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エスカレートする経済財政諮問会議の暴論         かけはし2006.12.4号

「格差縮小のために規制緩和を」「労働法制変えて市場に委ねよ」



キャノン会長の居直り

 「請負法制に無理があり過ぎる。勧告にも無理があり過ぎる。これを是非もう一回見直してほしい」。労働局に偽装請負を摘発され、二万人以上の請負・派遣労働者から数百人を正社員雇用することを決定したキヤノンの御手洗冨士夫会長は、十月十三日に安倍政権下で始めて開催された経済財政諮問会議で、みずからの違法行為は棚に上げて、派遣法のさらなる規制緩和を要求した。
 九月二十六日に発足した安倍新内閣のもとですでに十月十三日から十一月十日現在までに四回の経済財政諮問会議が開催されている。同会議は二〇〇一年一月、森内閣のもとで設置、運営されてきたもので、つづく小泉政権のもとで「小泉構造改革」のエンジンとして、莫大な人員と予算をかけながら竹中平蔵やトヨタ前会長の奥田碩などを前面に押し出しながら日本において新自由主義グローバリゼーションを貫徹させる役割を果たしてきた。構成メンバーは、首相を議長として、経済財政担当大臣をおき、総務大臣、財務大臣、経済産業大臣など政府メンバーに加え、財界とその意向を受けた大学人などが民間議員としてメンバーに加わってきた。
 内閣総理大臣の諮問に応じて、経済全般の運営の基本方針、財政運営の基本、予算編成の基本方針その他の経済財政政策に関する重要事項についての調査審議することを目的とし、取り扱うテーマは日本の経済財政全般であり、自由貿易協定(FTA)や経済連携協定(EPA)など対外経済政策、社会保障、予算、経済特区、金融再生プログラム、地方自治、教育改革、など全般にわたる。政策決定の主導権をを官僚や族議員から官邸主導とするトップダウン形式に転換するためのものである。
 それは旧来の利権政治の一掃を意味するものではない。新自由主義グローバリゼーションの流れに取り残されないために、政官財学が一体となって推し進める構造改革のための談合と根回しと利権の調整機関である。
 ブルジョアジーの代表とそのイデオローグたちがまくし立てる新自由主義改革に政治家や行政府が帳尻をあわせるように具体的なデータなどで補足をする。そこで決まった方針が政府の議案として国会に提出される。ブルジョアジーの意向を汲んだ政府議案は、与党議員やマスコミにとってなかば強制的な効力をもつものとなる。そこには民主主義は存在しない。議論をリードしてきた竹中をはじめとするネオリベラル政治家や経団連会長ら民間議員たちの暴論とも言える新自由主義的主張は支配階級の本音に過ぎない。

「競争こそ万能の処方箋」


 十月十三日に開かれた二〇〇六年度第二十二回経済財政諮問会議では、安倍議長の下であらたに選出された民間議員たちが恥も外聞もなく資本の論理をまくし立てた。
 民間議員として、御手洗冨士夫(キヤノン株式会社代表取締役会長・経団連会長)、八代尚宏(国際基督教大学教養学部教授)伊藤 隆敏(東京大学大学院経済学研究科教授)、丹羽宇一郎(伊藤忠商事株式会社取締役会長)らが出席。政府からは安倍晋三内閣総理大臣をはじめ、塩崎恭久内閣官房長官、大田 弘子内閣府特命担当大臣(経済財政政策)、菅義偉総務大臣、尾身幸次財務大臣、甘利明経済産業大臣らが参加、村上ファンド疑惑の福井俊彦日本銀行総裁も構成メンバーの一人である。
 主要な議題は今後の議論の進め方であり、初顔合わせということもあり各メンバーの意見が出し合われた。
 民間議員たちは甘利明経済産業大臣の次の発言をきっかけに暴走した。「もちろん、非正規の雇用というのは、それは雇用する側もされる側も、それなりのニーズがあって発生していることであろうし、これを双方のニーズに沿った部分としてきちっと健全に位置づけるということは大事だと思うが、正規を希望しているけれども、なかなかそれが果たせないということについて、どうしたら企業の成長力を過度に阻害しないで、それが果たせるかを考えていかなければならないと思っている」。
 行政の介入を排除して弱肉強食の競争にもとづく市場こそがすべての問題を解決するという市場原理主義を信奉する連中にとって、この甘利の発言は聞き捨てならなかった。
 丹羽・伊藤忠会長は「競争原理を導入するということは、人事給与制度を根本的に見直していく。そうすれば、官民の人材交流とか、天下りの対策とか、あるいは談合の抑制とか、すべて解決の方向に行くだろう」と、怒りを通り越して、ただただあきれるばかりの無責任さで、競争原理の導入を絶賛した。
 オリックスの宮内義彦会長が座長をつとめてきた規制改革・民間開放推進会議で労働分野の規制緩和を叫び続けてきた八代尚宏・国際基督教大学教授は「政府の役割をきちんと見直すということが大事である。これまで日本の政府はどうしても過度のコミットメントをしてきたのではないか。社会保障でも地方財政でもあらゆるところでそうであるわけで、それらを見直して官の業務を民間に円滑に移していくということがポイントではないかなと思う。これが規制改革・民間開放の考え方であるが、そうすることによって官の事業に対して今まで必要としていた補助金が少なくなり、逆に民の事業がうまくいけば、そこで法人税の税収が入るわけだから、いわば歳出と歳入の両面から財政収支が好転することになる」と、これもまたいいたい放題のでたらめを叫んだ。
 八代教授はまた規制や官僚が「ビジネスチャンス」を妨害していると次のように発言している。「高齢化社会というのは一大ビジネスチャンスでもある。これから高齢者がどんどん増えるということは、医療とか介護サービス、あるいは女性が働くということを考えれば、保育サービスというのも成長産業であるわけだが、それを官の規制が妨げている。そういう規制をなくし、減らすことによって、いわばお金を使わずに成長産業を創れる」。

健康や安全の悪化を無視


 戦後、労働者が血を流し勝ち取ってきた現在の労働法制の解体を目標とする経済界の意向の忠実なイデオローグとして安倍政権に抜擢された八代教授は、みずからの役割を抜かりなく演じる。
 「人材/再チャレンジについても、労働市場が二つの意味で重要である。一つはこういう再チャレンジを推進するためにも規制の強化ではなくて、むしろ労働市場の規制を緩和・撤廃することによって、能力と意欲のある人が正社員になれる、よりよい仕事につけるという機会を与えることが大事で、それが今なかなか難しく、いわば正社員の地位が身分によって決まっている。正社員と非正社員との身分格差のような問題が起こっているのが実は非常に大きな問題ではないかと思っている」。
 正社員と不安定雇用の格差が規制緩和によってではなく、規制されていることによって生じているというのだ。八代教授は、「週刊ダイヤモンド」二〇〇六年九月二日号で次のように規制緩和を評価している。「規制緩和で低賃金の非正社員が増えたと批判されるが、失業者や専業主婦で所得がゼロだった人に働く場が生まれたことを格差の拡大というのは、すでに雇われている立場の論理だ。タクシーの参入規制緩和で運転手の賃金が下がったというが、一方で多くの雇用を生んだことを考えて欲しい」。
 賃下げでも雇用を生んだからいいではないか、という暴論である。しかし下がったのは賃金だけではない。労働者の安全衛生、健康、意欲、利用者の安全、信頼などすべての指標が下がっている。それでも大資本の利潤は下がっていないのだからいい、というのが八代教授たち新自由主義グローバリゼーションのイデオローグたちの考えだろう。

「偽装請負」は法律が悪い?

 新自由主義イデオローグの飼い主である大企業は規制緩和だけではあきたらず、不払い残業や長時間労働、偽装請負などという違法行為を行ってまで利益を確保し、あまつさえ違法行為の合法化を要求しているのである(組合弾圧という不法行為は言うに及ばずである)。冒頭で紹介した御手洗・経団連会長の発言は、そのもっとも典型的な例である。
 御手洗会長のこの部分の発言全体を紹介しよう。
 「労働の多様化。多様化の一つの中身として、派遣社員と請負社員がある。結論から言うと、実は、このおかげで、日本の産業の空洞化がかなりとめられている。ただ、この制度にも問題がある。……どんな工場に行っても、例えば何か突発的な事故があったり、難しいことがあったりすると、その現場で雇っている方が教えるというのは当たり前で自然の流れである。ところが今の勧告では、それは指揮命令という言葉の中に含まれるので、そういうことはできない。法律を遵守するのは当然だが、これでは請負法制に無理があり過ぎる。勧告にも無理があり過ぎる。これを是非もう一回見直してほしい」。
 偽装請負とは、メーカーなどが人材会社から事実上、労働者の派遣を受けているのに、派遣労働ではなく、形式的にその人材会社の「請負」と偽る違法な行為である。企業が偽装請負をする理由のひとつに、派遣労働の場合、派遣法によって三年以上雇用した場合、正社員として雇用する義務が生じるが、請負の場合にはそのような義務は生じない。しかし請負の場合は、キヤノンなどが請負労働者に直接仕事の指揮や命令をしてはならないことになっている。
 全国の労働局が二〇〇五年度に、キヤノンを含む約三百五十八社に偽装請負があると文書で指導、それを受けキヤノンは八月一日に対策委員会を開き、偽装請負の可能性がある部署を、人材派遣へ切り替え、二万人以上の請負・派遣労働者から数百人を正社員雇用することを決定した。
 御手洗会長は八月十三日に大分で行われた記者会見で「法律では請負労働者は派遣された企業で仕事をすべて請け負わないといけない。だが、現実には(発注企業が)何の心配もせず、(請負労働者が求められた)仕事をできることは難しい。だから(キヤノン側が)つい必要に迫られて教えたり、指導したりしてきた」と説明している。
 御手洗会長は「突発的」で「つい」違法な行為をしてしまったかのようにこの問題を片付けようとしている。しかし「つい」二万人も請負や派遣労働者を雇うだろうか。もし「つい」指揮・命令をしてしまうのであれば最初から派遣労働者を雇用すれば「突発的な事故」で「つい」指揮・命令をしてしまっても違法にはならない。結局は、派遣労働者であれば三年(製造業は07年2月28日までは1年)以上の雇用で正社員として雇用しなければならないという義務から逃れるためであったことは論を待たない。そしてそれは違法行為をしてまでも人件費をギリギリまで削減しようという資本の赤裸々な論理にほかならない。
 そのことを十分理解した上で御手洗会長は、派遣法の改悪にまで言及している。「労働市場が逼迫して、どんどん派遣社員が正社員に代わるようになっているが、この動きについてはそのままもうしばらく市場に任せた方がいいということである。このペーパーにもあるが、日本の労働市場が職務給に変わりつつある。しかしながら、職務給に変わらないうちに、年功序列型の給料で、今の派遣法のように三年経ったら正社員にしろと硬直的にすると、たちまち日本のコストは硬直的になってしまう。それは空洞化に結びつくことになる。したがって、ここはもう少し市場に任せてほしいということと、派遣法を見直してもらいたいということ、この二つを申し上げたい」。

こんな諮問会議は解散を


 まさに犯罪者どものいいたい放題の経済財政諮問会議となった。偽装請負は日本を代表するといわれる多くのメーカーで行われている。トヨタ自動車グループの部品メーカー「トヨタ車体精工」高浜工場では、偽装請負発覚を恐れて労災隠しまで行われていたことが報道されている。御手洗会長の発言は、まさに「キャノンのキャノンによるキャンのための」発言であり、経済財政諮問会議は「資本の資本による資本ための」会議となった。
 十月十九日の「朝日新聞」によると、キヤノンの工場で働く人材会社の請負労働者が、違法な「偽装請負」の状態で働かされてきたとして、労働組合を結成し、正社員として雇用するようキヤノンに申し入れた。今年五月までの一年間は派遣労働者として働いたが、それ以外の期間は、キヤノンから製品の生産を請け負った人材会社の労働者として働いた。ところが、その間も、「実際はキヤノン側の指揮命令を受ける偽装請負が続いていた」という。労働者側からの突き上げがない限り、偽装も犯罪も積極的には解消しようとしない資本の本音が表れている。
 資本にとって労働者を派遣や請負に置き換えるもうひとつのメリットは、消費税支払いを圧縮することができるということだ。正社員に支払う給与は消費税控除の対象外であるが、請負や派遣労働者への支払いは「外注費」となり、消費税控除の対象となる「課税仕入れ」とみなされる。企業は、「売上にかかる消費税」から「仕入れにかかる消費税」を引いた分を国と地方に納付するので、「仕入れにかかる消費税」が多いほうが、納付する消費税は少なくてすむ。同じ額なら正社員に支払う給与よりも、請負や派遣会社に支払う外注費のほうが消費税の支払いを節税できる。
 御手洗会長は、「御手洗プラン」など称して法人税の実効税率を四〇%から三〇%にまで引き下げることを求めている。法人税を一〇%引き下げると、国と地方の税収は約四兆五千億円減り、消費税率二%分の税収に相当する金額である(「東京新聞」11月15日)。来年四月の地方選、七月の参院選の先に見えるのは消費税アップの道である。法人税は下げろ、消費税は上げろ、だがわれわれはその消費税すらなるべく払いたくはないのだ、というのが「御手洗プラン」の本音である。
 資本の論理がむき出しとなっている経済財政諮問会議は、「やらせ」どころか、身勝手な違法行為を合法化する政官財の新自由主義サロンとなっている。こんな連中にわれわれの未来を奪われてはたまらない。でたらめを暴露し大衆運動をつうじた宣伝を強めなければならない。経済財政諮問会議にわれわれの税金を使うな! 何ら民主的な選出過程を経ることなく、資本と国家の論理にそった構成員による経済財政諮問会議はいますぐに解散を!(11月20日 早野 一)


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