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韓国はいま 貪欲の羽ばたき全7幕……7年の悲劇を追跡 かけはし2008.10.13号

震源地と無関係な個人の生活
にまで悪影響が及ぶドミノ



「バタフライ効果」

 「バタフライ効果」。北京にいる蝶の羽ばたきが1カ月後、ニューヨークで暴風を呼び起こし得る、という理論だ。地球のどこかで起きたささやかな変化が、予測のできない暴風のような現象へと結びつく、というのがその骨子だ。
 全世界的な金融危機の最初の羽ばたきは、ほかならぬウォール・ストリート金融資本の「どん欲」と米国人らの「道徳的弛緩」だった。ブッシュ政府の浮揚一辺倒式の住宅政策や減税政策という羽ばたきもまた暴風の強度を高める上で一役買った。その羽ばたきは7年後、世界経済の暴風として増幅されている。最後はどこに向かうのか、誰もが自信をもって語ることができない状況だ。
 バタフライ効果は不実を拡大再生産し、不実の震源地とは関係のない諸個人の日常までもドミノのように崩壊させる。その始まりは金持ち国の欲望・どん欲であり、その果ては貧しい国の庶民層の苦しみだ。9月に入っても蒸し暑さが続いているわが国の平凡な庶民たちにも米国発の金融危機は大変な影響を及ぼしている。
 映画〈薄荷糖〉のように次第に過去へと戻っていくフラッシュバック方式によって人間のどん欲がかもし出した連鎖の効果を再構成してみた。

第7幕 不信の時代

 9月18日、ソウル・明洞AIG生命韓国支店顧客相談室。ここで会ったイ・グミさん(50)は「政府やマスコミは安全だと言うけれども、米国で最大の保険会社だというAIGも潰れるという時に、そんな言葉を信じられない。毎月8万5千ウォンずつ払い込んできた終身保険を8年6カ月で解約した」と語った。20年物の商品を中途解約したイさんの場合、550万ウォンばかりが返され、300万ウォンほどは棒に振ることとなった。
 市中銀行はカネづるを引き締め始めた。金利も急に上がっている。中小企業では今やカネづまりに苦しめられるのではないのかというため息が起こっている。最近、中国に第2工場を建て、銀行からの借り入れ金が280億ウォンにまでなった自動車部品企業P社の資金担当チーム長は「年初に比べて金利が1%ほど上がったために、わが社の場合、営業利益の10%をそっくり食いつぶした勘定」だとため息をついた。
 「黒い火曜日」の9月16日、世界の証券市場は9・11テロ以来、最大の暴落を記録した。この日1日で、全世界で6千億ドル(約660兆ウォン)の株式が紙クズとなってしまった。破産の危機に追いやられたAIGに米政府は850億ドルの救済金融を投入した。リーマン・ブラザース、メリル・リンチなど超大型投資銀行が崩壊した。誰もカネを貸すまいとする。貸し付けたカネも回収する。信頼の危機、不信の時代の到来だ。

第6幕 被害者たち

 8月7日、主婦イ・ウンジョンさん(36)は家にうず高く積まれていた500ウォン硬貨の山を数十個、銀行に預けた。家にはいつからか500ウォン硬貨がたまっている。500ウォン硬貨をつり銭としてよく受けとっているが、庶民らが好んで食べる食材がゾロゾロと500ウォンずつ値上げされたからだ。キムパプ(のり巻)1本、ジャジャーメン1杯、町内の市場の店の豆腐も500ウォン上がった。ジュース、牛乳など子どもらが良く飲むものの値段も500ウォンずつ、次々に上がった。
 塾や予備校などの学費は、物価上昇の主要原因である原油価格の上昇とは直接的な関連はないけれども、インフレへの期待心理に便乗して大幅に上がっている。今年上半期の教育物価は5・5%上がり、全消費者物価の上昇率4・9%よりも引き上げ幅が大きかった。補習学園費(6・9%)、大学入試学部別学園費(6・1%)などを中心として急激な上昇の流れを示している。上半期の学園費はインフレを加重させる主犯中の1つだった。
 「黒い火曜日」には、年売り上げ6千億ウォン台の中堅企業である泰山LCDが「キッコ」(注)の直撃弾を受け、ソウル中央裁判所で会社更生の手続き開始の申請をした。TV・ノート型パソコン用の部品を作りサムスン電子に納品してきた泰山LCDは、今年上半期の営業利益が114億に達した堅実な輸出企業だ。だが今年上半期だけでの派生商品取引の損失額が270億ウォン、評価損失535億ウォンを記録し、全損失金額は自己資本の129・1%にまで上がった。
 キッコは為替レートが一定の範囲内で動いている分には為替のリスクを減らすヘッジ効果が働くが、最近のようにドルに対してウォン貨が下落し続け、当初契約した範囲をはずれると加入企業が膨大な為替差損を被ることになる。泰山LCDのパク・サンス理事は「600億ウォン台に達する土地などを売却することも検討したけれども、不動産の景気沈滞によってこれさえもままならない。今年は会社創立以来の最大利益をあげることができたはずなのに……」とやりきれない風情だった。
 中堅海運業種K社のキム某理事は「チュソク(中秋)の連休が終わって出勤するやいなや、すぐさま役員全部が集まって1日中、会議をやった。すでに『キッコ』に加入していた会社の財務担当者は犠牲のヤギとなるとともに会社を去ったケースが多い。わが社も私を含めて財務担当のチーム長、チーム員らはすぐにも追い出されるようだ」と愚痴をこぼした。キッコの契約金額が120億ウォン程度のこの会社は為替レートが当初の約定レートである930ウォン台をピョンと飛び越えるとともに年末まで毎月、銀行に200万ドルずつを売り渡し(支給)しなければならない。タクシー運転手、主婦、宅配の社員、自営業者、在来市場の商人、中小企業の人々などにとって一様に、苦しい生活の中での急激な物価の上昇は耐えがたい苦痛以外の何物でもない。

第5幕 もう1つの共犯

 7月23日、国会の緊急懸案質疑の最終日。キム・ソンシク・ハンナラ党議員が「経済政策に誤りがあったという点で国民に改めて了解を求められる考えはありませんか」と問うと、カン・マンス企画財政部長官は「政府が成長率を高めるために高為替レート政策を行使したのであっても、人為的に上げたとは考えていない」と反論した。カン長官は直ちに、高油価と高物価がもたらした庶民の苦しみを政府はちゃんと認識できていない、と批判を受けた。
 政府の誤った為替政策が物価を煽り市民たちや中小企業を一層苦しめている。急激に迫ってきた「9月危機説」によってファンドを持っていたり株式をやっている人々は日々、びくびくした思いで時を過ごした。最近、続いているわが国の経済についての「怪談」や「説」に対して、ある市中銀行の副頭取は「政府の政策が市場で信頼されないから」だと言い捨てた。時代錯誤的な高為替レート(ウォン貨弱勢)政策によって、市民にとっては石油価格の高騰と高為替レートという二重苦を、市場では信頼感の喪失という副作用を抱かせた、という話だ。急騰する原油価格や原料・資材に加え為替レートまで突き上がるものだから、ウォン貨で支払う石油価格はさらに一層高くなる。
 さらにもう1つの共犯は、米国式金融の引き写しに重点をおいたわが国の官僚や金融界のあり方だ。07年11月に香港で会った財政経済部(現・企画財政部=省)の高位官僚は「国内の各銀行は投資銀行(IB)を目指しているが規模の経済において競争にならない。むしろ各銀行は資金を集約してリーマン・ブラザーズのような大型投資銀行を買収・合併するほうが良い」と語った。リーマンは最近、破産を申請した。
 その年の上半期、ある市中銀行で副頭取の人事があった。「大虐殺」とも言えるほどの大幅な入れ替え人事だった。けれどもIBを担当していたある役員はチーム長から副頭取へと昇進した。彼は「わが銀行のIBは初年に100億ウォンの収益を挙げた。07年には1兆ウォンの収益目標を達成するだろう」との自信を示した。預貸マージン中心の成長に限界を感じた各銀行が収益源の多変化のために押し出したのがIBだった。けれども慎重なアプローチよりは米国式モデルにつき従うことが先立った。だがこの銀行はモーゲイジ(mortgage、非優良住宅担保貸出)の事態によって4千億ウォンの損失を被った。彼は程なく辞表を出した。

第4幕 食糧暴動

 5月26日、ジョージ・ソロスは米国の日刊紙〈デイリー・テレグラフ〉と行った会見で投機勢力を高原油価の主犯として責めたてた。
 前にサブプライムの事態に手を焼いたカネたちは行き場を失い彷徨した。米国の景気が沈滞するとともに米連邦準備制度理事会(FRB)は金利を下げ、ドルの弱勢へと続くと、低金利ドルに魅力を感じられない各投資資本が原油や金、トウモロコシ、小麦などの実物市場に略奪的に投入された。石油1バーレルの価格は2月、米・西部テキサス油(WTI)の基準で100・04ドルで、史上初めて3ケタに突入した後、130ドルを上下した。昨年同時は1バーレルで60ドルにも及ばなかった。2000年以前は10〜20ドルの水準だった。
 石油価格が上がるとともに巨大資本らはトウモロコシなど食材を原料とするバイオエタノールの開発に没入している。バイオ燃料をたくさん作り出せば出すほど食糧不足の現象は一層深刻になるという悪循環が繰り広げられる。バングラデシュ、エジプト、セネガル、エチオピアなどでは食糧暴動が起きた。飢えたハイチの人々がコメの価格に抗議する暴動を引き起こして総理を失脚させた。7月、世界銀行は30余カ国で食糧暴動が起きており、食糧価格の急騰の背後には原油価格の急騰がある、と明らかにした経緯がある。
 わが国でも日ごと夜ごとにかけ上がる軽油価格のために、貨物自動車の運転手らが6月に運転台を放れ赤いハチマキを締めなければならなかったし、漁民らは操業を放棄するということまで展開された。

第3幕 崩壊の序幕

 07年2月、グローバル大型銀行であるHSBCが米国内のサブプライム・モーゲイジ事業で100億ドル以上の損失を被ったと発表した。直ちに米国第3位のモーゲイジ(不動産抵当)会社であるニューセントリー・ファイナンシャルの株価が36%も急落し、シティ・グループやバンク・オブ・アメリカ、JPモーガンなどの金融株も転がり落ちた。
 けれども専門家たちは満足した。サブプライムの事態が米国の不実住宅部門に極言された「コップの中の嵐」にとどまるだろうという展望を出した。ケネス・ロゴフ・ハーバード大教授は「サププライムはモーゲイジの10%にとどまる。米国金融市場は不実の波長を充分に吸収できるほどにしっかりしている」と語った。市場は経営学修士(MBA)出身の人々が先端金融工学や数学によって作った派生商品に対して依然として信頼を送った。
 けれども信頼は、すぐさま不信へと転移した。不信は直ちに恐怖へと結びついた。まず「金融の恐龍」らが祭壇に捧げられた。メリル・リンチやJPモーガンなどの投資銀行を経てシティーグループが不実に対する自己反省をした。英国のノーザン・ロック銀行やフランスのBNPパリバ銀行が一時期、顧客にカネを支払えなかった。サブプライムの事態は、これまでに蓄積された流動性や資産のバブルを崩す起爆剤の役割をはたした。

第2幕 投機の貪欲

 2002年に入るとともに米国の景気がよくなり始めた。米国民らは自分の家を持ちたいという夢に酔って、低い金利でカネを借り、誰もかれもが家を買った。だが、彼らもまたもう1つの被害者だった。「略奪的な」貸し出し業界は低所得者、少数民族、低教育層を相手にモーゲイジ貸し出しを図った。単に家を買うことができるという希望のゆえに、彼らは耐えることのできる範囲を越える貸し出しによって家を買った。
 人々は銀行がカネをもっと貸してくれることを望み、投資銀行はもっとカネが回る方法を探した。各金融会社は長期間にわたって利子を受けとるよりも、貸出金をさっさと証券に仕立てて資金を回収するほうが良い。回収したカネで再び貸し出したり証券化する過程を繰り返せば、そのたびに結構な手数料収入も得ることができた。
 投機の「天才」たちは世の中にあふれている投資者たちのカネを引き集めることに没頭した。数学・物理学などの複雑な数式を駆使して先端貸出商品を作り出した。サブプライム・モーゲイジの債券をごちゃまぜにして、これをあっちに分け、こっちに割りして作った派生商品を先端の金融商標で包装して市場に売り、かなりの利益を得た。各金融会社は派生商品として包装したけれども、不実貸し出しして高い利子を受け続ける私債と大して違いはなかった。
 金融会社は無差別的に住宅担保の貸し出しを増やし、投資銀行はこの貸出商品を買って優良債券を適当に混ぜ合わせた派生商品を作りヘッジファンド、保険会社などに売った。不動産ブームが続いている限りは理想的な金融商品だった。
 しかし、上がる一方だった住宅価格が崩れ始めると問題が生じた。利子と元金を返せない人が増えるとともに貸し出しが不実化すると、これを担保として作られた証券も不実化した。金利の引き下げと税金減免の政策はブーメランとなって帰ってきた。

第1幕 お祭りの始まり

 2001年3月からアラン・グリーンスパンFRB議長は連邦基準金利を13回にわたって6%から1・25%までに下げた。2000年にドットコムのバブルが失せるとともに、景気を浮揚させるためだった。市場は歓呼した。市場はグリーンスパンを「経済の大統領」「マエストロ」と称賛し、おだてあげた。
 金利が下がると担保貸出の金利も一緒に下がった。直ちに、安い銀行のカネで家を買おうとする人々が列をなした。住宅を買おうとする人が増えると家の価格も上がり始めた。買っておけば上がる、という考えが広がり、信用や所得の不充分な中・下位の階層までもが、われもわれもと家を買い入れた。
 これらの人々は家の価格が上がれば、すぐさまこれを担保として金融会社から追加の貸し出しを受け、自動車や家電製品を買い込んだ。これは再び家の価格の上昇へとつながり不動産市場のバブルを一層ふくらませた。追加的な価格の上昇を予想した各銀行は償還能力を無視したまま不動産担保貸出を熱を帯びて競った。
 低金利政策によって急騰した家の価格と、あふれ出るカネによって米国は豊かさを謳歌した。グリーンスパンの攻撃的な金利引き下げとブッシュの税金減免・還付は家の価格の上昇とも相まって景気に活力を呼び起こすかのように見えた。

エピローグ

 10年前、わが国は通貨危機の直撃弾を受けた。当時、国際通貨基金(IMF)代表団は投資者たちの信頼回復のために失業や破産の苦しみに耐えなければならないとして、わが国の金利の引き上げを要求した。年20%を超える殺人的金利によって庶民は路頭に放り出された。当時、IMFや米国は、償還能力をキチンと見極めずに巨額のカネを貸し出した各銀行に責任を押しつけた。「これがまさにグローバル・スタンダード」だとも強調した。
 けれどもわが国のIMF危機と、それから10年後に発生した米国の金融危機に対する処方は余りにも対照的だ。償還能力についての充分な検証もなしに貸し出しを増やし、監査体系も伴わない点では、わが国の通貨危機と米国の金融危機は違いがない。だが昨年7月、ベア・スタンスが破産の危機に追い込まれた時、米当局は法の限界をとびこえて支援を施した。10年前、韓国銀行がそんなやり方をしていたならば?
 サブプライムの事態後、米国はむしろ金利を下げた。わが国には透明性と規制・監視の強化を求めたが、いざ今回の事態において米当局は透明性の強化や規制導入の要求は、はなから無視している。
 わが国の政策担当者たちも、「マネーゲーム」にのみ没頭してきた米国式金融資本主義の没落を最初から無視しつつ、むしろその方向にこつこつと歩もうとしている。現在わが国が直面したことのように、米国は1980年に入って製造業が崩れると金融サービスを中心として経済構造が改編され始まった。けれどもその過程で米国は働き口が減り、所得の2極化が広がるなど、深刻な経済の不均衡に包まれた。
 このような状況の中で大統領に当選したブッシュは「所有者社会」(Ownership Society)という青写真を掲げ、米国の中産層・庶民たちの住宅保有を推進した。所得基盤が瓦解した市民たちにわが家を持たせ、住宅価格が上がれば資産もそれにつれて上がるという効果を通じて、減少した所得を補填してやることにしたのだ。規制の撤廃によって派生金融商品の技法が大きく発達したけれども、適切に規制されない市場は貪欲に流れるという事実は最初から無視した。
 ハナ金融経営研究所チャン・ボヒョン研究委員は「わが国の金融市場の競争力強化を目的とした『韓国版金融ビッグバン』が、米国発の金融危機の事態によって今や清算の局面に入った西欧の『金融過剰』を後追いしてはいないのかを振り返ってみるべき」だと語った。
 高金利の苦しみを無視しようとする米国市民たちと景気の浮揚に没頭した米政府は低金利の甘い味に慣れきった。低い金利は人々に「銀行のカネは俺のカネ」という考えを呼び起こさせた。投機の天才たちは、あふれる流動性(のカネ)を無限に拡大させる絵を描いた。けれども金利が上がるとともに約束した高利は崩れた。延滞者が出てきた。米国経済が萎縮すると、ドルの価値が下がり始めた。投機資本たちは金と石油に群らがり、石油と小麦の価格は天井知らずにかけ上がった。貧しい国では食糧暴動が起き、わが国では物価の高騰や株価・ファンドの暴力という突風を煽ってきた。
 朝、出勤の途中でスタンドに寄ってガソリンを満タンにすることと数千キロメートルも離れている南太平洋の島国が沈んでいるということは、いかなる関係があるのだろうか? 南太平洋の島国パプアニューギニアのカルテレット群島は地区温暖化による海水面上昇によって2015年には6つの島全体が沈むという危機に直面している。カルテレット群島の住民3千余人は、見も知らぬアジアやヨーロッパ、米国の人々が出退勤時に吐き出す二酸化炭素の被害をそっくり抱えこんでいる。地区の反対側で始まったバタフライの羽ばたきが巨大な暴風へと変わり、彼らを襲っているのだ。(「ハンギョレ21」第728号、08年9月29日付、チョン・ヒョクチュン/イム・ジュファン記者)
(注)「キッコ」は為替ヘッジを目的とする通貨オプション商品の一種類。通貨オプション商品に投資している企業はこれまで運転資金で投資損失を埋めてきたが、ウォン安が続き限界に達した。泰山LCDの破たんは通貨オプション商品による連鎖倒産の前触れと言われている。


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