| 韓国軍哨戒艦沈没と新たな局面 かけはし2010.6.7号 |
中国の東北経済圏に編入され
る北朝鮮を眺めているだけか |
3月26日、韓国西部西海(黄海)海上の北方限界線近くで起きた韓国軍哨戒艦「天安」沈没の事態以降、朝鮮半島情勢は激動している。韓国軍・民間合同調査団は5月20日、「天安」は北朝鮮の魚雷攻撃を受けて沈没した、魚雷は北朝鮮の小型潜水艇から発射された以外に説明できない、などとする調査結果を公表した。さらに同24日、イ・ミョンバク大統領は国民向けの談話を発表し、北朝鮮船舶の韓国領海の通過禁止、開城工団事業を除く南北交流・交易の原則中断、04年から休止していた軍事境界線一帯での北朝鮮向け宣伝放送の再開などを明らかにした。
一方、事態への関与を完全否定してきた北朝鮮は同25日、対韓国窓口機関「祖国平和統一委員会」を通じて、イ・ミョンバク政権と「不可侵合意を破棄し、あらゆる関係を断絶する」との談話を発表し、第一段階としてイ大統領の任期内の当局間対話や接触の中止、開城工団南北経済協力協議事務所の閉鎖と韓国側関係者の即時追放などを講じる、とした。
この間、いずれも事前に設定されていた日程ではあるものの、事態直後の4月初め、北京で中国・北朝鮮の首脳会談が行われ、5月24日からは北京で米中両国閣僚級の協議「米中戦略・経済対話」が行われた。
以下の記事は、これらの流れの中で、韓国政府による「調査結果」の発表以前に執筆されたもので、その後の推移という点ではそぐわない点もないわけではないが、事態の全体像判断に資すために、あえて掲載する。(「かけはし」編集部)
大揺れの朝鮮半島情勢
キム・ジョンイル北韓(北朝鮮、朝鮮民主主義人民共和国)国防委員長の中国訪問によって韓(朝鮮)半島の情勢が大揺れに揺れている。国内の政治だけを考えている韓国の外交は座礁の道に踏み込んだ。韓中葛藤の波が高い。米国はもたもたしている。米国は米・中・北の3角対話を通じた6者会談の再開、そして他方では「天安艦」の事態に対する韓米共助という分かれ道に立っている。すべてのことが不透明で複雑だ。だが強化された北・中協力の構図がもたらす変化はあなどれない。韓半島情勢の性格が変わっている。
6者会談をめぐる各国の思惑
キム・ジョンイルの訪中によって6者会談再開のきっかけは準備されるのだろうか? 不透明だ。北・中首脳会談でキム・ジョンイル委員長が韓半島非核化の原則を再確認し、9・19共同声明の意味を強調したことには意味がある。条件が整えられれば核廃棄を行う、というのだ。6者会談に踏みきる意志を明らかにしたのだ。北韓の通常の軍縮会談での主張とは異なる。それは言っても言わなくても同じ原則だとしても、今の時点で核廃棄の意思を再確認したのは重要だ。
それならば一部専門家の予想のように、今度は6者会談に復帰するだろうと宣言すればよいではないか? それは難しい。6者会談は単純に会談を開くことが重要なのではなく、争点の懸案に対した立場を狭めて成果のある会談を作ることが必要だ。従って米国の態度が重要なのだ。米国の態度が不透明な状況にあって、北韓が一方的に6者会談への復帰宣言をする可能性は高くはなかった。
問題は米国だ。じれったいのはオバマ行政府が北・米両者の接触に否定的だ、という点だ。あたかも対話すること自体をインセンティブと考えていたブッシュ行政府のネオコンを連想させる。ブッシュ行政府よりダメだとの指摘もある。なぜ、そうなのだろうか? 韓国の変化した役割のせいだ。韓国は、これまで北・米両者の対話に否定的態度を取ってきた。最近の状況も同じだ。中国の仲裁の努力によって米国は6者予備会談を経て本会談につなげる会談形式に合意した。この間、キム・ゲグワン北韓外務省副相のビザ発給に消極的だった米国の態度の変化も見せた。だがこの微妙な変化は「天安艦」の事態が起こるとともに中断された。
北・中首脳会談以後、米国がいかなる態度を取るのかアイマイだ。米国は「天安艦」事件に対する北韓の責任を強調する韓国を考慮しなければならず、6者会談の再開も無視できない、はっきりしない立場だ。米国は、なぜそうなのだろうか? きしみにきしんでいる米日関係の影響のためだ。東アジアにおいて米日関係が悪化するとともに、同盟国として韓国の価値が高くなった。アフガン派兵、核非拡散体制の強化など米国のグローバル外交の懸案において韓国の協助が重要になった。韓米同盟の重要性が大きくなったのだ。もどかしいのは、なぜそれを否定的に使うのか、だ。韓半島の平和と安定のために未来志向的に韓米同盟を活用すれば、どれほどいいだろう。
今後、韓半島の情勢は6者会談の再開と「天安艦」外交がぶつかるだろう。重要なのは韓国が「天安艦」事件の北韓のかかわりを明らかにするだけの強力な証拠を提示できるのか、だ。心証はあるが確証はないという状況は国内政治的に有利に働くことができるだろうが、外交的には、そうではない。優先的に韓国が取ることのできる最大の措置は国連安保理への提起だ。国内的な措置は限界がある。南北関係が、既に断たれるだけ断たれているからだ。残る手段としては開城工団(工業団地)や委託加工、すなわち北韓よりもわが国の中小企業により大きな苦痛を与える分野ばかりだ。戦争を除けば、対北政策において使うことのできる交渉の手段は今や存在していない。
安保理に行けば、結局のところ核心は中国とロシアの協力を引き出すことだ。そうしようとするならば確実な証拠がなければならない。そうすることができるのだろうか? 今日まで流れてきている状況を見ると、懐疑的だ。決定的証拠を提示できなければ、国際社会の論難は高まり時間だけを浪費する結果をもたらしかねない。
朝鮮半島両国に対する米中の戦略
米国も同様だ。「まず、天安艦」という韓国の立場を考慮してはいるものの、これまた無限定ではない。ある程度の論難の時期が過ぎれば米国もまた6者会談再開の側へと重心を移していくだろう。当面、5月24日から北京で米中戦略経済対話が予定されている。その前に韓国が決定的証拠を提示できなければ、韓半島情勢は6者会談の政局へと進んでいくだろう。韓国が国内的に「天安艦の沼」に陥っているといえども6者会談は進められ得る、という意味だ。
北・中経済協力の活性化は3つの側面で重要だ。第1は、北・中両国の経済協力によって国際社会の制裁が意味を失った。対外貿易や投資のほとんど大部分を占めている北韓の対中国経済依存度のゆえに、中国が合流しない制裁というのは言葉だけであって、実質的な効果はない。「天安艦」に対する制裁も同じだ。中国はすでに「天安艦」と6者会談の再開を分離して対応しており、韓国の接近法に対して公然と批判し始めた。安保理に行っても中国が同意しない制裁は北韓に苦痛を与えることはできない。それが冷静な現実だ。
第2に、北・中経済協力が新たな段階にさしかかっている。すでに中国産消費財や生産財の価格競争力のゆえに、北・中両国の民間レベルの貿易は活性化している。今は地方政府と中央政府が乗り出している。中国の東北3省の立場からすれば、羅津港をはじめとする東海(日本海)への出口確保は極めて重要だ。すでに東北地域の鉄道網と道路網を構築した中国が海運物流網を整えるなら、沿海地域や中国南部地域との経済的連係性を拡大することができる。東北3省の経済発展において北韓の地境学的位置が重要になっている。それが、これまでの北・中経済協力との違いだ。
今回のキム・ジョンイル委員長の訪中の移動・訪問ルートで明らかになったが、北韓もまた物流問題に関心が高い。大連や天津は港湾物流の中心地であり、地理的利点を活用して外資誘致に成功した地域だ。今回の首脳会談で両国の友好の象徴として論議に挙げられた新鴨緑江大橋もまた両国の経済協力をさらに一段階、発展させるだろう。単純な橋ではない。東北3省と北韓の経済協力を結びつける橋だ。すでに中国の産業構造が変化し、賃金が高くなった状態にあって、北韓の低い賃金は魅力的だ。南側への門が閉じられた状態で、新義州をはじめとする北西側の地域は北韓の新たな外資誘致地域となるだろう。
北朝鮮の改革・開放の失敗
第3に、北韓の経済改革に及ぼしている肯定的影響だ。貨幣改革(の失敗)以後、北韓の経済改革は岐路に立っている。改革の強化と市場統制の政策は失敗した。これまであったキム・ジョンイル委員長の訪中は、北韓の内部的に改革・開放の措置につながる契機を提供した。今回の中国訪問団にテープン投資グループの理事長であるキム・ヤンゴン統一戦線部長が含まれたり、中国との接境地域である平安北道や咸鏡南道の党責任秘書が付き従ったのは注目に値する。よしんば中国に限定されたものではあるが、進展した外資誘致の環境造成が後に従うだろう。中国もまた経済協力を通じて北韓が改革・開放に踏み出すことを期待している。
北・中関係が東北アジアの秩序を変化させている。それが北核問題を解決する中国式の解法だ。経済協力を通じて中国の影響圏内におくことが北韓情勢を安定的に管理できるし、制裁よりは経済協力の活性化が北韓の非核化環境に有利だと判断しているのだ。世界情勢において変化した中国の位相を考慮する時、注目すべき現象だ。
南北関係は暗鬱だ。当局間の対話は回復しがたいほどに悪化し、金剛山観光は中断され、開城工団の環境も悪化している。「天安艦」の事態によって軍事的報復の声も高い。憂慮すべきは南北関係を国内政治的に利用することだ。例えば、主敵概念の復活を主張する声においても、安保はなくて、政治だけがある。1994年、キム・ヨンサム政府の際に初めて導入されたこの概念は、極めて政治的な概念だ。保守的な人々は、主敵概念を削除したことによって安保意識が弛緩するようになったと主張するが、それならば1994年以前の状況をどう解釈するのだろうか。軍事政権の安保意識が、冷戦時代の安保意識が、弛緩したということなのか。世界的に〈国防白書〉を発行しているどんな国も、主敵概念を使用してはいない。
このような論難がまさに南北関係の現住所だ。重要なのは「天安艦」の事態について国内的に、そして国際的に信頼を得ることのできる調査結果を発表することだ。今日まで政府は国内外的に信頼を得られずにいる。公開しなければならない情報があるのならば公開することが望ましく、結論は常識的に納得できるものでなければならない。
そして北核問題を解決するために何をするのか考えなければならない。「非核・開放・3000」(北韓が核を放棄して開放すれば1人当たりの国民所得3千ドルとなることができるように援助するということ)政策はどこに行ったのか? イ・ミョンバク政府は6者会談再開のために今日まで何をしたのか? 周辺国は韓半島の安定と平和を語っているが、当事者である韓国政府が不安と対立を主張していることが韓半島の憂鬱な風景だ。
危険な外交問題の国内政治化
最後に、「北韓を失ってしまった大統領」となってはダメだ。北韓が中国の東北経済圏に編入される事態をただ見ていなければならないのか? 北核問題をはじめとする韓半島の秩序の変化にあって韓国が疎外されている事態は、決して望ましくない。外交安保問題の国内政治化は危険だ。状況が変わり対話をしなければならない局面が来たら、どうするのか? 深く考えなければならない。このような事態で任期が終われば、いかなる歴史的評価を受けるのか、真剣に悩むべき時点だ。(「ハンギョレ21」第810号、10年5月17日付、キム・ヨンチョル/インジェ大・統一学部教授)
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