かけはし重要記事

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黄海での南北警備艇による銃撃戦について       かけはし2002.7.15号より

「意図せざる衝突」の回避へ漁業権益めぐる南北の協議と合意を



「北方限界線」をめぐる経緯

 六月二十九日に朝鮮半島黄海で発生した南北(韓国と北朝鮮)の警備艇による銃撃戦は、韓国艇一隻が沈没し双方に多数の死傷者を出した。南北双方とも相手国の領海侵犯を主張し見解は真向から対立している。
 南北の国境38度線に接するこの海域は、一九五三年七月の朝鮮戦争休戦協定締結の翌月に在韓国連軍が北朝鮮との協議なしに暫定的に北方限界線(NLL)を設定し、事実上の境界線として維持しようとしてきた。当初はこのNLLを二十年間にわたって黙認してきた北朝鮮は、七三年に領海法を布告し「西海岸の五島は国連軍管轄下にあるのは認めるが周辺海域は緯度上わが方の管轄下にある」と主張するようになった。その後もしてNLLラインを越境することはあったが軍事的衝突に至るような事態は九九年までなかった。
 また九一年に締結された南北基本合意書付属文書でも、「海上不可侵区域は境界線が確定される時まで双方がこれまで管轄してきた区域とする」とされていた。南北間の協議上の合意はなかったものの、双方がこの海域に軍事的利害や権益確保の関心を有しなかったため四十五年間衝突は起きなかった。

軍事的衝突はなぜ起きたか

 では九九年、〇二年と二度にわたる軍事的衝突はなぜ起きたのか。北朝鮮は九〇年代後半から経済危機打開のため「先軍政治」のもとで「実利と打算」を最優先する生き残り戦略を明確にしてきた。そして自然豊かなこの海域はカニ漁が盛んで、毎年六月期は漁の最盛期となり、漁船一隻当たりの水揚げは一日で五百万円相当になると言われる。そしてこの数年間、南北双方の漁民がこの時期に漁獲拡大のためNLLライン直近まで船足を伸ばし、双方が領海侵犯スレスレの漁労活動に入ることは南北の海軍当局にとって周知の事柄である。
 昨年六月には、韓国海軍高速艇がこの海域で北朝鮮の漁船に対し領海侵犯したとして警告射撃を行ったが、この時は北朝鮮側からは応戦はなかった。軍事的衝突や緊張が毎年この海域でこの時期にのみ発生していることからみても、漁業権益を巡る南北間の対立が原因のすべてである。
 こうした経過から明らかになることは、@南北双方の主張にそれぞれ限界がありAしたがって双方が解決のために漁業権益の協議と合意に向けた取り組みが必要なことB事件の背後に北朝鮮経済の抜き差しならない危機が存在していることなどの点だろう。
 @についてはNLL自体が北朝鮮との協議を経ない一方的なものであること、また北朝鮮によるNLL無効論も極めて便宜的で一貫したものではないこと(当初二十年間の黙認や九一年南北基本合意での暫定的追認)から、南北間による合意に向けた協議は朝鮮半島平和のためにも必要だ。Bの北朝鮮経済の危機の現局面では、打開のために軍が全面的に動員されるようになり、黄海海域での漁業権益の確保と拡大は軍にとっても死活的重要性を帯びていることを今回の事件は明らかにした。
 今回の事件で特徴的なことは、事件と同時進行で南北交流が展開されていることだ。事件翌日にも当初予定通り韓国からの金剛山(北朝鮮)観光客が訪れ、また北朝鮮の原子力専門家二十五人が事件三日後に韓国入りしている。サッカーW杯をめぐっては南北あげてナショナリズムの大高揚となり、事件翌日には北朝鮮サッカー協会から絶賛書簡が韓国サッカー協会に送られている。
 また北朝鮮メディアが事件翌日に、「緊張状態を緩和しようとする念願とサッカーワールドカップが開催されている事情を考慮して自制力を発揮してきた」「数的に優位な南側艦船集団にたった二隻の警備艇で先制攻撃をするというのは話にもならない」という北朝鮮海軍司令部の見解を伝えているのも、北朝鮮側にとって少なくとも今回の衝突が意図せざる結果であったことを示すものである。

緊張激化の動きを糾弾する

 七月六日に韓国海軍は「金正日総書記の関与・指示の有無については不透明」とする今回事件の調査結果を明らかにしたが、今日の北朝鮮において政治・経済・軍事の全般にわたって金正日の一元的指導が貫徹しているなどとみるのは途方もない過大評価である。むしろそうした指導体系のほころびが図らずも露見したというのが今回の事件のもう一つの側面だ。
 「経済問題には関わるな」という父・金日成のかつての教えを踏襲し、情報技術(IT)推進、軍視察、外遊、外国要人接見など「美味しいところだけをいただいている」のが現地指導なるものの実態であり、経済的疲弊と食糧危機の深化と継続がその何よりの証左である。
 食糧危機が深化した九六年から九七年の時期には、それまでかろうじて維持されてきた食糧配給システム自体が崩壊し、住民や工場に対しては「無から有を生み出す」と称して自力調達方針が押しつけられ、住民はネコの額ほどの自留地で栽培を試みたり草木を求めて山に入り、労働者はもはや稼働を停止した工場の機材や部品を持ち出して鉄くずとして中国に売り払ったりと、ただただ何とか食いつないで日々を乗り切るための営みが人生のすべてとなるような辛酸を味わった。
 その後の国際社会からの援助と支援によってこうした破局的危機からはかろうじて脱しているものの、国際援助機関の最新レポートによる飢餓の現実や北朝鮮脱出住民の激増という現実は、もはや金日成・金正日父子によって築かれてきた独裁支配体制が否応なしに破綻と崩壊の局面へと移行しつつあることを示している。
 今日においても左翼陣営をも含めた多くの人々が、北朝鮮人口二千四百万の大半を占めるこうした人々の苦悩の現実に正面から向きあおうとせず、スターリン主義のなんたるかを対象化しようとせず、ただただ「厳格な住民統制と密告制度のため人民による抵抗などは絶対にあり得ないし話にもならない」という空虚なブルジョア的固定観念にいまだ囚われている。
 二千万人民を棄民化し、一方で「アリラン祭」と称した巨大浪費プロジェクトに国威再発揚のはかない夢を託す北朝鮮社会のこの現実! 日本政府に対し植民地支配の歴史的清算と一日も早い日朝国交正常化実現を求めるとともに、こうした金正日独裁体制の偽りの外皮が打ち破られる情勢の到来を見すえよう。
 一方、韓国海軍は今回の事件を北朝鮮の一方的挑発と断定して作戦指針(越境時対応マニュアル)を簡略化し即応即戦・逆襲の態勢づくりに入っている。こうした南北双方の軍事的緊張激化に向けた動きを弾劾し、朝鮮半島平和定着・海域境界線設定のための南北間協議の早期開催を求めていこう。  (荒沢 峻)

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