| 映画「靖国 YASUKUNI」上映中止問題 かけはし2008.4.21号 |
自由な表現の場を作るために
「自粛」の流れ跳ね返す勇気を |
「週刊新潮」の
記事を発端に
李纓(リ・イン)監督のドキュメンタリー映画「靖国 YASUKUNI」の上映が予定されていた映画館すべてが上映を「返上」し、四月十二日からの公開が中止に追い込まれたことが大きな問題となっている。
まず経過を追ってみよう。発端は「週刊新潮」07年12月20日号が、「『反日』映画『靖国』に文化庁からの助成金・七百五十万円が支出された」と批判する記事を掲載したことにさかのぼる。
この記事を引き金にして「日本会議」国会議員連盟などの極右派国会議員が動きだした。先頭に立ったのが一九三七年の南京戦にいたる過程での向井敏明、野田毅両少尉による「百人斬り」がデタラメだとして両少尉の遺族が「朝日」「毎日」と本多勝一を「名誉棄損」で訴えた「百人斬り」裁判の弁護人をつとめた稲田朋美・自民党衆院議員であった。稲田は「国政調査権」に名を借りて、自らが代表をつとめる「伝統と創造の会」の名で公開前の試写会を要求した。稲田は中国人の映画監督による「偏向」した映画に文化庁の助成金を出すことの問題点を明らかにしたいと主張して、映画「靖国」を誹謗するキャンペーンを巻き起こし、右翼を動員して「上映中止」に追い込むことをもくろんだのである。
国会議員による
「偏向」映画宣伝
二月に李纓監督と配給元のアルゴ・ピクチャーズに対して文化庁から「国会議員が事前に見たいといっているので貸してほしい」との要請があった。これに対してアルゴ・ピクチャーズの側は、「一部の議員の要請には応じられない。国会議員全体に呼びかけた上映会ならやってもよい」と返答した。アルゴ・ビクチャーズと文化庁の協議の末、上映会が行われることになった。
この件が報道されるに及んで、上映予定館の「新宿バルト9」からまず最初に中止の申し入れがあった。この間、右翼からの上映予定館への脅迫電話や街宣車による威嚇も行われた。さらに三月二十七日には、参院内閣委員会で自民党の有村治子参院議員が文化庁文化部長を追及し「芸術文化振興基金」の助成制度で「靖国」に助成金を与えたことを批判した。有村はこの時、助成金支給の選考委員に「映画人九条の会」の会員がいることを「偏向」としてあげつらい、さらに映画「靖国」の中で中心的な役割を演じている九十歳になる刀匠・刈谷直治氏が「自分の映像を削除してほしい」と要求している、と述べた。
有村は、直接電話をかけて刈谷氏の意向を「確認」したとしている。こうして「靖国」が大問題となる中で、すべての映画館での上映が中止に追い込まれたのである。有村が仕掛けたと思われる刈谷氏の「映像削除」要求に続き、四月十一日には靖国神社が神社内の撮影が正規の許可手続きに基づいていないと言いがかりをつけ、神社内映像の「削除」を求めている。
メディアからの
政治介入批判
この経過で明らかにされたことは、右派メディアのキャンペーンに右翼が動いて脅迫を行い、それによって集会・言論の自由が破壊されるという構図である。これは日教組教研集会の会場となったホテルが貸し出しを拒否して教研集会の全体集会が中止に追い込まれた事件、さらに茨城県つくばみらい市で行われる予定だったDV(家庭内暴力)問題をめぐる講演会が、右翼・西村修平一派の「主権回復をめざす会」の妨害によって中止となった事件と軌を一にしている。右翼が騒ぎ、自治体や企業が「近隣住民」の不安や「営業上の配慮」を口実にその恫喝に屈し、かくして言論・集会の自由という基本的人権が破壊されるというこの構造を繰り返してはならない。
今回の「靖国」上映中止問題に関しては、新聞・TVなどでこれまでにないほどの批判が広がっている。四月三日には「日本ペンクラブ」会長・阿刀田高の名で「自由な表現の場の狭まりを深く憂慮し、関係者の猛省をうながす緊急声明」が出された。四月七日には「映画『靖国』上映問題に関する在京・在阪テレビ局報道局長声明」が出て、「客や周辺住民への迷惑などを理由」とした上映中止は「言論・表現の自由という観点から、極めて深刻で憂慮すべき事態」としている。ここには「フジ・サンケイ」グループの「フジテレビ」や「関西テレビ」の報道局長も名を連ねている。テレビ朝日系の「サンデープロジェクト」(4月6日放映)ではメインキャスターの田原総一朗が、映画「靖国」を絶賛し、圧力をかけた稲田議員らを厳しく批判した。
二〇〇〇年末の女性国際戦犯法廷をテーマとして二〇〇一年に上映されたNHK・ETV特集が安倍晋三、中川昭一ら自民党の極右有力政治家の圧力によって徹底的に改編されたことに、他の多くのメディアが沈黙していたことと対比すれば、その違いは明らかである。福田首相までもが、「靖国」上映中止に対して「遺憾」の意を表明せざるをえなかった。
天皇制タブー
とのたたかい
四月十日には「日本ビジュアル・ジャーナリスト協会」が中心になって参議院議員会館で「映画『靖国』への政治圧力・上映中止に抗議する緊急記者会見」が行われ、メディア関係者が詰めかけた。
経過報告の後、李纓監督は次のように語った。
「すべての上映が中止になったのはきわめて意外だ。三月に上映館を回った時には、みんな一緒にがんばると言っていた。三月二十七日に有村参院議員の質問があり、出演者の刈谷さんから自分の映像を削除してほしいという意向だということが紹介された。その後の四日間ですべての上映館がやめてしまった。出演者に一国会議員が直接連絡を入れるというのは介入ではないのか。調査というのならなぜ私も調査しないのか。私には何の連絡もない」。
「私は、昨年刈谷老夫婦にビデオを持ってあいさつに行った。奥さんは最初心配していたが、奥さんを説得して了承してもらった。ベルリン映画祭に出展した後も、刈谷さんに報告した。奥さんは少し神経質になっていたが、老夫婦とコミュニケーションを続け、これからどこでも上映してください、と言われた。公開用のパンフに刈谷さんのコメントを下さいとお願いして、『誠心誠意』という言葉を頂いた。それなのに今になって映像を削除してほしいと言われるのは理解できない。国会議員が圧力をかけて出演者を変心させたのだとしたら、この映画そのものが成立しない。日本が『文化立国』というのなら多元化が要求される。この映画は多元文化の一つの証明だと思う」。
李纓監督の発言の後、田原総一朗(ジャーナリスト)、野中章弘(ジャーナリスト)、石坂啓(漫画家)、是枝裕(映画監督)、斉藤貴男(ジャーナリスト)、坂本衛(ジャーナリスト)、篠田博之(『創』編集長)、鈴木邦男(一水会顧問)、ジャン・ユンカーマン(映画監督)、豊田直巳(日本ビジュアル・ジャーナリスト協会共同代表)、服部孝幸(立教大教授)、原寿雄(ジャーナリスト)、広河隆一(「DAYS JAPAN」編集長)の各氏がそれぞれ発言した。
「映画館ではなく、上の会社の役員がやめさせたようだ。個々の映画館を批判するのではなく上から攻めていく必要がある」(田原さん)、「TVでは放送の公共性という言葉が、表現の自由をせばめている。助成金が問題視されることが問題だ。助成の基準は政治的中立性ではなく、あくまで芸術性そのものだ。政治的という批判それ自体が政治的なのだ」(是枝さん)、など、多様な角度から政治家による介入と「自粛」の構造への批判が相次いだ。
「靖国」上映中止への批判を、自由な言論スペースの拡大と、天皇制批判の「タブー」を打ち破る意識へと発展させていくのは、これからの課題である。
天皇制極右国家主義の焦りに満ちた攻勢は、「象徴天皇制」の内からの動揺(天皇・皇后と皇太子・雅子の対立をふくめて)と危機の表現である。だからこそ、極右の突出と「言論自粛」の悪循環をはねかえすことが決定的に重要なのである。民主主義と自由の空間を自ら作りだしていくためにこそ、反天皇制・反靖国の闘いの原則的で大衆的な広がりを追求しよう。(K)
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