| 暴走する新自由主義的「改革」を止めろ(上) かけはし2005.10.31号 |
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11月APEC、12月WTO反対の国際闘争に合流しよう |
ブラジルとインドの妥協
WTOのドーハ・ラウンドをめぐる交渉は七月末の段階で重要な進展がなく、十二月香港閣僚会議での合意がほぼ絶望視される状況となった。しかし、九月に就任したラミー事務局長の下で、さまざまなレベルの会議が重ねられており、十・十一月のジュネーブを中心とした攻防が重要になっている。
米国は依然として途上国側に一方的な妥協を要求する立場を変えていないが、交渉の決裂に危機感を強めるブラジル・インドが、行き詰まりの打開のためのイニシアチブを発揮してきた。
EUと日本は、米国が単独行動主義をちらつかせ、保護主義的な制裁措置を乱発することに危機感を強め、妥協的解決を目指している。
最大の焦点となってきた農業交渉は、米国、EU、ブラジル、インドの四者間で実質的な合意形成がはかられている。九月二十三日付の「共同通信」は次のように報じている。「米国、欧州連合(EU)とブラジル、インドは二十三日、パリで閣僚級会合を開き、世界貿易機関(WTO)の新多角的貿易交渉(ドーハ・ラウンド)の農業自由化交渉について協議した。フランス公共ラジオによると、四者は、有力途上国グループ『G20』が提案した農産物の輸入関税を制限する『上限関税』設定について『議論の土台として受け入れる』との立場をあらためて確認、議論を進めることで一致した」。
十月十一日付の「毎日」によると、「世界貿易機関(WTO)の新多角的貿易交渉(新ラウンド)の非公式閣僚会議が十日、スイスのチューリヒで開かれた。焦点の農業分野で、欧州連合(EU)は先進国の関税の上限を一〇〇%以下に制限する新提案を行った。一方、米国は反対してきた国内補助金の削減を容認する譲歩案を示した。……EUのマンデルソン委員(通商担当)は関税引き下げ方式で、ブラジルなど途上国で構成する「G20」が提案した上限関税を一〇〇%とする案を支持すると表明した。米国は既に上限関税を七五%とする提案をしている。一方、米国は、EUなどから批判されていた国内補助金について、六〇%削減することを盛り込んだ提案をした」。
農業交渉の「進展」と並行して、NAMA(非農産品)交渉とサービス貿易交渉でも、非公式の交渉が重ねられており、枠組みをめぐる対立を迂回しつつ、各国・各グループ間の利害調整の段階に入っている。
こうして「先進国」とブラジル・インドに代表される新興工業国の間での利害調整が進んでいるが、それはとりわけ「南」の諸国の労働者や農民を犠牲にした妥協であり、ブラジル・インドが他の「発展途上国」の支持を取り付けることができるかどうかは不明である。WTOを失敗させるための全世界的な闘いは、もっとも重要な局面に入っている。
WTOと小泉「構造改革」
日本政府はこれまで、WTO交渉に対しては米国・EUとアジアを中心とする「発展途上国」の間に入ることによって、農産物自由化に抵抗し、自由化の影響を多少とも緩和するための時間稼ぎをはかってきた。長期にわたる経済の不振と構造改革を要求する米国からの圧力の中で、WTOにおいて積極的な役割を果たす立場にはなかった。
しかし、大企業における空前の収益と、金融産業の「構造改革」の一サイクルの完了を経て、日本政府と財界は、WTO交渉への関与を強めている。
日本企業は、米国の一方的な対日圧力を緩和する一つの手段として、多国間の貿易ルールを活用することを必要としている。また、中国をはじめとするアジア諸国の市場に対する影響力を確保するためにも、WTOをはじめとする国際通商交渉において存在感を強めることが緊急の課題となっている。しかし、もっとも重要なことは、日本政府と財界が、WTOをテコにして国内における構造改革を一気に推進しようとしていることである。
これまで、日本の国際通商交渉の最大のネックとなってきたのは農業の問題だった。しかし、昨年以降、「郵政改革」と並行して農業分野でも「抵抗勢力排除」の準備を整えてきた。
今年三月に閣議決定された「食料・農業・農村基本計画」は、農業においても新自由主義的改革を強力に推進することを宣言するものであった。
農業と新自由主義
「基本計画」は次のように述べている。
「……国内の農業生産は、消費者が加工食品や外食への依存度を高め、また、品質や生産方法等に特色のある農産物への志向を強めているなどの変化に十分に対応できていない。一方、海外からの輸入農産物は、我が国の市場向けに品質や加工・物流技術を向上させている。これに伴い、食品産業は輸入農産物への依存度を高めており、こうした動きが継続した場合、国産農産物の市場が更に縮小する可能性がある。
このため、国内農業生産について、家庭用需要だけでなく、加工・業務用需要も念頭に置き、食品産業との連携強化を一層促進するなど、多様かつ高度なニーズに的確に応え得る生産体制への転換を促進していくことが急務である」。
この観点から、アグリビジネスと連携して、輸出競争力のある産品を開発するということが基本的な戦略として設定されている。
「基本計画」はさらに、次のように述べている。
「農業の持続的な発展のためには、効率的かつ安定的な農業経営の主たる従事者が他産業従事者と同等の年間労働時間で地域における他産業従事者とそん色ない水準の生涯所得を確保し得る経営を育成し、このような農業経営が農業生産の相当部分を担う農業構造を確立することが必要である……。
このため、地域に農業に関わる多様な主体が存在する中で、地域の農業生産を中心的に担う経営と兼業農家、高齢農家等との役割分担についての合意形成を図りながら、担い手の効率的かつ安定的な農業経営及びこれを目指して経営改善に取り組む農業経営の育成・確保や担い手への農地の利用集積に向けた動きを加速化させていく必要がある」。
つまり、従来型の「非効率的」な農業を切り捨て、「新たな担い手」を育成することを政府の方針として打ち出しているのである。「新たな担い手」として、アグリビジネスのほか、投資会社や不動産会社、バイオ企業、人材派遣会社などが想定されているのだろう。
注目しておく必要があるのは、次のような記述である。
「WTOの農業交渉においては、……我が国の主張を最大限反映させる取組を継続する必要がある。……こうした交渉上の取組と併せて、国際規律の強化や中長期的な貿易自由化の流れにも対応し得るよう、国内農業について構造改革を通じた競争力の強化を図るとともに、。国境措置に過度に依存しない政策体系を構築する必要がある。
一方、アジア諸国における経済成長による所得水準の上昇や、中国、台湾等のWTO加盟による市場アクセスの改善を背景に、我が国の高品質な農産物や食品は輸出拡大の好機を迎えている。この好機を国内の農業と食品産業の活性
化につなげるため、より戦略的な輸出の取組が必要である」。
WTO交渉やアジア諸国とのFTA交渉をテコとして国内農業の「構造改革を通じた競争力の強化」と「国境措置に過度に依存しない政策体系」(つまり関税撤廃)」を一挙に進めようとしているのである。
もちろん小泉政権の下での農業構造改革は、他の改革と同様に、現実性も展望もなく、ひたすら多国籍企業の利益に奉仕するものであり、それが悲惨な結果をもたらすことはあらかじめ明らかである。しかし、郵政改革と同じ手法で、「効率の悪い農業」をバッシングする動きはすでに始まっており、「抵抗勢力」の切り捨ても織り込み済みだと考えられる。
われわれはWTO反対闘争の中で、郵政民営化と闘っている仲間と、農業構造改革の攻撃に直面している農民の共闘を実現し、さらに、小泉改革の次のターゲットとされている公共サービスや医療保険の受益者(つまり大多数の人々)へと共闘を広げていく必要がある。
「政治的決断」迫る経団連
経団連は九月二十日付で「WTO新ラウンド交渉・香港閣僚会議の成功を望む」と題する意見書を発表した。
この意見書は、「仮に、香港閣僚会議がカンクンの二の舞となり、二〇〇六年中の交渉終結が困難となれば、自由貿易体制の根幹をなすWTOへの信頼と、多角的交渉による自由化への支持は、大きく揺らぎかねない。そればかりか、保護主義の台頭により、世界経済の持続的成長と国際社会の政治的安定を脅かす懸念が生じる可能性も否定できない」と危機感を表明し、「これまでの交渉の経緯をみると、各国当局やWTO執行部は総じて危機意識に欠けると言わざるを得ない。……対立する意見を収斂させ、交渉を実質的に進展させるためには、加盟各国それぞれが今すぐに、たとえ困難であろうとも強い意思を持って、政治的決断を行わなければならない。交渉終結期限の先送りは、二度と許されるべきではない」と決断を迫っている。
経団連はこの観点から、米国ビジネス・ラウンドテーブル、全米製造業者協会(NAM)、CSI(サービス産業連合)、欧州産業ラウンドテーブル、UNICE(欧州産業連盟)、ESF(ヨーロッパ・サービス・フォーラム)、オーストラリア・ビジネス評議会、カナダ最高経営責任者評議会等と連携して、WTOに対する働きかけを行っている。
この意見書は日本政府に対して、次のように要求している。
「わが国は、第二の経済大国そして通商立国として、WTO交渉をリードしていくべきである。そのためには、WTO交渉に臨む総合的な戦略を早急に構築し、関係各省庁が一体となって交渉に臨むことが不可欠であり、交渉の進捗に応じ、必要な決断を迅速に下していかなければならない」と重ねて強調している。
「必要な決断」の内容については、次のように述べている。「……一方、農業交渉の柱の一つである市場アクセスにおいては、わが国は、真に守るべき品目は守り、譲る品目は譲るとの立場に立ちつつ、自由化の進展に向けて政治的決断を行い、交渉を主導していく必要がある。そのためわが国は、『国境措置に過度に依存しない政策体系の構築』を盛り込んだ新たな『食料・農業・農村基本計画』(二〇〇五年三月閣議決定)に沿って、国内対策を着実に実現すべきである。日本経団連は、国内の農業競争力の強化と構造改革への取組を支持するとともに、改革の着実な進展を強く期待する」。
また、サービス貿易について、次のように述べている。「サービス貿易は新ラウンドの重点項目として早くから交渉されてきたにも関わらず、他分野に比べ交渉が停滞していることを深く憂慮している。サービスは雇用創出などそれ自体の経済効果もさることながら、サプライチェーンの観点からも他産業への波及効果が非常に高い。サービス自由化によるメリットが農業、製造業など広範囲に及ぶことから、モノとサービスの表裏一体となった質の高い自由化を行うことが肝要である」。
「勝ち組政治」への反撃を
小泉政権は、郵政民営化を突破口に、新自由主義的構造改革の総仕上げをはかっている。
小泉・竹中の下で進められてきた一連の「改革」は、旧来の自民党、とりわけ自民党田中派によって代表されてきた政官財癒着構造と特権的官僚に対する人々の怒り、憤りを巧みに操作することによって、小泉・竹中の取り巻き集団によるトップダウン型の意思決定と政治支配の体制を確立してきた。あからさまなデマゴギーを駆使し、「抵抗勢力」へ人々の攻撃的な非難を誘導する手法は、小泉のナショナリズム的言動とあいまって、ファシズムの危険を伴っている。しかも、最大野党の民主党が、自民党とタカ派ぶりを競い、連合がそれに追随するという状況の中で、「改革」が本格的に加速化されようとしている。
所得税・消費税の引き上げ、医療費削減がすでに既定事実のように語られており、すべての公共サービスの民営化に向けて「市場化テスト」が導入されようとしている。厚生労働省の「今後の労働契約法制の在り方に関する研究会」が九月十五日に発表した最終報告では、労働組合に代わる「常設的な労使委員会制度」(労働組合と競合するものではないと説明されているが、将来的に労働組合のない労使関係を想定していることは明らかである)や、「解雇の実態に即した柔軟な解決と紛争の迅速処理に資する金銭解決制度の導入」(不当労働行為の金銭解決を法制化する)が提案されている。
九月総選挙によってもたらされた国会内における圧倒的に有利な力関係の中で、こうした「改革」が一気に進められようとしている。
では、抵抗は不可能なのか?
議会内における抵抗は非常に困難である。既存の労働組合も今では一宗教政党ほどの存在感すらない。改革の犠牲にされてきた人々は「負け組」、「弱者」として個別に分断されている。しかし、郵政民営化反対の闘いの中で、郵政ユニオンとATTACの仲間を中心に、郵政民営化の問題点について粘り強く訴え、一時的ではあれ支配階級内の分裂状況と連動することによって勝利の一歩手前まで到ったことは、重要な経験である。この闘いは最終的な勝利には到らなかったものの、「改革」派と既得権益集団という歪められた二者択一ではなく、労働者の権利と公共サービスを守るという明確な選択肢が示し、一定の共感を組織した。あらゆる分野で、このような抵抗の萌芽は存在している。遺伝子組み換え作物の実験栽培に対する闘い、障がい者自立支援法に対する闘い、派遣労働者たちの闘いは広い共感を呼んでいる。
このような個別の抵抗を大きな社会的な運動の流れとして結びつけて、新自由主義的構造改革に反対する大きな流れを形成することは可能であり、現実的である。
新自由主義的グローバリゼーションに対する全世界的な抵抗は、個別の闘いから始まり、人々の共感を基礎にさまざまな分野の闘いを結びつけ、WTOやサミットなどのイベントに一大結集をはかることを通じて可視的な、一つのオルタナティブとして発展してきた。
十一月APEC、十二月WTO閣僚会議に反対するアジアと全世界の運動に結集し、それに呼応した全国での運動を組織することを通じて、小泉圧勝の状況の中での最初の大衆的反撃、新自由主義的構造改革の総仕上げを許さない闘いの新たな一歩としよう
(つづく)。(小林秀史)
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