「対テロ戦争」の新たなエスカレート
イラク戦争への批判の高まりの中で軍事的冒険に走る米国 |
イラク侵略直前と酷似
イランの核開発をめぐって、ブッシュ政権は国連安保理を通じた制裁発動を求めている。二月に国際原子力機関(IAEA)緊急理事会がイランの核開発問題を国連安保理に付託することを決議し、国連安保理決議をめぐって安保理の五カ国(米、英、仏、ロ、中)にドイツを加えた六カ国の間で協議が続いている。
英・仏・独は制裁を支持しロシアと中国が反対している。一方、英・仏・独政府はイランの核兵器開発放棄の見返りとして軽水炉の提供等を提案しようとしているが、米国は拒否している。また、国連や米国政府内からさえ強まっているイランとの話し合いと外交的解決という提案をブッシュ政権は頑なに拒否している。
米国内では、イランに対する軍事的攻撃の準備について有力メディアが相次いで報道し、ブッシュ政権も軍事的攻撃の可能性を否定していない。チェイニー副大統領や親イスラエルのネオコン(新保守主義)・グループはイランのイスラム政権の転覆を煽っている。五月二十三日には米国とイスラエルの首脳会談が行われ、ブッシュはイランがイスラエルを攻撃した場合の防衛を約束した。
イラン核開発の反動性
ブッシュ政権にとって、イランの核開発は新たな戦争挑発の口実にすぎない。イランが米国や米国の同盟国に核戦争をしかける意図も能力もないことは明白であり、ブッシュ政権はそのことを熟知している。だからこそ一切の妥協や話し合いを拒否して、アフマディネジャド政権を挑発し、後戻りできない状況を作り出そうとしているのである。
ブッシュ政権の手法が、〇三年のイラク侵攻の直前のそれと酷似しており、ブッシュ政権が対イラク戦争に対する批判の高まりと政権支持率の急落という流れを反転させるために新たな冒険に出る可能性を軽視できないことから、米国内でイランの核問題が大きな論争となっている。
「平和と民主主義のためのキャンペーン」の「米国の侵略にも、神権政治による抑圧にも反対する」と題する署名呼びかけ(次号掲載)は、対イラク戦争に反対してきた人たちによる提言である。このように、米国内では、イラクからの即時撤退を求める運動と連動して、対イラン戦争挑発に反対する運動が始まっている。
ブッシュ政権が「イランの脅威」を煽りたて、イランを「悪の枢軸」として攻撃することほど恥知らずな欺瞞はない。米国こそが最大かつ最も危険な核保有国であり、しかも米国が中東における最も危険な戦争国家であるイスラエルを一貫して支持してきたという事実だけでなく、ブッシュは三月にインドを訪問した際にインドの核開発への支持を表明したばかりである。
イランは不断に隣国や米国からの軍事的脅威(核兵器による攻撃の可能性を含む)にさらされてきた。
しかし、そのことによってイランによる核兵器開発が正当化されるものではない。イランの反動的イスラム教聖職者の独裁権力は、核兵器開発を反米・反シオニズムの装いの下で、国内における一切の民主的・民族的権利を圧殺し続けるための政治的デマゴギーの道具として弄んでいる。
イランでは一九八〇年初頭に、急進派の学生たちによる米国大使館占拠の行動を契機とした反米ナショナリズムの高揚を背景に、ホメイニの独裁権力が強化され、左派や民主主義派が排除され、解体された。その後の対イラク戦争(一九八〇〜八九年)を経て、九〇年代末以降、ハタミ政権の下で「改革」が叫ばれ、労働運動をはじめとする大衆運動の復活の最初の兆候が伝えられてきた。昨年の大統領選挙では「保守派」のアフマディネジャドが勝利し、軍の権力が強化されている。
アフマディネジャド大統領は、米国との軍事的緊張関係を作り出すことで政権の支持基盤を強化し、中東地域における盟主としての地位をアピールするという極めて危険かつ無益なゲームにイランの民衆を引き入れようとしている。
イラン政府の核開発は決して米国やイスラエル・シオニストに対するパレスチナ民衆を始めとするアラブ・中東地域の民衆の闘いに有利な条件をもたらさない。イラン政府は、その気さえあれば、はるかに効果的な方法でこれらの民衆の闘いを支援できる。膨大な石油資源をこの地域のすべての人々の経済的自立のために活用することによって、この地域の反帝国主義・反シオニズムの闘争を支援することができるし、労働組合の権利や民主的諸権利を保証することによってこの国の反帝国主義的闘争の革命的伝統を復権させることができる。反動的イスラム教聖職者の独裁権力は、まさにそのような可能性を圧殺してきたのである。
破綻するブッシュの中東戦略
ブッシュ政権においては、イランに対して限定的な軍事攻撃を行う衝動が高まっている。もちろん、対イラン攻撃には何の合理的な目的もないし、成算もありえない。軍事攻撃そのものが目的である。
〇一年九・一一を奇貨としたアフガニスタン侵略とイラク侵略は、タリバン政権とフセイン政権の打倒には成功したが、国内の平定には成功しておらず、イラクにおいては親イランのシーア派勢力の主導権が確立しつつある。パレスチナにおけるハマス政権と合わせて、イランの影響力が強まっている。しかも、中国とロシアが主導する上海協力機構がイランに急接近し、米国の石油資源支配の思惑に挑戦している。
初期における軍事的勝利にも関わらず、ブッシュ政権の中東戦略は行き詰まりに入っている。しかし米国はこの地域における軍事的支配を不断に誇示しておかなければならない。それはロシア、中国だけでなく、EUや日本の独自的な外交や経済利害を牽制し封じ込めるための最大の手段でもある(米国はイランの核問題を理由に、日本に対してもイランとの経済関係を絶つことを要求している)。
私たちは、イラクからの米軍と自衛隊の即時撤退を要求する運動を強化すると共に、対イラン軍事攻撃に信任を与える安保理の制裁決議に反対し、ブッシュ政権の対イラン戦争挑発に反対する運動を強化する必要がある。 (小林秀史)
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