところは、埼玉、富山、大阪、香川の四府県に及ぶ。
 自民党の獲得議席は四百八十議席の総定数のうち二百九十七、解散時に比べて四十七議席を増やして単独過半数を大幅に上回った。自民党は前回の二〇〇三年十一月総選挙では大都市部で軒並み民主党に破れ、比例区の全国総得票数でも民主党を下回った(民主党・二千二百十万票、自民党・二千六十六万票)。しかし今回、自民党は都市部でも、たとえば東京都の二十五の小選挙区で二十四を制したように、民主党を大差で圧倒した。比例区ではブロック別の得票で民主党に負けたのは北海道だけであり、比例区総得票数は民主党の二千百万票に対して、自民党は二千五百八十九万票を獲得した。まさに地滑り的な大勝であり、東京の比例ブロックでは候補者の数が当選数に足りず、社民党の保坂展人に議席が転がり込んできたほどである。
 他方、この間その組織力で、とりわけ小選挙区において自民党を支えてきた与党・公明党は、過去最高の比例区得票八百九十九万票を獲得したにもかかわらず、改選前の三十四議席を下回る三十一議席にとどまった。郵政民営化に反対票を投じた自民党議員によって泥縄的に結成された国民新党や新党日本は、地元に密着したベテラン保守派としての個人票に依拠して一定の議席を維持したが、とりわけ都市部では無所属で立候補した元自民党議員もふくめて、小泉に送り込まれた「刺客」によって一敗地にまみれた例が多い(たとえば東京10区の小林興起)。

大敗した民主党の行方は?

 敗北したのは「政権選択選挙」を押し出した民主党だった。民主党は解散時の百七十五議席を大幅に減らして百十三議席に転落し、岡田代表は辞任を表明した。民主党は小泉首相の「郵政解散・総選挙」のクーデターに不意を打たれた。
 民主党は、二〇〇三年総選挙によって具体化したブルジョア二大政党システムを通じて、行き詰まりを見せた「古い」自民党の利益配分型支配構造を叩き、新自由主義「構造改革」のより明確な体現者として「政権交代」を実現する戦略を描いていた。しかし、小泉自民党が「郵政民営化」に絞った選挙キャンペーンにおいて、「公務員の特権」をターゲットに連合の労組官僚と結びついた民主党に攻撃を集中したとき、民主党は防衛的にならざるをえなかった。「郵貯・簡保の規模縮小」によって「官から民」に資金を流す、とか「公務員給与総額の二割削減」とかといった「マニフェスト」の主張はその現れである。
 民主党の敗北は、党内の旧社会党的要素や「連合」労組官僚の位置をさらにいっそう後退させることになるだろう。われわれは二〇〇三年の総選挙の中で、ブルジョア二大政党の「政策論争」が改憲と新自由主義的グローバル化の推進という共通の土俵の上で、事実上の「一極化」へと収斂していかざるをえない、と主張してきた。今回の敗北は、改憲や「緊急事態基本法」の制定をふくめ、「政権交代」のスムーズな実現を展望した小泉路線との接近をさらに促進するものとならざるをえない。
 他方、共産、社民の両党は、小泉・自民党圧勝の嵐の中で、「小泉構造改革」と改憲・戦争国家体制づくりに対する批判の立場を保持し、現有議席の維持(共産党)、あるいは微増(社民党)であった。両党合わせて十六議席で議席占有率三・三%、比例区全国得票率一二・七%という勢力にとどまっているとはいえ、相対的には踏みとどまったというべきであろう。

強力なリーダーシップ願望

 一連の世論調査に見る限り、郵政民営化問題は決して多くの人びとにとっての関心事項ではなかった。しかし小泉は、あえて「郵政民営化に賛成か、反対か」に対立軸を設定し、「改革」を妨害する「敵」の姿を分かりやすくイメージさせることによって、現状への閉塞感を持ち、強いリーダーシップを期待している層を獲得することに成功した。単純でデマゴギッシュな小泉の言説は、繰り返しTVなどのメディアで流されることによって人びとの脳裏に焼き付けられた。
 インタビューなどで見るかぎり、「郵政民営化賛成」のスローガンは、無党派層から民主党支持層にいたる幅広い人びとの間に浸透し、現状を変えたいという「改革」願望のシンボルとして機能したのである。経営のなりたたない中小商店主、失業、負債、低賃金、長時間労働、不安定雇用にあえぐ中高年労働者や青年といった新自由主義の競争万能・弱者切り捨て社会の被害者たちが、男女・年齢の別なく「現状打破」のリーダーシップを小泉その人に託した。
 もちろんこうした層の「改革支持」「小泉支持」は矛盾に満ちたものである。「憲法9条を変えることには反対だけど、今回は自民党に投票した」、「靖国参拝には疑問を持つが、小泉改革には賛成」という意見も多く、九月四日の東京新聞に掲載された世論調査では郵政民営化には六割以上が賛成する一方で自衛隊イラク派兵延長には七割が反対という興味深い結果も報じられている。すなわち新自由主義的グローバリゼーションについては多くの人びとが「動かしがたい現実」として受容する一方で、「戦争」や国際関係の分野ではたとえ受動的な形ではあれ、公然たる「戦争国家」イデオロギーには与しないという傾向も伺える。そしていうまでもなくここには、資本の社会的・政治的攻勢に対する労働組合運動をはじめとした大衆的な社会的抵抗運動の長期にわたる不在という現実が人びとの意識を深く規定しているのである。
 こうした現状に対する挑戦を、労働者・市民は継続している。郵政労働者ユニオンと、ATTACジャパンなどが中心になって結成した「郵政民営化監視市民ネットワーク」は、六月から八月にかけて「郵政民営化法案反対」の連日の行動を全力で実現した。WORLD PEACE NOWは、投票日と重なった「9・11」に向けて、「平和のための投票」「イラクからの自衛隊撤退」を正面から掲げるとともに、郵政民営化が戦争経済といかに密接な関連を持っているかについてもキャンペーンを行った。各地で作られている「九条の会」など憲法9条改悪に反対する声をさらに広範なものにしていく努力もねばり強く展開された。そしてアメリカのグローバルな軍事的再編(トランスフォーメーション)の中心である沖縄米軍基地に対する闘い、とりわけ普天間基地の即時返還・辺野古海上基地建設白紙撤回・基地の県内移設反対を求める沖縄・「本土」での闘いも、日米軍事同盟のグローバル化に反対する運動の結集軸として繰り広げられている。
 こうした闘いの諸要素はもちろんいまだ少数である。小泉政権の改憲、戦争国家体制づくり、そして大増税・雇用破壊の新自由主義「構造改革」路線に対する社会的抵抗の運動としてそれらを結合し、発展させていくためにわれわれは全力を集中するだろう。


不安定な自民大勝利の基盤

 小泉政権は、九月二十一日から始まる特別国会で、まず優先的に一度は廃案となった郵政民営化法案を、自民圧勝の勢いで成立させようとしている。しかしそれだけにとどまらない。たとえば改憲問題一つをとっても、自民圧勝の衆議院の構成は、改憲・戦争国家化へのアクセルをいつでも踏み込むことが可能な基盤となっている。改憲派は総選挙で獲得した地歩を最大限に利用するだろう。朝日新聞のアンケート調査では、当選した議員の八七%が改憲賛成であり、前回総選挙後の七三%を大きく上回っている。民主党議員では改憲派が前回の六二%から七三%に増えている。
 秋の国会では、十一月に自民党が結党五十年大会で改憲案を発表することになっている。十一月一日にはテロ特措法にもとづくアフガン占領支援の自衛隊インド洋派遣が期限切れとなり、十二月十四日には、イラク特措法にもとづく派兵基本計画が二度目の期限切れを迎える。小泉政権は、ブッシュとの緊密な協力の下に米軍支援と自衛隊への占領軍への参加を継続しようとしている。
 しかしわれわれは、「小泉ファシスト独裁」の成立といった煽情的な危機アジりは今日の状況において誤ったものであると強調しなければならない。自民党の中からも、小泉の来年九月までの総裁任期を延長し、二〇〇七年参院選を小泉の下で闘いたいという声が上がっている。小泉は現在のところそれを否定しているが、延長の可能性もないわけではない。しかしおそらく小泉にとっては、ポスト小泉の「後継者」づくりが残った任期の最大の目標になるだろう。
 自民党圧倒的多数派政権は、しかし爆弾を内に抱えている。財政危機、年金問題、中国・韓国との国際関係など、この爆弾がいつ破裂しても不思議ではない。この袋小路からの脱出は不可能である。そして自民党のマニフェストでは現行の税制の二〇〇七年をメドとした「抜本的見直し」がうたわれている。それが労働者・市民への本格的な大増税の攻撃であることは一目瞭然である。したがって、今回の自民党圧勝体制は、それ自体安定的なものとはなりえない。
 われわれは、自民党の圧倒的多数派体制に臆することなく、憲法改悪反対の広範な共同の陣形を作りだすことを主眼にしながら、イラクからの自衛隊即時撤退、沖縄の米軍基地撤去を軸とした反戦運動、そして反グローバリゼーション運動を担う潮流の社会的定着化を基礎に、新自由主義「構造改革」の破綻に対する批判を社会的な抵抗運動として発展させることに全力を傾注するだろう。反改憲・反戦運動と反グローバリゼーション運動を両輪とした政治的潮流の強化こそ、社会的抵抗の可能性を掘り起こす基礎である。
 そしてその中から、国政選挙を射程に入れた積極的な共同の関係を作りだしていこう。
(9月13日 平井純一)                                          


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