受け入れ拒否
による死亡事件
十月四日、都内で出産を間近に控えた妊婦が脳内出血を起こし八病院から受け入れを断られ亡くなる不幸な事件が起こった。
死亡した妊婦の掛かりつけ医は、最初に都東部地域の基幹病院であり、ハイリスク妊婦を受け入れる総合周産期医療センターに指定されている都立墨東病院に緊急搬送を依頼した。しかし産科医師の欠員が長期に渡り放置されてきた墨東病院は一名の当直医しかおらず受け入れを断った。
以降妊婦は七病院に緊急搬送を断られ、結局一時間後に墨東病院が他の医師を呼び出して妊婦を受け入れた。妊婦は帝王切開で出産し三日後息を引き取り子どもが残された。なぜこのような事件が起こってしまったのだろうか。
地域医療の崩壊
を促進した行政
今回の事件が起こった東京東部地域は、未だに高度経済成長時の人口増に医療基盤整備が追いついていない地域である。
都区内にそのような地域があるのかと思われる方がいるかもしれないが、二次医療圏で検証すると区東北部(足立、荒川、葛飾)、区東部(墨田、江戸川、江東)は、人口十万人当たりの医師数は全国平均以下にもかかわらず、病床百床当たりの医師数は、ほぼ全国平均に近くなる「都市型医師不足」の状態になっている。医師数を人口で割れば足りなくなるのに、病床数で割ればほぼ足りている。これは人口に対して、医療基盤の整備が追いついていないことを表している。未だ東京東部地域は、医療基盤整備に力を入れなければいけない地域なのである。
ところが、東部地域の医療基盤整備に責任を持つ東京都が行ってきたのは、地域医療を崩壊させるようなことばかりである。
都は東部地域にあった、墨田、荒川、台東、築地の四産院を「歴史的使命が終了した」と、施設の老朽化等を理由にして、地域の反対運動を無視して廃院した。四産院の廃院の代わりに東部地域にある墨東病院を総合周産期医療センターとして整備するというのが都の釈明だった。
しかし、墨東病院では医師不足に陥り二〇〇六年から一般の分娩の受付を縮小し、今年七月からは一般の分娩は受付を中止していた。墨東病院は、センター病院としての機能を発揮するどころか、廃止した四産院の肩代わりすることもできなかったのである。このように未だ医療基盤が整っていない地域で、一方的に医療供給体制を削減してきた東京都の責任は重大である。
問題の核心は、都が墨東病院産科医師の欠員を長期にわたって放置していたことにある。オリンピックを招致するほど財政にゆとりがある東京都は、その気になれば産科医師の待遇を改善し、医師を確保することができたはずである。オリンピックを呼ぼうとする自治体が、産科医を呼べないわけがない。都は墨東病院の周産期医療を整備する気がなかったのである。
墨東病院以外の七病院も緊急搬送を断っている。これは産科医不足による地域医療の崩壊が決定的に進行していることを証明している。このような状況のなか、都のやるべきことは、都立病院を、地域医療を担う中核病院として充実させていくことである。しかしこの間都が行ってきたことは、都が直接医療を提供する体制を縮小し、医療崩壊が進む中、全都立病院の地方独立行政法人化を検討するという、都民の要求とは正反対の政策である。
医療費抑制政策
を即時撤回せよ
今回の事件において都ともに厳しく責任を追及されなければならないのは、社会保障費を削り続けた国である。
国は診療報酬を切り下げ医療、とりわけ産科・小児科を不採算部門に陥れた。さらに国は、医師数が増加すれば医療費が高騰すると一九八六年以降医師養成を抑制し続けた。その結果、現在絶対的医師不足が生じている。単純に計算しても人口当たりの医師数はOECD平均より十二万人もの不足となっている。
しかもこの数値は、診療活動が可能かどうかではなく、生存している医師免許保有者数をもとにしている。したがって実際的な医師不足は、十二万をはるかに超える。なかでも病院勤務医、そのなかでも、産科、小児科、麻酔科等の医師不足は危機的な状況にある。
このような国の医療費抑制政策が地域医療を崩壊させた元凶である。さらに、福島県立大野病院での不幸な妊婦死亡のケースを医療事故としてでっち上げ起訴することで産科医師の「立ち去りがたサボタージュ」に拍車をかけた。
今回の事件を都と厚労省が調査しているが、地域医療を崩壊させた張本人である国と都が、今回救急搬送を断った病院を断罪するようなことがあれば、地域医療を支えるために少ない人員で懸命に働いてきた医師・看護師をはじめとする医療従事者の士気を最終的に打ち砕き、地域医療の崩壊は決定的なものになるだろう。
地域医療崩壊の問題は、「生存の問題」である。国は地域医療を支える自治体病院を、自治体財政健全化法で網をかけ、公立病院改革ガイドラインで潰してしまおうとしている。地域医療を担う公立病院は、憲法二十五条に明記された生存権を保障するために設立されているのである。採算性だけを基準に病院を潰してしまっては、今後も命を奪われる住民が出ることは確実である。地域から駅がなくなり、郵便局がなくなり、学力テストの結果で学校がなくなり、そして病院がなくなれば、地域は崩壊する。
今回の不幸な事件の責任は、地域医療を崩壊させた厚労省と都にある。厚労省は医療費抑制政策を今すぐに撤回せよ!都は都立病院の機能を充実させろ!
安心して出産・育児ができる医療環境を!すべての人に医療サービスを!
(矢野 薫)
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