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山口響さん (ピープルズプラン研究所)に聞く       かけはし2010.8.2号

「移転先」探しはもうやめよう

現地住民の不信・批判に直面する米海兵隊のグアム移転

 「米軍再編」プランの下での在沖米海兵隊のグアム移転が大きく遅れることになる、と報じられている。米国の議会やグアム現地からも疑問の声が上がっているためだ、その背景には何があるのか。グアム現地を訪れ、聞き取り調査などを行ってきた「ピープルズ・プラン研究所」の山口響さんにインタビューした。現地の人々が求めない基地は作れない。その答えは鮮明だ。(編集部)

ラムズフェルド
の「鶴の一声」

――日本の人にとってグアムの米軍基地問題に気がつくようになったのは、二〇〇六年の「米軍再編」ロードマップで、普天間の辺野古移設とセットになった形で、沖縄の負担軽減を名目にした海兵隊のグアム移転が出され、その予算の約六割を日本側が負担することが決められたことが契機になっています。
 今、山口さんは『季刊ピープルズ・プラン』誌で「海兵隊グアム移転――誰のための負担軽減なのか」を連載されています。その第一回(同誌47号)では「普天間の移設問題」と海兵隊のグアム移転、あるいはグアムでの基地の増強を「パッケージ」として捉えるのではなく、むしろ米軍独自の戦略として海兵隊のグアムへの集中が進んでいる、それは粛々と進行していくだろう、と書かれていたと思います。
 その後、アメリカの議会や行政機関の中からも「グアム移転」について疑問が出ている。たとえば予算の問題とか、環境の問題ですね。そのあたりの状況がどうなっているのか、ということをお聞かせ下さい。

 今、おっしゃったように「パッケージ」であると言っているのは、あくまで日米政府であって、基本的には辺野古は辺野古で、グアムはグアムでどう進めるかというように米軍はやってきています。向こうの言い分としては、辺野古の具体的進展がグアム移転を進める「条件」ですが、最終的に何を「進展」というかといえば、公有水面の埋め立て許可を沖縄県知事が出す、ということが最も分かりやすい形になります。そうした許可はもちろん出ていないし、出る見通しとしても、あまりないと言うべきでしょう。
 辺野古の人たちの頑張りもあって、実質的には進展していません。それにもかかわらずグアムの方は進んでいる、という面があります。ただ「粛々と進んでいる」と連載の最初のほうでは書いているのですが、すこし微修正しなければいけないと思っているのは「粛々と進んでいる」というのは辺野古と独立に進んでいる、ということであって、しかし進行度が早いスピードでどんどんいっているかといえば必ずしもそうではありません。
 それはなぜかと言えば、もともとの移設が決まった経緯はラムズフェルド前国防長官が、二〇〇三年十一月に稲嶺前沖縄県知事と面談した時に、もともとの予定時間を超して稲嶺知事から沖縄の状況がいかにひどいかを聞かされたわけです。会談が終わった後に「歓迎されていないのであれば沖縄から海兵隊を退くぞ」と側近に指示を出して「グアム移転」が米軍再編の一つの要素として入ってくるようになったんですね。
 つまり海兵隊としては、あずかりしらない話として「グアム移転」が強制的に押しつけられた、ということになります。グアムは第二次世界大戦の時に日本が占領して、それを奪い返したのはアメリカの海兵隊でしたから、もともと海兵隊がいた島ではあったのですが、冷戦後は海軍・空軍が中心であって、今は海兵隊はグアムには数人しかいないんです。そこを海兵隊の基地にするのは米軍にとって相当大きな変化になります。それを米軍自身の希望ではなくラムズフェルドからトップダウンで指示がきた、というので、そう言われてもどのように部隊を配置するのか、どのような施設を作るのかについては、今もってあいまいなんです。
 ついせんだって新聞記事が出たのですが、「米軍再編ロードマップ」では司令部中心の部隊を沖縄から移し、戦闘部隊はほとんど移さないと言われていたんだけれども、移設する部隊の変更を検討するという内容でした。もともと計画が始まったのは二〇〇五年とか、二〇〇六年ですから、それから五、六年たった今でも、どこから、つまり沖縄だけからではなくて米本土から持ってくる部隊もあるはずなので、それを一つの計画としてまとめあげるのは未だにできていない段階なのです。その一事をもってしても、海兵隊がこの計画にどれほど乗り気なのかについては怪しい面があります。そういうこともあって、ペンタゴンの計画は未だに具体性のレベルは低いのです。だからアメリカの議会としても、そう簡単にお金は出せませんよ、ということになっているんです。
 移設費用の審議に関しては、下院と上院とで、去年も今年も同じような経過をたどっています。下院は基本的に政府予算どおりに承認し、去年も今年も上院が七割ぐらいカットするという話になっています。日本の報道では、そういう話になると読売も産経も朝日も「普天間が進んでいないからだ」という話になります。
 ところが議会の文書をよくよく読んでみると、普天間の要因はあくまでその一つに過ぎません。ワン・オブ・ゼムなんですよ。基本的にはグアム自体についての米軍再編のマスタープランがない。要するに計画の具体性のレベルがまだ低いということと、実際に計画を進めるに当たって必要となるインフラ整備などについての手当をどうするのかということに関し、あいまいな点が多い。そのあたりをクリアーしないと議会としてはお金をだせない、ということが根本にあるわけです。
 普天間が具体的に進展していないということも、予算カットのひとつの要因として挙げられてはいるのですが、日本の報道では「パッケージ」論にとらわれてそこだけしか見ないので、そこに焦点が当たっている。基本的にはグアムの再編が本当に進められるのかという疑念が米軍の中にも、米議会の中にもあるんです。

これ以上の土地
収用はゴメンだ

――一方、グアム現地では基地の拡張だとか、それに伴う土地の取り上げなどの話があって、反対の声が強まっているようですね。その点を教えてください。

 去年の十一月に環境アセスのドラフト(草案)が出ました。それで計画の具体的な部分がある程度明らかになったんです。その中で海兵隊員の訓練を行うための施設を、私有地を収用して作るという予定が入っていたことが、グアムの中では最も論争的な問題としてあります。
 第二次世界大戦以後のグアムの歴史でも土地を取られてますからね。今、グアムにある主要な基地、つまりアンダーセン空軍基地だとか、アプラ海軍基地も結局第二次世界大戦時にアメリカが日本からグアムを取り返した時、接収したものですし、グアム国際空港ももともと米海軍の飛行場だったところです。グアムが観光の島に変わっていく過程で民間の空港に変わったわけです。ただもともと米軍に接収された土地は、そのまま民間空港当局の土地としておさえられたままになっています。土地を取られて強制移住させられるという歴史がありますから、土地の問題は相当センシティブなわけです。
 環境アセスのドラフトが出てから、十五人いるグアム議会議員や現地住民をふくめ相当な反対論が出ていて、米軍はいまグアム島全体の土地の二七%を保有しているので、ほかに訓練場を作れる場所が基地内にあるだろうといろいろ候補地を挙げたわけですが、それはすべてダメだということで米軍側は、他の候補地を拒否しています。米軍は環境アセスで出た案に今もって固執している段階です。今年の九月に、環境アセスの決定書が最終的に出される予定です。ドラフトを受けて住人から九千通ほどの意見が出ました。その中で土地収用に言及しているものは、ほとんど全部が反対論だと思います。そうした意見を受けても、もともとの案を変える予定は今のところはないでしょう。

――いま海兵隊移転や基地の拡大に対して、先住民族団体「チャモロ・ネーション」の人々は当然反対でしょうが、それ以外にも反対意見が相当あると考えていいのでしょうか。

 そうですね。今までは米軍基地を問題にするのはグアムの中では一握りの人だけでした。ところが環境アセスの素案が出て以降は、今まで運動に関わっていなかったような人たちが米軍再編を問題にするようなプロセスにあります。ただかれらは、米軍基地全体に対して「出ていけ」というより、米軍増強に対してさしあたり反対していくという立場の人たちがどんどん増え始めているということです。

米国が要求する
財政負担の圧力

――鳩山前首相が「普天間は最低でも県外移設」と言って、さらに「国外に持って行け」となった時に、米軍はもともとグアムを海兵隊の拠点にしようとしているのだからグアムに持って行け、という主張が出ましたね。社民党もそうでした。その点では山口さんの意見はどうでしょうか。

 一般論のレベルで言えば、基地をどこに置くかということと、その基地をどのように運用していくかについては、二つの決定的な要因があります。一つは軍事的な要請ですよね。そもそも沖縄なら沖縄、グアムならグアムに基地を置くことに軍事的な意味があるか、ということが一つの要因です。もう一つは政治的・財政的要因で、これは現地からの受け入れの度合いがどれくらいあるかということと、財政的な支援がホストネーション(受け入れ国)からどれだけあるか、ということです。
 日本のメディアでは、ほとんど軍事的要因一本槍です。基地をめぐる政治を捉える時に、結局そこが地政学的に有利な場所であるかどうかということがほとんど唯一の判断基準になっているじゃないですか。沖縄問題にしても。
 ところが日本の政治家やメディアよりも、アメリカの当局の方が事態をリアルに見ていると思うので、いくら軍事的に必要だからここに基地を作りたいといっても現地が受け入れなければ厳しいことは分かっています。グアムをいま言った二つの点のどちらから見ても、けっこう怪しい部分がある。そもそも軍事的要請という点からして、海兵隊がグアムを一大拠点とすることは望んでいなかったのです。外から来た話です。
 ただ上からやれと言われたら、あくまでその範囲の中でどのように戦争をやっていくのか、というのが軍隊という官僚組織であるので、いったんレールが敷かれたからにはグアムをそういう場所に変えていくという力学がはたらきます。したがって海兵隊は、当初のいきさつはどうあれ、ともかくグアムをいかにして海兵隊の一大拠点に変えるか、そしてグアムと沖縄との連携をどう取るか、というのが彼らにとって重要なポイントだと思います。だから、すべて沖縄からグアムに引き上げるということは考えていないと思いますよ。
 それがなぜかということが二番目にかかってくるわけで、確かに沖縄は海兵隊を政治的に受け入れていない。そういう意味で沖縄はいづらい場所です。しかし、米軍にとって、グアムの方でもだんだん現地の政治的な情勢は悪くなっている。そうなるとどちらに置くにも海兵隊は敵意に囲まれて存在せざるをえない。そうなれば、結局どっちにいた方が黙っていても他人から金が出るか、という要因になってくる。そうなると圧倒的に日本にいる方がいい。グアムにいればアメリカ本国の連邦政府がすべてを自前で出さなければいけないけれども、沖縄にいれば「思いやり予算」が出る。だからかりにグアムにある程度の部隊を置くことになれば、そのぶんを維持するために日本からどれだけお金を出させるか、ということが大事になってくる。それで出てきたのが、この間の日米共同宣言です。
 五月二十八日の日米共同宣言で、「緑の同盟」という言葉が出てきて、グアムの基地の中で再生可能エネルギーを使うために日本からの「ホストネーション・サポート」を使うという奇妙な話が出てきています。要するにグアム移転で、アメリカにとって何が一番ネックかというと当初の建設費は出るけれども、その後のランニングコスト(運営費用)は日本から出ないわけです。これはかなりきつい。今まで日本が負担してきた費用を全部アメリカがもつのは大変なことなので、グアムに移すのならいかに日本から金を出させるかと考えると思います。
 そういう意味で、もともと軍事的要請から見てどうかということと、現地の政治情勢がかなり怪しくなりそうだということ、財政的にアメリカに移すのはアメリカにとっていい選択ではない、といったいろんな方面から見てグアム移転はきつくなりはじめていると思います。ただここで日本がまた金をザクッと出すことになれば、グアム移転についてはアメリカのエンジンもかかるでしょうね。この間、ゲーツ国防長官が北澤防衛相に書簡を送って上乗せを要求したということですから。絶対にそうなるだろうと思っていました。

――その理由として挙げているのが、日本側で「移設先」がなかなか決まらないからだ、ということなんだけど。

 アメリカはうまいですよね。本当は辺野古移設が決まらないということは、アメリカにとってそれほど大きなことだとは思えません。たいしたことないのを、いかにもたいしたことであるかのように見せかけて高く売りつける。なかなか外交力があるというか、日本がダメすぎるというか。


「兵糧攻め」こそ
有効な闘争方法

――沖縄は日本の「国内植民地」から戦後は日米の共同軍事植民地という役割を担わされた、一方グアムは歴史的に見て、スペインの征服以来五百年間にわたって、支配者はスペイン、アメリカ、途中に日本をはさんでまたアメリカという形で、同じ植民地として支配されてきた、ということをチャモロ・ネーションの人々も語っています。そこでグアムの自決権や自治権が強く主張されています。チャモロ・ネーションの人たちの主張を説明していただければと思います。

 もともと自決権を求める運動はあったのですが、大きな盛り上がりを見せたのは九〇年代の頭で、これも米軍とのからみになってくるのですが、冷戦が終わってグアムの位置づけは米軍の中でかなり低下しました。米軍が今まで持っていた余剰の土地をグアムの人々に返すというプロセスが出てきた時に、土地を媒介にしてチャモロの人たちの意識が覚醒しました。
 今また米軍問題が出てきて、チャモロの意識が一定のものとしてあるというよりも、植民者の側に大きな動きがあった時にそれに呼応する形で出てきている面があるのではないかと思います。かれらの組織的活動としては、国連に脱植民地化委員会があるのでそこで証言をするなどの活動があります。ただ先住民族どうしの連携というところには十分にはいっていないようですね。国連の脱植民地委員会の証言にしても、アメリカ本土に住んでいるチャモロ民族の学生を送るとか、米国の本土を含めた運動の広がりは徐々に出てきているようです。

――今後、普天間基地の「辺野古移設反対」の運動を進めていく上で、グアムの運動との連携に関して考えていらっしゃることがあれば。

 僕は「ヤマト」の人間ですから、沖縄とグアムとの連携を僕の立場からは言えません。それは実際にもうこの数年で出来ていることです。かつては沖縄の中では「グアム移転論」はけっこうあったと思います。自治体首長のレベルでは大田昌秀さんや山内徳信さんもずっと「グアム移転論」でした。今はむしろ高里鈴代さんたちの活動もあって沖縄とグアムの共通性を見るという動きも出てきました。グアムに持っていくのは自分たちの仲間のところに持っていけ、ということだという認識が沖縄の中でだんだん広がっています。むしろはっきり言うかどうかは別にして、「ヤマト」が基地を引き受けるべきという認識が強まっているのでしょう。
 結局、米軍基地をどこに置いてどのように運用するのか、という要因は軍事的なものと政治的なものの両方あるわけですから、現地の人たちがいやだと言えば、本来もう出ていかなくてはならない、という性格のものだと思います。米軍基地があるのは困る、もう出ていかなくてはならないということになった時、次にどこに持っていくかは、それが必要だと思っている米国や日本政府が自分たちで考えることであって、追い出す側が、どこに持って行ってくださいということを指定する必要はないんです。「移設」論は、基地には軍事的意義があるということを前提とした議論ですから、意義はあるのだけど沖縄には置けないからどこか別の場所へという話になってしまう。
 軍事的要因は、あくまで一要因であって政治的条件が整わなければ基地は置けないわけですから、一つの条件が崩れたらいられないのです。その基地が軍事的に必要であろうがなかろうが、現地がノーと言っているものについてはいらない。沖縄でもグアムでもそういう声があるということをきちんと言っていかなければならないと思います。そのことと、今、協議が始まりましたが「思いやり予算」の問題ですね。特別協定が来年の三月に切れます。「思いやり予算」がなくなれば、米軍は意外に簡単に出ていくだろうと僕は思っているんです。だから「移設先」を探すなどという不毛なことをするよりも、思いやり予算を断って「兵糧攻め」にすれば簡単だ、と思います。むしろそっちの方に力を入れた方がいいのではないか、という気もしています。(7月23日)


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