| アメリカ アリゾナ州が人種選別を推進 かけはし2010.8.30号 |
アリゾナ州知事ジャン・ブリュワーは、自分の州の経済的、社会的病弊については、すぐに連邦政府のせいにする。アリゾナ州の新しい「身分証明書を見せろ」法(4月23日に彼女が署名し、7月29日に発効した)は「思慮がなく有害である」として、アリゾナ・ボイコット運動が高まっている。これに対して、彼女は、この怒りの反応は「連邦政府が国境を守ることに失敗したためにアリゾナ州が背負わされている経済的重荷をさらに重くする」と泣きごとを言っている。
この新しい州法は「違法」である、「妥当な疑い」があると警官が判断したすべての個人を制止しなければならない(できる、ではなく)と規定している。ブリュワー知事は、妥当な疑いとはどのように決めるのかを質問されて、こう答えた。「私には分からないけど、きっとわが警官たちは人々の選り分け方を覚えるように訓練を受けると思いますよ」。
人種選別が
州法の核心
ある政治家は、ブリューワーのようには困らない。彼は、誰が違法かは明白だ、衣服や靴や、その他のよく知られた「不法滞在者」の特徴を見ただけで分かる、と言っている。人種選別がこの法律の核心である。公式には否定されているが、否定をまじめに受け取る者はいない。しかも、まったく意図的な人種選別である。
この法律は、警官や法執行機関が「疑わしい」個人を制止しなかった場合は、民間の市民が警官や法執行機関を告訴することができるとさえ言っている。アリゾナのすべての肌の色が濃い人は、市民権の証拠を示さなければ、今や白人自警主義に直面する。不法滞在者は偽運転免許証や偽出生証明書を持っていると考える人々に駆り立てられて、ラテンアメリカ系住民の誤った逮捕や米国からの強制退去が不可避的に起こるだろう。
これは本当はメキシコ系アメリカ人やラテン系住民の権利の問題であって「違法犯罪者」を制止する問題ではないことを示す証拠がもっと必要なら、五月十二日に新しい反民族研究法を採択したときのアリゾナ州議会が、そのことを明白に示した。「ハッフィントン・ポスト」(訳注:民主党系のニュースとブログのサイト)によれば、「州議会がジャン・ブリュワー・アリゾナ州知事に送付した禁止法案のもとでは、『米国政府の転覆を助長し、特定の人種または階級の人々の憤懣を助長し、主として特定の民族グループの学生のために設計され、または生徒を個人として取り扱うのでなく民族的連帯を唱導する』コースを提供する学校は、州の資金援助を失うことになる」。
この新しい法律が特にターゲットにしているのは、「トゥーソン統一学区」の人気のあるメキシコ系アメリカ人研究部門である。州教育長のトム・ホーンは、このプログラムは「民族的過激主義」を示していると非難している。プログラムは新しいわけでも排他的でもない。すべての民族グループに開かれており、十五年近い歴史を持っている。
言葉のなまりを
口実とした攻撃
さらに、「ウォールストリート・ジャーナル」紙は、アリゾナ州教育省が「重い」または「正しくない」アクセントで話す教師は、今後、英語のクラスを教えることを許されないと学校に伝えたことを暴露した。この新しい流暢さの基準を満たすことができない教師は、英語を改善するクラスを取ることを選べるが、州の目標に到達できなければ、解雇または配転されることになる。
「ワシントンポスト」紙のコラムニストの、アフリカ系アメリカ人であるユージン・ロビンソンは次のように書いている。「少なくとも、われわれはこれ以上取り繕うことはできない。このような卑劣な新移民法をアリゾナ州が通過させたことは、高尚な原則のためでも、公共秩序を維持する必要性のためでもない。明らかに、ラテン系住民を強制退去させるためである」。
極右は、アリゾナを公然とブル・コナー(有名なアラバマ州バーミンガムの分離主義者の警察署長)時代の再来にしようとしている。あの時代には、南部諸州の州の役人がすべての白人学校の門の前に立って黒人生徒の登校を阻止した。
一般に白人の中での右への変化は、人種および民族の権利の問題に関してアメリカで起こっている後退を示している。マッカーシー・イプソス世論調査によれば、アメリカ人の六一%、有権者の六四%はこのアリゾナ州の法律を支持している。ただし、実際に法律を読んだことのある人はほとんどいない。同じ世論調査は、約六九%のアメリカ人が、警官に制止され市民権について尋ねられても何とも思わないと答えている。
いわゆる反政府自由を愛するティーパーティーも、この法律が個人の生活に州政府が直接踏み込むものであるにもかかわらず、この法律を支持している。白人たちは、この法律が誰を狙っているのか分かっているので、制止されるとは思っていないのである。
「善良な白人」たちは、合法者も非合法者も、イタリア人やアイルランド人や、その他のヨーロッパ系の人々について学校で教わる歴史を受け入れながら、ラテン系の人々をアメリカ人と考えない矛盾が分かっていない。多くのアジア系アメリカ人は(アリゾナ州にはあまり住んでいないが)、自分たちがメキシコ人に似ていないのは明らかなので、この法律が自分たちに影響を与えるとは考えていない。一部のアフリカ系アメリカ人は、自分たちが得る仕事が増えると考えて、この法律を支持している。
もちろん、「身分証明書を見せろ」法の支持者は、この法律の真の狙いが反ラテン系住民であることを否定する。一部のものは、マルチン・ルーサー・キングのような偉大な公民権運動指導者たちに賛成であるとさえ主張し、国がすべての人々を民族的出自によってではなく個人として認めるように要求しさえする。
このような歴史の歪曲、キングの主張と意味の歪曲が、反動的立場の正当化に利用される。差別撤廃や少数者の全面的権利の否定を正当化するのに、「近隣学校(学区の学校)」や「人種差別しない学校」という決まり文句が一般的に使われている。現在使われている決まり文句は「国境を守れ」である。
アリゾナ州の住民の三〇%はラテン系である(不法滞在労働者は含まない)。米国生まれの部分が膨張し続けているので、この数字は増大し続けている。アリゾナの白人多数派は、この州が元はメキシコの一部であったという事実が好きではない。
多くのアリゾナ州白人住民は、メキシコ人やアメリカ先住民の伝統とのこの結びつきを誇りに思っていない。白人たちは国が彼らに「乗っ取られ」ようとしていると考え、白人政治権力の終焉を恐れている。これがアリゾナ州における、またアメリカの多くの部分で高まっている反移民、ラテン系伝統排撃の激情のルーツである。目的は単純である。白人の歴史的特権の防衛である。
白い肌を持つ多くのアリゾナ州民は、ラテン系住民が自分の場所に留まり、白人の政治的権力構造に挑戦しようとしなかった「古き良き時代」を望んでいる。デマゴーグたちが振りまいている恐怖は、白人労働者が人口統計学的変化を理解することを妨げ、人種主義者や白人ボスにくみすることは自分たちの労働者としての利益に役に立たないこと、白人労働者は他の人種や民族的背景を持つ仲間の労働者と多くの共通点を持っていることを理解するのを妨げるためのものである。
ジム・クロウ
分離主義の記憶
米国最南部のジム・クロウ分離主義の時代には、アフリカ系アメリカ人を人種的に選別することは容易であった。肌の色で区別できた。したがって、当時は人種選別という言葉はなかった。なぜなら、米国最南部諸州の法律は、黒人がどこで食べ、眠り、働くことができるかについて明確であったからである。黒人は法律的に投票権を否定されていた。白人労働者は、自分たちの利益はボスや偏見の持ち主たちとともにあると信じさせられていた。(訳注:ジム・クロウは歌の名前に由来するが、黒人分離主義を意味し、当時の法律はジム・クロウ法と呼ばれている。)
大衆的な市民の不服従運動が起こり、連邦政府を動かし、人種差別的州察警官や今日のアリゾナの法律のような反倫理的法律に反対して行動させ実力を行使させた。
右翼は、世論調査が過半数の人々がアリゾナ州の法律を支持していることを指摘している。一九六〇年代の米国最南部で世論調査が行われていたら、白人の多数派は人種差別的法律を支持しただろう。彼らはいつも、「北部人」や「リベラル派」が「州の権利」を否定していると泣き言を言う。当時、大部分の白人は、黒人を同等者として社会に全面的に統合すること拒否していた。南北戦争の南部連合軍の「英雄」が、これらの州では依然として賞賛されている。
第二次世界戦争後、軍隊を統合する大統領命令が発せられた。大多数が大統領の決定を拒否しそうであったので、住民投票は行われなかった。強力な女性の権利運動が行われ、女性の雇用機会と教育の平等にドアが開かれた。ゲイの人々は、完全な平等のために依然として闘い続けている。
このアリゾナの法律に対する反応は広がっている。カリフォルニアの北部および南部の諸都市の市議会は、アリゾナ・ボイコットの決議を通過させた。オーストリア生まれのアーノルド・シュワルツネッガー知事は、法律反対を声明した。
(カリフォルニアの反応は特筆にあたいする。なぜなら、1994年に独自の反移民法を通過させ、政治的目的で「不法入国者」カードを切ったのはカリフォルニアだったからである。「不法移民」家族への社会的給付を拒否する提案187号が住民投票によって採択されたとき、この法律は法廷に持ち出され、実施されることはなかった)。
アリゾナへの
批判が広がる
ニューメキシコ州は人口の四五%はラテン系であるが、ビル・リチャードソン知事は、不法滞在労働者をターゲットにすることを拒否している。彼は自分のルーツがメキシコ人であることを誇りにしており、たとえ多くの白人がそれを好まなくても、メキシコ系アメリカ人や先住アメリカ人の文化を推進している。ニューメキシコ州は、身分証明書を持たない人が運転免許証を取り、子どもの教育を受け、その他の給付を受けることを認めている。
リチャードソンは次のように語っている。「文化の共存を奨励し、緊張をあおる代わりに一緒に働き生活することを奨励する方が、明らかに積極的である。私がアリゾナに関して心配していることは、これが広がることである。これは人々の移民排斥主義的衝動をかきたてる」。
五月一日、アリゾナ州や他の州で、移民に味方する抗議が起こった。市議会、大学や市民的自由団体、公民権グループ(黒人およびラテン系住民)、その他の多くが、アリゾナのボイコットを呼びかけた。とりわけ著名なスポーツ選手が目立った。ラテン系の人々は多くのスポーツ・チームの大きな部分を占めている。
ロサンゼルスでは、歌手のグロリア・エステファンが大衆的な都心行進を開始し、移民改革を要求しアリゾナ州の法律に抗議した。エステファンはトラックの荷台からスペイン語と英語で語りかけた。彼女は合衆国は移民の国であると宣言し、移民は善良でよく働く人々であり、犯罪者ではないと語った。
民衆の抗議は二十年前に起こったことを反映している。二十年前、アリゾナの政治家は、マルチン・ルーサー・キング・デーが国の休日になった後でさえ、州の休日にすることに反対した。巨大な経済的代償のみが変化を導く。
白人系ニュース・メディアはこれらの抗議を軽視し、小さなティーパーティーの催しのニュースで表紙を埋め、相変わらずの分析を載せた。
これとは対照的に、スペイン語メディアは、これらの事件を大々的に報道した。メキシコ大統領やラテンアメリカ諸国高官は、この法律に抗議し、米国を訪問した自国市民が同様の人種選別を受ける可能性に抗議した。ラテン系住民指導者や、アリゾナ州最大の都市であるフェニックス市長を含む進歩的白人が訴訟を起こした。
公民権法の修正
をねらう右翼
ボイコット・キャンペーンは重要な武器である。あらゆる人種や民族グループの人々は、人種選別・反移民法を自分たちの権利に対する攻撃であるとして非難している。特に黒人指導者たちは彼らのコミュニティーの権利を奪う上で使われた決まり文句の歴史を知っている。
アラブやムスリムの指導者は、今日、彼らの扱われ方のために、どのグループよりもこのことをよく知っている。プロチョイスの(妊娠中絶を認める)医師を殺した白人や国税庁事務所を襲撃して市民を殺した白人はテロリストとは呼ばれない。国境と市民権を開放せよ。
ランド・ポール(ロン・ポール共和党下院議員の息子)はティーパーティーのヒーローであるが、引退するジム・バニングに代わって共和党上院議員候補の指名を獲得した。彼は、米国に生まれた者の市民権に関する憲法修正第十四条の一部を取り消すかまたは「解釈を変更して」、「不法」移民の子どもを市民権から排除することを望んでいる。憲法の話はこのぐらいにしておこう(いずれにしても、ポールは公民権法の大したファンではない)。この種の考え方は、今のところは右翼のやからのショーの一部であろうが、筋の通った仕方で正面から対決しなければならない脅迫を示している。
移民の権利は
人権の問題
リベラル派や他の移民支持改革の支持者は、身分証明書を持たない労働者を助ける、あるいは移民の市民権問題を解決する、実行可能な解決策を持っていないが、彼らは皆、一千万もの身分証明書を持たない労働者をこの国から追い出すことは不可能であるし、追い出されないであろうことを知っている。これらの労働者は貴重な役割を果たしており、社会に積極的な影響を与えている。彼らは権利の人種主義を拒否する。
移民を支持する実行可能な解決策とは何か。何よりもまず、われわれはすべての人種選別を非合法にすることを要求することができる。第二に、国境を開き、すべての労働者と家族が働くために自由に移動できるようにするという要求を提起することができる。
仕事を求め家族を助けるために国境を越えようとして、毎年何百人もの人々が死んでいる。これらの労働者が働くために自由に移動できるようになれば、利益や賃金を拒む地主や雇用主から簡単に虐待されることはなくなるだろう。彼らは組合に加入することもでき、それはすべての労働者の利益につながる。
民主党とオバマ政権が提案している解決策は、この方向に沿ったものではない。彼らは「不法入国者」を逮捕するためのさらに厳しい国境パトロールを推進し、現在この国で働いている身分証明書を持たない労働者に市民権への長期の道のりを課す意図を宣言している。
重点は、人権ではなく、法律の強制と新たなフェンスや壁の建設に置かれている。多くのラテン系住民指導者や改革支持者は、残念ながらこの「妥協」案を受け入れている。
労働の自由な移動と市民権の関係について、深い誤解が存在する。労働者がヨーロッパ中を移動し欧州連合加盟国で雇用されるだけでは、彼らが市民にならない限り、投票権は与えられない。これこそ北米で行われる必要があることである。また、これは労働団体や市民権および市民的自由組織が掲げるべき要求である。
反移民の興奮症状やいわゆる「アメリカを取り返せ」と叫ぶ群衆とのいかなる妥協も、真の改革を掘り崩すことになるだろう。国境を開く問題は、正しい方向に向かう道である。国境開放政策と労働の自由な移動を求める要求は、身分証明書を持たない労働者の二級市民的地位を終わらせ、市民労働者と非市民の間の連帯と統一への道を開くことができる唯一の解決策である。また、これによって、市民権を望む者に対する市民権への合法的道が可能になる。
権利の人種主義に反対するだけ、あるいはACLU(アメリカ自由人権協会)のように新しいアリゾナの「身分証明書を見せろ」法を人種選別であり非アメリカ的であると決め付けるだけでは、十分ではない。これらの働く人々の権利を防衛する基本的改革を要求する必要がある。
身分証明書を持たない労働者の防衛は、すべての働く人々の防衛である。移民の権利の問題は、人権の問題である。
▲ マリク・ミオーは、米国の社会主義的フェミニスト組織「ソリダリティ」の雑誌『アゲインスト・ザ・カレント(流れに抗して)』の編集者である。(「インターナショナルビューポイント」10年8月号)
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