| 経済的崩壊に向かう北朝鮮 かけはし2006.0101号 |
南北関係・中朝関係の分析から東アジアの将来像を描き出そう
はじめに
昨年来、「東アジア共同体構想」をめぐる論議が活発化し朝鮮半島情勢についてもこうした観点からのアプローチが試みられている。韓国・ノムヒョン大統領の唱える「東アジアのバランサー(均衡調節者)」論は地政学的に解釈すればもっともな提起ではある。
だが現に進行している朝鮮半島情勢は朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)のこれからをどう見るかによってしばらくは錯綜したものとなるだろう。ただ一点、日朝国交問題については大きな動きが予想される。
新段階にはい
った南北交流
二〇〇五年九月の第十六回南北閣僚級会談では「南北関係を新たに発展させるための実質的指摘措置の協議開始」が明らかにされた。以降、開城工業団地建設事業では十一月に南北共同運営の経済協力事務所が開設されて実務協議円滑化が図られ、また陸路を通じた金剛山観光事業も進展し、新たな白頭山(中朝国境にまたがる)観光開発についても南北が合意し、今春には韓国から観光客が訪れることになっている。
五年前の南北共同宣言を受けて開始された南北離散家族再会事業は〇五年十一月で十二回を数え、多くの離散家族が再会を果たし、新たに映像を通じた再会や再会者専用のホテル式面会所建設も進んでいる。8・15光復節の南北合同諸行事の中では訪韓した北朝鮮代表団一行(32人)が朝鮮戦争での韓国軍兵士ら犠牲者が葬られている顕忠院(韓国国立墓地)に参拝し頭を垂れて黙祷を捧げたのが注目される。かつての「米帝傀儡軍兵士」を祀る墓碑の前で北朝鮮政府代表団が頭を垂れて追悼したのだ。
北朝鮮は〇五年七月の最高人民会議常任委員会で採択したとする「南北経済協力法」の内容を韓国政府に伝達して経済協力物資については非課税を明文化した。また韓国政府は〇五年十一月に〇六年からの五年間で二百万キロワット電力支援を中心に五千億円超規模の対北支援計画を明らかにして「二〇二〇年までには南北経済共同体を形成する」という対北経済包摂構想を明らかにしている(左の図)。
そしてまたこうした流れは単に南北朝鮮間の交流進展にとどまるものではない。国交樹立後の中国と韓国の交易・交流の拡大のスケールは日韓の交流進展をしのぐ勢いで進んでおり、「朝鮮半島・中国・日本」を貫く東アジアの未来像について革命的左翼の側がどのような構想を提示できるかが問われる時代へと入ったのだ。
中国資本の対北
進出ラッシュ
二〇〇四年以降、北朝鮮北部の鉱物資源地域から大量の鉱物を満載したトラックが中国へのピストン輸送を始めている。中国の北朝鮮からの鉄鉱石輸入量は〇四年には四年前の二十倍(94万トン)に、無煙炭輸入量も同二百倍の百五十七万トンに達している。他にも亜鉛、鉛、銅など北朝鮮工業再建のための必須の戦略物資がのきなみ中国資本(家電・自動車など)によって発掘され買い漁られている。中国の鉄鋼資本は昨年に東北アジア最大埋蔵量といわれる北朝鮮・茂山鉱山の採掘権(50年間)を取得し、年間千万トンの採掘計画を明らかにしている。
同様に北朝鮮北部の恵山、満津、会寧などの鉱物資源産出地域にも中国資本はねらいを定めて進出を計画していると伝えられる。また中国資本は北朝鮮北部の日本海(東海)に面する港湾都市(羅津)の港にある物流専用の二基の埠頭の五十年間の使用権を確保し、輸出入の物流拠点として整備が図られている。そして中国政府はこうした中国の対北進出資本を融資などの面で支援する方針を明らかにしているのだ。
中国資本の対北進出ラッシュとは資本投下による採掘権・使用権取得にとどまるような単純なものではない。最新技術導入、関連施設全般の整備、資源地帯への交通アクセス確保など産業インフラのすべてを賄うという植民地経営同然の利害(50年間の租借という露わな現実をみよ!)をはらんで進行しているのだ。
さらに中国は鉄道合弁という形態を通した北朝鮮鉄道全路線の使用権確保、北朝鮮北部での新たな経済特区建設構想実現に乗り出そうとしている。中国は国策として北朝鮮の鉱物資源に対する権益確保に本格的に乗り出したのだ。昨年十月に訪朝した中国副首相・呉儀は「『新形勢』のもとでの中朝関係の発展」という中国指導部の方針を金正日に伝えた。「新形勢」の内実とはこうした流れの中で一目瞭然ではないだろうか。
〇五年十二月七日、中国の全面支援による大安ガラス工場完成を中朝の揺るぎない友好の証であるかのようにキャンペーンする金正日政権の意図はこうした中国資本による国内資源の開発を覆い隠すものでしかない。また中国も「中国の国益」にそぐわない金正日による投機的開発事業に対しては徹底的に牽制する姿勢を貫いている。
三年前には金正日の信任を得て中朝国境の新義州経済特区建設を企図していたヤンビン(中国系オランダ人)の投機的意図を叩いて逮捕し、昨年には同じく中朝国境の日本海(東海)に面した羅先でのリゾート開発にカジノが含まれていたのを問題にして北朝鮮による同カジノ営業は廃止に追い込まれた。中朝経済交流の主導権は圧倒的に中国が掌握している。
六カ国協議の
今後と北朝鮮
〇五年九月の第四回六カ国協議では初の共同声明が採択され「北朝鮮による核兵器及び核計画の放棄」「米国による北朝鮮不攻撃・不侵略」が同声明冒頭に明記された。声明全体の解釈に種々の異論はあっても六カ国協議の今後の基本方向(協議内容)はここに定まったのであり、米朝合作の「核問題対立激化」が今後も演出されたとしても米朝はともにこの声明内容に拘束されることとなったのだ。
メディアによる六カ国協議への過剰なまでの思い入れに満ちた報道姿勢は、この六カ国協議の動向にあまりにも過大評価している。一方で当時国である北朝鮮の体制と社会がどのような変動に見舞われてどこに向かおうとしているのか? ここに視点を定めた報道が欠けている。
北朝鮮当局は〇五年十月に食糧配給制を復活(正常化)したとし、世界食糧計画(WFP)に対しては食糧支援中止を申し入れるなど体制安定化を印象づけようした。しかし穀物生産が十六年ぶりに高水準に達したという韓国側分析にもかかわらず、一カ月後には全国各地で食糧配給が滞ったり配給量が減ったりという実情が伝えられている。
食糧配給制こそは金正日政権が住民統制の絶対的手段としてきたシステムだが、この十年間の市場経済化の進行の中でかろうじて自力で生き抜いていくすべを手にしてきた北朝鮮の多くの住民はこのシステムをしたたかに拒否する対応に出始めている。名目だけで実態のない食糧配給制復活の試みはこうした市場経済化の中で始まった住民統制破綻に恐れをなす金正日政権の狼狽ぶりを示すものに他ならない。
電力事情も最悪期を脱していないようだ。十二月に訪朝取材した中国メディア記者の最新ルポですらピョンヤンでの頻繁な停電、日没後の暗い室内での政府機関の仕事、電力不足で使用できない多数の交通信号機などの模様を伝えている。
脱北者ルートで入手された最近の北朝鮮地方都市のビデオ映像などでは住民の交通手段としての自転車の普及が顕著なのが見てとれる。これは北朝鮮当局が宣伝目的で伝えるのとは別の意味で留意できる。交通手段を欠いて行動範囲を極度に制限されてきた人々がその範囲を広げるということは交流・接触の拡大につながりひいては多くの情報へのアクセスを可能にする。金正日独裁支配体制の土台を揺るがす現象がまた一つ着実に広がりつつある。
そして脱北者は〇五年も十一月までに千二百人が韓国に入国した。四年連続で千人を突破しその総数は七千五百人に達し、他に韓国亡命を希望する脱北者はアジア各地に万単位で滞留・待機しているといわれる。また中朝国境での警備がここ数年間は各段に強化されているにもかかわらず、中朝双方の警備兵を抱き込めば「なんでもあり」の実態は続いている。
十月には武装した脱北者グループと国境警備の人民解放軍兵士の間で銃撃戦が発生し、解放軍兵士に死者が出たこと、最近ではこうした武装脱北者グループによる事件が増大していることを最新の中国メディアが明らかにしている。
六カ国協議での米朝による「あくびのでるような」マラソン協議の進行よりも、すでに経済的に崩壊し揺らぎ始めた金正日独裁支配体制の動向に焦点を当てて〇六年の朝鮮半島情勢を見ていこう。
最近では国連総会での北朝鮮人権状況非難決議(12月16日、賛成88反対21棄権60)が大きく伝えられているが、その一週間前には同じ国連総会の場で日本政府提出の核軍縮決議案が圧倒的多数(賛成168反対2棄権7)で採択された。この決議に最も頑強に反対したのがブッシュの米国であり、棄権したのが中国と北朝鮮だ。見事な「好核・反日のための米中朝同盟」だ。六カ国協議参加の主要国の「非核構想」とは「非核外交のもてあそび」というしらけた側面をはらんでいる。
日朝国交のため
に必要なこと
〇四年末以降に途絶えていた国交交渉再開に向けた日朝政府間協議は、十一月の会合で日本側が「拉致問題」「核・ミサイル問題」「国交正常化交渉」の三つの並行協議を提案して以降、次回協議再開のための水面下での日朝間の駆け引きが現在も続いている。「拉致問題解明の進展なければ国交交渉には入れない」という日本側の姿勢は金正日とその側近(対日担当)グループ、関連軍部(特殊機関)の間での葛藤を生じさせている。
平沢勝栄ら日本の右派有力者にコンタクトをとったり、〇五年には安倍晋三絡みの怪しげな情報を訪朝した日本のマスコミにリークして週刊誌メディアに頼ろうとしたりと、困惑を露わにしている。
ただ一点明らかにうかがえるのは金正日総書記が小泉首相をパートナーとして交渉に臨む意向が見え隠れし始めたという点だ。北朝鮮にとって二度にわたって訪朝した日本の首相は最大の「キーパースン」であり、難関突破の局面にはトップ会談しか手段のない北朝鮮が「拉致被害者の再調査資料提示」「よど号グループ全員の日本帰国」などの手みやげを用意して三度目の小泉・金トップ会談に動く可能性は大きいし、その動きはすでに始まっているかもしれない。小泉の首相在任任期はあとわずかだ。
日朝、日韓の友好・連帯運動を進める団体、そして拉致事件解明を進める団体の双方にはいまだに「拉致を言うなら植民地支配未清算はどうなんだ」「植民地支配は清算された過去のことで拉致事件は未解決の現在の問題だ」という類の言動が止んでいない。
こうした「お前も同罪じゃないか、お前の方がもっとひどい」式の論議には絶対に与してはならない。私は〇二年9・17の直後からこうした「相殺的対応に与するな」と本紙で明らかにしてきた。日朝国交のためにも「植民地支配の清算」「拉致事件解明」はそれぞれに個別の課題として徹底的に取り組むべきものであり一ミリの混同もあってはならない。(荒沢 峻)
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